第51話 副会長の1日②
放課後
近々行われる部活連と委員会連の会議のために色々としていたら下校時間になってしまっていた。
茜達には先に帰ってもらっているので今は一人だ。
ひよりに今から帰ると連絡を入れて歩いているとある人物が待っていた。
「おや、神藤君。偶然ですね」
副生徒会長の神崎紫音だ。
彼女は選挙管理委員会を兼任している。
今日は委員会の方に顔を出していたようだが……
「丁度、こちらも委員会連合会議の準備がひと段落ついたところです。ご一緒しても?」
本当に偶然なのか疑いたくなるが、特に断る理由はないので縦に首を振った。
「神藤君、会議の準備は順調ですか?」
「まぁ、ぼとぼちだな。というかなんで副会長の俺が委員会連合と部活連合の会議に出なくちゃいけないんだ?」
普通は生徒会長である茜が会議に出るものだぞ。
しかも、最初は推薦枠の副会長だったはずなのに、今の俺は副会長兼部活連合総長兼委員会連合総長というめちゃくちゃ長い肩書きになっている。
こんなの草しか生えんわ。
「それは簡単です。あの人たちを束ねることができるのはあなたしかいませんから」
部活連及び委員会連の長達は全員日本でもトップクラスの権力を持った家柄の生徒達だ。そして全員がその家柄にふさわしい能力を有しており、学園内でも生徒会並みの影響力を持っている。
あの葵さんでさえも会議の前日は緊張で胃がキリキリしていたらしい。
「新条さんや古宮さんが出たとしても場を支配できずに混沌とするだけでしょう。正直、彼らが神藤君以外の人の言うことを素直に聞くとは思いませんし」
「それはお前も含めてだけどな」
「ふふふ」
「いや、ふふふじゃなくて」
そんな雑談をしながら校門を出るとクソ長い白のリムジンが止まっていた。
「よろしければ、家の前までお送りしましょうか?」
「いいのか? それじゃ、お言葉に甘えて」
紫音のご厚意を受け取ることにし、リムジンに乗る。
リムジンの中は横に伸びている長ソファ、長テーブルに飲み物、TVが付いていた。
相変わらずのVIPさだな。
「どうぞ神藤くん」
リムジンに乗った瞬間紫音に隣に座るよう促されたのでそれに従う。本当に車の中なのかと疑いたくなるようなふかふかなソファーだ。
「ノンアルコールスパークリングワインでも飲みますか?」
「……いただきます」
チンと乾杯し、ノンアルコールスパークワインを飲んでいるとスマホが振動する。
ん、茜からか。
『それじゃあ、明日は予定通りによろしく!! 忘れてないわよね!?』
……明日、俺は茜と一緒にどこかに遊びに行く。
どこに行くのかは茜が決めるとのことなのでどこへ行くのかは俺も知らない。
あ、しまった。既読をつけてしまった。家に帰ってから返信するつもりだったが、しょうがない。今してしまおうか。
じゃないと『なんで既読スルーするのよ!?』とか言いながら通話してきそうだし。
「そういえば、明日は新条茜さんとのお出かけですね?」
俺の様子を見て察したのか紫音はすっと目を鋭くさせながら言ってきた。
「……よく知ってるな」
「ええ、本人が楽しそうに話していたので」
紫音はそう笑いながら答えた。
一見、いつも笑顔に見えるが俺にはわかる。今の紫音は機嫌が悪い。いや、さっきまでは悪くなかった。機嫌が悪くなったのは茜の話になってからだ。
あいつ……そんなに紫音に嫌われていたのか?
「時に神藤君」
「は、はい」
思わず敬語になってしまった。
「私とあなたはパートナー。でしたよね?」
「その通りです……」
「そうですよね? では、私を労うのもパートナーである貴方の役割では?」
「え? そうなの……いや、そうですね。僕もそう思います」
「そうでしょうそうでしょう……では、失礼します」
紫音はそう言いながら靴を脱ぎ、俺の膝に頭を置いてソファーに寝転んだ。
「神藤君?」
俺と紫音は言葉を交わさずとも意思疎通を図ることができる。
その証拠に紫音は言葉を交わさずとも俺の意図を汲んでくれる。
しかし、それは紫音だけではない。俺自身も言葉を交わさずとも紫音の意図をある程度汲むことができる。
「……今日も1日お疲れ様。ちゃんと見てるから。今度は最後まで」
頭を撫でながら労いの言葉をかける。
「……っ。稚拙な言葉と行動ですがいいでしょう」
どうやら正解だったみたいだ。見るからに紫音の機嫌が良くなっている。よかった……本当によかった。
それにしても紫音の髪……スゲーさらさらだな。どんなシャンプー使ってるんだろ。
「神藤君、明後日の予定は空いていますよね?」
なんだか、ほぼ決めつけているような言い方だけど、明後日……日曜日か。
「特に予定はないかな」
「今、私はあなたに労わられてします。私たちはパートナーですから私も神藤君を労わらければなりません。そして偶然にも互いに日曜日は暇なので、私が1日かけて労って差し上げます」
「ど、どうやって?」
「そうですね……例えば、モルモットやワカウソにドクターフィッシュなどに触れ合える動物園とか?」
「え……何それめちゃくちゃ行きたい」
「ふふ、では決まりですね」
どうしよう。普通に楽しみになってきたぞ……
「さて、到着したようですよ?」
紫音が起き上がった瞬間、リムジンのドアが開かれた。
「あ、日曜日一つだけリクエストあるんだけどいいか?」
「……しょうがないですね。労うといいましたし」
「昼ご飯でも朝ごはんでもどっちでもいいからさ、たまごサンドが食べたい。手作りのやつ」
「ああ、そう言えば……何度か振る舞ったことがありますね。そんなに好きでしたっけ?」
「好きというか……紫音が作ったたまごサンドが好きなだけでそれ以外のたまごサンドは別に」
そう言うと紫音は驚いたように目を大きく見開いた。
「……ほんと、そういうところですよ」
紫音は顔をぷいと背けた。
深夜
「……ふう、そろそろ寝るか」
現在深夜3時、俺は双葉と通話していた。
『えー明日学校休みじゃん。まだまだいけるって。茜とのお出かけは昼からなんでしょ?』
え、待って。その情報知らせすぎじゃない?
「いや、流石にそろそろ寝ないと明日に響くだろ」
『そうだけどさぁ……むーイツキは私と茜どっちが大切なの!?』
「なんか彼女みたいなこと言い出してきたんだけど……」
『まぁ、冗談は置いていて、寝坊でもしたら大変だもんね。そろそろお開きにしよっか』
「んー……お?」
『ん? どうしたん?』
「いや、今伸びしたら窓の外が見えてさ……」
『うん』
「月が綺麗だなって。双葉も見てみろよ。今日は満月だぞ?」
『………………』
「双葉?」
返事がない……
『あーうん。今見た。満月だね』
ああ、返事がなかったのはベランダに出たからか。
『月はずっと綺麗だよ。じゃ、おやすみ〜』
「おやすみ」
ふぁ〜と大きなあくびをしながら通話を切った。