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第16話 公共事業は皆のために行われています

第3話がわかりにくい情勢の話だったので、神奈いです様に関係図を描いていただきました。

是非そちらもご確認いただければと思います。神奈いです様、いつもありがとうございます。

 美濃国 井ノ口郊外


 今年から一部の領地を任されたこともあり、勉強の時間や鍛錬の時間と並行して領地の見回りとかも色々やらなければならなくなった。

 おかしい。特産品開発もあるし責任と仕事がどんどん増えていく。思うに戦国時代のブラック職業ナンバーワンは間違いなく領主だ。

 とはいえ仕事を任されたならやるしかないので、昨年見に行った村へ行く事になった。



 雪解けは始まったものの田植えにはまだ早い頃だったためか、それとも昨年の洪水の影響が残っているのか、田畑は前見た時より少し荒れていた。


「わざわざお越しいただき申し訳ございません。それと、新七たちを雇っていただきろくまでいただいて、本当にありがとうございます。」


 乙名おとな弥兵衛やへえが出迎えて頭を下げてきた。その後ろに並んだ領民たちも頭を下げているのを見ると、名ばかりとはいえ領主になったのが改めて実感できる。彼らを生かすか酷い目にわせるかは自分の行い次第なのだ。


「顔を上げてください。彼らは皆頑張ってくれていますよ。それより、伝えておいたあれはどうでしたか?」

「はい、いただいた塩水に種籾たねもみを入れたら、本当に沈むものと浮くものに分かれまして。沈んだものを中心に選りわけをしてあります。」

「そうか。水で洗い忘れると芽が出ないから気をつけて。」

権助ごんすけが危うく洗い忘れそうになって嫁に叩かれておりました。」


 領民たちが1人を小突きながら笑う。年貢の取り立てが厳しくなかったことと、村で食べられない子供をこちらで引き取ったことで悲観的にならずにすんでいるようだ。


 塩水選えんすいせんは農家の患者さんは皆やっていたからさすがに知っていた。お湯で消毒するのは温度がわからないからやめた。米で試行錯誤しこうさくごできるほど今の斎藤の家に余裕はない。塩水選は重みのある種籾と軽い種籾を分けて植え、来年以降重みのある種籾から収穫した中から次の種籾を用意していくことで徐々に種籾の質を良くしていくためにやるのだ。


「さて、今日から年貢代わりの労役についてもらう。今回は川(ざら)いをするぞ。」


 さて、まずは浚渫しゅんせつだ。

 これは川底の土砂を取り除くだけなのでやることはシンプルである。川底が深くなれば水位も下がるという安直な考えでやることにした。ここ以外でも各地でやっている。雪解けが本格化すると水位が上がってできなくなるので、今だけがこれをやるチャンスだ。

 小学校でやった岐阜県三川(さんせん)分流の授業を思い出したのは懐かしい限り。デレーケさんとか25年以上ぶりに思い出した。


 本当は新しい流れの部分に堤防作りをしたかったが、堤防は土をきちんと固めないと却って危険になる。高さで守れないなら、川底の土を浚って深くしようというわけだ。


 今回はとにかく石や土を運ぶのが人力だったのを思い出し(モッコを背負う体験とか久しく忘れていた)、木製猫車と浚うための野球のトンボみたいなやつを山中の木地師きじしに作らせた。木地師は一か所にあまり定住しないが、美濃は質のいい木が多いので木地師の数は多い。猫車も大トンボも模型を渡したのでそこそこ数が揃った。


 作業はまず川底の石を猫車まで運ぶ班、猫車で堤防の下まで運ぶ班、下で石を大きさごとに分類する班に分けた。大きめの石は後々しっかりした堤防を作る時に補強材にする。中ぐらいの石は近辺の砦の籠城ろうじょう時に敵に投げつける用にする。小さいのは浚渫が終わったら戻すことにした。


 石だけでもかなりの量になり時間がかかったものの、なんとか数日かけてある程度の石を取り除くことができた。

 次は大トンボを数人で引っ張って土砂を取り除く。除いた土砂は猫車で下まで運ぶ。土砂は山から運ばれてきた土なので、乾燥させて処理すれば田畑にける。


 大垣城下まで広い範囲でこれを行い、長良川の水の運搬うんぱん能力を上げるのである。長島あたりのこちらが手をつけられない場所は知らん。

 重労働なので予算の範囲で定期的に差し入れはした。彼らも年貢の代わりに働いているので特に文句はないようだ。汗を多くかいてる人には梅干しを食べさせた。梅は戦場に持って行くため量産している。少しくらい使っても問題ない。



 一月で川底は少しだけ深くなった。

 5年くらい続ければ大分変わるかな?変わって欲しいところだ。

 問題は道具の消耗しょうもうが大きいことだ。猫車は慣れないうちに壊すことも多かったし、車輪も木で作っているためかすぐ磨り減ってボコボコになる。それでも作業速度は劇的に上がっているわけだし、作るしかない。でも結局金がかかる。タイヤを作れるゴムが欲しい。


 雪解けで水位が上がって余った労役の日数で自然に生えている麻を刈ってきてもらった。

 繊維を細かくし紙の工房で不織布ふしょくふにして手術着・手術帽とマスクを作った。

 繊維を噛ませるのに高熱が必要で火熨斗ひのし(アイロン)まで作ってしまった。かなり細かくした麻の繊維は250度弱で溶ける。発火しないよう注意しながら交換用の分まで作った。

 鍛冶師に無理を言った自覚はある。美濃は良い鍛冶師が多いからこそできることだ。


 あとは手袋が欲しい。ゴム手袋は無理だしどうしよう。動物の革の手袋は手元の細かい感覚が伝わらずダメなのはもうわかっているし。困った。やっぱりゴムが欲しい。他のものでも必要だから考えないと。早く来てくれポルトガル人。6年は待てないぞ。

小学校4年生社会科or総合的な学習の時間「木曽長良揖斐三川改修計画について」

タイトルは色々ありますが、デレーケという明治のお雇い外国人による治水事業についての授業です。

社会科副読本『岐阜県のくらし』(1982年)でも扱っているので、その時の記憶ということにしてあります。


不織布は基本的には紙作りと工程が似ていますが、きちんと布状にするのに手間がかかるので

あくまで手術用具や一部ガーゼくらいでしか出てこないと思います。


三連休の日曜日は2話更新予定です。時間についてはいつも通り0時ごろと、

もう1話は追って連絡させていただきます。土曜は職業関係で休みではありません……。

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