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第25話 聖女様と荷解きのち昼ごはん




「おお、なんか、ちゃんとした部屋になったな」



 約束通り朝から古宮が訪問してきて一緒に荷解きと掃除を行った。

 先ほどまであんなに積まれていたダンボールもなくなり、綺麗になった部屋を見て感嘆の声を漏らす。


 この部屋……こんなに広々としていたんだな。



「そうですね。さっきまではただの物置部屋でしたから」



 淡々と古宮は言った。その言葉に何も言えずぐぬ、と押し黙ってしまう。

 正直、古宮が来てくれなかったらずっとあのままだったかもしれない。



「全く、いい年なんですから部屋の整理整頓くらいちゃんとしてください」



 まるでお母さんのようなセリフに「すいません」と頭を下げることしかできい。



「それに……こうして荷解きを手伝ってくれるのなんて。わ、私くらいなんですから」



 言っていて恥ずかしくなったのか古宮は少し頬赤く染め、顔を背けた。 

 


「重々承知しております。いやほんと。俺には古宮さんしかいないよ……」


「しょ、しょうですよ」



 恥ずかしさで噛んでしまったのか古宮の赤く染まっていた頬がさらに赤くなりぷるぷると震えていた。



「……しょうですね」


「……帰ります」


「わ、ごめんごめん!!」

 

「なんですか。もう荷解きも終わったんですし、私が帰っても問題ないじゃないですか」



 少し棘のある言い方をしながら帰ろうとした彼女の手を掴む。

 頬も少し膨らませてるし、これは完全に拗ねてるな……あまりに可愛らしい反応だったからいじってしまったのは失敗だった。



「いや、もう昼だろ? 昼ご飯作るから食べて行ってくれよ」


「……え?」



 まるで雷にでも撃たれたかのような顔をされた。



「せ、先輩……料理できるんですか?」


「いや、前に出来るって言ってただろ」


「そんな……!! だっていつも冷蔵庫は水と栄養食しかないじゃないですか! ほら!!」



 そう言いながら古宮は冷蔵庫を勢いよく開ける。

 いつもは水と栄養食と栄養ゼリーしか入っていない寂しい冷蔵庫だが、今日は古宮に料理を振る舞うために様々な食材が入っていた。



「しょ、食材が入ってる!?」



 あまりの衝撃に固まってしまった。



「いや、そんなに驚くことか?」



 丁度、ピピーと炊飯器が鳴る。

 よしよし、いいタイミングでセットしていたお米が炊けたようだ。



「ご、ご飯炊けたんですか!?」


「俺のことバカにしてるだろ……いいから座ってな」


「は、はい……」



 古宮は戸惑いながらも綺麗になったリビングに腰を下ろした。



「ちなみに昼ごはんは古宮が好きなオムライスだぞー」


「もう、適当なこと言って……私、先輩にオムライスが好きだって一言も言ってませんが?」



 そんな声がリビングから聞こえてきた。



「……あれ? そうだったけ? いやだったら他のにするけど?」



 冷蔵庫の中に入っている食材を思い出しながら他の料理を考え始める。



「……いえ、好きなのでオムライスがいいです。でもー」


「安心してくれ、コーンとグリーンピースは入っていない」


「……そうですか」



 ニヤと笑いながら顔を見て答えるとバツが悪そうに古宮は顔を逸らした。

 それは子供っぽいと思われるのが嫌だって言う反応だった。



「はは、わかるよ。俺もコーンとグリーンピースが入ったオムライスは好きじゃないからさ」



 冷蔵庫から買っておいた卵、バター、ケチャップ、鶏肉、玉ねぎ、人参、ピーマンを取り出す。

 そして、棚からサラダ油、そしてまな板、包丁と料理の準備ができた。

 玉ねぎを切ろうとした瞬間、横から視線を感じた。



「気にしないで下さい。隣で見てるだけなので」



 まるで子供が初めての料理に挑戦しているのを見守っているかのように監視される。その両手には救急箱があった。


 うん。なんか、古宮は俺のことどう思っていいるのかよく分かった気がする。

 

 正直、そんなに見られるとやりづらいんだが……まぁいいか。


 古宮に見守られながら料理を始めていく。

 初めは心配そうに見ていた古宮だったが、だんだんとその表情は変化し今は驚くように大きく目を見開いている。



「どうした?」


「いえ、その……想像以上に手際がよくて」


「ま、やる気さえ出せばこんなものだ」


「ならそのやる気を普段から出してください」



 ぐうの音もでない正論だな。

 でもー


「自分だけのためにって思ってしまうとやる気が出てこないんだよな」


「他人のためなら頑張れるってことですか?」


「そう言われると……まぁ、そうかもしれない」


 今も古宮のために料理を作っているからやる気も出ているし、なんなら楽しんでいる自分もいる。

 俺って意外と尽くすタイプの人間なのかもしれない。


 ……いや、ないか。



「なら、先輩。よかったら私とルームシェアしませんか?」



 あまりの爆弾発言に手元が狂いかけた。



「……はい?」



 いや、どうしてそうなるんだ?



「先輩はきっと一人でいたらダメになるタイプの人間だと思うんです。2人で家事とか分担して協力していけば先輩の不摂生な生活も改善されるんじゃないんですか?」


「いやあの、ここ二人で住むには狭すぎるから……」



 なんでだろう……言いたいことはたくさんあったのにこんな言葉しか出てこなかった。



「大丈夫です。二人暮らしできるくらいの広さがある部屋のマンションなんて古宮家が腐るほど所有してますから選びたい放題ですよ? なんなら家賃代も浮きますし」


「うわ、急に家の財力を使ってくるな!!」



 丁度良いタイミングで古宮のスマホが鳴る。

 


「ほら、スマホ鳴ってるぞ?」



 そういうと不服そうにスマホを取りに行った。

 た、助かった……あのままだったら確実にルームシェアするまで話を推し進められていた。それほどの目がマジだった。


 しかし、これで料理に集中できそうだ。


 オムライスが完成しテーブルに並べる。

 そして古宮はこの前と同じように俺の隣に座る。

 人にはパーソナルスペースがあると思うのだが、中野といい古宮といい、JKにはないのだろうか?



「……おいしい」


「それはよかった」


 その一言を聞いてほっとする。自信がなかったわけじゃないが、おいしいと言ってもらえると安心するし嬉しい。

 この前、ご馳走を作ってくれた古宮も同じような気持ちだったんだろうか。

 


「いや〜なんか、部屋が綺麗だからかいつもよりご飯がおいしい気がする」


「ちゃんとこの状態を維持するんですよ? 散らかしても掃除手伝いませんから」


 そうは言ってるけど、古宮ならなんだかんだ言って率先して手伝ってくれそうな気がする。



「あの先輩。その、願い……と言いますか、ご提案があるんですけど」


「ん? なんだよ」



 まさかさっきのルームシェアーの続きじゃないだろうな。



「……今回の生徒会選挙、副会長として私と一緒に出馬しませんか?」



 ぴたっとスプーンを動かす手が止まった。

 なんの冗談かと顔を上げると古宮の表情は真剣だった。





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