47話 貴方の望む未来を(4)
キラキラと光りが舞う。
聖女セシリアが悪魔に立ち向かい何かをした瞬間、あたり一面が光り輝き、世界を白く染めた。
そして目を開いた次の瞬間にはぼろぼろになった広場に、倒れ込むエルフの皇子と金色の聖女シャルネ。その上に光り輝く羽をもつ美しい青年がぷかぷかと宙に浮いていた。幻想的な光を放ちながら。
「聖女セシリア様だ!!!聖女セシリア様が天使を召喚して悪魔を打ち払われた!!!」
祭壇の上にいた、緑髪の神官が魔法で拡張しているのか、よく通る声で広場全体に響くように叫んだ。
とたん、静まり返っていた会場から歓声があがる。
「セシリア様万歳!」「彼女こそ金色の聖女様だ!!!」「セシリア様っ!!!」
沸く会場を少し高くなっていた広場から見下ろして、セシリアは座り込んだ。
会場では見に来ていた人々や、皇族や神の子エルフまでもがセシリアをほめたたえ拍手をしている。
そう、以前セシリアが望んだ光景がそこにはあった。
尊敬されて皆に慕われる聖女。
みんなに愛してもらえる金色の聖女。
レヴィンが命がけで用意してくれた、舞台を前にセシリアは涙がこぼれる。
――私、なんでこんなものに執着したんだろう――
小さいころは好きな子に一緒にいてもらうだけで十分だったはずなのに。
手に入れられないと失望していた家族を手に入れてから愛されたいという願いだけが肥大化していった。
大事な人に見向きもしないで、ただ愛される事を願った。
――それで、手に入れたものがこれって洒落にならない――
むなしい歓声と称賛の声に、セシリアは苦笑いを浮かべる。
けれど、彼が命がけで用意してくれた舞台だ。
演じなきゃ、誰にも好かれる心優しい金色の聖女様。
悪魔をも倒し天使を召喚した、歴史上はじめての金色の聖女。
彼がセシリアの願いを叶えて用意してくれた最高の舞台。
だから、私もそれに全力で答えなきゃ。
そう思って立ち上がろうとすると、
「……セシリアぁ」
悪魔化が解けてぼろぼろになったシャルネが、寄声をあげて、起き上がる。
「許さない!!なんであんたが賞賛をあびてるの!!その位置にいるのわ私よっ!!」
と、立ち上がり殴り掛かって来た。
その形相は悪意にみちていて、とてもではないが聖女とは思えない。
--ああ、ごめんなさい。レヴィン。やっぱり私、聖女様は演じられそうにないみたい。
そう心の中で謝ると、
「せしりあぁぁぁぁぁぁ」
と、殴り掛かって来たシャルネの顎下から容赦ない右アッパーカットをお見舞いするのだった。
★★★
『なんか下酷いことになってるけどいいの?』
ぷかぷか宙に浮きながら、天使になったメフィストが必死にかき集めたレヴィンの魂からこぼれた残留思念に話しかける。
メフィストの下では、「落ち着け!?」と必死になってセシリアを止めるディートヘルトと、なぜかよくわからないうちに参戦したレヴィンの部下の神官とシャルネが素手で醜く争っていた。
その戦闘に観客たちは「その悪女をたおせー!」と熱狂し、エルフ達はこそこそと撤収の準備を始めている。
傍から見ていると、どう見ても高貴な聖女様の誕生シーンとは思えない。
メフィストの問いにレヴィンの残留思念が嬉しそうにゆらりと揺れる。
『君が満足ならそれでいいや。でも酷いや。僕まで騙すなんて。
教えてくれればよかったのに。どうせ本気にさせるために知らせなかったっていうんでしょ?』
むくれて言うと、先ほどよりさらに小さくなったレヴィンの思念が小さく揺れた。
『ああ、ごめん、もうお別れだね。ねぇ、レヴィン。最後にいいかな?』
もう見えるのがやっとの大きさになった思念にメフィストは微笑んだ。
『もし願いが一つ叶うとしたら何を願うんだい?』
メフィストの問いにレヴィンの思念は少しだけ色を濃くしたあと――ふっと音をたて消え失せた。