21話 白銀の聖女と伝説と(3)
「ディートヘルト様どういうことですか!?」
城門に出陣の準備に足早に歩くディートヘルトに騎士団長が問いただす。
二人のやりとりは聞いていたがさっぱり意味がわからなかったのだ。
「よく思い出せ。我ら騎士団の調査結果だ。
魔瘴から発生したばかりの魔物は視力や聴力がなど五感の能力が極端に弱い。
この世界のなれていないためだ、そのため敵か味方を、魔力で判断している。
聖女セシリアは大規模な広範囲加護で敵に聖女の魔力をまとわせ、同士討ちさせるつもりだ」
「そんなことが可能なのですか!?」
「聖女の力は魔と相反する光の力だ。
光の力をまとった何かが近づけば必ず、そちらを攻撃する。
魔瘴から生まれたばかりの魔物なら可能である可能性が高い。そ
して魔物を大量発生させた魔瘴は結界の力も弱まっているはず。叩くなら今しかない」
「グレン」
「はっ」
名を呼ばれた騎士団長が高揚した顔で答える。
「もしかしたらあのお方は本当に我らを勝利に導いてくれる女神かもしれない。
全力で彼女をサポートし、魔瘴核を破壊するぞ!」
「はっ!!!」
★★★
「きしゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
聖女の加護を全身に浴びた魔物達が互いに敵と認識して争いはじめる。
セシリアはそれを確認して、見張り台から降りると、ディートヘルトの待つ城門へと駆け出す。
聖女の加護もそう長時間加護がきくわけではない、そして一度見せた技は魔瘴核が学習する恐れがある。
同士討ちを恐れ複数呼び出すのをやめ、強力な魔物を一匹呼び出すなど対策をしてくるかもしれない。
チャンスはいまこの時一度だけ。
「聖女様!こちらです!」
直ぐに城門から出陣できるように馬に乗ったままのディートヘルトが手を伸ばし、セシリアはその手をとるとそのまま彼の胸に飛び込んだ。
そして彼の前に座り、ともに手綱をとる。
「本当によろしいのですか?ここから出たら最後、生きて帰れる保証はありませんが」
「死を恐れているのなら、意地でも公爵家からでませんでした」
「ですが何故ここまでゴルダール領のためにお力添えをしていただけるのです?」
「神殿は何もわかっていないからです。
神殿はゴルダール領を落されても防衛線を下げれば問題ないと思っています。
ですが魔物が闊歩する領地が増えるほど魔瘴核はその地を黒に染め、力を強めてしまう。
ここを落されてしまえば、魔物はその勢力図を広げてくるでしょう。
先ほどの聖女の加護も、あくまでも沸いたばかりの魔物だから、効力を発揮したにすぎません。
もしこの地に慣れ親しんでしまえば、魔物の五感も鋭くなり、人類の手に負えなくなります」
「貴方は本当に聡明なお方だ」
「褒めていただくのは、全てが解決してからにしてください。
今は目の前の脅威を取り払うまでです。
魔導士たちに魔力結界を張らせて私たちの魔力が漏れないようにしてください。
魔瘴核まで私を連れて行っていただければけっこうです」
「核は一人で対処できると? 魔瘴核は金色の聖女しか壊せないはずです」
「言葉は正確にお願いいたします」
「というと?」
「今まで破壊したのが『金色の聖女』のみだけだっただけです。
私が歴史上初めて白銀の聖女として破壊してみましょう」
勝ち誇ったように胸を張って言うセシリアにディートヘルトは一瞬言葉につまり。
笑いを必死にこらえたあと耐え切れなくなったのか大声で笑いだす。
「……何か?」
急に笑い出されて不貞腐れたのかちょっと頬を膨らませ、セシリアが抗議の目を向ける。
「い、いや、失礼。
ではこれから歴史に名を刻むであろう白銀の聖女様の雄姿を見せていただきましょう」
「そうですね。未来永劫語り継いでください」
「ええ、歴史的瞬間を期待していますよ」
ディートヘルトがにやりと笑う。
「それでは、一緒に歴史に名を刻みに行きましょうか」
「行くぞ!!聖女様をお守りしろ!!!! 出陣!!!(デルシャール)!!」
ディートヘルトの言葉ともに城門からディートヘルト率いるゴルダール騎士団の精鋭部隊が出陣するのだった。