第24話 姉のデートを尾行する幼馴染み
土曜日の朝、私とお姉ちゃんはリビングで朝食を食べていた。
自分の分とお姉ちゃんの分の食器を台所まで運び、スポンジに洗剤をつける。
「あ、電話だ」
お姉ちゃんはちらっとこちらを気にしながら言った。
食器を洗いつつ、お姉ちゃんの声を聞き取ることに集中する。
「もしもしーおはよう神藤君。あはは、さてはこの声、今起きたな〜?」
やっぱり!! 例の男であるシンドウからだ!!
「え? 急用が出来た? ……そっかぁ。……うん。うん。わかった。また今度ね。それじゃあね」
お姉ちゃんは明らかに残念そうな声で話しながら電話を切る。
はぁとため息をついて落ち込んでいる様子だった。
いや、反応……ガチじゃん。ま、まさか……あのお姉ちゃんにも好きな人が?
「……ど、どうしたの?」
ここはあえてツッコミを入れる。
「んー? いやーちょっとね。今日お昼から遊ぶ約束をしてたんだけど相手が急用が出来たって。うーん。午後からの予定が空いちゃったな」
なるほど、ドタキャンされたのか
はー!! 何よその男!! こんなギリギリになってドタキャンなんて!! マジさいてー!! 私だったらグーパンだわ!!
そんなことを思いつつ、皿洗いを終えた。
「あれ? お姉ちゃん……どこか出かけるの?」
昼頃、部屋を出たら廊下で私服に着替えたお姉ちゃんと出くわした。
「うん。ちょっと友達と遊んでくるね」
「ふーん……ッ!?」
お姉ちゃんとすれ違った瞬間、爽やかな香りがした。
これは……香水!? え!? お姉ちゃん香水をつけてる!?
しかも、めちゃくちゃ男受けが良さそうな清潔感のある石鹸系の匂い!!
妙だわ。お姉ちゃんが友達と遊びに行くのに香水つけて行くところなんか今まで……怪しい!!
私は30秒でお姉ちゃんの後をつける準備をした。
帽子に、サングラス、マスクをつけ絶対に私だとバレないように変装をする。
なんか、この格好、他人から見れば明らかな不審者……い、いや!! そんなことを考えている場合じゃない!!
相手がウェーイw系男子ならぶっ飛ばさなきゃ!!
そんなことを思いながらも後をつけると駅前の広場に着いた。お姉ちゃんはキョロキョロと見渡しながら誰かを探している。
「うわ、めちゃくちゃ美人……」
「芸能人とかかな?」
そんなお姉ちゃんを見ている周囲はざわついていた。
「うわ、何あれ……不審者?」
「なんか挙動不審で怖い……」
そして私は違う意味で視線を集めていた。
うん、まぁ……この格好じゃ当然よね……
「あ、いた。おーい。いつきくーん!!」
は? いつき?
お姉ちゃんの視線の先には私の幼馴染みである佐藤一樹が居た。
なななななんで一樹が!?
ま、まさか……お姉ちゃんの今日遊ぶ相手って一樹のことだったの!?
え? なんで?
いや、そもそもいつの間にそんな仲良くなってるの?
え? ていうか連絡先知ってるの? 私は知らないのに?
は? は? ハァ?
このまま突撃したい気持ちをなんとか抑えつけてバレないよう注意しながら二人の後を追う。
重い足どりで着いていくとおいしいと評判のタルト専門店に着いた。
え? 何このチョイス。これじゃまるで……で、デートじゃない。
私も店に入り、店員さんに怪しい目で見られながらも二人と近い席に座った。
注文したケーキと紅茶のセットを食べながら二人の様子を伺う。
するとお姉ちゃんはテーブルのタルトセットをスマホで撮っていた。
……これは、まさか! SNS投稿用の写真!?
すぐさま、スマホを起動しお姉ちゃんのSNSを見る。すると先ほど撮ったいちごタルトの写真が投稿されていた。
しかも写真には一樹の服の袖が少し映っている。
に、匂わせてるー!! お姉ちゃんが匂わせ写真を投稿してるー!!
もしやとは思ってたけど、お姉ちゃんって……そういうことだったの!?
「お、苺もおいしいですね」
「でしょでしょ? それじゃあ、次は私の番ね。あーん」
お、お、お姉ちゃん!? あーんって何!?
「……えと、何してるんですか? 好きな分だけ取ってくださいよ」
「えー? 食べないよ。あーんじゃなきゃ」
お姉ちゃんはすっと自分のフォークの持ち手を一樹に向ける。
『はい、これ私が使ってるフォークね。これで食べさせて』ということだろう。
「早く食べさせてくれないと注目されちゃうよ?」
いや、もう十分注目されてるよ!?
「……はぁ。あーん」
一樹はあろうことか自身が使っていたフォークで抹茶タルトを指し出した。
ち、ちょっとぉー!? あんた何してんの!?
「え、え、あ、あーん」
予想外だったのか、お姉ちゃんも慌てた様子で抹茶タルトを食べた。
「……あ、あはは。流石に間接キスはなんか照れるね……へ、へへ……」
「……あ、すいません」
な、何? なんなの? 私は一体何を見せられているの?
その後、二人はタルトを食べながら何やら話し込んでいた。
さっきより声が小さくてうまく聞き取れないっ……
お姉ちゃんがトイレに向かい、咄嗟にメニュー表で顔を隠す。
それを確認した一樹が席を立ち、歩き出してどこかへ行ってしまった。
一瞬こちらを見た気がしたけど……まさかバレた?
数分後二人とも席に戻ってきて飲み物を飲み切り席を立った。
二人の後を追うけど、何故か会計はせずそのまま店の外へ歩き出して行く。
あ、あれ? なんで会計は? 困惑しているうちに二人を見失ってしまった。
一人取り残された私はぽつぽつと会計に向かう。
はぁ、最悪。マジ最悪……こんなことならこなきゃよかった。
「お支払い方法はどうされますか?」
「あ、現金ー」
「ペイで」
「え?」
すっと横からいつきが現れケーキセットの支払いを盗んでいった。
「ほら、行くぞ」
「え、え?」
ど、どういうこと? 為すがままついていくとお姉ちゃんが待ち構えていた。
「やっほー茜ちゃん」
「え? ななな、なんで!?」
「えー? なんでって……後つけてたの知ってたし」
お姉ちゃんはニヤニヤしながら言った。
「き、気づいてたの?」
「いや、お前……不審者っぽかったし。逆に目立ってたぞ」
「う……!! そ、そうよ! その……えーと……ふ、二人ともわ、私に内緒で何してたのか気になって!!」
「お前の生徒会選挙についてちょっと話してたんだよ」
「わ、私の?」
「そうだよ〜ちょっといつきくんにあれして欲しい。これして欲しいって色々とお願いされてたんだ」
「そ、そうだったんだ……」
わ、私のために……色々としてくれてるんだ。
「いつきくん。私たちの分のケーキ代出してくれてありがと、今度お返しするね?」
「……わ、私も今度何かお返しするから!」
何がいいか考えておかないと……!!
「ごめんねー? 茜ちゃんの反応がわかいくてついついからかっちゃった」
お姉ちゃんはそう私に耳打ちしてきた。
な、なんだ……そういうことだったのね。
そ、そうよ! 冷静に考えてみればあのお姉ちゃんがいつきなんかを好きにするはずないわ!!
ずんずんとした足どりでいつきのもとへ近づき
「あんたも駄目よー? 本気にしちゃ!」
「は? なんかいきなりニコニコでわけのわからんこと言われて腹立つんだが?」
……ん? でもなんでお姉ちゃん香水なんてつけてたんだろ?
それに私をからかうだけなら匂わせ写真も投稿する必要が……
「茜ちゃん? どうしたの? 考え込んで」
ま、いいか!!
私は軽い足どりで歩き出した。