第28話 幼馴染みとの通話
風呂上がり、タオルで髪をガシガシと拭きながらソファーに座る。
右手にはスマホ。
画面をタップしてロインを開き茜のアカウントを見つめる。
「……………」
数日前
『そういえばあんた……お姉ちゃんの連絡先交換してるのよね?』
『ああ、そうだな。時々メッセージや通話とかしてる』
『ふ、ふぅん? そうなんだ……』
『ああ』
『……あ、あ、あたしとも連絡先交換した方がよくない? っていうかお姉ちゃんより私の連絡先を聞くのが先でしょ! あんたは私のー』
『ああ、葵さんと連絡先交換する時にお前の連絡先も教えてもらってるから大丈夫だ』
『なんで連絡してこないのよ!?』
『ぐぇっ!?』
『お姉ちゃんと通話とかしてるんなら私ともできるでしょ!? 連絡先知ってるんなら通話してきてくれたって良いじゃない!? ねぇ!? なんで!?』
『ちょっ! 首揺らすなっ! 落ち着けっ……お前そんなに俺と通話とかしたいのか?』
『そうよ!? 悪い!? だからさっさとあんたの連絡先教えなさいよ!!』
『え、えぇ……』
ということがあったのだ。
まぁ、通話するなら今日……かな。
スマホをタップし、茜に通話をかけた。
…………
………………
……………………なかなか出ないな。
『も、もしもし!? わ、わたし新条あかね!』
「いや、知ってるけど」
何テンパってるんだ? こいつ。
『な、な、何の用なの!? いきなり通話だなんて……!!』
「え? あー……お前の声が聞きたくて?」
『んな!? ガボッ!? ブブブブ!?』
バシャーンと反響する水音。
……こいつまさか。もしかして風呂入ってるのか?
そういえば、お風呂に入りながらスマホで動画見たり、曲聞いたり、SNSしたりする女子が多いって中野が言ってたな。
あれ? ということはこいつ今すっぽんぽんなのか。茜の今の状態をイメージする。
うーんなんだろう……何も感じない。
相手が中野や葵さんだったらまだ動揺とか意識とかしてたかもしれないが、茜だしなぁ。
『あかねちゃ〜ん? どうしたの? 大丈夫?』
遠くから葵さんの声が聞こえてきた。
おそらく心配してバスルームの前まで来たのだろう。
ガラッと扉が開く音がする。
『お、なんだ。いつき君と通話してたのか〜こりゃお邪魔だったかな?』
『お、お姉ちゃん……!! 別にそんなんじゃないから!!』
『うわ、茜ちゃん。いつき君の前でその姿は……』
『っ!? ひやぁ!? ちょっと一樹!! みないでよ!! えっち! すけべ! へんたい!!』
見えてるわけねーだろ。しばき倒すぞ。
『ち、ちょっと待っててー!! こっちからかけ直すから!!』
そう言った直後一方的に通話を切られてしまった。
仕方ない……歯磨きとか寝る準備しながら待つとするか。
1時間後、ソファーでだらだらしながらスマホをいじっていたら茜からの通話が来た。
『も、もしもし? わ、わたしだけど……』
「ああ、さっきは悪かったな。お風呂中に通話かけて」
『そ、そうよ!! こっちはバスタイムだったのよ!! なのにいきなり通話がかかってくるしっ……!! 少しとはいえ入浴中の私と通話できるなんて学園内ではウハウハものよ! 誰かに刺されるレベルの!』
こんなんで刺されたらマジでたまらないんだけど。
「随分とかけ直してくるの遅かったな。何かあったのか?」
『はぁーわかってないわね〜女の子には髪乾かしたたり、髪を整えたり、肌の手入れをしたり、部屋掃除したり、服選んだりと色々と準備があるのよ』
ほぼ通話関係なくないか?
『……で? 結局なんで通話なんかしてきたの? 何か急ぎの用事でもあるの?』
「いや別に。さっき言った通り声が聞きたかっただけだ。何か急ぎの用がないと通話しちゃダメか?」
『え、あ、だ、駄目じゃないけどっ……ほ、本当にそんな理由なの? 冗談だと思ってたんだけど』
「冗談じゃねーよ。前に連絡先知ってるなら通話してこいって言われてたしちょうど良いかなって思って」
『そ、そうなんだ……そっか……ま、まぁ? その心がけはいいんじゃない?』
「そりゃどうも……まぁ、完全に用がないっていうと嘘になるんだけどな」
『どういうこと?』
「今日、支持率のアンケート結果が悪かっただろ? どんな様子かと思ってさ」
一緒に見た時はあからさまに落ち込んでいたからな。
「まぁ、あれだ。無理してないか気になって声が聞きたかったってことだ」
言葉にすると結構恥ずかしいもんだな。
『……別に無理はしてないわよ。そりゃ、気にならないと言われると嘘になるけど。でも大丈夫……ありがと心配してくれて』
「……ああ」
どうやら不要な心配だったらしい。
きちんと茜の中での切り替えができているようだ。
『で、用はそれだけ?』
「本題は終わったな」
『そ、そっか……』
「………………」
『………………』
「じゃ、本題終わったから切るわ」
『ちょ、ちょっと待ちなさいよ!! せっかくだしもう少し話さないか? とかないの!?』
え、ない。今すぐ布団にダイブしたい。寝たい。
「……はぁ。じゃあ、今日の晩御飯何食べた?」
『な、なんか雑っぽいけど、まぁいいわ……晩御飯はハンバーグよ。私も一緒に作ったの』
ポンと茜から焼く前のハンバーグの写真が送られてきた。
おお、綺麗にこねられてるじゃないか。料理の練習はちゃんと続けてるみたいだな。
『……でこれが焼いたあと』
「……あっ」
『ちょっと! 残念そうに言わないでよ!』
茜から送られてきたのはプスプスと焦げているハンバーグの写真だった。
「う、まぁ……焼くのは修行中……で、でも味は悪くないのよ! ……お姉ちゃんの作ったハンバーグの方が美味かったけど」
確かに横に写っている葵さんが作ったハンバーグは美味しそうだった。
「あ、そうだ……ハンバーグまだ残ってるし明日弁当に入れてくるから食べてみてよ!」
「わ、わァ……!!」
『なんでそんな悲鳴あげてるのよ!? 大丈夫よ! 焦げがマシなやつ持っていくから!』
「だって……わァ……」
『もうー!!』
……なんか。少し昔を思い出した。幼稚園の頃もこうしてたわいもない話をしたものだ。
また、こうして出来るとは思っても見なかったけど。
「はぁ……わかった。わかった。じゃあ、楽しみにしてるから。もう切るぞ」
『え、あ、ちょっと待って!』
「なんだよ? まだ何かあるのか?」
『その、明日……応援演説。よろしくお願いします。と、というわけだからおやすみっ』
「……ああ。おやすみ」
通話が切れ、ふぅと息を吐く。
そう、明日は応援演説だ。