side セシリア (2)
ひもじい、さびしい。
幼い日。路地裏で震えてただ彼の帰りを待っていた。
風邪で意識がもうろうとする中、小屋の中から彼が帰ってきてくれないか、ただ見ていた。
はやく彼に会いたい。
病気になるといつも気弱になる。
人のぬくもりが恋しくなる。
ママやパパがいたら看病してくれるのかな?
朧気に思い出せるのはママの優しい手。
ママに会いたい――そんなことを考えていると、小屋の外からがやがやと話し声が聞こえた。
こんな橋の下に、人が?
また物を盗みにきた孤児の子たちだろうか?
そんなことを考えてのそのそと布団からでると、そこにはすごく綺麗な服を着た男の人が立っていた。
『探したよ。私の愛する娘セシリア』
そう言って男の人は微笑んだ。
それが私の父だった。
のちに私は公爵が私の父だと説明を受けた。
公爵家に引き取られた時、家族が出来た事が嬉しかった。
だから愛されようと必死に努力したけれど、母が卑しい身分ということでどうしてもなじめなかった。父は必死に優しくしてくれて愛してくれたけど、義母、兄と妹とは頑張っても距離をおかれてしまった。
そして父が事故で死んだことにより、私はますます公爵家から孤立してしまい、必死に兄と妹に好かれようと躍起になってしまった。
そんな時、彼は現れた。
幼い日にともに過ごした、少年レヴィン。
公爵家に拾われた時、父に捜索してもらったけど見つからなかった彼。
公爵の力をもってもしても行方が掴めないため、死んでしまったのではと説明をうけていた、レヴィンが私の前に魔道具を売る貴族相手の商人として現れた。
生きていると知って本当にうれしかった。
でも、もう私にとって彼は幼き共に過ごした友人でしかなかった。
『本当に今の状況でよろしいのですか?』
虐げられていた私に彼は何度も手を差し伸べてくれた。
けれど私はその手をとらなかった。
執着してしまったのだ。血の通った家族に愛されたいという想いに。
聖女として役目をはたせして立派な聖女になったなら、たとえ平民の血がはいっても貴族として認めてもらえて、愛してもらえる、良き家族になれると夢見ていた。
でも結果は――妹に力を奪われ裏切られた。
何故愛をくれる人を無視して愛をくれない人たちに執着してしまったのだろう。
あこがれていた血のつながりに執着してしまった。
そしてすべてを諦めたといいながら、復讐を望んでしまっている。
だから悪魔に体を乗っ取られた。
それが彼を苦しめる結果になっているのに。
何度、私の体にいるはずのレヴィンに叫んでも、彼に私の声は届かない。
粛々と自分を犠牲にして復讐しようとしている彼をみていることしかできない自分。
叫んでも、暴れても、泣き喚いても届かない思い。
その事実に胸が張り裂けそうになる。
きっと彼も同じ思いだったのだろうと。
彼が何度、私に手を差し伸べてくれても私はその手をとらなかった。
彼の声を無視し続け、ずっと手を振りほどいて逃げてきた結果がいまここにある。
どれくらい泣いただろう。
『また泣いてるんだ?』
聞きなれたうんざりした声に私は顔をあげた。
そこには――明らかに不機嫌な悪魔が立っていた。