side セシリア (3)
『メフェスト……』
泣き崩れてるセシリアがメフィストを見ると顔をあげた。
その姿にメフィストはいらだちを覚える。
なんでこの女は泣いてるのだろう?
裁判でのシャルネの醜聞はそれは笑えるものだった。
金色の聖女は反応せず白銀の聖女だけに反応した天秤で、会場全体からシャルネに向けられた猜疑の目。
その時のシャルネの歪んだ表情。
全て自分の手のひらで踊らせていると奢り高ぶった人間が、地に落とされた時の絶望の顔。
あれほど滑稽で面白いものはなかったのに。
『なんで、泣いてるのかわからないな。彼のやった事をみていたんだよね?
君を虐め苦しめた憎い女の白銀の聖女で天秤が反応した時のあの顔を見ただろう?
演技するのも忘れてさ、酷い顔で、会場ドン引きだったじゃん。
少しくらいスカッとしなかったの?』
呆れたように言う、メフェストにセシリアは顔を横に振った。
『私はそんなこと望んで……』
『またそれ?』
メフィストがうんざりしたようにため息をついた。
せっかく彼が命をとして復讐劇を繰り広げても、この女はずっと望んでないと泣くばかりでメフィストはイラついてくる。
『いい加減にしなよ。じゃあ今更どうしろっていうのさ。
彼に復讐をやめさせれば、肉体のない彼は死ぬしかない。
見ただろう彼のミイラの映像。もう彼が現世に戻る術はない。
そういう契約だったからね。それとも君は彼に死ねっていうの?』
『ち、ちがいますっ!! 死ぬのは私でかまいません!だからこの体を彼にっ』
『反吐がでるね』
セシリアが言いかけた言葉に、メフィストが遮った。
『…‥え?』
『今更彼を思っているふりはやめなよ。
君は何度彼の差し出した手を振り払った?彼の忠告を無視した?』
顔を近づけて、言うメフィスト。
『それは……』
『それだけならまぁ、まだ仕方ない部分はある。
でもさ、君、よく彼の気持ちを知ったうえで毒を頼んだよね』
『……!?』
『ねぇ、どんな気持ちで彼に毒を頼んだの?死んだ後の彼の気持ち考えたことある?』
『……やめて』
セシリアが耳をふさぐ
『ああ、そうやって自分の非からは逃げるんだ。
結局君だって彼を道具としか見てないじゃないか、彼の気持ちなんてこれっぽっちも考えてなかった。
君のやっていること、シャルネやゼニスとどう違うんだい?』
『お願い、やめてっ!!!』
『正直に認めちゃいなよ、君だって彼を道具としか見ていない、だったらこの復讐劇を僕と一緒にたの……』
そこまで言いかけてメフィストの顔が驚きに代わる。
なぜかセシリアの魂が光りはじめたのだ。
『お願い、お願い、やめて』
そう言いながらいやいやと耳をふさいで首をふる彼女の魂が金色に輝きはじめる。
(まさか、今この場で金色の力をつくりだした!?)
『お願いだからやめてっー―――!!!!!』
声とともに、セシリアからまばゆい光が発せられ、一面が金色に染まるのだった。
★★★
一体何がおきたのだろう?
セシリアはただ茫然とその様子を眺めていた。
メフェストにやめてと叫んだあと、体が光った。
そしてメフェストは消え――。
なぜか現実世界のセシリアーーレヴィンが血を吐いた。
ディートヘルトの悲鳴に近い叫び声が聞こえ、意識が途切れていくのがわかる。
違う、違う、違う。
私がやりたかったのはこんな事じゃない。
何故金色の光が発動したの?
私は使い方すら知らないのに。
「でてきて、メフェスト!
彼はどうなっているの!?」
暗闇に叫ぶけれど、メフェストの声は聞こえない。
私がメフェストに攻撃してしまったからこうなってしまったの?
メフェストの姿を探して呆然と上空を見上げると、黒い空間の中を淡い光を放ち、ゆっくり何かが降りてくる。
黒髪の長身の男性。
その姿に見覚えがある。
そう――本来の彼、レヴィンだ。
「……レヴィン……。レヴィン!!!」
セシリアは黒い空間の中、彼に向って走り出した。