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11話 哀れなマリオネット (3)

「第二皇子とセシリアの婚約が解消されたようですね」


 大神殿で、優雅にお茶を飲むシャルネに枢機卿が話しかけた。


「そうですね。困りましたわ。できれば神殿とは関係ないところにいていただかないと」


 シャルネが前の席で優雅にお茶をたしなむ枢機卿にため息をつく。

 神殿では代々、血筋の悪い金色の聖女が生まれた場合、血筋のいい娘の白銀の聖女と金色の聖女の力を入れ替える儀式が存在していた。


 人間が神の使いであるエルフの皇族に嫁に迎え入れられる。


 それは大変名誉なことで、貴族のよい血筋のものとエルフとの子どもが生まれると、高い加護を得られ、その子の血を引くこと高い魔力を得る事が出来た。

 貴族の魔力を子々孫々維持するためには定期的にまざるエルフの血は必要不可欠で、魔力をもたない平民の血が混ざる事を神殿は恐れたからだ。


 金色の聖女の力を入れ替える事ができるのは白銀の聖女のみ。

 それゆえ、平民や平民の血の混ざった貴族が金色の聖女だった場合、血筋のいい白銀の聖女と、儀式をして力を入れ替え、力を奪われた金色の聖女は記憶を奪い、中央神殿から遠ざけられた。


 セシリアももしものために中央神殿の金色の天秤が反応しないように、地方に飛ばす必要がある。

 だが今回セシリアが厄介なのは半分貴族の血が混ざっているということだ。


 中央教会から離れたところで活動させたいが、貴族がゆえ、僻地に追いやることもできない。


「そういえば、ゴルダール地方から『金色の聖女』の派遣要請が何度もきているとか」


 シャルネがティーカップの淵をなぞりながら言う。


「ですがあそこはもう、魔瘴が広がりすぎて、金色の聖女を派遣するにはあまりにも危険すぎ、神殿はあきらめております。

 ゴルダール領の領主が諦めその地をすて、前線を下げるしか道はありません。……まさか?」


 枢機卿が目を細めた。


「その通りよ。そこにセシリアを派遣しましょう」


「ですがそのようなことが可能でしょうか? セシリア様はルーゼルト家のものです。

 死地とわかっている場所の派遣は公爵家が派遣を断れば、我らも無理強いはできません。

 シャルネ様が直にセシリア様に頼むのは危険が伴います。どうするおつもりですか?」


 枢機卿の言葉にシャルネが嬉しそうに笑う。


「断りにくい状況を作ればいいだけ。断られたらならまた別の手を考えればいいだけだわ」


★★★


「皇族から謝罪?」


 あれから10日後。ゼニスが皇族からの書状をもって、セシリアにそう言った。


「ああ、第二皇子は神殿の神議会で裁かれる事になる。その報告と謝罪をしたいと」


「それで私を城を招くのはなぜでしょう?」


「陛下直々に謝罪したいそうだ」


「……なるほど。考えさせていただきます」


「詳細はここに記載してある。君が無理そうなら言ってくれ。私の方から断ろう」


「ありがとうございます。お兄様」


 書簡だけを置いてゼニスは部屋から出て行った。


『どういう風のふきまわしだろうね。自分の方から断るとか。

 もっと前からやっていればこの体の持ちセシリアちゃんも死ぬことなんてなかったのに。


 ……って無言で人を殺しそうな目で睨むのやめてくれないかな。怖い♡』


『いちいち余計な事は言わなくていい。それと彼女にその呼び方はやめろ』


『ちゃん呼びくらいで嫉妬とか君怖い。君愛が重くて振られるタイプじゃない?』


『……死にたいか?』


『君に殺されるならそれもいいかもしれないね』


 にっこり微笑みながら言うメフィストの言葉をセシリアは無視して手紙に目を落とす。

 登城を命じられた日は10日後。

 セシリアがレヴィン時代に雇っていた情報ギルド員と繋ぎをとり得た情報とあることが一致した事に満足し、笑みを落とす。


『ずいぶん嬉しそうだね』


『ああ、どうやら釣れたようだ。目標の獲物がな』

 

 言いながら持っていた紙を破り捨てた。

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