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第44話 ぼっちの誘い方(後編)




 こんにちは皆さん。佐藤一樹です。

 

 最近、仲良くしている女友達にいきなり壁ドンされたて屋上へ連れてこられました。


 今、大変困惑しています。


 どうすれば良いんですか? 誰か教えてください。


 いや、現実逃避している場合じゃないな。


 屋上ということは一緒に昼ごはんを食べるんだろうけど、明らかに双葉の様子がおかしい。



「………………」


「………………」



 先ほどから互いに沈黙が続く。

 わー小鳥のさえずりが聞こえるよー


 初対面だった時はともかく、双葉とは色々とあって仲良くなっている筈なのに……なんだ? この空気も重さは……?


 また何か問題があったのか? それともあの時払拭しきれなかった何かが……?



「あのさー」



 沈黙を消し去るように双葉は話を切り出して来た。



「お、おう。どうした?」


「特に深い意味はなくてなんとなく思ったんだけど、さとーってエロゲーとか興味あったりするの?」


「あーそうだなぁ……」



 ん? は? え? エロゲー? いきなり何言ってんだこいつ?

 特に深い意味はない? なんとなく? 

 いや、絶対深い意味があるしなんとなくじゃないやつじゃん!! 

 返答ミスったらやばいやつじゃん!!

 

 エロゲー……正直、興味がないといえば嘘になる。

 

 エロゲーにも様々はものがあり、俗にいう泣きゲーや燃えゲーと言われている作品が存在している。


 そういった作品は是非やってみたいとは思ったことがある。

 

 それにエロに全く興味ない男なんて存在していないからな!!

 

 でも、もしここで興味あるって答えたら……



『え? あ、そうなんだ……キモッ』


 

 そんな返しが来るかもしれない! それはまずいぞ……そんな事言われたら俺の心が壊れる。


 いや、待てよ? そもそも自分から話を仕掛けているということは素直にイエスと答えた方がいいのでは?


 もしかしたら中野も俺と同じように泣きゲーとか燃えゲーとかそういうエロゲーにゲームに興味あるのでは?


 

「ま、まぁ……? 興味があるかと言われるとある……かな?」


「そっか……よかったぁ〜」



 よかったってなんだ? どういう意味なんだ? 俺の答えは正解なのか?

 

 横を見ると中野は明らかに安心したような顔をしている。



「えっと……双葉は……その……エロゲーとか興味あるのか?」


「え? ま、まぁ……エロゲー自体にはそうでもないんだけど」



 すまん、余計分からなくなってきたぞ……エロゲーには興味がないのになんでエロゲーに対する話題を言って振ってきたんんだ?


 ゲームには興味ないってことか?



 え、まって。ゲームのほうに興味がないってことはエロの方に興味があるということか!?


 つ、つまり……中野さんはえっちなことに興味があるってこと!?

 

 正直、自分でも何を考えているのか意味不明だが、つまりそういうことなのか!?



「あ、え、えっと……ねぇ、いつきは私と一緒に行くなら映画デートか恐山デートどっちがいい?」



 いきなりなんなんだその極端な二択は!?

 

 はっ!! そうか!! これは双葉の会話テクニックなんだ!

 

 『映画館デートか恐山デートどっちがいい?』このようにどちらに行くのか二択を迫ることによって行かないという選択肢を用意させていなようにする。

 

 そして、恐山という絶対に取らない選択肢を用意することで映画館デートを選ばせようとしている。


 つまり、双葉は俺と映画館に行きたいということだ。でもなんでいきなり映画デートが出て来たんだ?



 エロと映画館……? 



 はっ……! まさか……!! 双葉……お前……!!



 俺とポルノ映画館に行きたいってことなのか!?

 ポルノ映画館とはエッチなDVDをスクリーンで見る所だ。女友達と一緒にポルノ映画……? ある意味恐山より地獄じゃねぇか……



「お、恐山デートがいいかな〜」


「映画デートか恐山デートどっちがいい?」



 ひぃぃ……選択肢1つしかないじゃんっ……!!



「え、映画館デートです……」


「うんうん! そうだよね! いつきならそう言ってくれると思ってた! そーと決まればチケットの予約だー」



 双葉はなんか楽しそうにスマホを弄り始める。


 俺は頭を抱えてしまった。


 まじか……行くのか……ポルノ映画……二人で?  

 ていうかまだ存在してるのか? そもそも俺たちって入れんのか? スマホで予約なんかできるのか?

 


 ………………ん? んん?



「……あのさ、どこの映画館に行くんだ?」


「え? この前一緒に映画をみたショッピングモールだけど? 別のところがいい?」


「いや……あのー……もしかして見にいく映画って今話題になってるエロゲーが原作のやつ?」


「そうそう!! 昨日さ動画の予告見たら面白そうだったからさとーと見に行きたいなって!」


「え、あ! だよな!? そうだよな!?」



 あっっぶねぇぇぇぇぇ!! 気付けてよかったぁぁぁ!! ていうか、こいつもこいつだろ!? 誘い方下手くそか!?


「……どうしたの? そんなへなへなになって」


「あーいや……ちょっとあらぬ誤解をな?」 


「あらぬ誤解?」


「えーいや……ね?」



 思わず、視線を逸らす。



「教えろよ〜じゃなきゃ今後のためにならないじゃん」



 確かにその通りだけども……



「だから、その……ゴニョゴニョ……」


「ポっ……!? ば、ばかばか!!」



 耳元で説明すると双葉の顔がみるみる赤くなっていき、怒涛の肩パン攻撃が繰り出された。



「痛った! 肩パンするのはやめろっ! お前の誘い方にも問題があるんだよっ」



 そう訴えると自覚があったのか、ぐっ……と言い淀みながら肩パンをやめる。



「だ、だって……!! しょうがないじゃん! 誰かを遊びに誘うって初めてだったんだしっ……!! ……私は見たいけど、いつきは見たくない映画かもしれないでしょ? それじゃあいつきには何にも得がないじゃん」



 得って……なるほど。前から思っていたけど、双葉は自身に対する評価が低い気がする。自分に自信が持てないから相手に何か提供しなければ自分は要求してはいけないと思ってる。



「……前にも言っただろ? お前といると楽しいって。だから遊びの誘いくらいいくらでも付き合ってやるよ」



 ここではっきりと言ってやった方が双葉も安心するだろう。



「……う、うん」



 双葉はそっと安堵の吐息をこぼす。



「いやーそれにしても、双葉がえっちなことに興味満々だと思って焦ったぞ」


 

 いつものおちゃらけた空気にする為双葉を弄った。そうすれば「もー!」とか「うるさいなー」とかいじけながらリアクションしてくれるはず。


  


「……興味がないわけじゃないよ?」


「え?」



 とん。と双葉に押し倒される。

 想像していたリアクションと違う。思わず動揺してしまう。

 双葉の表情は前髪と影に隠れて確認できない。



「ふ、双葉……さん?」


「映像なんかより、実際にした方がいいに決まってるじゃん……ね?」


「え? え? え?」



 密着する体、段々と近づいてくるその唇。

 

 思わず息が詰まり、目を瞑ったー



「何、目閉じてんすか」


「いたっ!?」



 額に痛みが走る。どうやらデコピンされたようだ。



「もう、いつきくんはうぶだねぇ〜そんじゃ、予定空けといてね〜」



 ……一本取られた。

 先に教室に帰っていく双葉を見ながら呆然とするしかなかった。





 


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