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第40話 呼び方




 昼休み、屋上で俺と茜と双葉の3人は昼ごはんを食べていた。こうして3人でお昼食べるのは茜に双葉を紹介された日以来だ。


 最近、中野は毎日ちゃんと学校に来ている。つまり退学する気はなくなったと考えていいだろう。


 そのことに安堵しながら自分がいる。



「あ、そうだ。あのさ。私、生徒会に入ることにしたよ」



 雑談の中、生徒会についての話題が上がったからなのか双葉から報告を受けた。



「おお、そうか」


「やっと生徒会メンバー一人目よ。あとは書記と副会長をね」



 そう言った茜の目線は俺へと固定されていた。



「あー誰か副会長をやってくれないかしら〜?」


「こっちをみても無駄だぞ。俺は生徒会メンバーに入る気はないからな」


 基本生徒会メンバーは会長と副会長がペアとなり出馬し、選挙によって選出され、他の役職は能力に応じて会長がスカウトする。 (ただし、会長のみでも出馬できる)


 ただ、強制力はないため、スカウトされた本人が断らればそこで終わりだ。

 

 俺を生徒会に入れるには強制力のあるルールを作る必要がある。そんなことすぐにはできないので俺が生徒会メンバーになるのはありえないことだ。

 


 それを理解しているから茜はちぇっと口を尖らせた。



「まぁ、実は副会長と書記もメンバーはもう決まってるんだけどねー」


「あ、そうなのか」


「ちょっ!? 双葉!?」


「え? これ言ったらダメなやつだったけ?」


「いや、ダメじゃないけど……」


「ならいいじゃん。あと、今回の生徒会は今までにない試みをする予定でー」



 楽しそうに話す双葉とは対照的に茜の表情はなぜかひやひやしていた。まるで話されたら不味いことでもあるかのように。


 まぁ、まだ公開してはいけないことがたくさんあるだろう。


「まぁ、次の全校朝礼に生徒会メンバーを発表するつもりだから楽しみにしておいてよ」


「おう、期待してるよ」


「いや、もうほんといつきの反応が楽しみだなぁ」

 

「……うん?」



 何か引っかかったような顔する茜。



「どうしたの? 茜?」


「え? ああいや……なんでもない」



 そんな茜の様子が気になったのか双葉がどうしたのか聞くも茜は答えることはなかった。



「自分、双葉が副会長と書記と会計を兼任って言う展開、期待していいすか」


「いや、過労死するわ」


「ん? んん?」


「どうしたんだ? 新条さっきからなんか変だぞ?」


「いや、なんか……あんたたち名前で呼び合ってない?」


「……え? うん。そうだけど?」


「あの、二人とも『だから何?』って顔されても困るんだけど……な、なんでそんな……名前呼びに?」


「え? だって名前呼びの方が友達って感じがするし。ねー?」


「ねー」



 俺と双葉を見て段々と顔が青くなっていく茜。



「へ、へー……あの……昨日二人の間で何があったの?」


「え? うーん。掃除とか、悩みを打ち明けたり? あとはベッドで川の字になりながらお菓子食べながら映画見た」


「べっ!? ふ、ふ、双葉!? 大丈夫!? こいつに変なことされなかった!? 何もなかった!?」



 茜は双葉の身を案じるように駆け寄る。敵意剥き出しの茜の視線がめちゃくちゃ刺さった。



「えー大丈夫だって。まぁ、ちょっとエッチな雰囲気にはなったけど」


「ああ、なったなった」


「!? は、はぁ!? ど、どっどドッドどういうこと!? 何があったの!?」



 何があったのかを言うか言うまいか双葉と見つめ合い二人で考える。



「茜には刺激が強すぎるかな?」


「だな」


「刺激が強すぎるって何!? ま、まさか……本当にえ、エッチなことを……!?」


「……ごめんね。茜」



 双葉は意味深そうな表情で言いながら、ぽんと俺の肩に頭を置いた。とりあえず、意味深そうな表情をしながら双葉の頭を撫でておく。



「うわあああああああ! やめて!! 今一番聞きたくないセリフを言わないでぇぇ!!」



 茜は叫んだ。吐きそうな顔をしながら頭を抱えて叫んだ。

 

 それはまさに魂の叫びだった。



「まぁ、冗談なんだけど」


「ヤメヨ? ジョウダンデモソンナコトイッチャダメダヨ? ヨクナイヨ?」


「ご、ごめんなさい……」


 あまりの茜の気迫に双葉は声を震わせながら謝った。

 双葉が怖がるのも無理はないだろう。だって、俺も怖いんだもん。 

 昨日何があったのかは説明しない方がいいな。

 説明したらと俺は殺されるかもしれない。いや、殺される(確信)



「それとさ!! 思っててあえて言わなかったんだけど! 双葉なんでこいつの隣に座ってるのよ!?」


「なんかだるいこと言い出したぞこいつ」


「だるくない!! 座る位置は好感度に直結するって前にテレビで言ってたもん! つまり、双葉は私より一樹を選んだってことよね!?」



「……もう何を言っても無駄か」


「いや、諦めないでよ」


「前は私の隣に座ってたじゃない……私がいなかったら会話すら回らなかったじゃないぃ……うう……双葉が……出会って数ヶ月の男に取られた……」


「いや、言い方」


 

 落ち込んでいた茜がはっと何かに気づき、俺の方を見てわざとらしく「おっほん」と咳払いをした。

 


「あのさ。私は二人のことは名前で呼んでるし、双葉も同じでしょ? でもいつきが私だけ新条呼びなのはバランスがおかしいというか、不自然というか……変じゃない? 変よね? うんおかしいわ」



 こちらの意見を言う前に自己完結させやがったんだが……



「だからいつきは私のことを名前で呼ぶべきなのよ。ね? そうよね?」



 どうしてそんな必死なんだろうか? 



「……まぁ、確かに茜の言うとおりかもね。みんな名前で呼び合った方がいいんじゃない?」



 茜を弄り過ぎたと反省していたためか双葉は助け舟を出すかのように言った。



「!! そ、そうよね!? ね!?」



 期待している眼差しと呼んであげなよと言いたげな眼差しが俺を見る。



「……はぁ、わかったよ。あかね。これでいいか?」


「も、もう一回」


「あかね」


「ふ、ふふ。うんうん。いいんじゃない?」




「茜ってこんなめんどくさかったけ?」


「知らなかったのか? 茜は結構めんどくさい」



 上機嫌な茜を見ながら俺と双葉はげんなりした。







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