第48話 パートナーとの帰り道
「悪いな。こんな時間まで付き合ってもらって」
「いえ、構いませんよ」
俺と紫音は日が暮れてしまった廊下を二人で歩いていた。
ここにいる生徒はもう俺と紫音しかいないだろう。あとは先生くらいか。
新生徒会が発足されて間もないために色々と多忙だ。
部活動の予算割り当て、各学校行事の企画・運営等業務は多岐に渡る……それに加えて有名無実化している部活動の管理及び、各委員会の仕事の割り振りもしなければならない。
ぶちゃけ、やらなければならない事が多すぎる。
会長経験のあるひよりと副会長経験のある茜と紫音。そして経験はないが数字の仕事が優秀な双葉。
今のメンバーだからこそ、ここまでうまく回っているところがある。
特に会話もなく下駄箱で靴を履き替え、校門を出る。
普通なら沈黙からは気まずさが生じてしまうものだが、紫音とはそうはならない。沈黙でさえも心地よさを感じられるのはそれくらい関係が構成できている方だろう。
いつもなら紫音の送迎車が待機しているはずなのだが今日は見当たらない。
「折角ですし、二人で歩いて帰りませんか?」
そんな提案を受けた。
「神藤君、これを」
二人で桜坂を降りていると紫音からあるものを手渡された。
これは……招待状か。
「今度、神藤家でパーティーが行われるそうです。それはその招待状ですね」
「……ちなみに誰からだ?」
「あなたのお父様である宗一郎様からです」
「……あのクソ親父からか」
だったら断る一択だな。
そもそもパーティー自体財界のトップとか特権階級の人達ばかりで疲れるだけだ。おそらくクソ親父も出席するだろうし、会ったら絶対副生徒会長になったことを突っ込まれる。
「ちなみに、妹の一花ちゃんですが無事中等部の生徒会長になられたそうですよ? その一花ちゃんもこのパーティに出席するそうです」
「……行かないわけにはいかなくなったじゃないか」
おそらくクソ親父は俺に招待状を送ったことを一花に言っているはずだ。ここで俺がパーティに参加しなかったら兄しての好感度が暴落どころではない。
ただでさえ、低いのにこれ以上好感度が下がってしまったらもう兄とすら認知されなくなる。
絶対にそこまで計算してのことだな。
俺の思考が完全に読まれている。
「……ちなみに紫音は出るのか? 招待状届いているんだろ?」
「そうですね……私としてはどちらでもいいんですが……おやあれは」
紫音の視線の先にスタバーがあった。そして無言でこちらを見てくる紫音さん。
「……奢らせていただきます」
「ふふ。では行きましょうか。私はチェリーフラペチーノがご所望ですよ?」
早速スタバーに入り、買ったチェリーフラペチーノとシフォンケーキを受け取って席に座った。
「ふむ……チェーン店ではありますが、中々侮れませんね」
そう言いながら美味しそうに隣でチェリーフラペチーノの飲む。
「さて……次はケーキですが。神藤君、どうぞ」
そう言いながら俺の顔を見てあーんと口を開けた。
「……どうぞとは?」
「見て分かりませんか? 食べさせて下さいと言うことです。今日の私に対する感謝の言葉を述べながらでも構いませんよ? いえ、述べるべきです」
いやいや、そんなこと周りに見せつけたいバカップルでもやらないぞ。
「……なんだが、急にパーティに参加する気がなくなりましたね」
「今日はありがとうございます。大変感謝しています。紫音さんがいてくれて本当によかったです」
シフォンケーキを紫音の口に運び、感謝の言葉を送る。
こんなことをしてると多くの視線が集まるわけで……
視線の質は様々だった。嫉妬、好奇心混じりのものもあれば羨望の眼差しはもある。
まぁ、紫音の類稀な容姿を考えるとそういう視線が集まるのは無理もないだが。
『あそこのカップルすごいな……』
『彼氏さん完全に尻に敷かれてるね』
『お熱いというか、あそこまで行くと……バカップルだね』
一体何なんだこの羞恥プレイは。
周りがこちらを見ながらざわついているが、紫音はそれをどこか楽しんでいるようだった。
「ごちそうさまでした。今の私は大変機嫌が良いです。なのでパーティーに出席することにしましょう。まぁ、元々参加するつもりでしたが」
「参加するつもりだったのかよ!?」
ちょっと待ってくれ、あのスタバーのやりとりは一体なんだったんだ? ただ恥ずかしい思いしただけじゃねぇか……!!
「ええ、そうですけど? なんですか? 私は別に参加しないとは言っていないですよ?」
確かに言ってなかったけど……!!
「ふふ……今日は久しぶりに楽しかったです。では私は迎えがきているので」
そう言いながら送迎車に向かって歩いていく紫音。
「……まさか、最初からチェリーフラペチーノを奢らすのが目的だったのか?」
「さぁ? なんのことだか分かりませんね」
そう言いながら紫音は不敵に笑った。