29話 神議会(1)
「セシリア・シャル・ルーゼルト。
大神殿より伝令です、貴方を魔族との取引容疑でその身を預かるようにとの伝令がきております」
ゴルダール領の情勢が落ち着いて一年と少し経った頃、突然神殿の伝令兵が訪れ、告げたのがそれだった。
伝令兵の出した書類には『魔族と取引をし、使用人を殺した罪』とはっきりと記載してある。
「そんな一方的な伝令に従う義務はない!彼女がそんなことをするはずがあるまい」
伝令兵の通達にディートヘルトが低く答えた。
確かに神殿の権威は大きいが、さんざんゴルダール領側の聖女の派遣要請を無視し、ランベールを使い陥れようとした神殿に従う義務などどこにもない。
「拒否権はありません魔族との契約は禁呪中の禁呪、いくら白銀の聖女とて許されることではありません、場合によっては神殿は武力行使すら辞さない大罪です」
そう言って伝令兵は、通達の巻物をしまう。
「それなら我らは迷うことなく、抗議の刃を抜くだけだ。神殿だからといって……」
ディートヘルトが言いかけたそのセリフをセシリアが手で制す。
そして上目遣いにディートヘルトを見つめると、まるで大丈夫と言うかのようににっこり微笑んで伝令兵にむきかえる。
「まず、何故私にそのような容疑がかかっているのか教えていただいてもよろしいですか?」
「レヴィン・ランドリューという人物を知っているだろう」
「はい、彼は幼馴染です。すでに命を落としてしまっていますが……」
「この男が魔族と契約をし、命を魔族に捧げていた」
その言葉にセシリアが息を呑む。
「確かに彼は私が白銀の聖女の認定をうけた少し後に死亡したと聞いております。
ですが魔族と契約したなどとは聞いておりません。原因不明の心不全と聞いております」
「それは表向きの発表だ。彼は魔族と契約し、魂を捧げて命を落とした。
魔族と契約する魔方陣の上でミイラ化して見つかった」
「何故、そのような愚かな事を……」
「貴方のためなのではありませんか?」
「私のため?」
「魔族と契約する契約の紙に、聖女様の名があった。
そしてこれが公爵邸の貴方の部屋から見つかったものの絵です。見覚えがあるでしょう?」
伝令兵はいいながら、紙にかかれた宝石のようなものを見せる。
「これは?」
「これは魔族の力を譲り渡す魔石です。
それが貴方の部屋から使用された状態で見つかりました。
我々は貴方を虐げていた使用人たちを殺すのにつかったのではないかとみております」
「ありえない!
もし仮にその仮説があっていたとして、そのような重要なものを公爵邸に残しておくはずがない!
ゴルダール領にもってくるはずだ!!公爵邸ならあとからどうとでも細工できる!!!」
「我々は、セシリア様が魔族と契約の宝石の効果を本気にしておらず、戯れで使用したのではないかとみております。
だから気にしていなかった。使用人たちの死亡がわかったのもセシリア様が帝都を離れてからです」
「言いがかりだ!!話にならない。我々はセシリアのためなら戦う意思がある」
ディートヘルトが声を荒げるが
「構いません。行きましょう」
セシリアが答える。
「……なっ!?」
「安心してください。ディ。
私はそのような事をしていませんし、宝石の存在すら知りません。
身の潔白を証明してみせましょう」
「裁判をとりおこなう神議官は神官だ!?
彼らに都合のいい判決を出すに決まっている!
裁判に出た時点で負けが確定しているものだ!行かせるわけにはいかない!!」
「私を信じてください。ディ」
そう言って、セシリアはディートヘルトを見つめる。
この一年でだいぶ距離を縮め、お互い気心の知れた仲になっただけに、セシリアの頼みをディートヘルトは断れない。
「……何かお考えがあるのですね?」
「はい。無謀な事はしません。勝算のない戦いはしないタイプです」
その言葉にディートヘルトは頭をがしがしとかいて
「……わかりました」
苦虫を噛み潰したような顔してしぶしぶ納得する。
「それでは、了承でよろしいのですね?」
「はい。ですが、神議長の指名と、公開裁判に応じる事。
それが応じられないというのなら私はこの地をでません」
そう言ってセシリアは微笑んだ。