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第72話:饗宴

 

 ヨアキムさんに【翠精樹の樹液】について聞いてみたところ、体力や生命力を上昇させるような効果はないはずだ、という回答を得た。ただ、俺を包み込んでいたあの樹液が、俺の治療のためにその時だけ特殊な成分になっていた可能性はある、とも言っていた。

 これを聞いて、正直惜しいと思った。また入手できるならステータスアップが望めたからだ。ステータス上昇が難しいというGAOの現状を考えると、翠精樹の樹液の入手自体はそう難しくないしな。それに【調薬】の素材にも使えるかもと期待したこともある。

 一方で、今回限りで良かったというのも偽りない俺の気持ちだったりする。トラブルになる可能性が高いからだ。どの翠精樹でも効果があるなら乱伐が予想されるし、ここのような立派な樹になっていないと駄目だというなら、プレイヤーが押し寄せてエルフと対立することは十分に有り得る。結果としてその利益を独り占めしてしまった俺が言うな、って声が聞こえてきそうだけど。でも、あのまま飲まずに目を覚ましてたら、樹液はさっさと回収されてたかもな。今思えば、あの時の樹精が見せた困り顔は、意地汚い俺に呆れたせいかもしれない……


 


 夜になったら宴が催された。村を救ってくれた俺達への感謝の気持ちだということで、俺は遠慮なくそれを受けることにした。

 村の被害としては、【迷いの森】の一部が焼け、周囲の柵と家屋の一部が壊された。村人は怪我人こそ出たが死者はゼロだった。

 襲撃を受けたというのにエルフ達に暗い表情はなく、笑顔に溢れていた。俺独りじゃどうしようもなかったけど、最終的に守り切れてよかったと、喜ぶ彼らを見ていて心から思う。

「飲んでるかフィスト!」

「ああ、飲んでるよザクリス」

 差し出してくる葡萄酒をゴブレットで受ける。こいつも結構、テンションが上がってるよなぁ。前に飲んだ時もここまで上機嫌じゃなかったぞ。

 さっきから、エルフ達の酒攻撃が半端ない。以前の葬式の時もそうだったが、本当に律儀というか。

「お前にはいくら感謝しても足りない! 本当にありがとう!」

「いいって。俺だけで成したわけじゃないんだから」

 ここまできたら俺の存在を軽く見るつもりはないが。オトジャにも言ったが、俺だけでどうにかなったわけじゃないんだ。ザクリス達が諦めずに抵抗したこともそうだし、ルーク達が来てくれたこともそう。それら全部が合わさった結果が今なんだから。

「おお、客人達も楽しんでくれているか!?」

「ええ、ありがたくいただいています」

 矛先を向けられたルーク達の中、スウェインが代表で酒を受ける。当然エルフ達はルーク達にも感謝の意を述べにやって来た。スウェインは順応してるが、ルーク達はかなり戸惑ってる。まぁ、GAOのエルフとここまで大きな規模で接するのも初めてだろうしな。

 大いに語り、大いに食い、大いに飲み、大いに騒ぐ。広場ではエルフ達が楽器を鳴らし、歌い、踊っている姿がある。ルーク達が持つエルフのイメージがどうかは分からないが……諦めて慣れてくれ。

「それにしてもザクリス。お前ら、俺達に礼を言うのはいいけど、そっちはそっちでちゃんと英気を養ってるんだろうな?」

 皆の様子を見てる限り、問題はないんだろうけど。こっちから酒を注いでやりながら一応聞いておく。

「それは大丈夫だ。今までに無いくらいの賑わいだよ」

 嬉しそうに言って、ザクリスはゴブレットを傾けた。

 ならいいんだが。これから村や周辺の復旧がまだあるし。明日からも頑張ろう、って気になってくれればいいな。

 あ、そうか。いい考えがあるわ。

「ザクリス。済まないが、料理担当を何人か呼んできてくれるか?」

「ん? それは構わんが……どうかしたか?」

「なーに、今日という日を、より楽しんでもらおうと思ってな」

 多分、全員に行き渡るだけの量はある。それに、ほら。ルーク達にも食ってもらいたいしな。


 程なく、3人のエルフ女性がやって来た。その中の1人はマイユだ。こりゃ好都合。

「フィストさん、何か話があると聞いたけど」

 彼女らの手には新たな料理がある。以前、土産に持たされた蜂の子の包み焼きだな、あれ。ジェートが別になってるけど。

「実は、1品、作って欲しい料理があるんだ」

 問うてくるマイユにそう言って、俺は【空間収納】に手を突っ込む。

「ひっ!?」

 その悲鳴は【銀剣】女性陣の誰のものだったか。

 取り出したのは、ジャイアントワスプの蛹だ。在庫一掃の勢いで、それらをマイユ達の前に出していく。

「てことで、ひとつ頼めるか? これだけあれば、全員食えるよな?」

「喜んで!」

 マイユ以下、エルフ女性の喜々とした声が重なった。嫌がる様子など全く見せず、蛹を両腕一杯に抱えてかまどの方へと走っていく。3人じゃ持ちきれなかったのでザクリスも手伝わされていた。

「ね、ねぇ、フィスト……あれ、なに……?」

 俺からの差し入れだと広めながら遠ざかっていくマイユ達を見送っていると、エルフ達の大歓声に掻き消されるようなシリアの声が耳に届いた。

「ジャイアントワスプの蛹だよ。エルフ達の大好物」

 ちなみに、と前置きして、マイユ達がついさっき持ってきた料理を指す。

「これがジャイアントワスプの幼虫を使った料理だ。美味いぞ」

 女性陣の顔色が、面白いくらい青かった。ルークとジェリドも微妙な顔だが、スウェインだけは興味を示したようだ。適当に切ってあったそれの1つにフォークを刺し、口に運ぶ。

「ふむ……表層は茹でたエビのようだな。内側はチーズに近いか。味はエビそっくり……味も食感も面白いな。リアルの蜂の子とはまた違う」

「あ、そっちのも食ってみるといいぞ。同じ蜂の子だが、育ち具合で味が違うんだ」

「どれ……ほぅ、今度はジャガイモか? 同じ生き物なのに味が変わるのだな」

「で、だな。そっちの茶色いペーストみたいなのを付けてみるといい」

「これか……む!? これは味噌ではないか!? GAO内で味噌はまだ見つかっていないだろう!?」

 スウェインの反応が面白い。いや、こうも期待どおりの反応をしてくれると、勧めた甲斐があるな。

「で、さっきの蛹が、シチューにするとリアルにもない美味でな。スウェインならきっと気に入ってくれると信じてるぞ」

「むむむ……それは楽しみだな。是非、食さねばなるまい」

「てことで……ほれ」

 フォークに刺したそれを、ウェナの方へ向けてやる。

「この間話した蜂の子料理だ。しかもエルフ料理。食べないなんて勿体ないぞ?」

 あの時は、正体を隠して食わせてやろうと思ったが、これは彼らへの感謝の気持ちがこもっているのだ。まさか、食わないなんて言わんよな?

「えー、と……冗談、だよね?」

「エルフ達の厚意を無にすることを冗談というなら、そうだな」

 ウェナ以外のメンバーにもちらつかせてみる。おいおい、顔を引きつらせるなんて失礼じゃないですかね(棒読み)

「まぁ、一口くらい食うのが礼儀だと思うぞ?」

 と、とどめを刺しておこう。見た目からは幼虫だって分からないんだから大丈夫だろ? あ、シチューは遠慮無く残してくれ。俺とクインがもらうから。


 


 結局、ルーク達は蜂の子料理にはまった。シチューも一口した後は貪るように食べきった。シチューは残してくれても良かったんですよ?

 そんなこんなで時間は進み。

 エルフの子供達は騒ぎ疲れたのか寝床に入ったようだ。

 が、大人達は相変わらずだった。何人かはそのまま撃沈してる様子も見える。風邪とかひかなきゃいいけどな。

 遠くの方では弓の腕を競ってるのが見えた。酒が入っていても、精度はともかくとして結構な距離の的にしっかり命中させているのはさすがエルフと言ったところか。なんかミリアムが混じってるようだが、彼女の腕はエルフに劣るものではないらしい。彼女も結構飲んでたはずなんだけどな。

 ルークは相変わらず強くないのか、ダウンしていた。そんなルークの顔に、シリアが楽しそうにヒゲを描き込んでいる。見なかったことにしよう。

 ジェリドは控えめに飲んでいたらしく、今回はまだ意識がある。シリアがルークに悪戯するのを面白そうに眺めていた。

「ふぅ……ようやっと片付いた」

 俺は俺で作業を終えたところだ。何をしてたかというと、メールの処理である。

 ツキカゲ達からの安否確認メールがほとんどで、いくつかは俺個人への問い合わせだ。特にシザーとレイアスからは、損傷した装備をどうするかという確認もあった。【翠精樹の蔦衣】のこともあるのでそれを含めた相談をしておいた。

「メールがパンクしてはいなかったかね?」

「いや、そういうのはないな。半分以上は顔見知りからの安否確認だったし。後はエルフの村はどこだ、とか、別案件の回答とかそんな感じ」

 まぁ、エルフの村の場所を教えろ、とだけのメールなんて、答える気にならんけどな。

「そうか。だが、その件についてはフィストに頼みたい事がある」

 言いながらスウェインがスレッドを表示した。スレッド名は――

「亜人情報総合スレ?」

「うむ。実は襲撃の後、近くにいたパーティーが1つ、この村に来てな。その中の1人がエルフスキーだったのだ。だが、エルフ達は君の件で殺気立ってたのでね。落ち着いたらスレの方へ連絡する、と約束したのだよ」

 ああ、そういうことか。エルフスキーにしてみたら、エルフの村の情報なんてお宝だろうしな。それにスレを読んでみると、既にそいつが村の大体の位置とか今回の件で村に何が起きたかは説明してるようだ。

「そういうわけで、トラブル回避のためにもエルフの情報を開示してもらえないだろうか。君の素性については隠していたのだが、動画でアップされた以上、誤魔化しは不可能だ」

「だな……まぁ、この辺は後でヨアキムさんに相談してみるよ」

 俺が勝手にペラペラ話していいものか迷うのだ。プレイヤーが大挙して押し寄せてくるとなると、村への影響が出てくるだろうし。彼らの生活を脅かす真似は避けたい。エルフスキーだけなら問題ないかもしれないが、素材やらアイテムやらを期待して押しかけて来たらトラブルにしかならないからな。あ、エルフスキーの場合は紳士淑女的な意味で危険かもしれんが。

「……このスレ見てたら、情報提供したくなくなってきたんだが……」

 俺への突撃メールをするなよ、という、配慮あるレスもあったが、途中で俺への攻撃的なレスが目立ち始めたぞ? どうしてもげろとか爆発しろとか言われなきゃならんのだ? 妄想が激しすぎだろこいつら。事実無根だ。エロいシチュなんてなかったっての。

「まぁ、そう言うな。それだけ、彼らにとって、今の君の立ち位置は羨ましいものなのだろう」

 フフフと笑いながら、ゴブレットを傾けるスウェイン。あー、面倒だな……

「そうだ、フィストに話しておかなくてはならない事があったのだ」

 スウェインが1枚の画像を俺の前に表示させた。

「これはフィストからの協力要請のお陰で見つけた。だから、君にだけは話しておく」

「何だ、これ? 遺跡?」

 スウェインが示した画像は、石造りの構造物だ。地下なのだろう。魔法の光に照らされたそこは、奥へと続く洞窟がある。人の手が入っているのは入口部分だけみたいだな。通路の幅は広く、天井もそこそこ高い。そしてその入口に、半透明の壁のような物が立っている。魔術の障壁だろうか?

「それはシェオベーゼ兄弟のアジトの地下にあった構造物なのだが……どうも、アンデッドの巣窟らしくてな。討伐後にアジトの探索をしていた時も、そこから時々、アンデッドが出て来たのだ」

「……それって……ダンジョンってことか?」

 おいおい、ちょっと待て。ダンジョンの実装は第二陣合流時のアップデートでじゃなかったのか? いや、それとも、既に実装済で、プレイヤーが探索できるのがアップデート後ってことなのか? それって意地が悪すぎませんかね運営?

 でもこれがダンジョンだとするなら、シェオベーゼ兄弟の戦力に納得がいく。無限湧きするダンジョンからアンデッドを直接調達してたってことだ。アンデッドを支配下に置く方法とかはさっぱりだが、それなら墓場荒らしをしなくても素材が手に入るわな。アンデッドのダンジョンと死霊術師なんて最悪の組み合わせだ。

「あくまで、その可能性がある、というだけなのだがね。なにせ、中に入れないので確認ができないのだ」

 と、スウェインは溜息ひとつ。シェオベーゼ兄弟は中に入れたんだろうか? それとも出てくるアンデッドを捕獲してたんだろうか?

「ただ、もしもそこがダンジョンだというのなら、運営が言うところのダンジョンは既にGAO内のあちこちに存在するということになる。これらを事前に知る事ができれば、かなりのアドバンテージになるだろう。なにせ、現時点でダンジョンを探しているプレイヤーはいない。私自身もそうだったが、皆、アップデート後に出現すると思い込んでいる。開放と同時に攻略に取りかかることができるからな」

 皆がダンジョンを探してる中、先んじて攻略開始できるなら、さぞ実入りもいいだろう。最初にダンジョンを制覇したらボーナスが出るとか、この手のゲームではたまにあるらしいし。

「じゃあ、このダンジョンの公開は攻略完了後か?」

「いや、ダンジョンだという確信が持てたら、情報公開しようと思う」

 おや、意外だな。アドバンテージがどうの、という割に欲がないじゃないか。

「恐らく、だが。このダンジョンは、一番不人気のダンジョンになると思われる。公開しても、攻略に乗り出すプレイヤーは少ないと思うのだ」

「その心は?」

「解体スキルと一緒だよ」

 スウェインのその言葉で、すぐに納得できた。グロだな。

「吐き気をもよおすゾンビの容姿と臭い。風呂実装等の事情を深読みするならば、容赦なくプレイヤーを汚すこともできるだろう? 特にゾンビなど、色々と飛び散りそうではないか。実際、推定ダンジョンから出てきたのは、スケルトンよりゾンビの方が多かったのだ」

 スウェインが言ったとおりになるなら、アンデッドのダンジョンなんて誰も近寄ろうとしないかもな。俺? 俺は嫌だぞ。ゾンビを殴るとか勘弁だ。獲物を解体するのは苦にならないが、腐ってるという一点においてなるべく触れたくない。病気とか持ってるかもしれんし。

「それにドロップ品も、今回の死霊騎士のことを考えたら呪われた物が多い可能性がある。実入りとしてはどうだろうな。更に、ダンジョンの位置が遠い。現状で、ツヴァンドから歩いて1日くらいの距離だ。野営前提での道のりとなるだろう」

「本当に運営は鬼畜だなぁ……」

 そんな馬鹿な、という考えはない。やりかねない、そう考えさせられるのがGAOだ。

 でも、物好きはいるかもしれないからな。消臭剤を増産しとこうか。ダンジョン攻略が進んできて、欲しがる人がいれば売るのもいいかもしれない。

「まぁ、私達には聖属性というアドバンテージがあるのでね。とりあえずはそこがダンジョンか確認して、間違いなければそこから攻略していく方針になっている」

「アンデッドダンジョンなら、現時点でお前ら以上に向いてるプレイヤーはいないだろうしな。あ、ラーサーさんの修行ってどうなんだ?」

 修行を開始したと聞いてからそれなりに経つ。今回の活躍を見る限り、色々と身につけたようだが、どうなってるんだろうか。

「うむ、ウェナやジェリドはともかく、ルークのは地獄の責め苦に見えるな」

 スウェインの言葉の後で、ルークが呻き声を上げた。そっちを見るとルークがうなされてる。今のが聞こえたのか? って、どんだけだ。

「そんなに酷いのか?」

「酷いというか、容赦が無い。俺の攻撃に耐えられたなら天○をやろう! 的なノリだ。死にそうになったらミリアムとシリアが回復させて再挑戦、というスパルタぶりだ」

 神妙な顔で頷くスウェイン。そういやラーサーさんの実力を、騎士は騎士でもヘッ○ライナーの方のそれだ、って評してたっけ。

「当然、ラーサーさんにルークを殺す気はないし、手加減はしている。ルークもそれを承知で受けているわけだが……お陰で、剣の腕は随分上達してきたようだ。まだ1本も取れていないが」

「剣聖相手にして修行してりゃ、そりゃあ腕も上がるわな」

「ところで、【魔力制御】の方は順調かね? 動画を見る限り、色々とアーツ化しているようだが?」

「こつこつ積み上げてる最中だな。【魔力変換】にはもうしばらく掛かる。攻撃以外にも色々できればいいんだけどな」

 一応、【魔力変換】は聖属性と火属性、雷属性を修得する予定でいる。聖属性は対アンデッド用に。火は汎用性もそうだが料理に使えそうだし、雷属性は対人戦や狩り、漁に使えるんじゃないかと思ってたり。そのためには【魔力変換】の前提スキルである【魔力制御】のレベルを上げないとな。

「明日、起きたらルークに聞いてみるといい。【魔力制御】による身体機能強化の方法がある。上手く使えば瞬間的なバフとして活用できるだろうし、普段のスキル上げにも使えるだろう」

「お、そりゃ助かるな」

「それからラーサーさんが、剣士相手の訓練がしたかったらいつでも来てください、と言っていたので伝えておく」

「あー……あっという間に斬り倒される未来しか見えないんだが……」

 俺が実際に見たのはアンデッドと対峙した時だけだが、あの時点でも勝てる気がしなかったもんな。俺もあれから少しはレベルが上がってるけど、それでも相手にならないんじゃなかろうか。なにせ、ルークにも勝てないんだから俺は。有り難い申し出ではあるんだろうけど。

 もっと強くなりたい、って気持ちはあるんだけどな。もっと強ければ、オトジャとの戦いもルーク達の手を煩わせずに済んだ――ってことはないか、さすがにあの物量は俺だけじゃどうにもならん。GAOを始めた頃は、それなりに戦えればいいって程度だったのに、変わるもんだ。でも強ければ護りたいものを護れるし、美味くて手強い獲物も狩れるしな。いずれドラゴンとか食いたいし……きっといるよな、ドラゴン。ドラゴンステーキ、どんな味がするんだろうな……じゅるり。

「なーにを、難しい話をしてるのー?」

 少し呂律が回ってない声が、スウェインの後ろから聞こえた。その声の主は、そのままスウェインに背後から抱きつく。おや、さっきまで姿が見えなかったのに、いつの間にスウェインの背後へ。

「難しい話というか、真面目な話だな」

 ウェナに抱きつかれたスウェインの方は、特に慌てることもなく冷静だ。慣れてる、と言えばいいんだろうか。

「せっかくみんなで楽しんでるのに、そーゆーのって、つまらなくない?」

「情報交換というのは大切だぞ? 特にフィストには色々と情報を提供してもらっているからな。こういう時に少しでも返しておかねば」

 スウェインはそう言うが、こっちも色々と情報をもらってるから、対等じゃないかと思うんだけどな。というか、見えないところで【シルバーブレード】の名に助けられてる部分もあると思うし。

「ところで、今日のウェナはどうしたんだ?」

「なーにー? ボクは普通ですよー?」

 スウェインに頬擦りしながら口を尖らせるウェナ。いや、明らかにおかしいから。前回飲んだ時よりも確実に迂闊というか無防備だから。

「今日は、以前より酒が進んだようだ。飲み過ぎると甘えたがりになるのだよ、ウェナは」

「酔ってなんかないですよーだ」

「いや、明らかに酔ってるから」

 酔っ払いお約束の台詞を吐き出すウェナに、ジェリドのツッコミが飛んだ。

「ごめんね、スウェイン。まったくウェナときたら……あれほど限度を超えるなって言われててそれなんだから」

 こめかみを押さえながら何故かジェリドがスウェインに謝る。ん?

「えーんスウェイン~。ジェリドがいぢめるの~」

「弟に説教されて泣き真似というのはどうなのだ?」

 呆れつつもスウェインがウェナの頭を撫でてやってるが……なぬ!? え、ウェナとジェリド、姉弟なのか!?

「いや、お恥ずかしい……」

 ジェリドを見ると、ウェナの醜態をチラリと見て溜息をつき、こちらに頭を下げた。それにしてもウェナとスウェインの態度も気になるが。

「ひょっとしてスウェインとウェナって……」

「うむ。私とウェナが付き合っていて、ウェナとジェリドが実の姉弟。ジェリドとルークがクラスメイトとなっている。リアルで直接の面識あり、だ」

 うん、ルークとジェリドがクラスメイトだってのは以前聞いたけど。スウェインとウェナ、ウェナとジェリドの関係は意外だった。今日聞いた中で一番びっくりした情報かもしれない。

「まさか、シリアもリアルでルーク達と繋がりあるのか?」

 あまり詮索していいことじゃないが、思わず聞いてしまう。ルークの頬をプニプニ突きまくっていたシリアがこちらを向いた。あーあ、ルークの両頬に猫ヒゲが……

「ん? 私はルーク達とリアルでの繋がりはないよ。ミリアムと私が従姉妹同士なだけで」

 それも意外な事実だな……一体、どういう経緯で【シルバーブレード】を結成したんだか。

「あぁ、そういえばフィストは、明日以降はどうするの? 私達と一緒にラーサーさんの所へ行く?」

 ルークの頭を自分の膝に乗せて、シリアが聞いてくる。あれ、何だその行動? って、落書きの続きか。程々にしといてやれよ。でも後でからかいのネタになりそうだから、スクショを撮っておこう。

「いや、エルフ関連の情報公開についてヨアキムさんと摺り合わせをする。それが終わったらツヴァンドで防具を整え直して、アインファストで用事の片付けだな」

 ガントレットの新調もそうだし、【料理研】が戻ったって連絡があったから、そっちに行かなきゃならん。何だか結構多忙になりそうな予感がする。

 でもまぁ、今は酒と料理と会話を楽しむとしようか。

 夜はまだ終わらない。

 

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