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黒騎士 新生活を思う

 この国には騎士団が複数ある。


 白騎士 王家の人間と王城を守る近衛騎士

 赤騎士 主要都市の街中を警邏し市民を守る騎士

 青騎士 魔物が出没地域に作られた砦にて魔物を狩る騎士

 黒騎士 ドラゴンを狩る騎士


 国で〝騎士〟と言えば一般的には赤騎士だろう、最も身近にいる騎士たちで、少年たちの憧れと言えば赤か白と決まっている。


 私ことリィナ・グランウェルは黒騎士団に所属している。

 魔物も狩るが、ドラゴンを狩ることの出来る黒騎士。


 黒騎士になる条件は、古代魔法の才能があるかどうかだ。これは先天的なもので、後天的に努力で得られるものではない。

 国民全員が五歳を迎えると神殿にて魔法適正検査を受け、古代魔法の適正があると判断された子どもは男女の性差も、身分も関係なく徴兵される。

 毎年二十~三十人弱の子どもが適正あり、と判定が出る。


 私もそうした経緯で適正ありとされた子どものひとりで、すぐに国営の騎士学校へ引き取られ、訓練を受け十五歳の時から仲間たちとドラゴンを狩り続けて来た。


 ドラゴンと戦い、ドラゴンを殺すことは容易くない、殺し合っているのだから当然だ。

 二十六人いた私の同期も現役で戦っているのは二十人を切った。

 亡くなったり、怪我で前線から離れた先輩後輩も多い。


「では、こちらの書類に必要事項を記載し、騎士団事務局へ提出をお願いします。期限は5月末までです」


「了解しました」


 騎士団所属の事務服を着た若い事務官は、ピシッと音が出そうなほど綺麗な敬礼をすると病室を出て行った。


 一通の大型封筒を置いて。


 私が意識を取り戻して二十日余り、視力は回復したし声もでるようになった。両手の感覚も戻ったし、右手もややぎこちないながらも動くようになって来た。


 これも一日二回、魔法医師が根気強く回復・解毒魔法を掛け続けてくれているからだ。少しずつではあるが回復しているのは嬉しいものだ。


 ただ、今でも右足の回復はあまり進んではいない。医師が言うには、ドラゴンの毒が右足に負った裂傷からたっぷりと入り込んでしまったせいで、解毒が上手くいかないらしい。最悪動かないまま、という可能性もあるとのことだ。


「ま、仕方が無いよねー」


 自分で自分に言い聞かせながら、体を起こす為に背中へ入れているクッションの位置を変える。そのまま手を伸ばして封筒を手にすると、中身の書類を取り出した。


 中身は『退団申請書』と『傷痍騎士年金申請書』と『騎士団寮退寮届』、通称『引退勧告三点セット』だ。クビ三点セットと言い換えても問題ない。


 私の容態は病院から騎士団の方へ報告があがっていたのだろう。その報告内容を鑑みて、上層部は私がもう使い物にならないと判断した、ということだ。


 黒騎士は数が少ない貴重品だ。育成には力が入っていて、手厚い。


 五歳から十五歳までは騎士学校の学生として教育と訓練を受け、十五歳から成人までの三年は黒騎士見習い、十八歳から一人前として魔獣やドラゴンを狩り、四十歳前後で一線を引き、その後は後進の育成に努めるのが理想の人生だ。


 後進の育成とは騎士学校の教官か、十歳から十八歳まで一対一で教育をする師匠として弟子を教育すること。


 大きな怪我を負って若くして一線から退く者の多くは、騎士学校の座学を教えたり、武術や魔法の基礎を教えたりしている者が殆どだ。


 けれど、その指示書が入っていない……ということは、私は怪我をある程度治したら完全な解雇ということになるのだろう。


 その多くが貴族の出身で占められる黒騎士の中で(なぜか古代魔法の適正のある子どもは貴族出身者が多いのだ)農家の出身で孤児で女と続く私には教官や師匠としての需要もない、必要がない。国も騎士団も、そう判断したのだ。


 まあ、もう、いいか。


 五歳から今二十六歳なので二十一年、自分なりに頑張って来たつもりだ。

 四十歳前後での引退が一般的であると思えば、少々早いかもしれない。けれど、もっと短い騎士人生だった人もいる。怪我の後遺症は多少残りそうだけれど、命があって手足がちゃんとあるまま終わることが出来るのなら、悪くない。


 そもそも、私は戦うことが好きではない。魔獣は恐いし、怪我したら痛くて嫌だ。


 ただ、古代魔法の素質がある者は黒騎士として戦うものだ、と言われてそれに従って来ただけ。自分の意思があったわけじゃない。


 騎士団を離れるまであと二ヶ月ほどある。


 それまで怪我を治し、歩行訓練をして出来る限り通常の生活が出来るようになる。退院した後は騎士団の寮を片付け、小さな田舎の村へ引っ越してのんびりした生活を送ろう。

 野菜や植物を育てて、犬か猫を飼って穏やかに暮らしていくのだ。


 もう誰からも戦えと言われないし、恐い思いも痛い思いもしなくていい。もしかしなくても、凄く良いことだ。

 そう思ったら、二ヶ月後がとても楽しみになって来た。

ありがとうございました。

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