22話 白銀の聖女と伝説と(4)
騎士団は魔法使いの結界で魔力を押し殺しながら西の森の中心部に向かう。
確かに魔物たちは互いに争い、その攻撃のターゲットを騎士団に向けてくることはなかったが、その巨体故、騎士団の何人かは戦いに巻き込まれ、馬から落とされて踏みつぶされる者、魔物の放った波動の巻き添えで一瞬で灰になる者もいる。
それでも歩みを止める事はできない。
「ひるむな!!!今この時を逃したら我らに勝機はない!!!」
そう、聖女セシリアの予測が正しいなら魔瘴に意思があり、次はもっと慎重になるだろう。
今回のような同士討ちをしないように対策をたててくるはずだ。
魔物が密集した地帯を抜けると、森には簡単に踏み入れられた。
どうやら魔瘴核は全戦力を西の砦に向けていたようである。
だが、西の森は最初から森に自生していた魔物がいるため、魔力の察知されない結界を張っていても魔物が襲ってくる。森の中の魔物は長くこの世にとどまり五感を獲得しているからだ。騎士団のうち数人がその森の魔物達を足止めするために、一人、一人とセシリアを護衛する列から抜け、魔物達と戦い始める。
「あれが魔瘴核」
生い茂る木々がまるでその物体を避けるように、森の中に不自然にできた、空間があった。
その中央に黒い霧を巻きながらまがまがしい大きな球体が鎮座していた。
ディートヘルトとセシリアを乗せた馬の後ろには複数の魔物が迫っている。
「これをどうする!?」
後を追ってくる魔物に、矢を放ち威嚇しながらディートヘルトが問う。
すでに手綱はセシリアに任せ、ディートヘルトは戦うことだけに集中している。
「あとは私に任せてください!貴方はここで魔物の足止めを!!!」
「わかった!! それではあとは任せる!!」
叫びながら馬から飛び降り、ディートヘルトは槍をもち魔物の群れに飛び込んだ
セシリアは馬にのったまま魔瘴核に走る。
文献では、核をまとう結界は白銀の聖女でも破壊できた。
問題は、結界の中心にある核そのものだ。
はるか昔の神殿と魔瘴核の戦いではどうしても核だけは『白銀の聖女』の力では壊せなかった。
『で、どうするつもりだい? 魔瘴核は暗黒の力。白銀の聖女の力じゃ壊せないけど』
一人になったのを見計らってメフィストが頭に直接話しかけてくる。
『壊すのは俺じゃない』
『へぇ、やっと悪魔の力を使う気になった?
まぁこの規模の魔瘴核の破壊となると人間でしかない君の魂は完全に消滅するけど』
と、うんざりしたようすでメフィストが言う。
『何故俺が魂をすり減らさないといけない? 俺はそんなことに契約の力を使う気はない』
『それじゃあどうするつもり?』
『お前自身がいったはずだ、暗黒の力を直に浴びたらお前も無事にすまないだろう。
下手をしたら消滅だ。
結界を壊したら、暗黒の力が外にあふれ出す。
それ故お前に選択肢は二つしかない。滅びるか、壊すかの二つに一つだ』
『……もしかして、僕まで利用するつもり?』
セシリアの言葉にメフィストが頬をひきつらせた。
『結界は私が破ってやる!あとはお前の出番だ、消えたくなければ力をかせっ!』
『あきれた。僕が拒んだらどうするのさ』
『一緒に滅びてやろう。
守ると言いながら守れず、復讐すると誓ったのに復讐すらできず犬死するのもある意味俺らしい最後じゃないか』
そう言って笑うセシリアの顔には迷いはない。
『君、策略家だと思っていたのにとんだ賭博師だね』
『何とでも言え、行くぞ!メフィスト!お前風の冗談で言うなら初めての共同作業だ!』
セシリアが魔力核の結界の一点に集約させた聖女の力を全力でぶち当てる。
『はいはい。大事にしてくださいねっと!!!』
その力で敗れた結界から、メフィストが力を注ぎ込んだ。