第83話:それぞれの出会い
2015/1/12 誤字訂正
会場の隅の方に移動し、とりあえず、幻獣についてとそれぞれの相棒がどういう存在なのかを説明してやる。というか、全員、知識系のスキルを持ってなかったのが驚きだ。ああ、ツキカゲは【動物知識】は持ってたが、わざわざヤミカゲを確認してなかったらしい。ただの犬にしか見えなかったし、仕方ないか。
ちなみにその幻獣達はというと。座ったヴィントの背中にロードスとファルコが乗り、ヤミカゲは疲れたのか、ヴィントに寄り掛かってうとうとしてる。うぅむ、和む光景だ。ヴィントが座ったのは、周囲が安全だと確信してるからだろうか。馬って寝る時でも立ったままだって聞いたことあるしな。
一方、剣呑な空気を纏ってるのがクインとジェーンだったりする。何でだろうか? 今も睨み合ってる。まぁ、本気で一戦交えたりしなけりゃいいけどさ。
「魔力のシールドを使えることは知ってましたけど……ゲームの中だから、あまり気にしてませんでした」
「あぁ、時々ビリビリってきたのはそのせいだったんだ。静電気じゃなかったんだねぇ」
カーラとシェーナの反応は軽かった。いや、兆候があったなら少しは疑問に思おうよ。
「そのうち、頭が増えたりするので御座ろうか……」
などと心配げな視線をヤミカゲに向けるツキカゲ。まぁ、神話のケルベロスと同じじゃないみたいだから、いいんじゃないか? 違う分、どんな変化が起きるか分からないのが不安の種だけど。
「こっちの言葉を理解してるような感じだったのは、幻獣だったからなんだなぁ」
と、腑に落ちたような表情でジェーンを見るゴードン。
「そういやミシェイルは、スキルはないけどヴィントのことは知ってたな。調べたのか?」
「ええ、普通の馬じゃなさそうだったので、大書庫で」
俺以外で相棒の素性を知っていたミシェイルに問うと、そんな答えが返ってきた。
でも驚いたのは、この中の全員、誰も【調教】スキルを持ってないってことだ。つまり俺と同じで、幻獣達はNPCのままで一緒にいるってことだな。
「ところで、みんながこいつらと一緒に行動するようになったきっかけって、何だったんだ?」
幻獣自体、あまり人前に姿を見せないものであるらしいのに、こうも数が揃うと、一体何があったのかは気になる。以前はイベント絡みかと思ったが、そうじゃなさそうなんだよな。
「え、っと。それじゃ、わたしから」
最初に、カーラが手を挙げた。
「わたし、GAOを始めたのは、空を飛びたかったから、なんです」
あぁ、サービス開始前のPVで、空を飛ぶ魔術師の映像があったっけ。それを見たんだろうな。
「開始してからレベル上げを頑張って、ようやく【飛行】の魔術を使えるようになった日のことなんですけど、調子に乗って飛び続けてて、魔術の持続時間が切れちゃって。そのまま墜落しちゃったんです。あの時は【落下制御】を使うことも【飛行】を掛け直すこともできないくらい慌てちゃって……墜落死する寸前だったんですけど、その落下地点にロードスくんがいて」
カーラがロードスを見る。ロードスの方はヴィントの背に伏せていたが、カーラの視線に気付いて小首を傾げる仕種をする。ぬぅ、可愛いじゃないか。
「ロードスくんの張ったバリアで受け止められて、私は死に戻りせずに済みました。結局バリアで何度か跳ねて、着地に失敗して怪我はしたんですけども」
バリアで跳ねた、ってどういう……トランポリンみたいな感じの弾力があるバリアだったってことかね。
「それで、助けてもらったお礼に何度かお土産を持って行って。そうしてる内に親しくなった、って感じです」
「カーラにとってロードスは命の恩人――いや、恩フェレット……? なんだね」
ミシェイルの言葉に、うん、と嬉しそうにカーラが頷いた。幻獣に助けてもらったパターンか。シールドフェレットが幻獣の中でも人間に優しいってことなんだろうか? いや、ロードスにしてみたら、自分に直撃しそうなカーラを防いだだけかもしれんけど。
「それじゃ、次はあたしね」
カップを地面に置いてシェーナが言った。ただ話すだけなのも何なので、俺から皆に飲み物を振る舞っている。一応、GAO内が昼間なので、ノンアルコールだ。
「あたしがファルコに会ったのは、狩りをしてる時でね。あたしの狩り場とファルコの狩り場が一緒だったみたいで、狙ってた獲物を寸前で狩られることがよくあったのさ」
そのファルコは、ヴィントの背中でじっとしている。何というか凛々しさがあるな。さすが猛禽類。
「で、そんなある日にね。ファルコがウサギを狩った瞬間を狙った大型の鳥がいてさ。危ないところをあたしが助けたってわけ。その後で狩ったばかりのウサギをそのまま差し出してきた時はビックリしたね。まさかお礼をしてもらえるなんて思わなかったし。ウサギを丸ごと渡されても困るから、その場で辞退したんだけど、それからも狩り場でよく会うようになって。いつの間にか一緒に狩りしたりするようになった、ってとこかね」
シェーナは幻獣を助けてやったパターンなんだな。でも、助けた時から付いて来たわけじゃないのがクインと違うか。
「あたしはこんなところ。次は――」
「あ、それじゃ僕が」
と、ミシェイルが手を挙げる。
「僕の場合は、助けたとか助けられたとかじゃなくて。いや、今でもどうして僕を乗せてくれるのかはよく分からないんですけど」
とミシェイルがヴィントを見るが、巨馬は何も語らずだ。ん? そういやヴィント、よく見たら鞍や鐙はあるのに轡と手綱がないぞ?
「僕、馬に乗りたくてGAOを始めたんですよね。小さい頃に乗馬体験をしたことがあって、それが忘れられなくて。でも、現実じゃなかなか難しくて」
乗馬クラブとかもあるだろうけど、色々と手間やらお金やらかかるだろうしな。
「そんな時にGAOの情報を見て、これなら、と思ったんです。それでも、どこまでリアルに再現されてるかっていう不安はありましたけど。ただ、GAOでも馬の入手って大変で。金銭的なものもそうですけど、餌とかの維持費も掛かりますし。そうしてる内に【風林火山】が野生馬をテイムして馬を入手してるって話を聞きまして。その手があったか、と僕も捜しに出たわけです。でも、独りじゃそれも難しくて」
苦笑を浮かべるミシェイル。そりゃ人間が独りで追いかけて捕まえられるわけないわな。確か【風林火山】の連中だって、最初の数頭は買ったりして、それで罠に追い込んだりして捕まえたらしいし。
「で、ある日、疲れてそのまま草原で寝ちゃったことがあったんですけどね。目を覚ましたら、ヴィントがいたんですよ」
「何だ、そんなシチュ、どっかで見たことあるぞ」
とゴードンが声を上げた。ええ、とミシェイルが笑う。
「某傾奇者漫画の馬と同じですよね。まぁ、ヴィントは起こしてはくれませんでしたけど」
あれか。漫画の方のあれは、最初は野生馬の群れの長をしてたんだったっけ? でもこの辺で、フレイムホースの群れの話は聞かないな。てことは、ヴィントも独りってことか。
「僕もあの漫画は好きでして。で、目の前にそんな馬が現れたら、心躍らないわけがないわけで。思わず乗せてって叫んだんですよ。返答は、強烈な頭突きだったわけですけど。それ以来、何度も何度も捜して声を掛けて、その度に頭突きを食らったり頭を囓られたり踏まれたりして……結構長いこと掛かりましたけど、ようやく乗せてくれるようになりました。そこから散々振り落とされて、何度か落馬で死んだりしてるんですけどね。それまでにヴィント目当てのプレイヤーとかNPCの馬喰とかも来たりしたんですが、今は、こうして一緒に過ごしています」
これでミシェイルが少年風じゃなくて筋骨隆々の大男だったら、まんまだったんだがなぁ、などと思う。
「いっそ、恰好も
同じ事を思ったのか、ツキカゲがそう言うと、ミシェイルが顔を歪めた。
「勘弁してくださいよ。ただでさえヴィントの容貌と、愛馬になるまでの馴れ初めを馬繋がりのプレイヤー達に知られてるせいで、一部から小慶次とかプチ慶次なんて言われてるんですから。恰好までそれに倣ったら、二つ名認定まであっという間じゃないですか」
二つ名認定は、GAOのシステムの1つだ。多くの人にその名で認識されると、ステータス欄に表示されるようになる。称号と違って能力補正等の特殊な効果は一切なく、単にそう言われてる、思われてるってのが当該プレイヤーに分かる程度のものでしかない。例えばルークの場合、二つ名の1つには【勇者】ってのが登録されてたりする。
実際、どれくらいの認知度で認定されるのか、それをどうやって判定してるのかは判明してない。多分、千人は必要ないんじゃないかと思う。何でって? 俺にも既に二つ名がいくつかあるからだよ。嬉しくないものも含めてな! くそ、蜂蜜街スレの紳士共め!
ま、まぁ、それは置いといて、ヴィントがミシェイルに付き従ってるのは何でだろうか。あまりのしつこさに折れたのか、それともミシェイルに何か感じるものがあったのか。
「では、ヤミカゲとの出会いについて語るで御座るよ」
こほん、とツキカゲが咳払いをした。
「拙者がヤミカゲを見つけたのは、アインファストの森の中で御座った。狩りをしてる時に偶然見つけたで御座る。毛が濡れていて、目も開いていない状態で御座った。まるで産み落とされたばかりのように」
ふと耳に、いびきのような音が届いた。確認してみると案の定、ヤミカゲだった。完全に熟睡してるな。多分、ここにいる幻獣の中で一番ゆるい気がする。
「仲間の姿もなく、このままにしておいたら死んでしまうと思い、拾って連れ帰ったで御座る。拾ったのは拙者故、世話も拙者が担当したので御座るが、目が開いてからは妙に懐かれてしまい、今に至るで御座るよ。まぁ、ちょっとどころでなく落ち着きがないので、忍犬には向いてないで御座るが、拾った以上は最後まで面倒を見ようと。まぁ、そういう感じで御座る」
あれか、鳥でいうところの刷り込みみたいな感じだな。
産まれてすぐ放置されたっぽいってことは、未熟児とかそういう系の扱い、ってことなんだろうか。というか、GAO内の動物とかって繁殖もするのかよ。湧いて出る奴ばっかりじゃないんだな。まさか住人であるNPCもそうやって増えたりするんじゃないだろうな? 妊婦キャラは見かけたことないけど、どうなんだろうか。
「よし、それじゃ次は俺だ」
ゴードンがカップの中身を一気に飲み干して俺達を見回した。少し間を置いて、口を開く。
「俺の場合は、殺し合いから始まったんだ」
今までが割と心温まる系の話だったのに、急に血生臭くなった。さっきの甘えっぷりを見てると想像できないな。
「森を歩いてる時に遭遇して、襲われた。実際はめっちゃ強いんだが、当時はもっとやせ細っててかなり弱っててな。鎧はボロボロになるわ身体も傷だらけだわで散々だったが、一気にやられずに済んだわけだ。で、俺、ネコ大好きでな。虎だからって倒すのも嫌でさ。取っ組み合いになった時に、どうにかして落ち着かせられないかと考えた。痩せてたから腹が減ってるせいかもしれないと思って、ストレージポーチに入れてた肉を何とか引きずり出して、無理矢理口に詰め込んだら、その時ついマタタビも放り込んじまってな」
「な、何でマタタビなんて持ってたんだい……?」
「いや、森で偶然見つけててな。ネコと戯れる時に役立つかなと思って持ってたんだ」
シェーナの問いに、頭をかきながら答えるゴードン。あぁ、ネコにマタタビって言うしな。こうかはばつぐんだったんだろう。でもよかったな、リアルのマタタビと全く同じもので。姿形が同じだけで、全く別のものだった可能性もあったんだぞ。
「でまぁ、それが効いたんだろうな。マタタビで発情して大人しくなったわけなんだが。いや、正確には思いっきりじゃれつかれるようになった。それ以来、ずっと一緒だ」
「は、発情ですか……?」
顔を赤くしてカーラが呟く。あぁ、外見どおりの年齢なら微妙なお年頃だろうな。って、その言葉に反応したのがミシェイルとシェーナだ。若いな。
「あぁ、マタタビって、ネコにとっては酒ってよりは媚薬なんだそうだ。だから発情」
一方、平然としてるゴードン。ツキカゲも俺も、特にその単語で反応することはなかった。
しかしゴードンの場合、どう言えばいいんだろう。勝って屈服させたわけじゃないし。マタタビは中毒性はないらしいから、その効果が残ってるわけもない。餌付け、というには弱い気がするし。本気でジェーンに惚れられたとか? まさかな……プレイヤーと虎だぞ?
などと考えていると、皆の視線が俺に集中してるのに気付いた。あぁ、俺以外は全員話し終えたもんな。
「よし、それじゃ最後は俺だな」
アインファストの森での出会いと、その後の付き合いなんかを話してやる。
「……マゾ?」
と呟いたのはゴードンだ。お前、いきなり何を言うんだね?
「2回も吹っ飛ばされて、よく構い続けようと思ったね?」
「わ、わたしだったら逃げ出してるかも……」
呆れた視線をシェーナが俺に向けてくる。クインの過激さが恐かったのか、カーラは恐る恐るクインの方を見て言った。
「特に惚れ込んだとか、そういうのなしで、そこまでやれるのはすごいですね」
同じく相棒に手痛い態度をとられたことがあるミシェイルも、やや呆れ気味だ。彼の場合はヴィントに惚れたから食い下がれたんだろうしな。
ツキカゲは何も言わない。というか、以前話したことがあるから今更だ。
いや、ホント、どうしてあの時の俺、あそこまでクインに構おうとしたんだろうか。拒絶されるのが嫌だったから、ってのは間違ってないはずなんだがな。ちょっと意地になってたところもあったかもしれん。
「でも、こうしてみると、この場にこれだけプレイヤーと行動を共にする幻獣がいるのって、すごいことなんじゃないかって思えますね」
ほのぼの空間を見ながらカーラが言った。うむ、確かに。中には狩られた幻獣もいたりするようだから、出会った幻獣とよい縁を結べて、しかも行動を共にしてもらってる俺達は恵まれてるんだろう。
「今回参加できてないだけで、他にも幻獣と一緒のプレイヤーっているのかね?」
「幻獣だって気付かないまま連れてるプレイヤーがいる可能性はありますね」
シェーナの問いにミシェイルが答えた。意外と知識系スキルを持つプレイヤーって少ないみたいだからなぁ。TRPGだとパーティーに必ず1人はいるもんなんだが。TRPGだと、プレイヤーが知ってても演じるキャラは知らないこと前提で動かなきゃいけないから、環境が違うと言えばそれまでだけど。
「なぁ、ミシェイル、変わった動物を連れてるって情報は結構あるのか?」
「え? そうですね、今まで掲示板を見た限りだと、僕のヴィントとフィストさんのクイン、ゴードンさんのジェーンくらい、ですかね。後は普通の動物ばかり、だと思いますよ。目撃情報とか討伐情報で変わった獲物がいた、っていうのは他にもありますけど」
この手の情報を、スキルはなくても個人で収集してるのはミシェイルだけみたいなので聞いてみると、そんな答えが返ってきた。ロードスとファルコは外見上は普通の動物に見えるし、そんなもんか。
その後は適当に雑談が進む。といっても相棒達の絡みの話題だが。普段どうしてるのかとか、困ったこととか、色々だ。その合間に、クイン達を見に来るプレイヤーの応対をしたりと結構忙しかった。
で、幻獣達はというと、ガードが堅い。触らせようとしないのだ。あのネコまっしぐらなジェーンですら、ゴードン以外には触らせようとしなかった。例外はヤミカゲだけで、為すがままだった。それを見てツキカゲが頭を抱えていたな。
「そうだ、ゴードン。お前、ジェーンを街に入れる時にトラブったりしなかったか?」
俺の時は衛兵さん達とそれなりのやり取りがあったからな。同じ肉食系を相棒に持つ者として、色々と似たような苦労をしてるかもしれない。
「ん? まぁ、普段からネコっぽいからなぁ。初めてツヴァンドに連れ帰った時は驚かれたけど、ジェーンの態度を見て警戒する気も失せたって感じだったぞ」
と思ったら、そうでもなかった。や、やはり愛想がいいと違うのかっ。
「あ、そういえばクインが着けてる首飾りとか腕輪とか、あれはどうしたんだ? 今のジェーンに着けてる首輪だと飾りっ気がなくてな。もうちょっとおしゃれなのを着けてやりたいんだよな」
「あれはアインファストのペットショップで買った。テイムアニマルとか使役獣用の物とは方向性が違うから、愛玩動物用の店を当たるのがいいと思うぞ。ジェーンのサイズに合うのは特注になるかもな。あと、素材次第で値段が上がるから、財布と相談だ。ちなみにクインの場合は、首輪のベースはともかく、ペンダントトップが銀で石がアメジスト、腕輪は銀製だから全部で1万2千ペディアだった」
ゴードンの質問に答えてやると、高っとシェーナが声を上げた。だろうなぁ。あの時は余裕があったから買ったけどさ。最初からあの予算で買うつもりなんて全くなかったしな。
「あとメシ代はどうだ? ジェーンは結構食うだろ?」
「あぁ、多分、50キロくらいは食ってると思う。そっちはどうだ?」
「よく動いた時は20キロくらい、かな」
「そっか。俺が倒した時のドロップじゃ少なすぎてな。数をこなすのは大変だ」
「俺は【解体】スキルを持ってるから、倒した獲物は肉も丸ごと残るからな。それに、クインは自分の食い扶持は自分で狩るし」
それ以外は、俺が作った料理とか食うけどな。そのままでも食うけど、材料自前で俺に料理を依頼してくることあるし。
「あぁ、あのスキルかぁ。あれ、グロ解禁するんだよなぁ……いや、足りない分は自分で狩ってるんだけど、せめて餌くらいは俺が用意してやりたいんだよなぁ」
ふむ……俺とゴードンじゃ、相棒への認識が微妙に違うんだな。俺はクインを対等の相手と見てる。色々と世話を焼くこともあるが、基本的にクイン個人の意思を尊重してるし、クインも俺に養われるだけっていうのは嫌みたいだしな。
一方、ゴードンはネコ好きって言ってたが、多分、その延長でジェーンに接してる。つまりペット寄りの接し方だ。ジェーンがそれで問題ないと思ってるなら口を挟むことじゃないけど、その辺、どうなんだろうな。ジェーンの場合、出会いのくだりを考えると、そこまで意識してない気もするが。要らんことかもしれないけど、確認だけしとくか。
「ゴードン、お前がジェーンをペットだと思ってるなら、それでいいかもしれない。でも、ジェーンが自分を対等の相手と見て欲しいと思ってるなら、何でも世話を焼いてやることはないと思うぞ」
「むぅ……」
腕を組んで考え込むゴードン。いや、そこで悩む事じゃないだろ。
「直接聞いてみたらどうだ? 幸い、幻獣は喋ることは無理でも俺達の言葉は通じるんだし」
「あ、あの、フィストさん、ゴードンさん……ちょっと、やばいんじゃないでしょうか?」
「え、何が――っておい!?」
ミシェイルの声に振り向いてみれば、何故かクインとジェーンが臨戦態勢だった。
「な、何があった!?」
一跳躍の間合いで身を低くし、唸り声を上げながら今にも互いに跳びかかろうとしてるクインとジェーン。いや、確かに最初から仲が悪そうだったけど、本当に何があったんだよ?
ちなみに他の幻獣達はというと、ヴィントは変わらず、ロードスとヤミカゲが怯えてる。ファルコは何やら呆れた様子だ。いや、君達。同じ幻獣なんだから、やばそうなら止めてくれてもいいんじゃないか? あぁ、ヴィントはともかく、他の子らじゃ無理か。
周囲にいた他のプレイヤー達が慌てて退避していく。彼らの相棒はとっくの昔に遠くへと逃げていた。
「おい、クイン! 落ち着け!」
「ジェーン! 何やってるんだ!?」
俺とゴードンは即座に間に入って、互いの相棒を宥める。クインの奴、一体何だってんだ? 何か、結構怒ってる感じがするんだが。
「ゴードン。そっちどうだ?」
「よーしよし、落ち着け落ち着け。ほーらマタタビだぞー。あ、あぁ、多分大丈夫だ」
しっかりと首を抱えて、ゴードンがジェーンを撫で回している。マタタビも使ってるっぽい。あっちも何やら怒っているようだったが、それが次第に鎮まっていくのが見て取れた。
「まったく……一体何があったんだクイン? っても、お前らの言葉は分からんのだけどさ」
真っ直ぐにクインの紅玉を見ながら言ってやる。こっちも少しは落ち着いてきたな。何か、表情が気まずそうなものに変わってきた。あー、こっちの言葉が伝わるのはいいけど、やっぱりあっちの言葉も通じる方がいいよな。【幻獣語】とかのスキルってないんだろうか……
「ふぅ……駄目だろジェーン。みんな仲良く、だぞ」
ジェーンの方はすっかり落ち着いたようだ。いや、落ち着いたというか蕩けてるな、ありゃ……これがマタタビ効果か。犬系にも同じような効果がある何かがないもんかね。そういや古い忍者漫画にそんなのがあったような。
ふと、ジェーンの表情が変わったような気がした。ゴードンに溺れてるのはいいとして、ほんの一瞬だけ、勝ち誇ったようなものに見えたのだ。その視線はこちらに、というか多分クインに向いていたと思う。一瞬クインに緊張が走ったが、さすがに爆発はしなかった。ゆっくりと息を吐きジェーンを見るクイン。何か鼻で笑ったような気がしたが、それでジェーンの表情が凍りついたように見えた。こいつら、絶対何か言い合ってるな。
「クイン、あんまり大人げないことするなよ」
多分間違ってないと思うので、そう言ってやる。クインは驚いた顔をした後で、渋々といった感じでその場に伏せた。はぁ、まったく世話が焼ける。まぁ、普段が大人しいというか物分かりがいいタイプだから、新鮮ではあったけど。
それ以上は何も言わずに頭を撫でてやる。抵抗はなかった。
「ジェーン、お前もだ。あんまり周りに迷惑を掛けるんじゃない」
ゴードンの方もジェーンに釘を刺した。こっちもゴードンの言うことは素直に聞くのか、それ以上のことはしなかった。
「あー、済まん、フィスト」
「あぁ、いや。多分、お互い様な感じだから、これ以上は、な」
2人で同時に溜息をつく。何か、和み空間が欲しい……あるいはモフ空間。しかし原因が分からん以上、クインとジェーンはあまり近付けない方がいいな。物理的な戦闘はなくても、言葉の刃で斬り合うかもしれんし。
まったく。どうしてこうなった。