宰相 より思案する
彼女たちはリィナへの手紙や招待状を侯爵家に出したのではないのだろうか? リィナはなぜ友人たちからの手紙に返事を出さないのだろうか?
まさか、ただの同期というだけでリィナにとって彼女たちは友人ではないのか。
彼女たちは生まれた時から貴族だ、平民出のリィナにとってなにかを言える相手ではないだろう。友人と言って呼び出して、女性同士の陰湿な交流を繰り広げていたのではないのか。
しかし、彼女たちの言葉が本当だったらどうだろう。
侯爵家に送る手紙も招待状も返事がない、もしくはレイラ夫人の持って来た手紙と同じく、〝討伐任務中にて留守〟という返事ばかりだったら?
一度や二度なら、タイミングが悪かったと納得も出来るだろう。だが何年も連絡がとれない、まともな返事も来ないとしたら。侯爵家に手紙を出すのを辞め、夫である私の所に手紙を出すのではないか?
現実として、レイラ夫人は侯爵家からの手紙を持って乗り込んできた。数ヶ月前に黒騎士を辞めたリィナに、ドラゴン討伐任務など命じられるわけがない。それなのに、侯爵家からは「討伐任務中」という返事。
先程否定した母と妹、使用人たちの行動に対して疑問が浮かぶ。
まさか、まさか。
母が? 妹が? 使用人たちが?
「おまえの家には絶対なにかがある」とフロスト監査長の言葉がぐるぐると頭の中を回る。
「?」
叔父に管理をお願いしている領地から届く報告書の束、その間に一通の封筒が挟まっていることに気が付いた。おそらく、四ヶ月前の決算時に共に届けられたのだろう。
薄い青色の封筒には『グランウェル宰相補佐様』と書かれている。
私が宰相になって年単位の時間が過ぎているのだが、未だ補佐だと思っている人物がいるのかと思うと、私の仕事ぶりなどまだまだなのだと感じられた。
封筒の裏を見て、体が氷付く。指先が冷え、背中を冷たい汗が流れる。
ややぎこちない文字で書かれたリィナという署名。
震える手で封筒を開ければ、クリーム色のカードに〝長い間お世話になりました〟と書かれてある。
まるで、別れの言葉だ。
そして同封されていた書類を開き、私は目を閉じた。
そう、カードに書かれたメッセージは確かに、別れの言葉。
平民が使う離縁届。記載された日付は六月一日。
レイラ夫人が言っていた、リィナは五月末付けで黒騎士を辞め騎士団からも退団したと。
黒騎士でなくなったのだから、私の妻でいる必要はないと判断したのだろう。
と言っても私が彼女に伴侶として、白魔法使いとしてなにかしてきたわけではないから……離縁しても、彼女にとってはなにも変わらない。
書類上だけ、金だけの関係でしかなかった伴侶など、いなくても問題ない。
両手で自分の顔を覆う。
認めたくない、私の家族が私の妻となったリィナを受け入れなかったなど……信じたくない、王命で縁付いた私たちの関係を受け入れなかったなんて。
認めたくない、長らく顔を合わせてもいなかったが、妻と思っていた相手になんの相談をされることもなく、文句や不満を言われることもなくいきなり切り捨てられることになるなんて。
こんなことになるなんて、想像もしていなかった。
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