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第86話:呪符格闘士

2015/02/05 一部修正

2015/07/23 誤字訂正

 

「つっ……!?」

 予想以上の一撃に、思わず後ろへ跳ぶ。

 一気に踏み込んでの一撃というのは自分もよくやる。だからその威力については大体把握していた。でも今のローゼの一撃はそれを大きく上回っていた。真正面から左篭手で受け止めたが、【魔力撃】は使ってないのに同じくらいの衝撃が伝わってきた。この威力はどこから来てる?

「どういう仕組みだ?」

 問いへの答えは言葉ではなく、追撃だった。今度は受けずに拳を捌く。そして俺が退かなかったのでその場で打ち合うことになった。躱し、打ち、避け、突き、捌き、放ち、受け止める。ローゼの攻撃はさっきまでと違って突進を乗せたものじゃないのにやっぱり一撃が重い。単純にパワーが上がってるようでもあるが、それに加えて打撃から伝わる衝撃が強い気がする。【魔力制御】による身体能力強化、じゃないな。あれは瞬間的に使うならともかく、使い続けるには燃費が悪すぎる。俺が知らないスキルやアーツを使ってるんだろうか。

 相手が使ってないから、なんて言ってる場合じゃないな。こっちは遠慮なく【魔力撃】を使うことにした。

「っとぉっ!?」

 左側面から向かってきた蹴りを受け止める。当然、その威力は拳の比じゃない。地を蹴り、跳んで威力を逃がしたが、左腕が痺れて痛いな。

「どうした、そっちも遠慮なく来いよ」

 ゆっくりと蹴り脚を下げながら、挑発してくるローゼ。しかし蹴りも躊躇なく使ってくるようになったか。

「美脚のお披露目も解禁か?」

「まぁ……それがお前の手だって分かった以上、いちいち狼狽えてられるかよ」

 若干の戸惑いはあったが、脚を見せるのも抵抗がないようだ。気持ちの切り替えができたってことだな。でもこいつ、俺以外の相手と()る時に同じ事やられたら大丈夫なのかね?

 ここまで打ち合って分かったことがある。明らかに、一戦目と比べて彼女の身体能力は上がってる。それに加えて打撃力もだ。そもそも、俺と同じ格闘型なら、ステータスの成長も大差はないもののはずだ。ただし俺の場合は地底湖の修行で特に筋力が跳ね上がってる。そんな俺の身体能力に素で追いつくなんて普通は無理だ。こいつもどこかの【修行場】で修行してたって可能性はあるが、そんなにあちこちに同じような【修行場】があるとは考えにくいしな。それに、もしもそうなら一戦目でそれは分かるはずだ。あの時にローゼが手加減してたとは思えない。

「そっちにも色々と隠し球があるんだろ? 鎧をブッ壊したアレとかさ」

「何だ、ぶっといので貫かれるのがお好みか? 大胆だねぇ」

 握り拳をぐっと顔の前に掲げてみる。つまりはナニを連想させようとしたわけだが、

「当たらなきゃ、どうってことねぇだろ」

 あれ、今度は全く反応なしか? ひょっとして意味が通じてない? まぁいいか。

「あれは防御が高いやつ専用だ。少なくとも、生身の人間相手に使うアーツじゃない」

「ま、そうだろな。それにしたって【強化魔力撃】をあんな風に改良するなんてよくやるよ」

 ん? こいつ、あれの正体に気付いてるのか? 掲示板で確認した限りじゃ、正体不明ってことで片付いてたはずだが。

「よく分かったな、あれが【強化魔力撃】から派生したオリアーツだって」

「発動前はまんまだしな。威力の方向が変わっただけに見えたし、似たようなことはできたしよ。あそこまで集束させるのは、今のオレには無理だったけど……あ」

 何かに気付いたようにローゼが声を上げた。何があったかは分からんが、今度はこちらから行くか。

 【魔力撃】を込めた足で地を蹴り、ローゼに迫る。

「えっ!? うわっ!?」

 慌ててローゼがその場を飛び退いた。ん? 今のは……いや、考えるのは後だ。

 狼狽えるローゼを追い、右腕を振るった。拳を握り締めた俺の右腕は、今やメイスと化している。

「だあーっ!?」

 俺の筋力と【魔力撃】が合わさった【拳鎚撃】は、文字どおりローゼを吹っ飛ばした。いや、寸前で跳ばれたか。それに魔力の膜が腕を包んでた。あれ、【魔力制御】だな。

「いってぇ……鈍器の大振りの直撃を食らったかと思ったぜ……うわ、少しへこんでやがる」

 ちゃんと防御はしてたが、腕には結構なダメージが入っただろう。ローゼは殴られた腕を押さえてるが、愉悦を顔に浮かべていた。

「やっぱ、まだ引き出しがあったか。いやぁ、楽しいねぇ。まだあるんだろ?」

「紳士的に戦うなら、今くらいまで、かな。それより、そっちのネタはお終いか?」

 ローゼのネタを確認するために、そう言ってやる。

 こっちから攻撃した時、ローゼの反応が明らかに落ちていたのだ。つまりローゼの身体能力強化は制限時間があるってことになる。一時的な能力付与。現時点で判明してるその手段は多くない。

「いやぁ、まだまだこれからさ」

 そう言うローゼの口に視線を向け、【聴覚強化】を働かせる。小さく動くローゼの口、それに合わせて囁くような声を耳が捉えた。

「やっぱり呪符魔術だったか」

 指摘してやるとローゼが固まった。

「……聞こえたのかよ?」

「耳がいいんでね」

 手には呪符を持ってない。しかしそれは間違いなく【呪符魔術】の詠唱だった。ローゼの身体能力も打撃力も【呪符魔術】で強化してたわけだ。

「あーあ、まだ誰にもバレてなかったんだけどな。正解だよ。オレは呪符魔術を格闘に併用してる。主に打撃の強化と、身体能力強化に使ってる」

 素直にローゼは認めた。まぁタネが割れたのはいいが、気になる点はある。

「俺が知ってる呪符魔術師は、呪符は手に持って使うのが基本だったけどな」

 と言っても知ってるのはシリアだけなんだが。彼女は常に呪符を手に持って使ってた。アインファスト攻防戦で俺に支援してくれた時も、俺の手足に貼ったしな。

「全部が全部、ってわけじゃねぇけど、強化系を使う場合は、呪符が対象に触れてなきゃ駄目だな。でもそれなら、自分に使うのを最初から貼り付けとけばいいだろ」

 ふむ……つまり呪符をあちこちに仕込んでるわけか。そして必要な【呪符魔術】を必要な時に使ってるわけだ。

「使う呪符が見えてなくてもいいのか?」

「どこにどの符があるのか把握できてりゃ問題ないぜ。ただ、リュックやストレージの中にある符を使うとかは無理だったけどな」

 うーむ【呪符魔術】って基本的に後衛だからな。そんな使い方をする呪符魔術師なんて多分いない。だからこそ、ローゼが【呪符魔術】を使うなんて想像もできないだろうな。詠唱も小声で気付かれないようにしてたし。

 しっかし格闘をやれる術使いとか。いや、創作の世界じゃそういう存在の例がないわけじゃないか。某リキ○アの魔女とかどこぞの○戒法師とか。

「それより、呪符で強化したオレの身体能力に素で対抗できる、フィストのステータスの方が興味あるんだけどさ」

「厳しい修行の成果だ、とだけ言っておく」

 言葉は足りないが、嘘は言ってない。というか、こいつをあの地底湖に放り込んだらどうなるんだろうか。あと、例のアーツを教えるとか……いや、やめとこう。

「じゃ、続けようぜ。其は炎爪の符! 我が拳に宿れ!」

 ネタがばれたので、隠すことなくローゼが詠唱した。彼女の右手に炎が宿り、指の先が爪のように伸びる。獣の爪くらいの長さだが……あれ、【魔力変換】より効率いいんじゃないか? いやそれよりも。

「それ、まさか自分で組んだのか?」

「おう。魔術とか呪符魔術って、自分で色々開発できるのが楽しいよな」

 いいだろ、とばかりにローゼが炎爪を振るう。爪の部分は火属性の魔力で形成されて物質化してるような感じだな。それを炎で覆ってるみたいだ。つまり、防具で防ぐことは可能だ。ただ、どれだけの火力になってるんだ? ローゼの方に影響が出てないのは当然として、あの熱に対抗するのってどうすりゃいいんだか。【魔力撃】で防げるだろうか?

「あとこれ、PvPで使うのは初めてだから。加減とかできねぇのは勘弁な」

 へぇ、対人戦での使用は初めてか。だったら色々不具合も期待できるか? いや、楽観はいかんな。

 しかし、俺が初めての相手か……いや、止めとこう。これが直撃したらまた沸騰するかもしれんし。そしたらさっきの焼き直しになりかねん。って、俺ってこんなキャラじゃないはずなんだがな。ローゼの反応が面白すぎるってのもあるが、ちょっと調子に乗ってるのかもしれん。嫌な素質が開花したとか勘弁だ。自重自重。

「それじゃ、いきますかっ!」

 得体の知れない攻撃を待つのも怖かったので、こちらから仕掛けた。【魔力撃】を乗せた拳を振るう。それをローゼは炎爪で迎え撃った。拳と爪がぶつかり合う。こちらのガントレットにもあちらの爪にも損傷は見られない。爪の強度はほとんど鋼と変わらない感じか。炎の方は、ぶつかっただけじゃこっちに影響はないようだが、触れていると当然炎に炙られるわけで、熱は伝わってくるな。【魔力撃】での軽減はできてるみたいだ。いきなり熱で焼き切られる類の攻撃ではない。あくまで、現時点では、だが。

「それにしても、おっかないな!」

 何だろう。動物は火を恐れるって言うが、それが自分に向かってくるのは、少なからず感じるものがあるな。

 炎爪を弾いて後ろに跳ぶ。炎爪の能力は大体把握できた。長時間接触しなければ、普通の【魔力撃】と同じ対応で大丈夫そうだ。

「よく言うぜ! こっちがこれで迎撃するのくらい予想してたくせによっ!」

 小声で詠唱しながらローゼが突っ込んでくる。振り下ろされた炎爪を身体を反らして躱すと、もう一方の腕が突き出されてきた。何の変哲もない掌打に見えるが、その前が一瞬揺らいで見え――

「がっ!?」

 不可視の刃が俺の腹を薙いだ。そうか、今の詠唱は風刃だったか! 【聴覚強化】を切ったのは間違いだった! 【呪符魔術】の詠唱自体は特殊な言語じゃないから、聞ければ大体の内容は想像できたのに!

 衝撃は結構なものだったが、斬撃としては皮膚にまで届いてないようだ。鎧も蔦衣もいい仕事をしてくれてる。

 【聴覚強化】を発動させたままで、俺の顔面に突き出されてきた炎爪を捌く。小声の詠唱が再び聞こえた。また風刃だ。今度は――蹴りからかよっ!?

「だぁっ!」

 【強化魔力撃】を起動させ、振り上げられる脚を踏むようにして迎え撃った。蹴りは蹴りで、風刃は魔力爆発で強引に止める。威力としてはどちらも俺の方が勝ったようで、ローゼが体勢を崩した。その機を逃さず腕を伸ばし、炎爪を纏った右手首を掴み取る。

「どぉりゃあっ!」

 そしてそのまま振り回し、地面に思い切り叩きつけると、【手刀】を使ってローゼのガントレットの固定具を切断し、ガントレットを無理矢理むしり取る。ガントレットの内側には無数の呪符が貼り付けてあった。発光してるものが何枚かあるが、炎爪と強撃あたりが発動してるんだろう。

 ひっぺがそうとすると手首の所でひっかかったので、下地の革を斬り裂いて分断し、ガントレットを遠くへと投げ捨てる。よし、これで右腕への強化はなくなった。

 地面に転がった状態からローゼが炎爪を纏った蹴りを繰り出してきた。ちくしょう、脚甲にも炎爪を仕込んでやがったか。防御して、一旦離れる。

「フィスト、お前、何やった!? いくら留め具や下地が革だって言っても、素手で斬るなんて普通じゃねぇだろ!?」

 起き上がったローゼが、右腕を見て叫ぶ。無理矢理奪ったせいで、右手のガントレットはグローブにしか見えなくなっていた。アレの下にも呪符とか……いや、大丈夫か。

 ローゼがこっちを異常だと言ってくるが、それはこっちのセリフだ!

「普通じゃないのはお前の方だ! なんて呪符の使い方しやがる!?」

 至近距離から格闘の動作に乗せて射撃系の【呪符魔術】をぶっ放すとかどうなんだよ!? 詠唱っていう予備動作があるから辛うじて対処できてるが、厄介この上ないぞ!?

「オレは呪符魔術使ってるだけだろ!? おかしいのはお前のアーツの方だ!」

「その運用法がおかしいって言ってんだよ! 零距離射撃とか狂ってんのか!?」

「巻き添え食らわねぇように、ちゃんと対個人用の術しか使ってねぇし! オレはおかしくねぇっ!」

「おかしい奴はみんなそう言うんだよっ!」

 この分からず屋が! 絶対泣かすっ!

 次の【呪符魔術】を使われる前に、俺は突っ込んだ。


 


 結果だけを言う。俺の勝ちだ。

「鬼畜、セクハラ魔人……」

 体育座りでこっちを睨みながら呪詛を吐くローゼは気にしない。

「エロ野郎、女の敵……」

 気にしないったら、気にしない。

「強姦魔、レイパー……」

 ……仕方ないだろうっ!? お前、呪符を全部装備の下に仕込んでたんだからっ! それを使えないようにしようと思ったら、装備を剥ぐしかないだろうっ!? そりゃ剥ぎすぎた部分もあるけど、全裸に剥いたわけじゃないしっ! 第一、PvPは終わったんだから、装備も元通りだろうが!

「PvPだとセクハラ防止機能がなくなるからって、好き勝手やりやがって……」

 スキルレベルとか関係なく、お前の技量が脅威だったからだよ! 打ち合いだと分が悪いと思ったから組み付いただけだ! セクハラだって言われないように関節を極めるのがどんだけ大変だったか! 誓って言うが、乳尻ふとももにはノータッチだったろ!? 剥きすぎた部分も正視しないように苦労したんだぞ!?

「最後は組み伏せた上で貫きやがって……」

 紛らわしい言い方するな! 【手刀】であばらの隙間から心臓抉っただけだろ!

 まぁ、あれだ……こいつ、強かったんだよ。無茶な威力の【強化魔力撃】を使えなかったからってのもあるけど、こっちは結構厳しかったんだ。一番うまいやり方があったとしたら、急所狙いの一撃死狙いだったんだが、それをさせてくれる技量じゃなかったし。だったら少しずつ、戦力を削ぐしかなかったわけで。

 別にローゼが女だったからそうしたわけじゃない。ローゼが男だったとしても、戦法が同じなら、それを無効化するために装備を剥いださ。

「はぁ……少しはすっきりした……」

 足を崩して、ローゼがこちらを見上げる。さっきまでの呪うような目はそこにない。

「分かってるよ。フィストにやましい事は何もないってのは。ちょっと愚痴りたかっただけだ」

「あれがちょっとかよ……」

「いいだろそれくらい! お前がオレをひん剥いたのは事実じゃんか!」

「ひん剥いたんじゃねぇ! 目的は呪符魔術の無効化だ!」

「本気で襲われるかと思ったんだからなっ!?」

「嘘つけっ! わざとらしく悲鳴あげやがって! そこで怯んだ隙を逃がさずに、俺の急所を握り潰そうとした奴が何を言うっ!?」

「かすりもしなかったんだからいいだろっ!?」

「よくないわっ! お前、人にはセクハラだ何だ言ってるくせに、やってることは変わらねーじゃんかよっ!」

 しばし睨み合う。そして、同時に視線を緩めた。まぁ、何だ。事実は事実として、照れ隠しみたいなもんだな、お互いに。

「ま、いいや。そういうのは全部忘れるとして、だ。フィスト強いな。多分、格闘系プレイヤーの中でもトップクラスだぜ」

「そっか、ありがとよ」

 ローゼの評価を素直に受け止める。武道経験者がそれなりにいるみたいだから、リアルスキル含めて俺より技量が上の奴はいるはずだ。それでも俺が強いっていうなら、それはステータスの高さが原因だろう。身体的に他のプレイヤーよりかなり有利だからな。機会があれば、他の格闘系プレイヤーともPvPをしてみたいが、あんまり手の内を知られたくないってのもあるしなぁ。ま、そのあたりはその時に考えるか。

「うし、そろそろ行くか」

 そう言ってローゼが立ち上がり、マントを纏った。

「これからどうするんだ?」

「ツヴァンドに戻って、食料の補充だな。それから野暮用があるからアインファストに行く」

 アインファストか。まだ闘技場でPvP三昧するのかね。あぁ、そうだ。

「アインファストに行くなら、レイアス工房って武具屋を訪ねるといい。俺のガントレットを作ってくれた店だ。お前のガントレット、結構くたびれてるし、新調するのもいいんじゃないか? 予算が許すなら、魔鋼で作ってくれるはずだ」

 少なくとも、ローゼのガントレットは俺のよりは質が悪かった。技量を上げるのは勿論だが、装備面の強化も大事だろう。

「お、そうなのか? そりゃ有り難いな。行ってみるよ」

 近付いてきたローゼが拳を突き出してくる。

「次は、勝つ」

 強い意志を込めた声が紡がれた。挑戦的な瞳がこちらを見つめている。なるほど、ね。だったら。

「次も、勝つ」

 こちらも拳を突き出し、ぶつけ合う。これからも精進を続けるという誓い。そして、再戦の誓いだ。

「じゃあな、フィスト」

「おう、またなローゼ」

「次は寝技抜きでかかってこいよ」

「お前こそメンタル鍛えとけ」

 その後、フレンド登録をして、ローゼは踵を返し、ツヴァンドの方へと歩いて行った。

 うん。偶然の出会いだったが、いい経験ができた。あんな戦い方もあるんだな。かといって、今から【呪符魔術】に手を出すのもなぁ。便利だとは思うけど。

 まぁ、今の俺が強くなるなら、とりあえずは例のアーツの研鑽だな。まだ色々とできそうではあるし。

 ふと気がつくと、クインがこっちにやって来るのが見えた。あっちも食事は終わったらしい……って、そういや俺の食事が終わってない。仕方ない。干し肉で済ませるか。

「ん、どうした?」

 近付いてきたクインが、俺に鼻を近付けてフンフンいってる。何か匂うか?

「あぁ、さっきまで他の異邦人と模擬戦やってたからな。相手の匂いが移ってるか」

 取っ組み合いをしたりしたから、ローゼの匂いのせいかな。そんなに気になるだろうか。

 クインは何度か俺の匂いを嗅いだ後で、こちらを見上げ、溜息をついた。

「……何だその、生温かい目は?」

 何だかよく分からんが、呆れられてるような、馬鹿にされてるような……そんな気がしてならない。

「おい、言いたいことがあるなら言えよ――って、言えんのだった。何だよ、何か文句でもあるのか?」

 俺の問いにクインは答えない。ただ、もう一度溜息をついた。

 ……本当に、何なんだ?

 

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