第38話 幼馴染みの相談ごと
新条茜。
高校生になって再会した幼馴染みであり、俺の関わりたくない人物No.1の女。こっちは関わりたくないのにやたら絡んでくるめんどくさいやつだ。
「ねぇ……」
とは言っても、茜は生徒会選挙で勝利し、次期生徒会長になった。これからはメンバー集めや書類作成なで一気に忙しくなる。
なので、もうあいつから絡まれることも無くなっていくだろう。
「ち、ちょっと!」
だからこの声は幻聴だし、きっと俺に対して発せられたものではないはずだ!
「んねぇー!」
誰だよ。いい加減返事してやれよ。
「佐藤一樹くん!! 聞こえてますかぁ〜!?」
……俺だった。
ため息を吐きながら振り返ると腰に手を当てながらジト目でこちらを見てくる茜がいた。
「やっとこっち向いた!! 無視するんじゃないわよ!! 全くもう!!」
全くもうじゃないよ……勘弁してくれよ。このやりとり2度目なんだけど。
「はぁっ〜!! ……俺に何か用?」
「ちょ、ちょっと……そんな大きいため息しないでよ。普通に傷つくから。えと……いつきに相談したい事があって」
「断る!」
「なんでよ!?」
「どうせ、生徒会メンバーが決まらなくて困ってる〜とかそんな感じの相談だろう?」
「げっ!? なんでわかって……あ、ちょっと!! ほんとお願い!! 話だけでも聞いて!!」
茜は縋るように帰ろうとする俺の右手を掴んだ。
適当に言ったことが当たってるし、生徒会メンバー集めは約束外のことだぞ。そんなの自分でなんとかしてくれよ。
「手伝いをするのは生徒会選挙までだって言っただろ?」
それに、それにだ。俺はようやく自由になったんだよ。こちとらやりたいことリストが50個以上溜まってるんだわ。
つまり、もう君の相手をしている暇はないんだわ!!
「お願いぃ!! 話だけでも聞いて!! 私を見捨てないで!!」
「おま!! 誤解を招くような言い方は……!!」
俺の手を離そうとしない茜が涙目になって大きな声で叫ぶためか、周りの生徒達がこちらを見ている。
「あれって姫君と佐藤だよな……見捨てないでとか言ってるんだけど」
「え? 佐藤くんって新条さんとそういう……しかもやる事だけやって捨てる気じゃ……」
「マジかよ……佐藤最低だな」
「そういえば、中野さんとも仲良いよね」
「都合のいい中野さんがいるからポイするってコト!?」
ちょっ!? やばい!! やばい!! あらぬ誤解を受けている!!
「本当にこれで最後だからな!?」
渋々話だけを聞くことにしてとりあえず生徒会室に向かった。
「……で? 相談というのは?」
あかねと二人、生徒会室で高級玉露と高級茶菓子をいただいて本題に入ることにした。
「生徒会選挙を終え、激闘の末生徒会長になって早1週間……」
「話が長くなりそうなので帰ります」
「あ、あ、ごめんなさい……帰らないで……!!」
「……で? 結論は?」
「1週間が経過し、未だ一人も生徒会メンバー決まってません……」
通常であれば前期から続投する者や応援演説をした者などが生徒会メンバーになる。
特にこいつの場合は副会長をしていたので通常ならメンバーはすぐ埋まるのだが……
「みんなに声をかけているんだけど、自分じゃ力不足だって……」
こいつの場合、生徒会の方針が学園の変革である。変革とはこれまで誰もやってないことをすると言うこと。
学園の行事の内容及び取り決めを全て生徒主導によるものにしたり、中等部と連携した新たなる取り組みの実施、全面デジタル化など。茜が演説で話していたことを実現させるためには今までの生徒会の通常の実務より増加する。
当然、学力、コミニュケーション力、実務力など今までの生徒会メンバー以上の能力が問われることになる。
生徒会メンバー全員が激務中の激務。入ったとて長続きはしないだろう。だからみんなやりたがらないのだ。
よほどのメンバーを揃えない限りすぐに崩壊するのではないだろうか。
「……中野はどうなんだよ? 誘うとかいってなかったか?」
「その双葉を生徒会の会計に誘ったのはいいものの……断られちゃって」
まぁ、中野は生徒会とかやりたがらないタイプだからな……あかねの誘いならと思っていたんだが、ダメだったか。
まぁ、能力は高いし勿体無い気がするけど。
「まぁ、それだけならよかったんだけど……もしかしたら双葉学校辞めるかもしれないのよ」
「……どういうことだ?」
「前にその……職員室から出ていくのをみちゃって。気になって先生に聞いたらこのままじゃ出席数が足りなくなるって話をしていたのよ」
「中野本人はそれを気にしてないと」
俺の言葉にこくりと頷く。
普通の高校ならば、成績によって進級出来ない場合があるが、ここ碧嶺学園は日本屈指の名門校。ゆえに成績が悪かったり、出席日数が不足していると退学処分になってしまう。
中野の場合、成績は文句なしに優秀だが出席数が足りなくて退学になるかもしれないってことか。
「双葉が本当にこの学園を退学する気なのか探って来て欲しいの」
「それは茜がやった方がいいんじゃないのか?」
「……逆よ。私だからこそいえないこともあると思うの」
……それはそうかもしれないが。
「それにいつきって人の情緒をぐちゃぐちゃにして本音を聞き出すの得意じゃない!」
「なんてこと言うんだお前は……」
そんなことないだろうが! ……ないよな?
「まぁ、いいや……わかった。善処する」
すんなり承諾したのが意外だったのか、茜は怪訝そうに俺の見つめる。
「……なんか、あんたって双葉のことに関してやたら素直というか、積極的じゃない?」
「………………そうか?」
「そうよ! ちなみになんだけど……双葉のこと……ど、どう思ってるんの?」
「どうとは?」
「どうって……その……異性として可愛いとか、気になるとか……思ったり思わなかったり?」
ごにょごにょと聞いてきた。
「いや、別に……一緒にいて楽しいとは思うが異性としては別に」
そう言った瞬間、あからさまにホッとした表情を見せるあかね。
「……今のところは」
そう言った瞬間、あかねの顔が一気に青ざめた
「今のところは!?」
かなり食い気味でこちらに顔を近づける。
顔がかなり近い……
「そりゃそうだろ。中野って結構可愛いし。趣味も合うし付き合っていくうちに恋愛感情を抱くかもしれない」
そういうとあかねは呆然とした後
「は、はー!! そ、そうですか! どうせあれでしょ!? あのでっかいおっぱいでしょ!? はーやだやだ! 興味ありませんみたいな感じ出しといてエッチなこと考えてるんでしょ? 男っていつもそうなんだから」
やけくそ気味に言われた。
発想の飛躍が凄くないか? 盛ってる猿でさえそんな思考にはならないぞ。
「胸は関係ねぇよ……あくまで人柄だ」
「本当に? おっぱいは関係ない?」
「ありません」
「ふーん……ま、そういうことにしといてあげる。言っておくけど双葉に手を出したら許さないからね」
「はいはい」
なんでそんな上から目線なんだよ。まるで恋人に浮気を疑われたみたいだ。
……だけど、もし茜の言った事が本当なら対処するのは早いほうがいいな。
「それじゃ、行ってくるわ」
「え? 行くってどこへ?」
「中野の家に言って直接聞き出す」
「わ、わかった。それじゃあ頼んだわよ……双葉から退学についての情報を聞き出して、生徒会に入るように説得してきて!」
「なんか依頼内容増えてないか?」