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第27話 姫君VS聖女様




「……予想通りだな」


「……予想通りね」



 昼休み、俺と茜は掲示板に載っている生徒会選挙支持率アンケートの結果を見ていた。


 今回の生徒会選挙は茜や古宮の他に数名立候補者がいる。 

 ちなみに現在ぶっちぎりの1位は古宮ひよりだ。

 そして2位は茜だったが、2位以降の差はあまりなく横ばいになっている。


 つまり、今のところ古宮の圧勝状態だ。



「まぁ? これはあくまで現在のアンケートによる予測だし? 全然気にしてないけど」


 そんな引き攣った顔で言われてもなぁ……

 まぁ、本人的にはいざ数字として結果を見てしまうと心にくるものがあるのだろう。


 それは仕方がないことだ。完全に割り切れることなんて出来ないのだから。


「……あ」


 掲示板を見ていると古宮がこちらに来る。



「あ、佐藤先輩。こんにちは」



 少し嬉しそうな笑みを浮かべ古宮がペコリと頭を下げてきた。

 その様子は家とは違い、顔見知りの他人というくらいの距離感だ。

 聖女様モードというやつなのだろうか?


「ああ、こんにちは。古宮もアンケートを見にきたのか?」


「ええ、これも情報収集の一つですから」


「さすがだな。結果もダントツで1位だぞ」


「いえ、今後の活動次第でいくらでも変動しますから、油断は禁物です」


「その割には機嫌が良さそうだが?」


「それはまた別の理由です。それよりネクタイ緩んでますよ……動かないでくださいね」



 呆然とこちらを見ている茜を気にも止めず、古宮は緩めていた俺のネクタイに手を伸ばす。


 そしてあっという間にネクタイの形を整え、きゅっと締め上げた。


「ぐ、ちょっとキツくないか?」


「これくらいキツく締めた方が見栄えがいいんです」

 


 まぁ、ちょっときついけど古宮が満足そうにしているからこのままでいいか。


 

「あーえっと? 二人は仲がいいの? やけに親しげだけど?」



 俺と古宮のやり取りを見て茜は眉を寄せつつ何気ない口調で聞いてきた。



「新条副会長には関係がないと思いますが?」


「はー? いやいや関係ありありだけど? 一樹は私の!! 相棒!! なんだから知る権利はあると思うんだけど?」


 いや、俺はいつからお前の相棒になったんだ?

 茜の言葉が怒りを買ってしまったのか古宮の目付きが変わる。


「たかが応援演説をして貰えるだけで相棒面しないでいただけますか?」


「はー?」


 え、なんか怖い。二人ともすごいばちばちしてる……



「あーそっかぁ、知らないかーじゃあ言わせてもらうけどー私たち幼馴染みなんですけどぉ? そりゃもーちーっさい頃からの仲だし?」



 そうなんですか? と言いたげな視線を古宮に向けられ頷く。

 認めたくないけど、事実だからな。



「ほー? そうですか、では改めて。私、一樹先輩の隣に住んでいる古宮ひよりと申します」



 何言ってんの? 何言ってんの!?

 古宮は聖女のような暖かな笑顔をしているが放つ言葉一つ一つに圧を感じた。


 

 え? 何それ聞いてないんだけどという視線を茜に向けられ頷いた。

 事実だからな。 



「看病をしてもらったり、料理を振る舞い合ったり、荷解きを手伝う程度の関係ですが今後ともよろしくお願いします」



 古宮からの言葉を聞いて茜は絶句していた。

 俺も絶句した。


 ど、どうしよう。冷や汗が止まらない。 



「は、はん! 1年生ごときが調子に乗らないことね!」



 おいおい、茜さんや噛ませみたいなことを言うのはやめろ?



「私は前年中等部で生徒会長をしていました。成績も学年主席です。たとえ1年生だとしても碧嶺学園を背負うことができる実績と能力を持ち合わせていると自負しています」



 学年主席というワードは学年次席である茜にクリティカルヒットした。



「く、くぅ……この小娘がっ!」



 小娘て……



「は、はん!! 今は票数的には劣勢かもしれないけど、どんな手を使ってでも生徒会長の座は私が貰うわ!! 最後に勝つのは私たちよ!! あとで吠えずらかかないことね!!」



 なんか、言ってることが完全にやられ役なんだけど……



「負けるつもりはありません。どんな手を使われようとも正面から叩き潰します」



 だ、だめだ。この二人のやり取りを見ていると茜が勝てるか不安になってきた……



「うわ、なんだ? 姫君と聖女様が話してるぞ?」


「おお。碧嶺5大美女が二人揃って……この組み合わせはなかなかレアだな」


「やっぱり二人とも可愛いな」



 感嘆と驚きの声が周囲から聞こえてくる。

 まぁ、この二人は学園内でも有名だからな。面倒なことになる前に退散するか。

 


「おや、これは……なかなか興味深い方々がおられますね」


 

 その一声で周囲の声が消えた。


 反射的に声がした方へ目を向ける。

 視線の先には色白の肌に白銀の髪、どこか幻想的で儚げさを持つ少女が多くの生徒を引き連れていた。


 ただそこにいるだけで全てを引き寄せる存在感。


 その姿はまさに女王。


 彼女の名前は神崎紫音。


 日本の頂点に立っていると言われている御三家の一つ神崎家の一人娘にして、学年主席の成績をもつ才女。


 容姿も美しく、碧嶺5大美女の一人であり、多くの生徒を従わせている姿に碧嶺学園の女王と言われている。


 選挙管理委員長であり、第100期碧嶺学園中等部生徒会副会長……俺を隣で支えてくれていたパートナーだ。 



「神崎先輩、こんにちは」



 幼なげな外見にそぐわない大人気な雰囲気に古宮もどこか緊張した様子で頭を下げる。



「ええ、こんにちは。ああ、なるほど。お二人とも自身の支持率を見ておられたんですね」



 紫音はどこか納得した様子で掲示板を見る。



「今回の選挙、立場上、肩入れなどは出来ませんがお二人とも頑張ってください。それとあまり騒がれないように……ね?」



 その圧倒的な存在感に思わず古宮と茜はペコリと頭を下げる。

 

 俺も一応下げておこう。


 紫音の瞳が俺を捉えた。

 実は彼女には転校してすぐ俺がこの学園に転校したことを手紙で伝えている。

 なぜ佐藤と名乗ることになったのかとか神藤家の事情とか色々と。だから学園内では初対面を装ってくれと頼んでいる。

  

 それを理解している紫音は何も言わず数秒俺を見つめ、軽く会釈をした。



「では、私はこれで」



 そう言いながら茜と古宮に声をかけ、俺たちを横切って行く。


「……ふふっ」



 俺を横切る際に紫音はどこか楽しそうに笑っていた。

 まるで二人だけの秘密を楽しんでいるような……そんな感じがした。



「私もこれで失礼します。新条副会長。わたし、あなただけには絶対に負けませんから」



 古宮は茜にそう告げ去って行った。



「さて、俺たちも退散するか」


「ちょっと待ちなさい」



 この場を去ろうとした俺の肩をがしっと力強く掴んだ。



「……はい」


「古宮ひよりについてなんだけど。お隣って何? 看病? 料理? 私何も聞いてないんですけどー? これまであったこと全部吐いてもらうわよ?」


「いや……その……」



 まるで浮気がバレてしまったかのような気分でどう言い訳しようか考えながら俺は空を見上げた。







 

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