40話 真実と嘘(1)
――まだ何か見おとしている――
レヴィンは自室にこもり考える。
ベッドで本を広げ、ページをめくる。
――もう一度悪魔について洗いなおさないと――
最近頻繁にメフィストに話しかけて気づいた事がある。
まったく返事をしない無反応な時間があるのだ。
(これが死にかけたことと関係しているのか?)
彼は悪魔だ。彼の言う事は100%信じてはいけない。
悪魔は悪気なく嘘を織り交ぜる。
善悪も関係なく、嘘をつかなくてもいいころまで嘘を交ぜる。
この間の説明も彼は100%真実を話していないだろう。
だから自分で調べる必要があるのだが悪魔に対する文献は数少ない。
悪魔召喚した時に読みあさった書物をもう一度洗いなおす事が必要だ。
その本とて100%真実を書いてあるわけではない。
書いたものの主観と知識不足ゆえの勘違いがどうしても入っている。
いままであった事実と文献から推測し、自分で答えを導かなければいけない。
何も知らない時と読んだものと、実態を知ってから読んだものとでは視点がちがってくる。
見落としを見つけられるかもしれない。
――人の命がかかっている、だから間違う事は許されない――
暗闇の中で出会ったセシリアを思い出す。
彼女は何か叫んでいた。
確かに声は聞こえなかった。
けれど――口の動きはいまでもはっきり覚えている。
あの時は意識がもうろうとしていて読唇術まで気がまわらなかったが、今は違う。
それにメフィストのうっかりと口を滑らせたセリフも気にかかる。
彼は悪魔らしからぬ愚痴をこぼした。
そして彼の愚痴に思い当たる節はあった。
よくよく考えれば自分はいままで重要な事を見落としていた。
何故こんなことに気づかなかったというほど重要な事を。
メフィストももしかしたら、思惑誘導系の何かが使え、あの時一度メフィストの供給とやらが切れたせいでその思惑誘導が切れたのかもしれない。
気を引き締めろ。
信じられるのは自分だけだ。
他人を信用しすぎてはだめだ。
最近人となれ合いすぎて気持ちにゆるみが生じていた。
初めの気持ちを思い出せ。彼女の望みを叶える。それが目的のはずだ。
――それに自分の推論が正しいとしたら、シャルネを陥れる計画を根本的に変える必要がある。
より、効果的にあの女を利用し、彼女のために死んでもらわないと――
ぐらりと視界がかすみ、レヴィンは思わず目をつぶった。
時折本を読んでいても眼がかすむことがある。
以前はなかった眩暈や息苦しさを感じる事も少なくない。
一度魂が肉体から離れたというのは思った以上にダメージがあるらしい。
勝負はエルフたちが天上より金色の聖女シャルネを迎えにくる、その日。
大観衆の中、聖女シャルネのプライドもすべてを地に落とし、金色の聖女セシリアを演出してみせる。
(それまでは何としてでも生き延びてやる。絶対に)