7話 決着! 象の人獣!! 後編
お久しぶりです。約5ヶ月ぶりの更新になります。活動報告には上げさせていただいたのですが、今年は6月に入るまでが結構大変でした。
本文の書き方など、やっぱり変わってきていますが、引き続きお読みいただけると嬉しいです。
トワがテーブルの上に出したのは、錆びていて分かりにくいが、柄と鞘が紅の下地であるのが微かだが分かる。その上にしてあったと思われる細工は、金細工金細工だったのだろうか?
染みのない純白を現すテーブルクロスの上だからこそ、その色合いが見えてくるのだろう。
【継承者の短剣】
としかトワの神眼には出てこなかったので、装飾品として判定されているのかもしれない。
「これを入手したのは、20階層くらいだったと思う。モンスターを倒したときにドロップしたから、多分これの持ち主は──」
「トワ殿が気に病む必要はないよ。これを持ってきてくれただけで十分だ」
そう返事を返すのは、国王バークドであった。その目尻に、キラリと光る滴があったのを、トワは見なかったことにした。それと「……………兄上」という小さな言葉もだ。
5分だろうか、10分なのか、国王が大きく深呼吸した。そして、この短剣がどういったものかを話してくれた。
「この短剣はの、ワシの兄上に父上が与えたものなのだよ」
「バークド陛下…………」
国王の元にトコトコと歩いて近づくベル様だが、イスに腰を掛ける状態でも肩に手が届かず、腰にポンと右手? を当てただけだった。明らかにネコ形態では慰めることさえ不可能だろう。
「我が国には18才になったときに、ある試練がある。それは【継承者の試練】と呼ばれるものだ」
あまりにもそのまんまなネーミングに、トワは聞かなかったことにしたかった。小説とかにも出てきているが、こういう"王制"の国家はこういう試練が好きなのだろうか?
失敗した場合、次期国王候補を失うのだから……。
「そのときに、試練に挑む者に与えられるのが【継承者の短剣】というわけなのだ。これは王族の身分を示すものであると同時に、所有者に対して微弱ではあるが"加護"を与えるのだよ」
「それって、オレに教えてもいいものなのか?」
「そこは大丈夫だ。これには"王族特有の魔法"がかかっていて、国王が所有者を定められるのだよ。もうここ短剣にかかっていた加護は無くなってしまっているので確認は出来ないが、ワシの短剣に触ってみるといい」
国王は懐に手を突っ込むと、ダンジョンから持ってきた短剣と酷似した短剣を取り出した。これはバークド国王の試練時に与えられたモノだ。何となく、裏があると感じたトワは、神眼で鑑定を行った。
※継承者の短剣 改め 王者の短剣
当時の国王が、息子であるバークドのために用意した短剣。加護として、 【常時回復・微 】と【継承者外迎撃】がかけられている。
名称が替わっているのは、試練をクリアしたためである。
トワが確認した中で目を引かれたのは、【常時回復・微】の方であった。【継承者外迎撃】に関しては、よく小説で出てくる『電撃による迎撃』だろうと当たりを付けていたからだ。
もっともその予想は、『炎では剣が熱を持つ』『水・風では防犯能力として低い』という考えから来ていた。
神眼の鑑定から、術式の逆算が出来ないか楽しみにしていたのだが、不可能という結果に心の底から思い落ち込むトワ。罠が張ってあるとしても、国王が見ている手前、手に取らないわけにはいかない。周囲に聞こえないように、小さな声で"ある呪文"を唱えた。
「世界を司りし精霊よ この一時 汝らの加護を 我に与えたまえ 『属性防御付与・雷轟』」
突然の魔力の高まりに2人驚いたが、国王の表情は「まさか?」と言っており、ベル様の方は「何かな?」的な楽しんでいるイメージである。詠唱に関しては小声で済んだが、魔力の高まりまでは隠しきれなかったトワである。
実際のところ、【継承者外迎撃】の詳細なんかはわからない状態での使用である。外れていた場合、諸に被害を受けるだろう。
ゆっくりと手を伸ばし、付与を行った状態で短剣の柄を持つと、小さい音がバチバチィっと聞こえてきた。スタンガンほど強くない感じだが、静電気の倍くらい強そうに感じだ。
トワが小さく、安堵の息を吐いたのは無理もない。
想像して欲しい。真冬の乾燥して寒い次期、皆は厚着をするだろう。そして、服を脱ぐときや、ドアの取っ手や車の扉などを触ったとき、『バチィン!』と音を鳴らして指先やつま先にとてつもない痛みを与えてくると思う。
それの数倍の威力だと考えて欲しい! 怖いってレベルではない!!
属性防御付与によりトワの感じている強さは、入るとビリビリする"電気風呂"といったレベルである。
「トワ殿はもしかして知っていたのかな?」
国王の顔は、イタズラに失敗した子供のようだ。もしかしなくても、触ったときの反応を、楽しみにしていたのは間違いないだろう。当然ながらトワは、半眼で睨み返している。
「コレ、触ったら……腕がマヒしないか?」
気まずそうに視線を反らす。そして、徐々にキツくなっていくトワの視線。
ツーっと頬を流れる一筋の汗。それは動かぬ証拠と言えた。
何をしようとしていたか、理解の追い付いた2人は、自分たちの父親である国王に視線を向けた。王位継承権こそ無いものの、息子と娘の責めるような視線を受け、「やり過ぎたかの?」と少しだけ後悔させた。
国宝の1つと言っても問題ないレベルの魔法を、イタズラに使ったのに反省が足りない。
「国王様のイタズラ好きは知っていたけど、まさか"国宝"といってもいい短剣を使うとは思わなかったよ~」
ニコニコ笑いながら、尻尾をピコピコ動かせている。その表情から、イタズラ好きの同士であるようだ。
3人のやり取りを見ていることしか出来なかった、クロードとリヴィエルナ。そんな2人でも、イタズラ好きの心の分かるクロードは復帰が早かった方である。
「一体、どういうことなのか、説明をしてくれるよな?」
そう言い、トワに意味ありげな視線を送るクロードであった。
面白い話なら、交ぜてくれ! と視線が語っていた。それを見ていた国王は咳払いを1つして、自身の子供たちを見つめた。
「この事は、国家の秘事に当たる。軽々しく、口外する出ないぞ?」
重々しい口調で語りかけているが、その"国家の秘事"をイタズラに利用したのは、国王本人である。そして、国王の行った内容を理解したとき、2人の反応は正反対であった。
クロードは「父上らしい」と、リヴィエルナは「どうやって看破したのだ!?」と表情が雄弁に語っていた。
「──……んぅう……」
全員で談笑していると、部屋の奥にあるソファーから声が聞こえてきた。
「ようやく、目覚めたか……」
小さな声で、国王は呟いた。その言葉を聞いたトワが、「暇潰しにはなったので、いいんじゃない?」と返した。ベル様共々、その顔は呆気にとられていた。
バレるとは思っていなかったようである。もっとも、相手がトワだったからこそバレただけであり、他の人なら引かかっていただろう。自国の統率者を疑わないからだ。
暗部の娘"ルーティア・アンブレッサ"は、周囲の景色が変わったことに。慌て腰に手を回すが、そこにあるはずの短剣は掴めなっかった。腰裏に装備していた短剣は、トワが洗ったときに回収していたので掴めなくて当たり前である。
もっとも、短剣装備していても、力の上手く入らない身体では意味がないかもしれない。
短剣が無いことに気付くと同時に、その視界にトワの姿を捉えたのだった。
「……ひぃっ!!」
「「「…………」」」
暗部の娘がビクン! と激しい反応をすると同時に、国王、ベル様、クロードの3人から責めるような視線が送られてきた。
それに気付いたトワの表情は、「げせぬ!」と物語っていた。
「トワ君、キミは一体、彼女に何をしたんだい?」
縦に細長い瞳で、トワを睨み付けていた。
「え~っと、ちょとばかり教育を……」
そう言いながら、3人の視線から逃げるように少女に近付いて行く。その身で味わった恐怖はかなり大きかったらしく、ヘビに睨まれたカエルのように、身動きができず震えるばかりである。
「トワ。キミはしばらくの間、近寄らない方がいいんじゃないのかな?」
トワの肩をそのしなやかな指で、ガッチリと掴んでいた。指に込められている力は尋常ではなく、メリイメリイっと肩の骨が悲鳴を上げていた。トワの顔は苦痛で歪んでいる。
ルーティアの話を聞いたあとの、リヴィエルナの表情は、第3者からしたら見物だと言えた。トワを見つめる彼女の顔は『鬼面』その言葉が似合うほど、鬼気迫った表情であった。傍観者に徹する男3人は、ちゃっかり遠くに移動している。
その上、ルーティアが「もう、お嫁にいけません!!」とうそ泣きでジョークを言ったので、あっと驚く大変身! リヴィエルナの表情は"鬼面"から、"般若"の顔に進化した。ちなみに、ウソをついたルーティアの表情は真っ白になっている。完全に血の気が引いたのだ。
「えっ……ちょっ!?」
トワは頑張って説明をした。実際に手を出したのは、汚れた体を洗ったときくらいだったと熱弁した。ただ、必死に弁明していたのは言うまでもない。
トワの説明が終われば、ルーティアにもリヴィエルナの取り調べが延び、彼女自身も性格から行動まで非情な(誤字にあらず)説教を受けることになった。彼女は泣いて土下座したり、いつの間にかトワの手伝いをすることになっていた。
国王直轄の暗部を勝手に動かしているのだが、誰1人として反論できないでいた。
この間、国王たちの存在感はなく、部屋の片隅でガタガタと震えていた。国王とクロードは、ベル様を盾にしてその背に隠れていたが、いかんせん体格が違いすぎた。まる見えである。
リヴィエルナが落ち着いて、報告と象の人獣に対する処罰が決まったのは深夜遅くであり、男4人は目の下にクマをつくりながら話し合っていた。リヴィエルナは政治方面で役立たずだったのはトワの予想通りであったが、ルーティアが話をまとめることが苦手ですまなかったことが痛恨の痛手であった。
話の前後に脈絡がなく……いや、存在せず、右にフラ~左にフラ~と流れたのが、深夜までかかった主な原因であった。
「──して、罪状は『迷宮暴走の助長』で問題ないかのぅ?」
「私はそれで問題ないと思います」
白い髭を撫で下ろしながら確認する国王に、真っ先にクロードが答えたのであった。
「だねぇ~。ワシも異論はないかな~」
体毛は黒だが、それでも『黒い』と分かってしまうくらい、黒い顔のベル様であった。もちろんトワも異論はなく頷いていた。
話の締め括りに、トワがあることを聞いた。
「そういえば……ベル様に、映像記録を残せないかと聞いたよね? どうだったの??」
「バッチリ撮れているよ~ (☆∀☆)ノ」
「それはトワ殿が言っていたという、"状況証拠"とやらかな?」
「100人の証人を集められない以上、映像を残せるならこれ以上ない証拠になるだろ?」
いたずらっ子の表情になるトワと、さらに黒い顔になったベル様、大まかな話は聞いていた国王の3人は笑い合うが、それはクロードが引いてしまうレベルで"悪党の顔"になっていた。
異世界であり、文明レベルの低い現状、言ったことを証明する方法は今までなかった。それがトワの持ち込んだ"映像"という考えが、国王たちの問題視していた"証拠"となったのだ。
もっとも、魔道具の1種である『姿写しの水晶』が存在したことが大きい。
男4人はそれから話を詰め、翌日の式典を迎えたのであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
サクッとした感じですが、象の人獣は処刑されました。
最終話に関しては、近い内に上げさせていただきたいと思います。