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第50話 副会長の1日




 朝


 生徒会副会長 佐藤一樹の朝は早い。

 早朝6時セットしておいたアラームが鳴り響く。今日は校門前での朝の持ち物検査がある日だ。


 体を起こさなくては……起こさなくては……


 ……どうして朝早くに学校へ行って持ち物検査とかしなくてはならないんだろうか?


 普通さ、こういうのは風紀委員会がやりべきだよな? あー眠たい。双葉と3時までゲームとかしてたからまじで眠い。睡眠が足りてないー


 あ、もうだめだ。瞼が重たいー



「せんぱい、起きてください。朝ですよ」



 二度目をしようとする俺を聖女様のモーニングコールが止めた。

 滲んだ視界に、窓から差し込む陽光に淡く照らされたひよりの姿があった。

 前屈みの体勢で俺の体を揺すってくる。

 


「……あと5……10分」


「だめです。これでも時間ギリギリなんですから、さっさと起きてきださい。今日の朝ごはんは先輩の好きなだし巻き卵ですよ」


「……顔洗って来ます」


 のそのそと重たい体を起こし洗面所で顔を洗う。

 少しだけ意識が覚醒した……気がする。


「さ、朝ごはんできてますよ」


「……なんか、今日のひよりは気合いが入ってるな」


「そうですか? まぁ、今日のペアーは先輩ですから」



 なるほど、俺が頼りないから自分がしっかりしないとみたいな感じか。



「その顔は確実に勘違いされてますね……」


 ひよりはそう言いながらも呆れた様子で食卓についた。

 

 今日は焼きしゃけと味噌汁とだし巻き卵と納豆だ。

 

 こうして朝起こしてもらって、朝ごはんを作ってもらうようになったのは生徒会に入ってから……いや、俺が合鍵を渡してからか……


 合鍵を渡した時『毎朝起こしに来ます』 とやる気満々だったひよりに冗談で『じゃあ、ついでに朝ごはんも頼むよ』と言ってしまったからだ。


 まさか、両方とも本当にしてくるとは……


「……なんですか? 私の顔ばかり見て。何かついていますか?」


「いや、なんか……こうしてひよりが隣にいる朝が当たり前のようになって来てるなと」



 そういうと何故かひよりは目を大きく見開いた。



「……じゃあ、その当たり前を絶対に手放さないでくださいね?」


 ひよりはそう言いながら淡く微笑んだ。




 昼休み



「あれ? いっくん? どうしたの?」


 昼ごはんを食べながら業務をしようと生徒会室に来たら葵さんが居た。

 これまではいてもなんら不思議ではなかったのだが、今はもう生徒会長は茜になっており、今の葵さんは生徒会長代理だ。昼休みまでここに来る理由はないと思うのだが。


「葵さんこそなんでここに? 今は昼休みですよ」


「………………」



 え? 無視ですか?



「……あーちゃんはなんでここに? 今は昼休みだけど」



 そういうと機嫌が良さそうに笑い「それはねー」と話始める。



「茜ちゃんの引き継ぎの準備をしてたんだよ」



 ……別に昼休みを使ってまでする事ではないのでは?


「私も引き継ぎの時は苦労したからさ、こういうのは早い方がいいの。いっくんはそんな事なかった?」


「……俺の時か? そうだな……」



 中学の頃を思い返してみるけどあんまり苦労した記憶がないな。



「あはは……その顔は別にって感じだね。隣、座りなよ」



 葵さんは少し移動してとんとんとソファの空いているスペースを叩き、俺に座るよう催促してきた。


 隣に座り、弁当を食べながら実務に取り掛かった。



「……いっくんちゃんと寝てる?」



 丁度実務がひと段落した頃、葵さんが俺の顔をじーと見つめてきた。



「今日は……3時間くらいしか寝てない」


「また双葉ちゃんと遅くまでゲーム? ちゃんと寝ないと体調崩しちゃうぞ?」


「いや……ゲームもしたけど……遅くなったのはリアルタイムでアニメ見て感想会をしたから」


「へーそれって楽しいの?」


「めちゃくちゃ楽しい。まぁ双葉が相手だからって言うのもあるんだろうけど」


「ふーん……」



 少し不機嫌そうに右手を伸ばし俺の頬に触れた。そして小悪魔的な笑みをする。



「そうだ。良いこと思いついた」



 いや、その顔は絶対に碌でもないことだろ。



「今のうちに寝ちゃったら? ここで」



 やはり碌でもないことだった。



「……いや、そんな不真面目なこと言っていいのか?」


「もう私は生徒会長じゃないもーん」


 しかし、その提案は願ってもないことだ。このままでは授業中に寝落ちしてしまう可能性がある。


 俺は仮にも碧嶺学園生徒会副会長。そんなことをしてしまっては他の生徒に示しがつかない。


 ……まぁ同じ生徒会の双葉は1限目から爆睡してたけど。



「……それじゃ、お言葉に甘えて」


「……ん」



 ? なぜ葵さんは自分の膝をぽんぽんと叩いているのだろう?

 寝たいから早く退いて欲しんだけど。



「早くしないとお昼休み終わっちゃうよ?」


「あの……まさかとは思うけど」


「膝枕。してあげるよ昔みたいにさ」


「じゃ、よろしくお願いしゃす」



 上靴を脱ぎ、ニヤニヤしている葵さんの膝に頭を置いてソファーに寝転んだ。



「えっ? ちょっ!? ぴっ!?」



 いつもの俺なら断っているところなんだけど……今の俺は睡眠不足。寝るためなら何でも受け入れるよ。


 それに膝枕してもらった方が睡眠が深くなるそうだし、こうなるのも仕方ないね。(思考放棄)



「……なんか、あーちゃんの膝は懐かしい感じがして落ち着く」


「え!? あ、あ、そ、そう!? あはは……!!」



 あわあわしている様子の葵さんを見ながら瞼を閉じた。




 カシャ、カシャ、カシャ。


 何かシャッターを切る音がする。その音で意識が覚醒した。



「……あ」



 目を開けると悪戯がバレてしまった子供のような顔をしている葵さんがスマホで俺の寝顔を激写していた。



「……シャッター音で起こしてあげようかと」


「いや、それは流石に無理があるでしょ」



 全く、人の寝顔を撮って何が楽しいのか。

 まぁ、この人のことだからからかうネタにするつもりなのだろう。時間をみるとあと5分で授業が始まる。そろそろ教室に向かわないと。



「その写真、門外不出にしてくれよ?」



 別に寝顔を撮られるくらい構わないけど、他人に見せるのは流石に抵抗があるからな。



「え? だ、大丈夫! 誰にも見せるつもりないよ。この写真は私の……私だけのものだもん」



 葵さんはスマホを握り締めながらそう言った。

 


「あ、そうだ。この写真待ち受けにしてもいい?」


「絶対にやめてくれ」


 





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