第71話:得たものは
「フィスト!」
俺を見るなり、ルークが【覇翔斬】かよって勢いで突っ込んできた。さすがにそのまま激突する事はなかったが。
「無事!? 身体に不具合はない!?」
「大丈夫だ! 大丈夫だから落ち着け! 泣くな!」
暴走しかけてるルークを何とか宥める。いくら何でも大袈裟だろう。
「諦めろフィスト。ルークはこういう奴だ」
「僕が死にかけた時もこんな感じだったよね」
生温かい視線を追いついてきたスウェインとジェリドが向けてくる。あー、これが普通なのか。それってどうなのよ?
「いや、だってさ……あんなボロボロになってて……今にも死にそうで……」
「リアリティってのも考えものだなぁ……」
死に戻りするだけで、本当に死ぬわけじゃないってのに。俺が言うのも何だが、ルークもかなりGAOとのシンクロ率が高いよな。家庭用ゲーム機レベルの描写ならどうってことなかったんだろうけど、いくら血が赤く見えないって言っても、確かにあの惨状は見てて厳しいものがあるか。まぁ、未成年だしなぁ。例のトラウマも関係してるのかもしれんけど。
そろそろ落ち着いてくれんかな。周囲のエルフ達の温かな目が、とっても居心地悪い。
「ほらルーク、フィストは無事なんだからいい加減落ち着きなよ。そんなだとまた、某スレで燃料になるよ? というか、ボクが投下するよ? あんまりあそこには近付きたくないけど」
「う……それは嫌だ……」
ウェナの言葉で、心底嫌そうな顔をしてようやくルークが落ち着いた。しかしウェナ、何だ某スレって? 嫌な予感しかしないんだが……
「状況はどこまで把握している?」
「ヨアキムさんから、俺が倒れてからお前達が討伐に出たところまでは聞いた」
スウェインが聞いてきたので答える。
「そうか。それなら私達の状況を説明するか」
そう言いつつ、スウェインがヨアキムさんを見た。
「件の死霊術師は私達が討伐しました。アンデッド共がこの村を襲うことは、もうありません」
「貴方達にも世話になった。お礼申し上げる。このような状況で、できる事は少ないが、今宵は感謝を込めて持てなしたい」
「ありがとうございます」
スウェインとのやり取りを終えて、ヨアキムさんはエルフ達に指示を出し、去っていった。村の復旧作業と、今晩の準備か。あぁ、エルフ料理、色々食えるんだな。多分、普段より豪勢な。それはそれで楽しみだが、とりあえずは、
「それじゃスウェイン、頼む」
話を聞こう。
翠精樹の下に椅子を出して座り、話を聞く。
ルーク達は、ラーサーさんの所でずっと修行に励んでいたそうだが、そこをアンデッド共に襲われたそうだ。と言ってもエルフ村のように狙いを定められてたわけではなく、連中の進路上に修行の場があったという偶発的な接触だったみたいだが。
しばらくしてアンデッド共を全滅させた後は、まっすぐこっちに向かってくれたらしい。
「ただ、フレンドチャットが不通でな。誰が呼びかけても応答はなかった」
「俺の方はずっと戦闘中だったけど、チャットは届かなかったな」
「うむ。恐らく、通信妨害があったのだろう。我々はチャットと呼んでいるが、念話とか思念通話とか言われる魔術や呪符魔術はGAO内に存在していた。ただ通信可能距離が短いので、我々のそれと同じようには使えないという欠点はあるようだが」
あぁ、住人もチャット系使えるのか。でも通信網を整備できるようなものじゃない、と。そういうのができるなら、対魔族の警戒網とか敷けるんだけどな。プレイヤーとも通信可能ならもっと使い勝手がよくなるが、そこまで都合良くはいかないんだろうな。
「精霊魔法の弱体化といい、オトジャの野郎、念入りに準備してやがったんだな」
「精霊魔法の方はそういう結界魔具があったようだ。私達が村の外に着いた時にも、吹き飛ばしたアンデッドの中にそれらしい物を持った奴がいた。しかしオトジャというのは?」
「シェオベーゼ弟のこと。名前忘れてたから、とりあえずオトジャって認定呼称してた」
「ああ、そういうことか」
とスウェインが納得する。そういや本名は結局何だったんだろうか。まぁいいか。二度と名を聞くこともないだろうし。
「村の外に着いた時、森が盛大に燃えていてな。【天候操作】で雨を降らせて消火する一方で、周囲のアンデッドの掃討に移った」
ああ、あの雨って魔術だったのか。しかし【天候操作】とは……GAOではどのくらいのレベルの魔術なんだろうか。
「私達が村の中に到着した時は、君がちょうど倒れる所だったよ。その後の事は……」
言いつつスウェインがウィンドウを開く。公式HPに飛んで、イベント動画ページを開き、
「これを見た方が早いな」
と、アンデッド襲撃の動画を指した。アインファスト防衛戦以外にもいくつかイベント動画がUPされてるな。いつの間に起きてたんだ、他のイベント。
まぁそれは後だ。今はアンデッドの件が最優先。
動画視聴中
「……なんと、まぁ……」
見終わって溜息が出た。
ツヴァンドの方は無事だったようだ。プレイヤー達が結構張り切ってたようで、シェオベーゼ兄が率いたアンデッド軍は、その場で全滅したようだ。
死霊騎士は、基本的にパーティー単位で戦ってようやく倒せる、って感じだったみたいだ。そういやツキカゲ達【伊賀忍軍】の連中が、相手を鎖分銅で縛り上げてメイスでボコボコに殴って倒してたな。シェオベーゼ兄を倒したパーティーは別格で、複数の死霊騎士を倒した挙げ句に兄を討ち取ってたが。
まぁ、それはいい。でもな。エルフ村襲撃、これまで動画に入れなくてもいいだろ? 俺とクインが駆けつけてからの戦闘が、一部雑魚戦はカットされてたがほぼ丸ごと流れてた。死霊騎士との一戦は完全に全部だ。これ、きっとまた何か言われるだろうな……
で、俺が力尽きた時にルークが【覇翔斬】で飛び込んできた、と。その場のアンデッドを片付け、逃げるオトジャを尾行したウェナがアジトを突き止め、そこへルーク達が強襲を掛けて殲滅して今回の件は終了だ。
しかしオトジャの抵抗も激しかったようで、ここを襲撃した時以上のアンデッドを投入してきたようだ。それを倒しきってオトジャを討ったルーク達もすさまじいけどな。
動画がアップされたって事は、これでイベント終了ってことでいいんだろう。その後のルーク達の行動はこれで分かった。
「しかし見事な【スネア】だったねー。しかもエルフの村で」
と楽しそうに言ったのはウェナだ。【スネア】というのは、とあるTRPGにある精霊魔法で、土の精霊が隆起させた地面で対象を転ばせるという魔法なんだが、俺が死霊騎士を転ばせたのもそれがモデルだった。
うむ、とスウェインも頷いてるが、ルーク達は首を傾げている。うん、分からなくて当然だし、何の支障もないから気にしなくていいぞ。
で、さっきウェナが言ってた燃料云々は、ルークが俺を抱き止めたシーンなんだろうな。力尽きようとする友のピンチに駆けつける、っていう王道展開と、その後のルークの切れっぷりというか暴れっぷりが、淑女達の妄想を燃え上がらせたんだろう。勘弁してくれ。
ま、まぁ、気を取り直して……
「しかし、そっちもかなり厳しかったみたいだな」
今更だが、ルーク達の装備は結構損傷してる。後衛のスウェイン達だって無傷って感じじゃない。特にルークとジェリドの鎧は傷だらけで、盾の方は穴が空いてたり大きく裂けてたりもする。動画を見る限り、かなりの激戦だったから無理もない。
「あぁ、その件でフィストに礼を言いたかったんだ。俺にラーサーさんを紹介してくれてありがとう」
ルークが頭を下げてきた。何だ一体?
「ラーサーさんの所での修行がなかったら、多分あいつのアジトで力尽きてたよ。パーティー1つで挑んでどうにかなる戦力じゃなかった。浄化属性がなかったらと思うとゾッとする」
「こちらがいくら倒しても、次から次へとアンデッドが押し寄せてきたのだ。戦力を消耗している内に叩こうと思って追撃したのに、まさかあれだけの戦力が残っていたとは誤算もいいところだった」
続くスウェインが渋い顔をする。無尽蔵だってオトジャが言ってたが、本当に無尽蔵だったんだな。
「まぁ、無事で良かったよ」
ラーサーさんの所でルークがパワーアップして、その結果、今回の事件が片付いたなら、紹介した甲斐があったというものだ。
「で、稼ぎはどうだったんだ?」
高レベル死霊術師のアジトだ。結構なお宝もあったんじゃないだろうか。
そう聞くと、ルーク達は曖昧な笑みを返した。
「確かに色々とあったんだけどねぇ」
「だからと言って、それが役に立つかと言われると、ちょっと……」
シリアとミリアムが溜息をついた。何だ、いい物がなかったのか?
「いくつかの武具はあったんだけど、全部呪い付だったんだ。宝石とか貴金属はそこそこあったから、金銭的な実入りはそれなりだったんだけど、それ以外が、ね。魔術書は充実してたけど、見事に死霊術関連ばっかり。お陰でスウェインは【死霊術】が生えてきたけどさ」
微妙な顔でウェナがスウェインを見る。え、スウェイン、死霊術師になったのか?
「正確には修得可能になっただけだ。実入りとしては微妙だな。通信阻害の魔具と、精霊魔法弱体化の魔具は入手したが、使いどころがない。もっと役立つ魔具でもあれば良かったのだが」
確かに微妙だな……でも魔具なら、そこそこの値段で売れるんじゃないか、とは思うけど。自分達で使えない物は売る。冒険者の基本だ。
「私達の方は、こんなところだ。今度は君の番だな」
「俺の方は、特に何もないぞ」
動画で見た以上の情報は、特に持ってない。他に話せる事もないと思う。
「あ、ミリアム。確か確認したい事があるって言ってなかった?」
シリアがそう言ってミリアムを見た。あ、とミリアムがこちらを見る。何だ一体?
「フィストさん、申し訳ありませんが、ログを確認していただきたいのですが」
ログ? 何だろう?
言われるままにメニューを開き、ログを表示する。
「……何だこれ……?」
そこに並んだ文章に、眩暈がした。何か、とんでもない情報がずらっと並んでるんだが。ログを遡っていくと、どうも翠精樹に取り込まれたあたりからその異常は始まっていた。
フィストは称号【樹精の恩恵】を得た
「樹精の……恩恵?」
「ああ、やはりありましたね」
首を傾げる俺に、ミリアムは納得したように頷く。
「どういうことだ?」
「フィストさん、ここに来て、樹の精霊を庇ったり護ったりした覚えがありますか?」
「えーと……あぁ、翠精樹にぶっ放されたファイアボールを、手前で落としたこと、かな?」
心当たりはそれしかないので答えると、それです、とミリアムが続ける。
「このケースで得る事はとても少ないのですけれど、私心なく精霊のために身を張った結果、命の危機に瀕してしまった者を助けるために、精霊が恩恵を与える事があるのです」
なんと……そんなケースがあるのか。でも俺の場合、樹を護るために瀕死になったってのは少し違うと思うんだが……その辺は精霊のAIのさじ加減なんだろうかね。
「で、この称号、何か特典があるのか?」
「精霊との、特に恩恵を与えてくれた精霊との親和性が上がります。次に、樹精による、フィストさんに害を及ぼす類の精霊魔法が効きにくくなります。それから、樹精なら恐らく自己再生能力もついているはずです。ジェリドがフィストさんと同じような経緯で【地精の恩恵】を得ていて、そちらには地精由来の自己再生能力がありましたから」
ステータスから称号を確認してみる。確かにあるな。周囲に樹精がいる場合、MPを消費し続ける事でHPが回復し続けるとある。てことは、森の中で戦う限り、MPが続く限りは死ににくくなったって事だろうか。
精霊との親和性が上がったって事は、精霊を視認しやすくなることもそうだが、樹精系精霊魔法のMP消費も減るらしい。【精霊魔法】スキル持ちなら是非欲しい恩恵だろう。
でも待てよ? ジェリドって【精霊魔法】スキル、持ってなかったよな?
「ジェリドはどうして、その恩恵を?」
「精霊の力が強い岩場に行った時に地精を見かけたんだけど、大きな岩が崩れてきてね。放っておいても大丈夫だったのに、僕、地精の特性を知らなくてさ。庇おうとして落石に押し潰されて死にかけたんだ」
恥ずかしそうに頭を掻きながら、ジェリドが教えてくれた。
あぁ、地精は地に属するものの干渉では害を受けないからな。岩に潰されても透過して出て来るだけだ。普通なら潰され損だな。でもタンク職で【地精の恩恵】って、かなり有利な恩恵じゃなかろうか。人工物の中でない限り、地属性は結構あちこちにあるし。
結局、恩恵を得たことで、せっかくだからとジェリドは【精霊魔法】を修得したそうだ。GAOの精霊は特に鉄を嫌うとかないみたいだな。
ただ、私心なく、ってことは、それを知ってたら恩恵は得られにくいんだろうか。称号目当てで精霊を助けるってのは下心があって駄目っぽいよな。
「で、フィスト。他にも何かあるようだが?」
「あ、ああ……あるよたくさん……」
スウェインに促されて、ログを眺める。
フィストは【翠精樹の樹液】を飲んだ
生命力が上がった
体力が上がった
加護を受けた後は、これが連続してるんですが……これって、あの樹液を飲んだからだよな、多分。
ステータスを見ると、確かに生命力も体力も跳ね上がってる。元の数値を思い出してみるに、一律で上がってるわけじゃなく、飲む度に上がった数値はランダムだ。で、それら数値の上昇によって増えるHPとスタミナもごっそり上がってる。生命力が上がったって事は、身体異常系の抵抗力も上がってるだろうな。しっかし、どんだけ飲んだんだ俺……夢中だったからよく覚えてないや。ステ上昇効果が無くてもまた飲みたいなぁ。
「でも、翠精樹の樹液にこんな効果があるなんて初耳だぞ? 【植物知識】でもそんな効果には言及してなかったし」
現時点では情報が少ないな。まさか翠精樹に樹液をくれと頼んで、ルーク達に飲んでみてもらって検証するわけにもいかないし。それ以前に、簡単にもらえる物でもないか。
「ふむ、私の【植物知識】でも該当しそうなものはないな。目標値に届かないのか、それとも【植物知識】とは別の何かが必要なのか」
スウェインにもお手上げのようだ。これは後でヨアキムさん達に聞いた方が早いな。
「で、最後は……これか」
フィストは【翠精樹の
これは分かりやすい。今、俺の身体を覆ってるこの蔦の事だろう。
説明を見てみると、どうも生きているらしい。椿の実くらいの翠色の実が核で、防御力は今まで着てた革鎧に劣るが、自己修復機能付。サイズ調整可能。水と光とMPで成長するとある。光合成かよ。
今は上半身だけだが、成長したら下半身も覆う事ができるようになりそうだな。葉っぱも育つみたいだし、これ、全身が蔦で覆えたら、森の中だとかなりの隠密性を期待できるんじゃなかろうか。ギリースーツみたく。
「ぱっと見が某規格外品の細胞っぽいよね。核を潰したら、フィストそのまま食べられちゃうんじゃない?」
「何言ってるんだウェナ。こいつに重力制御や胸部ビームの機能なんてないぞ?」
ところでこれ、俺の服になってるのはいいけど、脱ぐ時はどうするんだ?
そんな事を考えると同時、身体を覆っていた蔦が動いた。ロックを解除した巻き尺のように、音を立てながら一点に吸い込まれていく。痛い、肌に擦れて痛いっ!
蔦の全ては翠色の核に納まった。落ちそうになったので、慌てて掴み取る。なるほど、思考に反応するのか。
やっぱり蔦の下に服はなかった。多分、取り込まれる前の治療の段階で脱がせてたんだろうな。少し肌寒いので、もう一度、蔦を纏う意志を核に向けてみると、無数の蔦が這い出してきて上半身を覆っていった。核は蔦の下に隠れて見えなくなる。だから痛いって。
金属鎧と一緒で、素肌に直接着るのは駄目だな。これをアンダーウェアにして、その上から普通に鎧とか着たら、防御も上がりそうだな。
それとも、このまま地面に植えたら、同じ実が作れたりしないだろうか? 無理か。
ともあれ、これらが、今回のイベントで俺が得たもの、ということになるのか。
しっかし……自己修復する防具、桁外れの体力と生命力、自己再生能力と。何か、肉壁になっていく気がするんだが気のせいか?
俺の惨状を見かねた翠精樹による、死ににくくなるようにという心遣いと見るべきか。
いずれにせよ、生存率が跳ね上がった、と喜べばいいんだろうな、うん……
「ああ、そうだ。フィストに渡す物があるんだよ」
ホッと一息ついたところで、シリアが腰を上げた。どうやらルーク達も知っていることらしい。ああ、と納得した様子だ。
「こっちだよ」
言って、シリアが歩きだす。どこか別の場所に置いてあるみたいだな。俺も席を立ち、続く。
村の地面は綺麗なものだ。骨はすっかり片付けられている。
「骨、どうしたか知ってるか?」
「一箇所に集めて、灰になるまで焼却しておいた」
問うと、スウェインが答えてくれた。
「フィストの解体スキルは、アンデッドや無機物系の獲物すら残してしまうのだな」
「みたいだなぁ」
「そのせいというか、そのおかげで、アレも残ったのだろうが……」
何やら含んだ物言いだな。でも、何となくだが、何が言いたいのか分かった気がした。
「あれだよ」
村の外周付近まで案内されたところで、シリアが指を向けた先に、それはあった。
冒険者ゾンビ達が持っていた装備一式だ。やっぱりか。俺が倒したから、持ってた装備もそのまま残ったんだな。あ、ザクリス達が仕留めた奴のもそのままか。
そして、死霊騎士の残骸がそのまま残っていた。兜に空いてるはずの穴が塞がってるし、俺の一撃でひしゃげてたはずの右ガントレットも元に戻ってるな。それから持っていた剣もそのままだ。アンデッドとしては活動停止してるのに、相変わらず瘴気を放ち続けてる。
「フィストが倒した敵の落とした物だから、これはフィストの物だよ。エルフ達も納得済」
「いや、死霊騎士の残骸に関しては、厄介払いじゃないか……?」
近寄るのも嫌だというのが正直なところだ。それに、何かの拍子にまた動き出しそうだし。
「でもこれ、どうやってここに運んだんだ?」
「わたくしが地面ごと移動させました」
ああ、ミリアムがやったのか。確かに触れるだけでも呪われそうだもんな。
「よし、救援に駆けつけてくれた礼として、この装備一式は【シルバーブレード】に――」
「断る」
俺のナイスなアイディアは、即座に拒否された。ああ、分かってたさ……
「なぁ、スウェイン。これの鑑定、できるか?」
さっきの【翠精樹の蔦衣】は植物扱いだったから、【植物知識】で詳細が分かったけど。金属鎧や剣は無理だ。
「既に済ませてある。どちらも凶悪な呪い付だ。装備としての性能は並外れているのだがな」
やっぱりか。デザインは普通だけど、放たれてる瘴気が尋常じゃないからな。
「鎧の方は、ジェリドが装備しているものよりも高性能だ。おまけに物理防御上昇、魔法防御上昇、軽量化、耐久力強化、自己修復のエンチャントも施されているな」
何だその馬鹿みたいな効果は!? いや、だからこそのあの強さだったのかもしれないが。でも呪い付かぁ……それさえなければ、誰もが欲しがるだろうに……
「剣の方も素晴らしい。物理攻撃力強化、耐久力強化に自己修復が施されている。それに冷気属性持ちだ」
だから、呪われてちゃ意味ないだろうに。せっかくの魔剣もこれじゃ使えない。それに、俺にとっても使い道がないし。
「……スウェインが死霊術を修得して、これで死霊騎士を作ればいいんじゃないか?」
さぞ立派な死霊騎士になるだろう。そう言うと、スウェインは渋い顔になった。
「【死霊術】に興味がないわけではないが、【シルバーブレード】のイメージとしてはマイナスだろう」
そりゃそうだ。勇者パーティーがアンデッド使役ってのは、確かになぁ。
「じゃあ【死霊術】関係無しにリビングメイルにするとかは? ゴーレム系の技術とかないのか?」
「それにしたって瘴気を片付けないことにはな……今回のイベントの死霊騎士、ドロップ品がことごとく、呪い付の強力武具だったそうだ。まったく酷い嫌がらせだな」
そりゃあ割に合わんな……そういや呪い耐性系のスキルってなかったっけ? こいつを着ようと思ったら【瘴気耐性】も要るだろうけど。どっちにしてもリスクがでかいか。暗黒騎士を目指すプレイヤーが1人くらいいないだろうかね?
「どうすっか、なぁ……」
最後の最後で、とんでもない収穫が来たな……