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第10話:需要と供給

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 ログイン17回目。

「ふふふ……」

 いかん、ニヤニヤが止まらない。

 賞金首を捕らえたことで手に入れた賞金は15万ペディア。これで欲しかったアイテムに手が届いたのだ。

 そう、収納空間付のアレだ。これで獲物や採取したものを大量に持ち運びできるようになった。狩りも採取もはかどるというものだ。

 そうそう、収納空間付のアイテムは種類があって、リュックサックやウェストポーチ、果ては袋と様々だった。収納限界数はそれぞれ違う。あと、大きさに制限があったりもした。例えばストレージ袋などは、その口に入らないものは収納不可能だ。ウェストポーチも同様。大きさに関係なく収納できるのはバッグとリュックサックだけだった。ああ、無茶苦茶高かったリングやネックレスもサイズ制限は無かったな。

 そんなわけで俺はストレージリュックサックとストレージウェストポーチを購入した。ウェストポーチを買ったのは、戦闘中にも使うことになるポーションとかを入れるためだ。容量は20個と、バッグ等に比べるとかなり少なめだ。

 リュックサックはバッグと同じで容量は100個。バッグとどちらにしようか迷ったものの、肩から提げるタイプのバッグと背中に背負うリュックサックでは、戦闘等で損傷しにくいのはどちらだろうと考えた結果、リュックサックにした。

 最初に買ったリュックサックはそのままストレージの方へ片付けてある。処分してもいいかと思ったのだが、これはこれで使い道があるのだ。

 ストレージの収納数は数で決まる。逆にノーマルは数ではなく、容量で決まる。つまり、薬草100個を入れたらストレージはそれ以上何も入らないが、ノーマルは容量が許す限り、100を越えて詰め込むことも可能なのだ。要は、採取用に残しておこうというだけなのだが。

 ともあれ、最初の目標を達成できて満足だ。なにせ、調理セットと調薬セットがかなりかさばってたからな……実際、セットをばらして別の袋に詰めて運んだりしてたのだ……しかし今は、セットでアイテム枠1つとして収納できるようになり、苦労はなくなった。これで、目の前に生えている薬草類を、持ちきれないからと見逃すこともない。

 さて、それじゃさっそく買い物に行くか。採取用の袋を別に数枚準備しておこう。あと、料理を温かいまま保管できるようになったから、作り置きをしておくのもいいな。それに金はまだ余裕があるから、ガントレットの新調なんかも――

「ん?」

 そんな事を考えながら歩いていると、前方が騒がしい。かなりの人だかりができているけど一体何だ?

「売れねぇってのはどういうことだ! あぁん!?」

 そんな声が聞こえた。よく見ると、人だかりができているのは店の前だ。

「売ろうにも商品がないんだ! どうしろって言うんだ!?」

 そして、そんな声も。つまり、あれか。何かを買いに来た人達と店との揉め事か。しかし、ないならそこで終わる話だろうに、どこに揉める要因があるんだ?

「商品がねぇってのがおかしいだろうが!」

「在庫が尽きて入荷もない! これの何がおかしいって言うんだっ!?」

「在庫切れがありえねぇって言ってんだよ! ポーションが品切れなんて、どんなクソゲーだっ!?」

 ……あぁ、納得した。俺はフレンドリストを立ち上げる。そこにある名前は1つだけ。そして彼がログインしていることを確認して、フレンドチャットを繋いだ。

『ルーク、ちょっといいか? 今どこにいる?』

『今ログインしたところだ。アインファストにいるよ』

『実は今、目の前で騒ぎが起こっていてな。プレイヤー絡みの揉め事だ。詳細はまだ確認してないが、商品の購入に関するものみたいだ。ポーションが品切れらしい』

 騒動の中の1人がクソゲーという言葉を使ったので、そいつをプレイヤーだと判断した。こっちの住人が使う言葉とは思えなかったからだ。

『大事になりそうか?』

『判断に迷うな。品切れに納得してないプレイヤーが店に噛み付いてる感じだ。店は……コアントロー薬剤店。美味そうな名前だな』

『美味そうってのがよく分からんが、店は知ってる。これからすぐに向かうが、それまでに何とかできるか? そこ、住人の店だ』

『……了解、やれるだけはやってみる。でも急いでくれ。暴動にでもなったら、俺じゃ鎮圧できん』

 暴動にならなくても、高レベルプレイヤー相手だとどうしようもないしな。ともかく、プレイヤーと住人のトラブルはなるべく解決したい。主に自分のために。

 人混みに割って入りながら、何とか店の前に辿り着く。そこには赤髪の戦士風の男とそいつに胸ぐらを掴まれている恰幅のいい店主っぽい男。店の中からこちらを不安げに見ている店員らしい女性と……泣き出しそうな子供……?

 俺は何も言わずに近づくと、手刀を赤毛の手に叩きつけた。当然、赤毛の手が店主らしき男から離れる。

「何しやがるっ!?」

「何しやがるじゃねぇっ! あれ見て何も思わねぇのかっ!?」

 手を離した赤毛が噛み付いてくるが、それより大きな声で叫んで、俺は店の中にいる泣く寸前の子供を指差した。

 とりあえず赤毛と店主の間に割り込んで、店主を庇うようにしておく。

「冷静になって自分達を見てみろ。子供をあそこまで怯えさせてるお前らは、クレーマーを通り越して暴徒寸前なんだぞ? 言いたいことがあるならそれはそれでいい。でもな、怒鳴り散らしたり高圧的な態度を取るのは無しだ。チンピラや暴力団じゃあるまいし」

 そこまで言って、俺は周囲を見渡す。いきなり出てきて何だこいつ、って視線が大半だ。うん、仲裁の入り方としては失敗だな。自分の方がつい感情的になってしまったし、しかも理由が『子供が怯えてるから』じゃなぁ……

 気を取り直してまずは話を詳しく聞こう。状況把握は大事だ。

「聞こえた限りじゃ、お前らはこの店にポーションを買いに来た。それでいいな? そして、店はそれを売れないという。理由は在庫がないから」

「あぁ、そうだ。言い訳にしたってもっとマシなもんがあんだろが」

 赤毛は全く信じていない様子だ。他のプレイヤーも同様らしい。

 次に店主に向き直って話を聞くことにする。

「在庫がないっていうのは本当ですか?」

「本当だ」

 怪訝な表情を浮かべながらも店主はそう答えてくれた。嘘を言っているようには思えない。が、品切れが起こるという状況も正直信じられない部分はある。消耗品等の回復アイテムなんて、欲しければいくらでも――そこまで考えて、得心がいった。つまりはそういうことなのだろう。が、それをどう皆に納得させるか……

「いくつか教えてほしいんですが。今日、この店で売ったポーションはどれくらいです?」

「残っていた在庫、151本全てだ」

「ちなみに、普段の在庫は?」

「最近、ポーションの需要が跳ね上がってな。普段は来ない客も増えたから、500は確保するように手配していたんだが……注文したポーションが届いていない」

 店主の言葉を聞いて、人混みにざわめきが起こった。扱う数に上限があるということを本気で信じていなかったらしい。

「ポーションの仕入れの方法は?」

「調薬師への依頼だ。後、自分でも少しは作る」

 つまり需要に供給が追いついていない。それなら品切れも起こりうるだろう。

「聞いたか? 品切れの理由は店主が言ったとおり、商品が入荷できてないからだ。売りたくても売れない状況ってことだ。これで納得――」

「できるわけねーだろがっ!」

 赤毛が吠えた。口こそ出さないが、プレイヤー達に納得してそうな奴が見当たらない……え……何故この説明で理解できないの……?

「リアルじゃあるまいし! 品切れなんて起こるわけねーんだ!」

 そこから説明しなきゃならんのか……

「お前ら、GAOを普通のコンピュータRPGと同じだと思い込むのをやめろ」

 赤毛の男だけでなく、周囲の連中も一瞥してから、言ってやる。

「ただのゲームなら、金が許す限り、アイテム枠がカンストするまで購入できるんだろうさ。だがな、この世界じゃそれが通用しないってことだ。嘘だと思うなら、適当な露店で買い占めでもしてみろ。例えばリンゴを売ってる露店で、10万ペディア分売ってくれって言ってみるといい。1個5ペディアくらいだから2万個は買える計算だが、店の人はそこにある商品以上の数はすぐに準備できないから」

 実際のところは買い占めなどしたことないし、どうなるかは分からない。だが薬剤店店主の言葉を聞くに、この世界では『流通』が存在する。ならばどの店も同じ理屈が通じるはずだ。

 ついでだ、これも言っておこう。

「それにな、お前ら知ってるか? この世界の住人の狩人は、俺達と同じように森に出かけて、同じように獣を狩り、同じように狩猟ギルドへ持ち込んで金を稼いでる。しかもその後で酒場に繰り出して酒を飲んで騒ぐんだ」

 は? と間抜けな顔になるプレイヤー一同。

「ちゃんと会話も成立する。コミュニケーション能力はリアルの人間と同じだ。怒り、笑い、泣く。俺達と何ら変わらない反応をするんだ。ゲームのモブ相手だなんて思って偉そうにしたり高圧的態度を取ったりするのは止めろ。もし今までそういう態度を取ってきたのなら、この場で肝に銘じろ。そいつらは、お前らの態度を忘れていない。心当たりがある奴もいるだろう?」

 住人達の嫌な顔や態度というのに触れたことがあるプレイヤーは何人もいるはずだ。そのプレイヤーの態度が悪いなら尚更に。

「賞金首システム実装の時に、NPCに好感度の設定があるって公開されたのを知ってるだろ? このゲームを楽しみたいなら、住人達の声には素直に耳を傾けろ。仲良くするフリじゃなく、ちゃんとした信頼関係を築け。俺達と彼らは存在として対等だ。彼らは、この世界に『ある』んじゃない。『生きている』んだ。俺達も、ログインした瞬間から、この世界で『生きている』。だったらどう接すればいいのか、もうこれ以上は言わなくても分かるだろう?」

 プレイヤー達の反応はない。理解したというよりは、戸惑っているようだ。やっぱりゲームのモブという意識はそう簡単には払拭できないんだろうな。いや、それとも単に、俺の話の展開がおかしかったか……

 そんな不安が芽生えたとほぼ同時、拍手が聞こえた。拍手と言っても聞こえるのはせいぜい2人分くらいだが。誰だ? と音の方を見ると、人垣が割れてこちらへ近づいてくる人がいた。

「悪い、フィスト。遅くなった」

 拍手をしながら歩いてきたのはルーク。そしてもう1人。黒いローブを着て、拍手するためか杖を脇に抱えた細面の男だ。魔術師か?

「ルークだ……」

「【シルバーブレード】のギルドマスター……」

「スウェインもいるぞ……」

「じゃあ、あいつもメンバーなのか?」

 さすがβ以来のトッププレイヤー、知名度が高い。あちこちで彼らを知っているという反応が浮かんでくる。一部、勘違いしてる呟きも聞こえるな。

「……また、どっかで様子を見てたんじゃないだろうな?」

「お前ら、GAOを普通のコンピュータRPGと、の辺りから聞いてた」

 出てくるタイミングが俺の言葉が終わった後だったので聞いてみると、あっさりと認めた。こいつめ……

「お前なぁ……」

「済まなかったな、私が止めたんだ」

 ルークを睨み付けていると、魔術師風の男――スウェインがこちらを宥めるように話しかけてきた。

「君の話は最初の方から聞かせてもらっていた。噂に聞いていた君が何を言うのか、興味があったのでね。ああ、勘違いしないでくれ。噂というのは私達の中で、という意味だ」

 ぬ、ルークの奴、ギルドメンバーに俺のことをどう説明してるんだ……?

「まあ、ここからは私に任せてほしい」

 そんな事を考えている間に、スウェインがそう言ってプレイヤー達に向き直る。

「【シルバーブレード】のスウェインという。今回のポーション在庫切れの件についてだが、まずは攻略スレの『薬屋が薬屋じゃなくなった件』というスレッドを見てほしい」

 戸惑いつつも、全てのプレイヤー達がその場でスレッドを立ち上げていく。俺も同様に公式サイトを開き、件のスレを検索して読んでみる。

 内容は、アインファストの薬屋でポーションが買えなくなった、というレスから始まり、同様の発言が続いていた。この店にはまだある、という在庫情報の共有もあるようだ。しかし他の薬屋も品切れ起こしてたのか。俺は自作だからそのあたりのことに全く気付いていなかった。さっき店主が新規客も増えたと言ってたのは、これらの店を使っていたプレイヤーが流れ込んできたからだろうな。

「さて、ざっとだが内容は読んでもらえたと思うが、このスレが立ったのは4日前。つまり、その頃からアインファストの薬屋ではポーションの在庫切れが始まっている。こちらで確認した限りでは、在庫切れの理由については商品の入荷ができないから、というものだ。中には自分の所で生産している者もいたが、こちらは材料切れによる供給不能だった」

 プレイヤー達は大人しく話を聞いている。

「先程、こちらにいる彼が店主から聞き出したこと、そして言っていたことから容易に想像できるように、この世界では流通が成立している」

 っておい、ここで俺に意識を向けさせるな。それにその言い方は辛辣だ。それが想像できなかったから誰も納得してなかったってのに……でも、流通が存在する、ってのを最初に言っておけば良かったんだよな。そうすりゃもう少し反応も違っただろうと今なら思う。

「だから品切れも起こる。それがこの世界のルールだ。ルールである以上、私達がいくら騒いでも、これは覆ることはない。だから、ここでいくら店主に横暴を働いても、ポーションは買えない。事実、存在しない物を提供するのは不可能なのだから」

 目を細めて、スウェインが赤毛を見た。びくり、と身体を震わせて、一歩退く赤毛。ううむ、これが高レベルプレイヤーの貫禄というものか。

「だから、ここでたむろしていても何の解決もしない。もしポーションが欲しいなら、すべきことがあるのではないか? 時間は有限だぞ?」

 そう言った瞬間、人混みが散っていった。さっきまでいた赤毛までもがその場を離脱し、どこかへと向かう。まだ在庫のある薬屋へと向かったんだろうか……って、

「あっ! 店主さんへの謝罪をさせるのを忘れてた!」

 胸ぐら掴んで暴言を吐いたことに対する謝罪をさせられなかった……しまったなぁ……

「いえ、助かりましたよ。ありがとうございました」

 しかし店主さんはそう言って頭を下げてくれた。口調が柔らかくなったところを見ると、こちらへの警戒は解いてくれたようだ。

「いえ、こちらこそ、同郷がご迷惑を……」

 俺、ルーク、スウェインも頭を下げる。頭を上げると、ホッとした顔の店員さんが見えた。子供は……どうやら決壊は免れたらしい。

「しかし、ポーションがない、というのは深刻な問題です。よろしければ、詳しい話を聞かせてもらえませんか?」

「ええ、分かりました。どうぞこちらへ」

 スウェインの言葉に、店主は店へと入っていく。俺もルーク達と一緒に話を聞くことにした。


 

 コアントロー薬剤店は結構大きな店だった。店内には様々な薬が並んでいる。ヒーリングポーション――HP回復用の棚はすっからかんだが、気絶から回復させるアウェイクンポーションやスタミナを回復させるスタミナポーション、毒消し、麻痺消しのポーションはあり、薬草なども並んでいる。秤があるので、ここで欲しい分量を買うこともできるようだ。あ、傷癒草を粉にしたものもあるな。これ、どう使うんだろう?

 店主――コーネルさんは俺が興味深そうに色々見てるのに気付いたのか、

「薬草に興味がおありですか?」

 と聞いてきた。

「ええ、つたないですが、ポーションを自作してまして。たくさんある薬草類は興味深いです」

「なんだ、フィスト【調薬】持ってたのか?」

「生産専門じゃない【調薬】持ちのプレイヤーは珍しいな」

 ルークとスウェインがそんなことを言う。そうか、珍しいのか……

「まだ3つ星より上のポーションは作れたことないけどな」

 今までに作れたヒーリングポーションは、市販品並の3つ星ポーションと、少し失敗した2つ星ポーションだけだ。昨日、女性に渡したのは2つ星ポーションである。いや、在庫処分とか言うなよ? 今の俺なら2つ星ポーションでも十分な回復量なんだ。

「それよりコーネルさんに話を聞こう」

 薬は後でじっくり見させてもらうことにしよう。

「供給が追いつかない、と言っても、先刻の話だとそれを見越して仕入れ量を増やしていたようですが?」

 用意された椅子に腰掛け、スウェインが本題を切り出す。

「ええ、余裕がある時点で、さっきも言いましたが500本を確保できるように注文をしました」

「では、どうして今回のようなことに?」

「……注文した商品が、届いていないのですよ。本来なら、昨日のうちに届くはずだったのですが」

 とコーネルさんが溜息をつく。そこへ店員さんがお茶を持ってきてくれた。紅茶――いや、この香りはハーブティーだろうか。と思ったらスキル発動。薬草茶のようだ。これ、【調理】と【調薬】【植物知識】のどれが発動したんだ? 複合か? 薬草の種類はともかく配合率まで出てる。数字は未表示だけど……

「先程は主人を助けていただき、ありがとうございました。私、妻のローラと申します」

 お茶を配り終えて頭を下げる店員さん、否、ローラさん。どうやらこのお店、家族で営業しているようだ。ということは、さっきの子供はここの子供か。どこにいるのか……あぁ、いた。店の奥からこっちを覗き込んでいる男の子がいる。手を振ってやると、はにかんで手を振り返してきた。うんうん、子供は可愛いな。

「先方に連絡は取れたのですか?」

「いえ、今日にでもそうしようと思っていたのですが、あの有様で……まだ手配はしておりません」

 リアルなら電話1本で片付くことだが、こっちの世界じゃそれも無理なんだろうな。魔法の通信手段とかないんだろうか。

「その仕入れ先というのは、アインファストにあるのですか?」

「いえ、ポーションの仕入れ先は外です。西の森の奥にムロスという村がありまして。そこが薬草の採取と栽培、薬の生産を生業にしてる村なのですよ。ポーションもそこで製作されています」

 生産拠点は別にあるのか。だが、それが届かないということは、何らかのトラブルがあったということだろう。考えられる一番の可能性は、輸送途中のトラブルだろうな。それに、この店以外も品切れになっているってことは、その村で仕入れをしている店もそれなりにあるんだろう。

「西の森か……あそこ、村があったんだな」

 今までの狩りや採取では見つけられなかった。かなり奥なんだろうか。

 薬草茶を一口する。少しの苦みの後に、口の中に爽快感が広がっていった。あ、これ油もの食べた時の口直しによさそうだな。あと眠気覚まし。

「ルーク、スウェイン、その村の場所、知ってるか?」

「いや、行ったことがないな。βの頃にも聞いた事はない」

「同じく、だ。ご主人、その村の場所を教えていただけないだろうか? ポーションの供給が途絶えるというのは我々にも重要な問題なのです。輸送ルートをご存知ならば、それを逆に辿ってみようと思うのですが」

 スウェインの提案にコーネルさんは一度店の奥に入り、1枚の地図を持って戻ってきた。そして、村の位置とルートを教えてくれる。ルークとスウェインは自分のマップに村の位置を落とし込む。俺も今後の参考に、村の場所を地図にポイントし、名前を追加しておいた。

 システムにより、プレイヤーには【世界地図】のスキルが与えられている。これはレベル上昇が存在しない固定スキルで、地図はウィンドウに表示される。基本的に灰色一色に覆われていて、踏破した場所、目視確認した場所に色が付いていく仕様だ。森なら緑に、荒野なら茶色、砂漠なら砂色に、といった具合である。そして地図には手を加えることが可能で、目印やメモを残すことが可能なのだ。

 ちなみにこの機能は屋外限定である。街については街限定のマップが展開されるが、ダンジョン等のマップは、スキルで作成しようと思ったら【オートマッピング】という別スキルを修得しなくてはならない。

「よし、それじゃあ早速行ってみよう。スウェイン、皆は?」

「召集完了だ。いつでも行ける」

 ルークとスウェインが立ち上がる。スウェインは今の間にギルドメンバーへ連絡を取っていたようだ。手際がいいのはさすが熟練プレイヤーといったところか。

「それではコーネルさん、我々はムロスへ行ってみます」

「どうぞ、よろしくお願いします」

 コーネルさんとローラさんがルーク達に深々と頭を下げた。まあ、彼らほどのプレイヤーなら何の危険も無く村まで辿り着くだろう。後は彼らに任せておけば――

「おい、フィスト。早く行くぞ」

 と思ったら、俺もメンバーに加えられていた。

「待て待て、俺はお前のとこのギルドメンバーじゃないぞ? それにレベル差がありすぎて、俺が行ったところで何の手助けもできんと思うんだが」

「おや、フィストさんはルークさん達と同じパーティーではないのですか?」

 ルークに異を唱えると、コーネルさんが、それならばと切り出してくる。

「実はフィストさんにお願いしたいことがあるのですが」

「はぁ……何でしょうか?」

「薬草の調達を、頼みたいのですよ。ルークさん達が動いてくださっている間、少しでもポーションの供給をしたいのです」

「なるほど。現時点で持っている傷癒草をお譲りすればいいですか?」

 俺はリュックサックから傷癒草を詰めた麻袋を取り出した。ストレージに交換する前には自分で持ち運べる数しかポーションを作っていなかったので、採取した薬草は十分残っているのだ。

「ふむ、結構な数がありますな。出来ればもう少し欲しいところですが」

「だったら、私達がムロスの調査に向かう間、フィストは薬草の調達で動けばどうだ? 調薬スキルも持っているわけだし」

 スウェインがそう提案してくる。

「ポーションを必要とするプレイヤーは多い。それに住人にも必要とする人はいるだろう。焼け石に水かもしれないが、何もしないよりはいいと思う」

 そうだな。荒事には向かないが、薬草を集めるだけなら何とでもなる。

 ポーションの供給不足。事件とも言えるこの件に、俺は間接的に関わることになった。

 

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