第37話 第104期生徒会長
生徒会選挙結果発表当日
「うう、いやだよぉ。見たくないよぉ。いつきぃ〜」
「お前っ……! さっきまでは散々イキってたくせに! なんでこう直前になって駄々をこね始めるんだよ!」
ほんとこいつっ情緒不安定だな……!!
「だって! 私の演説って今思ったらただ開き直ってただけじゃない! 何が力を貸してよ! あんなのただの傍若無人じゃない!」
「落ち着け、大丈夫だ。それは元からだから」
「なんのフォローにもなってないんだけど!?」
無理やりにでも手を掴み引っ張っていく。
なんか、散歩を拒否する犬を無理やり連れ出してるみたいだ……
そして二人同時に投票結果を見た。
「……これが結果だ」
今回の選挙は茜にとってうまくいかなかったことばかりだろう。
たくさんの壁にぶち当たって、乗り越えて。そして得た経験は必ず今後茜の力になる。
「だから、これから頼むぞ。新条茜生徒会長」
泣きじゃくる茜の頭をぽんと叩いた。
新条茜は古宮ひよりと僅差で勝利し、生徒会長の座を勝ち取った。
「こ、これは……と、とうじぇんの……げっが!」
「はいはい……」
強がっている茜の頭をくしゃくしゃっと撫でる。
不安でいっぱいいっぱいだったことはこいつの目のクマが証明している。
そして今もなお手や足が震えていることも。
本当によく頑張ったよ。お前は。
「……新条先輩おめでとうございます」
最大の敵であった古宮ひよりが姿を表す。
そして泣いている茜にハンカチを渡した。
ありがとうと戸惑いながらも茜はハンカチを受け取り、涙を拭く。
「私も……悔しいですが、あの演説には心動かされました。あの演説は私には出来ない。完敗です。新条先輩……いえ、新条生徒会長」
古宮は茜に手を差し伸べ握手を求める。
「あ、ありがとう……私も、古宮さんみたいな堂々とした演説はきっと出来ない。それに一人だけじゃ絶対に勝てなかった」
ちらっと茜は俺の方を見た。
「これは……私たち二人で勝ったと思ってるから」
二人は互いの健闘を讃えあうように握手を交わした。
「では、私はこれで」
古宮は頭を下げて去っていった。
「さて、私も新生徒会長としてお姉ちゃんのところに行かないと」
手続きなど、色々とあるので茜は葵さんのところへ行くみたいだ。
俺も付き添ってもいいが、先にやっておきたいことがある。
「……ちょっと先行っててくれ。あとで俺もそっちに行くから」
茜にそう言い残し、俺は古宮の後を追った。
「古宮!」
誰もいない噴水広場で俺は古宮を呼び止める。
「……なんですか」
こちらに振り向かず、彼女は問う。その声は少し震えていた。
「……俺は、泣きたい時に泣けばいいと思ってる」
「別に、平気ですよ? 負けたという事実をちゃんと受け入れて前に進むだけです」
「吐き出さなければ、前に進めない時もある」
古宮は俺の言葉を聞いて諦めたようにため息をつき、そして振り返った。
彼女は目に涙を溜めていた。今も我慢している。
弱さを見せないために。
それは名家の一人娘ゆえか、聖女様ゆえか。それとも……
俺は古宮の頭をゆっくり撫でた。
「先輩っていうのは後輩が精一杯頑張っているのをちゃんと見てやるものだ。頑張ったな」
結果がどうであれ……な。
古宮は目を大きく開き、そこから大量の涙が溢れた。
「今、それ言うの反則じゃないですか?」
「反則?」
「なんでもないですっ……ばか」
古宮は俺の胸に顔を埋めた。
俺は小さな嗚咽を聞きながら再びゆっくりと頭を撫でた。