サポート漫才/雛壇芸人を目指す

作者: 内藤騎之介


爺 「こんにちは。

   じじいです。

   この前、定年を迎えたので漫才師としてやっていこうと思います。

   よろしくお願いします。

   おや、お客さま?

   どうされたのです?

   不安そうな顔をされて?

   ああ、このような爺に漫才ができるのか不安なのですね?

   安心してください。

   私も不安です。

   ですので、対策を用意してきました。

   孫娘です」


孫娘「……」(頭を下げる)


爺 「声は小さいですが、ちゃんと挨拶しています。

   よろしくお願いしますね。

   ええ、こうみえて素直でいい子なんです」


孫娘「……」(爺の袖を引っ張る)


爺 「おっと、余計なことを言わないようにと怒られてしまいました。

   シャイなお年頃なので、すみませんねー」


孫娘「……」(さらに袖を引っ張る)


爺 「はいはい。

   えーっと、孫娘は漫才やコントにとてもくわしいのです。

   どれぐらい詳しいかというと、テレビを見て、ボケやツッコミの駄目出しを

   しているぐらい詳しいのです」


孫娘「……」(爺の背中を殴る)


爺 「ははは。

   そのように漫才に詳しい孫娘をアドバイザーに採用し、私はこの場に立って

   おります。

   では、改めて。

   一人ピン芸人の爺です」


孫娘「……」(拍手)


爺 「実は私、売れに売れまくったら、雛壇ひなだんに座るのが夢なんですよー。

   ええ、私の目標は雛壇芸人です。

   え?

   こころざしが低い?

   馬鹿を言っちゃいけません。

   雛壇は選ばれし一握りの芸人しかなれないポジションなんですよ。

   なにせテレビに映りますからね。

   テレビに映るんですよ?

   すごくないですか?

   売れていない芸人は、テレビに映ることはありませんからね。

   雛壇芸人は売れている芸人の証拠なのです。

   しかも、労働力が少ない。

   これは爺にはとてもありがたいです。

   なにせ爺ですからね。

   もっとも、ギャラも少ないようですが、爺の年齢ならそれほどお金も必要と

   しませんので……」


孫娘「……」(爺の袖を引っ張る)


爺 「孫娘の小遣い代ぐらいは稼ぎたいと思います。

   では、雛壇芸人をやってみましょう」


   空気椅子の姿勢になる爺。


爺 「おっと、最初はロケ映像のようですね。

   ここで頑張って声を出すのも雛壇芸人の仕事です」


孫娘「……」(爺を見守る)


爺 「えええっ!」


孫娘「……」(爺を見守る)


爺 「わはははははっ!」


孫娘「……」(爺にアドバイスする)


爺 「もっとリアクションを大きくしないと、ワイプで抜かれない?

   ああ、ワイプというのは、正確にはワイプ画面のことで。

   テレビの画面に小さい画面を重ねている映像です。

   雛壇芸人は、ロケの映像が流れているときにワイプで抜かれることを使命に

   しているのですが……

   もっとリアクションを大きくね。

   やってみましょう」


爺 「ええっ、どうなるのー?」


孫娘「……」(爺にアドバイスする)


爺 「え?

   腕の動きとかは不要?

   必要なのは顔の動き。

   なるほど。

   これでも若いころは映画俳優を夢みたこともあるのです。

   やってみせましょう」


爺 「おいしそー」


孫娘「……」(爺にグッドサインを送る)


爺 「ロケ映像が終わり、スタジオの場面です。

   司会者の言うことをしっかり聞いて、上手く返せるかどうかが雛壇芸人の腕

   です。

   まあ、最初はゲストに話を振るでしょうから、空気をつかむことに力を入れま

   しょう」


孫娘「……」(爺にアドバイスする)


爺 「あの司会者は定番を外してくる可能性があるので、油断は禁物と。

   なるほど。

   おっと、たしかにいきなり雛壇芸人に話を振りましたね。

   こっちに来る可能性も考えておかねばなりません。

   無難な質問ならいいのですが……

   あ、はい。

   新人の爺です。

   年齢だけは貴方の倍ですけど。

   いやいや、人生の先輩をうやまいなさいよ。

   ははは、やりにくいとか言わないで……よろしくお願いします。

   あ、隣のいるのは孫娘ですが、アドバイザーなのでいじらないでください」


孫娘「……」(爺にアドバイスする)


爺 「え?

   多少の弄りは許容する?

   駄目駄目。

   あの司会者、女性にだらしない顔をしている。

   甘い顔をしたら変な調子に乗るタイプや」


孫娘「……」(爺にアドバイスする)


爺 「あの司会者は既婚?

   女性に手を出すか出さないかは、既婚かどうかの問題じゃない。

   人間性の問題や。

   だから、甘い顔をしたらいかん」


孫娘「……」(爺に頷く)


爺 「わかってもらえたらええんや。

   おっと、番組の進行を止めてすみません。

   さっ、続きを」


   間。


   空気椅子姿勢から立つ爺。


爺 「おかしいな。

   追い出されてしまった」


孫娘「……」(爺にアドバイスをする)


爺 「司会者の悪口を言ったから、当然?

   司会者なら、それを笑いに変える腕がほしいところですね。

   私だったらやれますよー、それぐらい。

   ですが、私の目標は雛壇芸人。

   これからも頑張っていきたいと思います」


孫娘「……」(爺の袖を引っ張る)


爺 「孫娘と一緒に」