第82話:モフモフ交流会
2015/7/2 一部削除
ルーク達とやったPvP等による検証で、自分の現状というものが大体把握できた、と思う。
で、今の俺では、自分のスペックを移動に関してはともかく、戦闘には活かしきれないという結論が出た。
ルークを吹っ飛ばした体当たり。速いのはいいが真っ直ぐ突っ込むだけなので、相手の技量が高いとカウンターの餌食だ。何よりあの速度に攻撃を合わせることができないのが痛い。今の時点だと、最初から肘を構えての残○拳もどきや、強引な飛び蹴り、ショルダータックルくらいか。名称未定のままのバー○ナックルもどきも、あれは拳を突き出したままで突っ込むんじゃなくて、勢いを乗せて拳を振るうアーツだから、タイミングを合わせられない今は全力で使えない。更なる修行が必要だ。
細かく動いて相手を翻弄するのはどうかと試してみたが、勢い余って何度も転んだ。踏んばりがきかず、止まることができないのだ。これは【壁歩き】をブレーキみたいに使えることに気付いたので、それ以降はいけるかと思ったんだが、今度は足首が負荷に耐えられず、挫いたり折ったりと散々な目に……【魔力制御】による瞬間的な身体強化である程度は目処が立ったけど、全力で動くのは今の俺には不可能だな。負荷に耐えられる範囲での高速機動自体は可能だし、相手がルーク級じゃなければ十分使えるとは思うが、まだ色々と鍛え方が足りない……
アーツの方はある程度想像してたとおりだ。例えば【手刀】なんかはルークの剣と何度か打ち合えたりしたが、アーツによる渾身の一撃だとやっぱり斬り落とされた。過信はできないな。他のアーツも使いどころは十分気をつけないといけない。
森を抜け、久々に広い地面を見ることができた。遠くにはツヴァンドの街が見える。GAO内だと結構な時間をあの地底湖で過ごしたからな……とりあえず、街に戻ったら狩猟ギルドに顔を出すか。一つ目熊の買い取りをしてもらわねば。
しかし……何だ? 街から離れたところに、随分人が集まってるのが見える。しかも動物が多い。テイマーの集会か何かか? あっちには騎馬の一団が、って全員が和風の鎧を装備し、背中には武田菱の旗指物がある。あれ【風林火山】の連中か。あれだけの騎馬が一斉に駆けるのは圧巻だ。いや、それ以外の騎馬も何人かいるのか。装備が違う。いや、馬じゃなくて猪に乗ってる奴も混じってるな……
その中に一際大きな奴がいた。漆黒の巨馬だ。あの体躯だけでもインパクトあるけど、たてがみと尻尾だけが真っ赤なのも特徴的だな。
「フィスト殿~!」
騎馬軍団が駆けているのを眺めながら歩いてると、遠くに見える人だかりの方から、こちらに走ってくるのが1人。あれ、ツキカゲじゃないか。
なかなかの速度で走ってきたツキカゲは、俺の前で止まった。
「よう、ツキカゲ。どうしたんだ?」
「どうした、とは? フィスト殿もこの会に参加するために来たのでは?」
問うと、不思議そうに問い返された。会? 何の会だ?
「俺、しばらくの間、森に篭もってたからな。掲示板とかもノーチェックだ。何かのイベントか?」
「そうで御座ったか。実は【モフモフと戯れ隊】主催の親交会で御座ってな。動物持ちのプレイヤーが集まって交流しよう、というイベントで御座るよ」
【モフモフと戯れ隊】って言えば、確かテイマーのギルドだよな。ケモナーの集団の。あぁ、それであんなに動物がたくさんいるのか。あれ? じゃあ、どうしてツキカゲがいるんだ?
「ツキカゲって【調教】スキル持ってたっけ?」
「スキルは持っておらぬで御座るよ。しかし、こやつがいるで御座る」
言ってツキカゲが後ろを向いた。見ると、ツキカゲを追いかけてきたらしい子犬が1匹見える。真っ白な子犬だ。結構な距離だったからか、少々お疲れ気味だが、足元に辿り着いたのをツキカゲが抱き上げると、ブンブン尻尾を振っている。かわいらしいな。
「名をヤミカゲというで御座る。ヤミカゲ、挨拶するで御座るよ」
あん、と子犬が鳴いた。白いのに闇とか、そのネーミングはどうにならなかったのか、ツキカゲよ?
「しばらく前に森の中で拾っていたで御座る。これも何かの縁と思い、将来の忍犬にするべく色々と仕込んでいるで御座るよ。スキル持ちの仲間達によって、他の犬や狼にも訓練を行っているで御座る」
気の長い話だなぁ。しかし白い忍犬か。甲冑でも着せるのかね? でも、テイムしてないってことは、クインと同じでNPCのまま同行してるのか。
「まぁ、参加条件は動物を連れていることだけで御座る。フィスト殿にはクイン殿がいるで御座るからな。きっと歓迎されるで御座るよ」
うーん、どうだろうな? というか、クインがどう思うか、なんだが。こいつ、大勢の前にいるのってあまり好きじゃなさそうだし。ま、行ってみるか。
集団に歩いて行くと、いるわいるわ、動物の群れ。ウルフに犬、羊、山羊、猪、ブラウンベア、ブラックウルフ等々。まるで動物園だな。でも、羊とかって、テイムしてどうするんだろうか。戦闘に参加させるはずはないし。まさか、本当にただ愛でるだけとか? 現に参加者達は、話しながら動物達をモフモフしてるし。ケモナーにはパラダイスだろうなここ。
で、そんな様子を見ることができるってことは、あちらもこっちに気付くってことだ。皆の視線がクインに釘付けになるのが分かった。モテモテだなぁ、クイン。
「あ、フィストさん!」
こっちにやって来る女性が1人。革鎧装備の金髪ショートの女性だ。あちらは俺を知ってるようだが、初対面だな。傍らにはブラックウルフを連れている。
「ようこそ交流会へ! 私、【モフモフと戯れ隊】のマスターをやっているケモスキーっていいます。今日はよく来てくださいました!」
ケモスキー、って……いや、本人がいいならいいんだけどさ。
「飛び入りになるんだが、いいのか?」
「ええ、大歓迎です! フィストさんにはメールを送ろうとしたんですが、システムで弾かれてしまいまして。諦めてたんですよ」
弾かれた? 俺、特に着信拒否とかしてないんだけどな。ひょっとして、【修行場】にいたからだろうか。そういや、システムメニューの表示はそのままだったけど、ひょっとして通信系が使用不能になってたのか? ……脱出できてよかった、本当に……
「そっか。でも、皆の期待に応えられるかどうかは、なぁ……」
答えながら俺はクインを見る。あんまり居心地が良さそうではないな。
「下手に手を出すと囓られるかもしれないから、自己責任でな。こいつ、俺がテイムしてるわけじゃなくて、あくまで対等な関係だから」
「噂には聞いてましたが、本当なんですね。でも、スキルに頼らずに信頼関係が築けるというのは、ケモナーとしては羨ましいですよ」
クインを見ながらケモスキーが言う。手がわきわき動いていて、撫でたそうにしてるな。
「でも、撫でられないにしても、こうして近くで見ることができるのは嬉しいです。こちらとしても、動物に嫌われたくはありませんから、節度は守ります。その辺は心配しないでください」
うん、話の分かる人で助かった。こんな人がマスターをやってるなら、他のギルドメンバーも大丈夫だろう。単なる参加者は分からんが、まぁ、囓る前に威嚇とかして自衛するだろ、クインのことだから。
「でもこの子、すごいですね。それに綺麗で……もふもふで……」
うっとりとクインを見るケモスキー。これで結構暴れん坊なんだぞ。言ったら噛まれそうだから言わないけど。
しかしクインの存在感はすごいな。プレイヤー達の目もそうだが、他の動物達も注目してる。警戒半分というか恐れてるって言ってもいいか。他のテイムアニマル、使役獣と違ってNPCのままだから、ってのもあるのかもな。ケモスキーが連れてるブラックウルフなんて逃げ腰だし。こらこらクイン、あんまりガンを飛ばすんじゃないぞ、そいつは以前お前を襲ったブラックウルフじゃないんだから。
ケモスキーは少しの間様子を見ていたが、撫でるのは無理と悟ったのか、頭を下げると相棒であろうブラックウルフと去って行った。
「あ、あの……」
それとほぼ同時に、控えめな声が背後から聞こえた。振り向くと、そこにはいかにも魔法使いが持つような感じの木製の杖を持った黒いローブ姿の少女が……うん、少女、だな。外見は中学生くらいだろうか。長い金髪をサイドポニーにした、多分魔術師であろう少女だ。肩には白いイタチのような動物が乗っている。む? 【動物知識】で情報が出ない、だと? 動物じゃないのか?
「君は?」
「あ、あの、初めまして! わたし、カーラっていいます! この子はお友達のロードスくんです!」
頭を下げるカーラ、そして同じように頭を下げる、ロードス君というらしいイタチっぽい何か。何か賢そうだぞこのイタチもどき。しっかしすごい名前だな、カーラにロードスって……某呪われた島繋がりか?
「フィストだ。その子の名前、自分で考えたのか?」
「いえ、お兄ちゃんがつけてくれました。お兄ちゃんはGAOはやってないんですけど、ゲーム内でイタチみたいな子を保護したって話をしたら、名前を考えてくれたんです。イタチ繋がりが何とか言ってましたけど、よく分かりません。でも、かっこいい名前だと思ったんで採用しました」
どうやら名前に関しては偶然だったらしい。それにしてもイタチでロードスで……あぁ、某魔法少女の初期相棒と引用元は同じってことか。
「うわ、すっごく綺麗な狼だね。スクショで見たよりずっと綺麗」
そう言って近付いてくる女性がいた。薄栗色の髪をポニーテールにした女性で、革の胸甲を身につけている。背中には弓を背負い、腰には矢筒を提げていた。そしてその左肩には鳥が止まっている。これも【動物知識】に該当がない。黄色をベースに黒い柄が入った、虎柄のように見える鷹っぽい鳥だ。
「フィスト、だよね。初めまして。あたしはシェーナ。こっちは相棒のファルコだよ」
名乗り、肩の鳥を紹介してくる。ファルコと呼ばれた鳥は先程のロードスと同じように頭を下げた。こちらも名乗り、クインを紹介する。クインは相変わらず無表情を貫いている。緊張してる、なんてことはないよな?
手を出そうとしたシェーナに対し、身を引くクイン。まったく、少しは愛想よくすればいいのに。
「すまないな、シェーナ。こいつ、照れ屋さんでなぁ」
言うと同時に鼻先で突かれた。お前のフォローをしてやってるんだぞ? 目だけでクインを非難すると、そっぽを向かれた。こ、こいつめ……
そんな様子を見てカーラとシェーナが笑う。まぁ、不快に思わないでいてくれるならいいんだけどさ。
「ところでその鳥、何ていう鳥なんだ?」
「さぁ、何だろうね? 偶然拾ってそれ以来ずっと一緒なんだけど、どうも他の鷲や鷹とは違うみたいでさ」
「ふむ、隼、でもなさそうで御座るなぁ」
ツキカゲがファルコを見ながら首を捻っている。ちなみにヤミカゲはツキカゲの頭の上に乗っており、傾いた頭から落ちないように必死にしがみついていた。
「あ、お馬さん達が帰ってきましたよ」
カーラに言われて見てみれば、【風林火山】の連中が地響きを立てながらこっちへと戻って来る。お、よく見たら二足歩行の鳥とかも混じってるな。騎乗できる動物って多いんだな。
さっき見かけたでかい馬もいる。近くで見るとやっぱりでかい。黒○号か松○かってくらい凄い威圧感がある馬だ。
「お帰りなさい、ミシェイルくん!」
「お疲れ、ミシェイル」
そんな馬に跨がってる騎手に、カーラとシェーナが声を掛けた。ん、2人の知り合いなのか。
「ただいま、カーラ、シェーナ」
応えて馬から飛び降りたのは赤毛の少年だった。外見設定は中高生、くらいか。装備は金属鎧、と言っても軽装だな。胸甲に篭手と脚甲だけか。
「そっちの人は……フィストさん、ですか?」
ミシェイルと呼ばれた少年が俺とクインを見て言った。何だかんだで俺、知名度が高くなってるなぁ。
「初めまして。僕はミシェイルといいます。こっちは、相棒のヴィント」
ミシェイルの紹介に合わせてヴィントが軽く頭を下げる。ロードスといいファルコといい、賢いのが多いな。この馬――いや、こいつも動物じゃないのか。
「知ってるみたいだが、俺がフィスト。こっちがクインだ」
「お会いできて嬉しいです。フィストさんとは、幻獣を連れてる者同士、ぜひ一度、お話ししてみたかったんですよ」
ミシェイルの言葉に、あらためてヴィントを見る。やっぱりこいつ、幻獣だったか。そういや以前、スウェインが幻獣の馬を連れてる奴を見かけたことがあるって言ってたっけ。確かあれは――
「フレイムホース、か?」
「はい、そうです」
思い出した名を呟くと、ミシェイルが頷いた。
記憶が確かなら、たてがみと尻尾が炎を纏う馬、だったっけ。今はそんな感じじゃないけど。でもその場合、乗ってるミシェイルは熱くないんだろうかね?
何だかここ、異常な集まりになってる気がする。カーラとシェーナの相方も動物じゃないし。ロードスとファルコも幻獣なんじゃないだろうな? 例外はヤミカゲだけ……っておい、こいつもよく見たら犬じゃないだと!?
「おぉ、ここは目立つなぁ」
驚いてる間に1人のプレイヤーがやって来た。いかにも前衛壁職といった全身金属鎧を装備した大柄な男だ。連れてる動物は銀というか鉄色の毛を持つ3メートルくらいの虎――のような何か、だな。こいつもか……
「フィストとクイン、だよな。俺はゴードン。こいつはジェーンだ」
男が虎の頭を撫でながら名乗った。虎は気持ちよさそうに目を細め、ゴードンに顔を擦り付けている。まるで猫だな。
こちらも名乗り、皆が自己紹介をする中、どうしても気になるのでメニューを開いてスキルリストを出す。えーと【幻獣知識】のスキルは、と。
スキルを修得し、あらためてこの場にいる奴らを確認してみた。
ロードスはイタチもどきじゃなく、シールドフェレット。魔力による防御フィールドを展開する特殊能力を持ったフェレット、らしい。
ファルコは鷹じゃなくてサンダーバード。雷撃を放つ鳥、とあるな。伝承にあるサンダーバードは鷲だったはずだが、GAOじゃ違うのか。
ヴィントはフレイムホースでいいとして、ジェーンはアイアンタイガー。体毛を鉄のように硬質化することができるそうだ。
で、ヤミカゲはケルベロス……ケルベロス!? いや、首3つもないだろ!?
まさか他にもいるんじゃないだろうな? 会場にいる動物全部を【幻獣知識】でチェックしてみる。さすがにこれ以上はいない、か。動物じゃないやつは全部、俺が知ってる魔獣だし。
でもこれ、明らかにおかしいだろ。いや、ファルーラ王国に生息地がないのはクインとジェーンだけか。だったらおかしいってわけじゃない、のか? いやいや、でもこれだけの幻獣がプレイヤーと行動を共にしてるってのは、さすがに、なぁ……
「なぁ、ミシェイルはいいとして、お前達、自分が連れてるのが幻獣だって知ってるのか?」
問うと、え、と驚くミシェイル以外の人々。おいおい、全員知らんかったのか。
とりあえず……全員の馴れ初めとか、聞いてみるか。