九数先輩を殺したい
≪キャスト≫
九数 洋一 (くず よういち) 3年 男 俺
女たらしのクズ。モテる。白川の部活の先輩。
石崎 香織 (いしざき かおり) 3年 女 私
優しいお姉さん気質。九数の幼なじみ。お嬢様。
鈴木 愛花 (すずき あいか) 2年 女 あたし
不登校。九数のことが好き。いじめられっ子。
白川 純太 (しらかわ じゅんた) 2年 男 僕
純愛主義。勉強が苦手。愛花より身長が低い方がよい。
佐藤 美穂 (さとう みほ) 2年 女 私
白川のことが好き。泣き虫。コミュ症。どもり。
中島 優子 (なかじま ゆうこ) 2年 女 アタシ
美穂の友達。美穂の恋愛を応援している。
星野 秋人 (ほしの あきと) 2年 男 オレ
白川の友達。彼女持ち。
河合 千佳 (かわい ちか) 2年 女 ウチ
いじめっ子のリーダー。
(モブ)
インタビューを受ける生徒A
インタビューを受ける生徒B
いじめっ子A(2年 女)
いじめっ子B(2年 女)
いじめっ子C(2年 女)
九数ファンクラブA(2年 女)
九数ファンクラブB(2年 女)
九数ファンクラブC(2年 女)
※「背が低い」など見た目に関する描写がありますが、それは役者によって随時変更してください。
※人数が少ない場合はいじめっ子や九数ファンクラブの人数を減らしたり、同じ人が演じてもかまいません
 
第一章
テレビの砂嵐の音
生徒A:鈴木さんはクラスでもおとなしくて、とても人に恨みを買って殺害されるような子には見えません
でした…
生徒B:鈴木さんは優しい子で、どうしてあんな…
ニュースキャスター:今月4日、県内の中学校で、中学2年生の女子生徒、鈴木愛花さんが彫刻刀で切りつけられ、殺害されるという凄惨な事件が起こりました。痛ましい事件の現場となってしまった中学校の前には花束が供えられており、未だ授業は再開の見通しが立っておりません…
音響(テレビの砂嵐の音)
明転
場所は教室。九数、白川、香織、美穂、優子、星野全員がうつむいている。
九数:愛花ちゃんは…誰に殺されたんだろう。
香織:九数くん…?
九数:俺は早く愛花ちゃんを殺した犯人を知りたいんだ。
白川:九数先輩。
九数:なんだ?
白川:今更、なんなんですか?
九数:なんの、ことだ?
白川:先輩分かってましたよね、愛花が九数先輩のことが好きだったって。
九数:それがどうした。今は関係ないだろう。
白川:関係なくないですよ。なんで今更愛花に優しく振る舞うんですか。
九数:今更って…(言い返そうとしたが、白川が立ち上がるのをみて口をつぐむ)
白川、立ち上がる。
優子:し、白川…?
白川:お前が、お前が愛花を殺したんだ…。
間
星野:白川、お前どうしたんだ…?なんか変だぞ。好きな子が誰かに、こ、殺されたからっ て…
九数:そうだよ白川(嘲笑)。俺には愛花ちゃんを殺す理由なんてないはずだ。なんで俺を疑うのか、その理由を聞かせてほしいね。
白川:先輩、正直愛花のことどう思っていましたか。
九数:そりゃ、後ろを付いてくる妹みたいなかわいい後輩…
白川:先輩!
一同、シーン
白川:先輩、正直にって言いましたよね。
九数:…正直、面倒くさかった。もう関わりたくなかったし、しつこいと思っていた。
九数と白川以外の全員、息をのむ。
白川:やっぱり。先輩、自分を慕っている愛花のことが気に入らなくて、邪魔な存在だったから、だから殺したんですよね…?
九数:違う。俺がそんなことするわけ…
白川:やっぱりお前が愛花を殺したんだ。
九数:だから違っ…
白川:お前が愛花を殺したんだ!
白川、九数の襟首をつかむ。
星野:おい、白川!
白川:お前が、お前が愛花を殺したんだ!愛花はいい子だから、お前を信じていた。お前のことをずっと好きだったんだ!それにつけ込んでお前ってやつは…!
九数:うわぁっ
優子:白川!何やっているの?!離しなさい!!
香織:白川君、やめて!
美穂:し、白川君。………私、知っているの。
白川:え?
白川、手を緩める。
美穂:わ、私、知っているの。み、見たのよ。愛花さんが、鈴木愛花さんが、殺されるところ。
暗転
第二章
(この章から八章まで回想)
白川:九数先輩、部活お疲れ様です。
九数:おう、白川こそお疲れ。今日の練習ハードだったな。
白川:いえいえ、このくらい余裕ですよ!
九数:そうか。頼もしいな。
そこへ九数ファンクラブの女子三人が駆け寄る
、
九数ファンクラブA:九数先輩!部活お疲れ様です!あの、これ…(手紙を差しだす)受け取って下さい!
九数ファンクラブB:私も!
九数ファンクラブC:わ、私のもっ!
九数、それらをさわやかな笑顔で受け取る
。
九数:ありがとう。家に帰ってゆっくり読むよ。
九数ファンクラブ三人:きゃー!ありがとうございます!では!
九数ファンクラブ三人、走って帰る。
白川:さすが、九数先輩、モテますね。
九数:そんなことねえよ。
九数、もらった手紙三つをその場で破り捨てる。
白川:せ、先輩!?
九数:ん?なんだ?
白川:あの、手紙、折角もらったのにいいんですか…?
九数:ああ、これ。別にいいんじゃないの?
白川:そんな。先輩のことを思って一生懸命書いてきただろうに…。
九数:一生懸命書いてきていようがそうじゃなかろうが、一人で堂々と来なかったら意味ないだろ。さっきの三人は手紙渡したいだけだ。別に俺と本気で付き合いたいわけじゃねえ。
白川:でも、だからって言って…
九数:(嘲笑)まあでも、最初にしゃべり始めたツインテールの子は普通に可愛かったから1回くらいならデートしてやってもいいけどな。
白川:先輩のそういうところ、僕は嫌いです(ぼそっ)
九数:ん?なんか言ったか?
白川:いえ、何でもないです。
九数:そうか。そういえば、お前の好きな子…愛花ちゃんだっけ?あの子どうした、元気にしているか?
白川:べ、別に、好きってわけじゃないですけど…。あ、そういえば、あの子不登校で週一回学校来たら多い方なんですけど、今日は珍しく来ているんですよね。よかったら紹介しましょうか?
九数:いいの?
白川:はい。あ、でも手出したりしちゃだめですよ。
九数:出さねえよ。ていうか、やっぱり好きなんじゃん。
白川:ち、違…っ
愛花、舞台登場。白川達に歩み寄る。
愛花:あ、白川。
白川:愛花!
愛花:今帰り?えっと、そちらの方は…?
白川:あ、この人は…
九数:初めまして。白川君の部活の三年生の九数だよ。数字の九に数ってかいて九数って読むんだ。我ながら、ひどい名字だよね。えーと、愛花ちゃんだよね?愛花ちゃんのことは白川からよく聞いているよ。よろしく。
愛花、ここで九数に恋に落ちる。
九数:愛花ちゃん?
愛花:あっはい!よ、よろしくっですっ!
九数:慌てちゃってかわいいね。
愛花:か、かわいいなんてそんな…(照)
白川:先輩?手出さないって言ったじゃないですか。
九数:ああ、ごめん。愛花ちゃんがあんまりにもかわいかったもので。
白川:せーんーぱーいー?
九数:ごめんって。あ、そういえば俺部室にジャージ忘れちゃったわ。ちょっと取りに行くからお前らは先に帰っちゃてて。
愛花:で、でも先輩の部室ってすぐそばですよね。あたし、待ってますよ?
九数:いや、いいよ。そういえば数学の教科書も教室に忘れてきた気がするし、もう暗くなるからお前らは先に帰れって。
白川:先輩忘れもの多すぎないですか?
九数:あはは、そーだな。それじゃ、お疲れー
白川:お疲れ様でーす。
愛花:お、お疲れ様でしゅっ!
九数、退場
白川:…愛花、お前なんで噛んでるの。
愛花:はあ…(九数の行った方向に熱っぽい視線)
白川:愛花?
愛花:九数先輩ってすてき…。
白川:え゛…?
愛花:大人っぽいし、気遣いも出来るし、優しいし、それにあたしのことかわいいって…///
白川:お、おま…っで、でも九数先輩は女の子からもらった手紙破り捨てて、そのくせかわいい子にはいい顔する女たらしだぞ?!やめた方がいいって!
愛花:ひどい!なんで九数先輩のことそんなに悪く言うの?!白川のばか!もう知らない!
白川:え…
愛花、走って去る。
暗転
第三章
場所は廊下。白川と星野がしゃべっている。
星野:そういえば白川の好きなあの子…なんだっけ、隣のクラスの女の子、今日は珍しく学校来ているらし
いぞ
白川:へえ、珍しい。あ、それじゃあ今日愛花と学校で会えるじゃん。やった(小さくガッツポーズ)今日は一緒に帰るのに誘おう。
星野:ふーん、やっぱり好きなんだ。
白川:べ、別に好きじゃねえよ。その、守ってやりたいなっていう思いは、あるけど…
星野:それを好きって言うんじゃねえの?
白川:っちげーよ!!
星野:別にいいけどさ、その子、さっき九数先輩とそこの廊下通ったぞ。
白川:え、九数先輩?
星野:やべえぞ白川。九数先輩といえば毎週彼女変わって、時期によっては一度に複数人の女の子と付き合ってることもある真の女たらしだぞ。そのくせ優しくてかっこよくてでモテるから…
白川:九数先輩ってそんなに有名な人なの?
星野:そうだよ。ああ、白川にとっては同じ部活の先輩か。そんなことも知らなかったの?っていうか早くあの子のこと追いかけた方がいいんじゃねえの?そうそうに先輩に取られちまうぞ。
白川:そ、そうだな。ありがとう。愛花のこと探してくる
白川と星野、別方向にはける
場所は裏庭。喋りながら歩いている愛花と九数
愛花:(泣きながら)久しぶりに学校来たらクラスで、机の上に花の生けてある花瓶があって、友達だと思っていた女の子に『あんたずっと学校来ないから死んだのか思っていた』って笑われて、それでまた逃げて来ちゃった。あたし、どうしたら…
九数:愛花ちゃん、君のことそうやっていうやつのことは放っておいていいんだ。
愛花:でもあたしっ、あたしあの子達の子と好きで、仲良くしてくれたのに、なんでこんな…
九数:愛花ちゃん、良く聞いてくれ。友達関係って言うのはね、すごく不安定な物なんだ。ある日突然それ以上の関係になることも、逆にそれ以下の関係になることもある。
愛花:……。
九数:でも、それが分かっていても傷付いちゃうことってあるよね。分かるよ。だから、またなにかあれば俺の所にくればいい。いつでも慰めてやるから。
白川、九数と愛花のうしろから登場。
愛花:先輩…(九数に抱きつく)
九数:おおっと。はは、全く甘えんぼだなあ。よしよし(愛花の背中をなでる)…ていうか、そろそろ行った方がいいんじゃねえの?もう昼休み終わるぞ。ほら、白川も迎えに来てくれてるみたいだし。(振り向く)
白川:よ、よう愛花。ずいぶん先輩と仲良くなったんだな。
愛花:え、白川…?いつから…
九数:ほら、白川。愛花ちゃんのことちゃんと頼んだぞ。俺もう行くから。
白川:は、はい…。
九数、去る。
愛花:はあ、かっこいい…。
白川:愛花…?
愛花:九数先輩あたしのこと慰めてくれたの。あたしやっぱり先輩のこと好きかもしれない…。
白川:(ガーン)
暗転
第四章
場所は廊下。白川と星野がしゃべっている。
星野:おい白川、お前今日元気ないじゃねえか。なんかあったのか?
白川:……。
星野:もしかして今日の数学のテストのできが悪かったのか?ったく。あんなに勉強しとけって言ったのに。
白川:そ、そのことじゃないよ。僕今回のテストはたくさん勉強していたしいつもほど悪くはない…はず。
星野:ふーん。じゃあやっぱり鈴木愛花のことお前、ホント一途だよな。まだあの子のことが好きなのか。
白川:ち、違…
このあたりから陰に愛花現る。
星野:んーでもなんであの子なの?確かに身長高くてすらっとしててきれいだけど、不登校だし教師にも嫌われているし、友達いないし、根暗っぽいし…。
白川、机をたたきながら立ち上がる
白川:愛花はそんなんじゃない!愛花は優しいし、女の子っぽいし、気遣いできるし、確かに自分の事下に見過ぎな所あるけど、だ、だけど好きな人のことを誰よりも大切にしてて…っ(口をつぐむ)
星野:白川…?
白川:好きな人…
星野:九数先輩か。
白川:(うなずく)
星野:まああんなにモテちゃ話にならないもんな。
白川:で、でも!愛花が幸せになれたら僕は何でもいいんだ!九数先輩は確かに女たらしだけど、かっこいいし頼りになる!愛花のことを、先輩が幸せに出来ないはずがない!僕は男のくせに愛花より身長低いし、バカだし、頼りないから…。だ、だから僕は全力で愛花の恋を応援するんだっ!(後半声ふるわす)
星野:し、白川、大丈夫か…?無理して、ない…?
白川:無理、してないねぇし…(泣)
愛花、去る。
暗転
場所は廊下。香織と向かい合わせに立っている九数。そこに愛花が現れる。
愛花:せんぱ…(九数に話しかけようとする)
九数:香織、お前のことが好きなんだ!俺と、つきあって下さい!(愛花には気が付かない)
愛花:?!
香織:急に呼び出されたかと思ったらまたそれ?無理だって前から言っているじゃないの。
九数:なん、で…?
香織:何度も言って居るけれど、それはあなたが女たらしだからよ。あなたのことだし、また今も私以外の女の子と付き合っているんでしょ?
九数:た、確かに俺は一度に何人もの女の子と付き合おうとしたことがないわけではない…。でも、本気なのは香織、お前だけなんだ!
香織:どうせ女の子みんなにそういうこと言っているんでしょ。ごまかしたって無駄よ。
九数:ち、ちが…っ!
香織:とにかくこの話はもうおしまいよ。それよりも…
九数:(愛花に気付く)あ…。
香織:あの子、2年生の子よね。あなたに会いに来たんじゃないの?
九数:あ、愛花ちゃん、違うんだ、これは…
愛花:嘘、嘘よ…(走り去る)
香織:ほら、やっぱりあなたじゃ女の子を幸せになんか出来ない。
香織、後ろを向いて立ち去る
香織:じゃあね。さっきの話はあなたが一人の女の子のことを愛せるようになったら又聞くわ。まあ、それが出来たらの話だけどね
九数:香織!待ってくれ!
九数、香織を追いかけてはける
場所は廊下。鞄を持った白川が歩って来る。愛花、走って来て白川に抱きつく。
白川:うおわっ!あ、愛花?!どうしたんだっ!?
愛花:九数先輩が、九数先輩が三年の女の先輩に告白してた、好きだ、付き合ってって。
白川:え…?
愛花:先輩、最近あたしにすごく優しくしてくれていて、こんなことするのは愛花ちゃんにだけだよ、って言ってくれて…。あたし、九数先輩に好かれているんだと思っていた。でもあたしは遊ばれてた。あたし、自惚れてたの。先輩は、あたしとは都合がいいから一緒にいただけで、それで…っ
白川:愛花、もう、いいよ。何も言わなくて良い。
愛花:白川ぁ…
白川:…あのさ、愛花。よく聞いてね。
愛花:(首をかしげる)
白川:僕じゃ、だめ?
愛花:へ…?
白川:こんなこと、あの人のことが好きな愛花に言うなんて失礼だって分かっている。…正直九数先輩は女たらし過ぎる。あの人について行ってばかりでは愛花は幸せになれない。
愛花:で、でも…
白川:僕は身長低いし、バカだし、頼りないかもしれないけれど、君への思いは誰にも負けないんだ。だから、よかったら僕に君を守らせて下さい。
愛花:え、嘘、白川…違うの、あたしは…
愛花、逃げる
白川:あ、愛花っ?!
白川、膝から崩れ落ちる。
白川:なんで僕じゃだめなんだよ…僕は愛花のことこんなに思っているのに…
暗転
第五章
明転
場所は廊下、白川と美穂が向かい合って立っている。
美穂:み、優子、私やっぱりだめ…
優子:だめだよ。告白するって決めたんでしょ。がんばって!
美穂:で、でも…
優子:でもじゃない!ほら!
優子、美穂の背中を押す
美穂:ひああっ……ええっと、あの…
白川:ええと…佐藤美穂さん?放課後にこんな所に呼び出してどうしたの?
美穂:あ、あのっ(優子へたすけを求める目線)
優子:がんばれ!
美穂:(俯いたまま)はあ……あ、あの、私、私、あ、あなたのことが好きなんです!つ、付き合って下さい!!
白川:(思考停止)
美穂:し、白川君……?
白川:……あ、ごめん。突然のことに驚いて、ちょっと思考停止してた。えーと、す、好きって僕のことが……?
美穂:は、はいっ!
白川:そう、なんだ…僕、こんなこと言われたの初めてだよ。すげー嬉しい。でも、なんで僕なんかに?
美穂:……
白川:美穂、さん…?
美穂:わ、私、弱虫だしすぐ泣くし、優子…あ、あそこにいる私の友達です。か、彼女がいないと何も出来なくて…
白川:うん。
美穂:わ、私に話しかけてくれる人なんて、み、優子以外に居なかった…。さ、最初はみんな私に近づいてくれるけれど、すぐに逃げられちゃう。わ、私、話すの苦手で、人の目を見て話せなくて、すぐどもっちゃって…。わ、私、そんな自分のことが嫌いだった……。
白川:…うん。
美穂:で、でも、白川君、あ、あなたは違った…。
白川:……。
美穂:中2に成り立ての頃、優子とはクラスが離れちゃって、クラスに私の居場所はなかった。そ、そんなとき、隣の席だったあなたが、話しかけてくれた…。最初は、すぐに逃げられると思っていた。でも、違ったの……。
白川:……。
美穂:あ、あなたはずっと私と話してくれた……。私、あなたが話しかけてくれるのが楽しみで、嫌いだった学校を、す、少しだけど、好きになれた。自分の事も、ほんの少しだけど、その…好きになれた。
白川:……。
美穂:だから、私……(顔を上げる)
白川:…ごめん、僕好きな子が居るんだ。
美穂:…へ?
白川:ほんとにごめん。まさか僕なんかにそんなこと言ってくれる人がいるなんて思わなくて、すごく嬉しいんだけど、でも僕はずっと好きな女の子がいるから、その…
美穂:好きな子って、隣のクラスの…鈴木愛花さん?
白川:うん、そうだよ。
美穂:そ、そっか。す、好きな人居るんじゃ仕方ないよね…(泣きはじめる)
白川:み、美穂ちゃん?!
美穂:あ、あれ、涙が…
白川:ご、ごめん、そんなつもりじゃ…えっと、これからも友達として仲良くしていただければ…(腕を差しだす)
美穂:(泣き崩れる)
白川:え、み、美穂さん?!
後ろから愛花現る。
美穂:ごめんなさい、ごめんなさい!…泣いている顔見られたくなくて……
白川、美穂を抱きしめる。
美穂:……へ?
白川:昔、ある先輩に言われたんだ。女の子を傷つけちゃったら、その分、相手に優しくしろって。
美穂:……
白川:あの、嫌なら全然、離れるけど……
美穂:やっぱり、白川君は優しいです……(美穂、白川の腰に手を回す)
愛花、走って去る
暗転
第六章
場所は廊下。愛花が歩いている。その後ろから星野。
星野:あ、あのっ!鈴木愛花さん…だよね?
愛花:?はい。あなたは…?
星野:あ、オレは白川の友人の星野だ。よろしく。(握手しようと手を差しだすも、無視される)
愛花:ああ、白川…それで、なんのようですか?あたし用事があるから早く帰りたいんですけど
星野:ああ、ごめん。すぐ済ませるから…。
愛花:はあ。
星野:あの、君は白川のこと、どう思っているんだ…?
愛花:…そんなこと、あなたには関係ないでしょ。
星野:関係なくないよ。白川だってオレの大事な友達だ。そいつが恋愛で悩んでいれば、協力もしたくなるさ。
愛花:……。
星野:嫌い…なのか?白川のこと。
愛花:そういうわけじゃない…と思う。
星野:じゃあなんであんなに冷たく…
愛花:そんなの、わかんないよ……
星野:え?
愛花;白川のこと、友達だと思っていたのに、急に好きとか言われたら、そりゃわかんなくもなるよ…。
星野:それは、えーと、嫌いではないってこと?
愛花:…わから、ない。でも、彼氏になってほしいとか、あたしを愛してほしいって思っている相手は白川じゃない。それは確か。…だと思う。
星野:それは、九数先輩のこと…?
愛花:……そう。
星野:いや、でも白川の話を聞く限り九数先輩より白川の方がずっと愛花のこと大事にしてくれてるし、優しい。九数先輩みたいなかなわない恋を追いかけるより、その、白川と付き合った方が君は幸せになれると思うんだけど…
愛花:うるさい…
星野:え?
愛花:うるさいうるさいうるさい!!!!
星野:え、ええ?
愛花:赤の他人があたしの恋愛に首突っ込むな!あたしだって悩んでるんだよ…。白川のことも傷つけたくないし…。
星野:いや、だからさ……
愛花:だから、あんたは首突っ込むな!!!
愛花、走って逃げる。
星野:え、ええ…?
星野、首をかしげながらはける
愛花が白川のことを探してうろうろしながら登場。愛花の後ろから白川登場。
白川:愛花!探したんだよ。どこ行っていたんだ。
愛花:べ、別に…。
白川:あ、そうだ。今日愛花の誕生日だったよな。プレゼント買ってきた。ほら。
愛花:え?
白川、鞄の中から花のブレスレットを取り出す。
白川:これ。
白川、愛花の手を取り、ブレスレットをつける。
愛花:へ?
白川:…やっぱり似合う。可愛いよ。
愛花:…あ、ありがとう…。
白川:うん、喜んでもらえて嬉しい。
白川と愛花、一緒に帰る流れになる。
愛花:あのさ、白川。
白川:なに?
愛花:白川さ、小学生の頃は毎年あたしの誕生日にあたしの家に来て、わざわざ花屋で買った花束持ってきたよね。
白川:そういえばそんなこともあったな。今考えると誕生日に相手の家に花届けに行くなんてクサいし、そもそも迷惑だったよな、ごめん。
愛花:いいの。別に迷惑じゃなかったし。…でも、白川が毎年そんなことするからお母さんが毎年にやにやしながら見てきたのはうざかったなぁ。
白川:そ、そうだったのか。…なんかごめん。
愛花:だからいいって。
白川:そういえば、愛花のお母さん、元気?
愛花:え?
白川:愛花のお母さん、愛花が小学生の頃から体弱くてよく入院してたじゃん?僕の母さん、愛花のお母さんの通院している病院の看護師なんだ。それで最近母さんが、「愛花ちゃんのお母さん、また入院になっちゃったみたい」って言っててさ。心配になったんだ。
愛花:……
白川:愛花?
愛花:そんなこと、白川には関係ないでしょ…。
白川:あ、き、聞かない方が良かったかな……ごめん。
間
愛花:あのさ、白川。
白川:な、なに?
愛花:なんで白川は毎年花に関係する物をくれるの?
白川:え?
愛花:今年は白い花のピン留めだし、去年は黄色い花のネックレスだった。
白川:ああ、確かに…。
愛花:なんで?
白川:愛花の名前の漢字ってさ、「愛」に「花」って書くじゃん。僕、愛花の名前、すごい好きなんだ。
愛花:え…?
白川:こんな事言うの恥ずかしいんだけどさ、愛花って優しくて、周りの人の心を穏やかにさせる。一緒にいると楽しいし、愛花を見ているだけで元気になれる。まるで花みたいな人だなって思うんだ。
愛花:…///
白川:だから、これからも花みたいに元気を振りまく存在で居てねって意味で…って、愛花?どうしたんだ?黙り込んで。
愛花:な、なんでもない。
白川:そうか。
間
白川:それじゃ僕、こっちだから。(あっちの方を指さす)
愛花:分かった。
白川:じゃあね、ばいばい。また明日。
愛花:………待って。
白川:え?
愛花、離れかけていた白川の袖口をつかむ
愛花:し、白川、その、この前バレンタインだったじゃん。
白川:ああ、そうだね。僕は1つももらえなかったけど…
愛花:…はい。
愛花、ぶっきらぼうにチョコを渡す。
白川;え?
愛花:チ、チョコ!白川はモテないから、どうせチョコ1個ももらえないだろうと思って作ってきたの!
白川:え、これ、ぼ、僕に…?
愛花:そうだって言ってるでしょ?!ほら!
愛花、白川にチョコを押しつける。
白川:あ、ありがとう…。
愛花:(黙って帰ろうとする)
白川:愛花!僕、すっげー嬉しい!他の女の子100人にチョコもらうより、愛花1人にもらった方が全然嬉しい!ありがとう!
愛花:うるさい!バカ!近所迷惑だ!
愛花、走って帰る
呆然と立ち尽くす白川。
白川:…なんだよ。こんなことされたら期待しちゃうじゃん…。
白川、愛花にもらったチョコを1つ口に含む
白川:……にがっ!
暗転
第七章
場所は廊下。香織が一人で歩いている。その後ろから愛花
愛花:あの!香織先輩!
香織:(振り向いて)あら、あなたはこの前の…えっと、お名前うかがってもいいかしら。
愛花:あ、あたしは鈴木愛花、九数先輩のことが好きな二年の女子です!今日は香織先輩とお話ししたいと思って!
香織:愛花ちゃんね、分かったわ。お話ししましょう。
香織と愛花、一回はけて、すぐに登場。
香織、自販機でコーヒーを買う。
香織:愛花ちゃんコーヒー飲める?これでいいかしら。
愛花:あ、ありがとうございます。えっと、いくらですか?
香織:いいのよ。あなたには九数くんがいつもお世話になっているなっているみたいだから、今日はおごらせて。
愛花:お世話に、だなんて。あたしがお世話になっているくらいなのに。
香織:愛花ちゃんって、やっぱり九数くんのこと好きなのね。
愛花:は、はい!大好きです!
香織:うふふ。そんなに慌てなくてもとらないから落ち着いて。
愛花:す、すみません。
香織:あなたよね、この前九数が私をここに呼び出して話をしている時に見てた後輩って。
愛花:…はい。
香織:九数のことが好きならショックだったわよね。あんなもの見せちゃってごめんなさいね。
愛花:いえ、全然。…あの
香織:何かしら?
愛花:香織先輩って九数先輩とどういう関係なんですか。
香織:随分はっきり聞くわね。ただのクラスメイト…っていいたいけれど、実はそんなんじゃなくて、幼なじみなの。
愛花:幼なじみ、ですか。
香織:そう。生まれたときから家が隣同士で小さい頃はよく遊んでいたわ。腐れ縁って感じかしら。
愛花:…じゃあ勝てないですね。
香織:そんな暗くならないで。私は全然九数くんのこと好きじゃないもの。
愛花:…なんでですか。九数先輩あんなにいい人なのに、十年以上一緒にいて、なんでその魅力に気が付かないんですか。
香織:愛花ちゃん、本当に九数君のことが好きなんだね。
愛花:茶化さないで下さいよ。
香織:あら、ごめんなさい。…こんなこと愛花ちゃんに言ったら怒られちゃうかもしれないけれど、私、九数くんのいいところ誰よりも見てきた自身があるの。
愛花:じゃあ、なんで。
香織:それと同時に私は九数君の悪いところも誰よりも分かってる。
愛花:あ…
香織:九数君、弱いの。弱すぎるのよ。自分の思い通りにならないと自分の事追い込んで行っちゃって。私隣で見ていてそれが辛かった。それで九数君は中学生になってから自分に自信を持つために女の子で遊ぶようになった。自分が生きやすく成るために、女の子をまるでおもちゃのように…。私、九数君のそういう所が嫌いなの。
愛花:やっぱり、九数先輩のこと見てきた人は言うことが違うな…。
香織:え?
愛花:あたしが九数先輩のこと好きなことに反対する人がもう一人いて、あたしと小学校からの友達で、九数先輩の部活の後輩なんですけど…。
香織:あら、そうなの。その子愛花ちゃんのことが好きなんじゃないの?
愛花:…好きだって、言われました。
香織:やっぱり。九数くんなんかやめてその子にすればいいのに。
愛花:…でもそいつ、この前クラスの女の子とここで抱き合っていたんです。
香織:まあ。
愛花:人に好きって言っておいて無責任なやつですよね。
香織:…愛花ちゃん?
愛花:はい?
香織:それ、嫉妬なんじゃないの?
愛花:し、嫉妬ぉ!?
香織:だってそんなに怒って居るじゃない。
愛花:い、いや、これはちが…
香織:嫉妬するって事はやっぱりあなた、その子のことが…
そこに愛花を探しに来た白川登場。
白川:愛花!
愛花:白川?何でこんな所に。
白川:お前のこと探しに来たんだよ。先生、探して居たぞ。お前また授業途中で抜け出して。
愛花:いやっ!近づかないで!
白川:え、ちょ、愛花?
愛花:やめて!先輩、今日はありがとうございました!では!(逃げる)
香織:え、ええ。
白川:ちょ、愛花、待てよ!何で逃げるんだよ!あ、愛花の先輩おい愛花!(愛花を追いかける)
香織:な、なんだったの…
暗転
第八章
場所は廊下。白川と星野がしゃべっている。
白川:…それで愛花、僕のこと無視して逃げちゃったんだよ。僕何も悪いことしていないはずなんだけど。
星野:そりゃ白川、お前が気づかない間に傷つけていたんだよ。深い傷になる前に早めに謝っておいた方がいいぞ。
白川:さすが、彼女持ちは言うことが違うなあ。
星野:うるせえ(笑)
そこに優子登場。
優子:白川君、ちょっと話したいことがあるんだけど。
白川:え、君は…?
星野:(白川の耳元で)同じクラスの中島優子だよ。お前あいつに何かしたの?
白川:いや、心当たりはないけど…
星野:あいつ、お前に告白しに来たんじゃないの?(笑)
白川:なっ…
星野:オレは先に教室戻っているから、オレにはおかまいなくここでどうぞ。
白川:ええ…
星野:んじゃ、そういうことだから。
星野、にやにやしながら退場。
優子:なにこそこそしゃべっているの?
白川:あ、ご、ごめんなさい…。それで話って言うのは…
優子、白川のほおをびんた。
白川:いってぇ、何するんだ、急に。
優子:何するんだじゃないでしょ!あんた…なんで美穂のことフったの!?
白川:美穂…?ああ、君あのときの。
優子:美穂は親友のアタシから見ても女の子らしくて可愛いわ。それに対してあんたはちびだしバカだし。かわいい女の子にせっかく声かけてもらったのに、フるなんて信じらんない。あんた何様だと思ってんの?!あの子の気持ちも考えてよ!美穂があの後どんだけ泣いたか分かってる?!わかんないでしょ?!人の気持ちも知らないで、思わせぶりな行動しておいて結局はフるなんて本当に信じられない。
白川:いや、あのときにも言ったと思うけれど僕には好きな人が…
優子:どうせかなわない恋じゃない。
白川:そ、そうかもしれないけれど僕は愛花の恋が実るまで隣で応援していたい…
優子:ばっかじゃないの。そんなに面倒くさいこと考えないで素直に美穂とつきあえばいいのに。
そこに、愛花登場
愛花:そうよ…白川。あたしなんかじゃなくて、不登校の根暗女子じゃなくて、ふつーの女の子とつきあったらいいじゃない。
白川:愛花?!
優子:ほら、あの子もそう言っているわ。
愛花:…
白川:愛花、なんでそんなこと…
愛花、逃げる。白川それを追いかけようとする。
優子:ちょ、まだ話は終わっていないのよ?!
白川:ごめん!又今度!今はあの子のこと追いかけなきゃ…
優子:あ!こら!まて!逃げるな!
暗転
第九章
場所は教室。白川と星野、星野。
星野:ああ、白川、さっきの美術の時間彫刻刀貸してくれてありがとな。結局授業では使わなかったんだけどな。でもありがと。
白川:別に彫刻刀くらいいいよ。いつも色々助かってるし。またなんかあったら言えよ。
白川、彫刻刀を受け取ってポケットにしまう
星野:おい白川、お前今日はいつもにまして元気ないな。もしかしてまた鈴木愛花のことか?
白川:……。
星野:そういえば白川、オレ彼女に聞いたんだけど、その鈴木愛花、同じクラスの女子にいじめられたらしくて二週間以上学校休んでいるらしいぞ。女子ってホント、怖いよな。
白川:え、ち、ちょっと待って、それ、本当の話?
星野:ああ、英語か何かの時間の時に教師に不登校について鈴木愛花がぐちぐちしかられて、その飛び火でそのいじめっ子らも素行の悪さとかを授業中に叱られたらしいんだ。それで授業の後「お前のせいで私らまで怒られる羽目になった、ふざけるな」って言って教科書を校庭の池に投げ入れたらしい。
白川:……(空気が変わる)それって、その女子って誰。
星野:白川?
白川:そいつ誰だって言ってんの。愛花にそんなひどいことするなんて。一発殴らなきゃ気がすまねえ。
暗転
明転
場所はとなりの教室。河合の周りに女子3人。
いじめっ子達:(しゃべっている。内容はアドリブ)
白川、ガラガラっとドアを勢いよく開けて現れる。
いじめっ子達:(シーン)
河合:おい、お前誰だよ、なんの用だ。
白川:お前か。
河合:は?
白川:愛花をいじめたのはお前かって聞いてるんだ!
河合:愛花?……ああ、鈴木のことか。別にいじめてねーよ。不登校のくせに生意気にあたしに口答えしてくるからうざくてちょっといじっていただけ。
白川:ちょっと?いじっていただけ?
河合:そうだよ。なんか文句あんの?ていうかあんた愛花のこと好きなの?他のクラスにまで来て、きもいんですけどー
いじめっ子達:(笑う)
白川:ふざけるな!!!
白川、リーダーの女の子の襟首をつかむ
いじめっ子:(ざわざわ)
河合:ちょ、おま、何を…
白川:ふざけるなふざけるなふざけるな!愛花は毎日がんばって学校に来ようとしているんだ!愛花は繊細だから、そういうことがあるとすぐに学校に来れなくなってしまう。だから、謝れ!今すぐにでも愛花の家に行って謝ってこい!!!
河合:っんだよお前…意味わかんねーよ。つーか、離せよっ!!
そこに九数、通りかかる
九数:おい白川、何やっているんだ、やめろ!
白川:九数先輩?!なんでここに。
白川、河合を離す。河合、床にどさっ
九数:ちょっと通りかかっただけだ。それより、やめろ!男が女の子に手出すんじゃない!
白川:だってそれはこいつが…
九数:君、大丈夫?たてる?
河合:だ、大丈夫です…(きゃーなにこの先輩イケメン!)
九数:それはよかった。それより白川、ちょっと話聞くから来い。
九数、白川の腕を引いて帰ろうとする。白川、その手をふりほどく。
九数:なんだ。
白川:先輩、愛花を助けて。
九数:は?
白川:このままだと愛花が、愛花が壊れちゃう…
九数:はあ。なにがあったのか知らないけど、俺別に愛花ちゃんのこと好きじゃないんだ。正直、面倒くさい。関わりたくないんだよ。
白川:え、あんなに優しくしておいて、今更面倒くさい、ですか。
九数:あ、ああ。
白川、九数を殴り飛ばす
九数:!!?
白川:ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!!!愛花はこの何倍も傷付いているんだっ!お前なんかに愛花の何が分かる!!お前ら全員死ねばいい!!!死ね!死ね!死ね…っ!
白川、九数に馬乗りになって九数を殴り続ける。
そこに愛花が通りかかる。
愛花:やめて…っ!!
白川:愛花?!
九数:愛花ちゃん…
愛花:やめて、やめて、お願い…
白川:ち、違うんだ…
愛花:白川、ちょっと来て。
白川:え、ちょ、愛花…?
愛花、白川を教室の外に連れ出す。
暗転
明転
場所は白川の教室。セットはそのまま。
愛花:なんで、なんで先輩のこと殴ったりなんかしたの…?
白川:それは、あいつが愛花のこと…あ。(口に出してはいけないと思って口をつぐむ)
愛花:やっぱり…
白川:え?
愛花:やっぱりそんなんだ。あたしのせいでみんなが不幸になる。
白川:そ、それは違うよ。
愛花:違わない!
白川:違う!!
間
白川:愛花は知らないかもしれないけれど、僕は愛花のおかげで幸せなんだよ。
愛花:え?
白川:愛花のこと意識し始めたのは小4のころ。一人でも堂々としててかっこ良くて、それでもやっぱり考えていることとか女の子らしくて。僕頭悪くて勉強できないから学校に来るのがいつも苦痛だった。でも、愛花にあえると思ったらそれだけでなぜか元気が出てきて、それで…
愛花:それは全部昔の話でしょ…
白川:違う!今も僕が生きる全てのことをがんばれているのは愛花、お前のおかげなんだ。いつか僕も九数先輩みたいに愛花に頼られたいって思って、それで…
愛花:でも、違うの。あたしは九数先輩の役に立ちたいだけであって、あなたがあたしのことどう思っているかなんて関係な…
白川:なんで、なんでだよ…
愛花:白川…?
白川:僕はこんなに愛花のこと思っているのに、なんで振り向いてくれないんだ…。
愛花:し、白川?なんか変だよ?どうしたの…?
愛花、白川に近づく。
白川、愛花を机に押しつける
愛花:…?!
白川、ポケットに入れていた彫刻刀を取り出し、愛花の首に刃を当てる。
美穂が少し離れたところに登場。
白川:ああ、愛花、今気が付いた。僕愛花のこと独り占めしたかったんだ。
愛花:…へ?
白川:僕は馬鹿だ。愛花に幸せになってほしかった。なのに幸せに出来ていないんだ。
愛花:…
白川:愛花。愛花の幸せは、なに?
愛花:私の幸せ……私の幸せは九数先輩に愛されること…
白川:(失笑)違うよ、愛花。
愛花:へ……?
白川:愛花の幸せは、愛花のことを死ぬほど思っている僕と一緒になることなんだよ…?
愛花:……は?
白川:でも、わかってる。愛花。もう愛花が僕のこと好きになってくれないことはよくわかってる。でも僕は愛花のこと、独り占めしたい。だから…
白川、ポケットから彫刻刀を取り出す。
愛花:し、白川、なにを…
白川:僕が君のことを幸せにしてあげるよ。
愛花:し、白川…?
白川:愛花、愛しているよ…
白川、愛花のことを彫刻刀で刺そうと彫刻刀を振り上げる。
暗転
第十章
回想終了。場所は教室。セットはそのまま。
白川、九数、美穂、
美穂:…わ、私、見たんです。鈴木愛花さんが殺されるところ…。
一同、シーン
美穂:す、鈴木愛花さんを殺したのは…白川君、あなたです、よね…?
間
白川:な、なにを言うんだ。僕は死ぬほど愛花のことを愛していた。こんな僕が愛花のことを殺すわけないだろう。
美穂:だって、わ、私みちゃったもん…。あの時、白川君が…白川君が何かをつぶやいて、あ、愛花さんのことを彫刻刀で刺すところ…
香織:白川君、本当なの…?
白川:だから、違うって…
優子:早く素直になった方がいいよ。美穂はあんたのことが好きなのに、こう言っているの。嘘な訳ないでしょ。どうせすぐ警察が来てあなたを連れて行くわ。
香織:お願い白川くん、本当のことを教えて。
九数:白川…。
白川:……………ああ。そうだ。愛花を殺したのは僕だ。
一同:…(息をのむ)
優子:じゃあなんで愛花を殺したのは九数先輩だって…
白川:……愛花のことを肉体的に殺したのは確かに僕だ。でも、僕が愛花を刺した時、愛花はすでに死んでいた。
九数:お前、何言っているんだ…?
白川:愛花を精神的に殺したのは、九数先輩、あなたです。
そこに警察が現れる
渡辺:どうも、こんにちは。(警察手帳を見せる)警視庁の渡辺です。現場検証の末、凶器とされていた彫刻刀の持ち手からあなたの指紋が複数検出されました。白川君、署までご同行願います。
白川、おとなしく渡辺の所に行く。
白川:九数先輩。
九数:なんだ。
白川:先輩、今度は女の子のこと幸せにして下さい。
九数:…
白川:先輩が一生を捧げられると思った女性一人のことを、死ぬまで大事にしてあげて下さい。それが、僕の……僕の、最後の願いです。
九数:わかった。
白川、手錠をかけられる。
白川:お世話になりました。(一礼)
白川、高田と共に去る。
一同:(シーン)
美穂、泣き崩れる。
優子:美穂…!
美穂:優子ぉ…
優子:そうだよね、つらいよね。よしよし…。
九数・香織:…
優子:あの、美穂がこんな感じなのでアタシはもう美穂のこと連れて帰ります。では。
香織:うん、気をつけてね。
優子、美穂、退場。
香織・九数:…
九数:一人の女性を死ぬまで、か。
香織:…。
九数:あのさ、香織。
香織:なに?
九数:俺、死ぬまで大事にしたい人と言ったら香織、お前しか思い浮かばない。だから、その、こんな時に言うなんてへんなやつだと思うと思うんだけど、俺、がんばるよ。香織が俺とまっすぐで一途な恋愛出来るように、香織を死ぬまでずっと愛せるように、俺、香織に認めてもらえるような人間になれるように、がんばるよ。
香織:…ねえ、九数くん、あなたが初めて私に好きって言って来た時から思っていたんだけれど、私なんか
でいいの…?
九数:おう、お前で良い。いや、お前じゃなきゃだめなんだ。
香織:九数くん…。
九数:お願いします。
香織:…わかったわ。待ってる。ずっと待ってる。九数君。愛花ちゃんに真っ直ぐ向き合えるようになった九数君のこと、私、ずっと待ってるわ…。
香織、微笑む
暗転
閉幕