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6話 報復と制裁を(2)

「お姉さま心配しましたわ」


 公爵領内の神殿につくなり、出迎えたのはセシリアの妹シャルネだった。

 神殿でも最高位を意味する金色の法衣に身を包み、複数の神官に囲まれている。

 セシリアから秘術で『金色の聖女』の力を奪い、自殺に追い込んだ張本人。


 毒を飲み瀕死のセシリアに死ぬのがわかっているのに、ご丁寧に記憶消失の魔法までかけていった偽りの『金色の聖女』シャルネ。


 神殿につくなり待ち構えるようにここにいたということは公爵家の人間が伝えたのだろう。


「これは『金色の聖女』様」


 セシリアは神殿の仰々しい挨拶をすると、シャルネは慈愛に満ちた笑みで微笑んだ。


 公爵家の中でも陰湿で悪質な従者いじめをする姉セシリア。

 そして品行方正で心優しい聖女妹シャルネ。それが世間で認知されている姉妹の評価。


 そのせいか、神殿の者はみな、セシリアがシャルネに嫌がらせするのではないかと、二人の行動を注目している。


「そんなかしこまらないで。血を分けた姉妹じゃない。

 お姉さまだって立派な『白銀の聖女』なのですから」


 そう言ってシャルネは優しくセシリアの手をとった。


「……そうね。ありがとう」


 少し戸惑った風にセシリアが答えると、シャルネは寂しそうな眼差しでセシリアを見つめた。


「ごめんなさい、お姉様。今朝お兄様に聞いたわ。

 使用人達がお姉さまに嫌がらせをしていたと聞いて、私とても驚いています」


 慈愛に満ちた声で、優しく言うシャルネの言葉にセシリアは内心で苦笑を浮かべた。


――使用人がセシリアを虐めていたと噂が広がる前に先手をうってきたわけか――


 おそらくこの後、シャルネも被害者の風を装い、使用人たちの独断でセシリアいじめが横行し、それをシャルネが食い止めたという美談が勝手に噂で広まるのだろう。


 この女はいつもそうだ。

 神殿の力を使って噂を自分の都合のいい創り上げ広め崇拝を集める。


 商人にとって情報は最大限の武器だ。

 それゆえその噂の真偽を確認し、誰がどういう意図をもって流すかという調査も商人時代のレヴィンは怠っていなかった。


 妙に早いペースで広範囲に広がる噂には少なからず広めるものの思惑があり、得をするものが存在する。

 そして神殿関連の噂は大体シャルネと懇意にしている神官達が発信源であることが多い。

 彼らは市民が興味をひくような下賤なエピソードもまぜ、巧妙に噂をひろめてセシリアを悪女に仕立て上げた。


 今回の記憶をなくしたセシリアにわざわざ領地まで会いにきて労わるというのも、シャルネにとってパフォーマンスにすぎない。


「お姉さまに嫌がらせをしていた侍女たちは兄がきちんと処罰しました。

 彼らは黒の紋をおされ二度と職につくこともかなわないでしょう。

 これで嫌がらせもできないはずです。何かあったら言ってくださいね」


 優しく笑うシャルネにセシリアも微笑んだ。


「ありがとう。シャルネ」


 そう言って見つめあう。


――今はまだ牙を見せる時ではない。この女を追い落とす準備を粛々と進めるまで。必ずこの女を地獄に引きずりおとしてやる。それまでせいぜい奢っているといい――


 二人は互いに微笑んだ。



★★★



『君に、探りをいれつつ、侍女たちの処分もちゃっかり自分の手柄にするとかなかなかだね彼女。手ごわそうじゃないか』


 馬車に戻るなり、メフィストが姿を現してセシリアに話しかけてきた。


『ああ、所詮はお嬢様でしかないがな』


『へぇ?』


『ああいう策士気どりの相手ほど行動が手に取るようにわかって操りやすい。

 何も考えていないがために行動に予測のつかない馬鹿よりよほど扱いやすい。あの女が勝ち誇れるのは今だけだ』


 そう言って、セシリアは窓の外を見つめた。


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