第22話 パンツの話
「……なるほど。つまり看病しただけで聖女と呼ばれるほどの美少女に毎日晩御飯をお裾分けしてもらっている上に荷解きも手伝ってくれることになった……と」
「そう言うことだな」
「……さとーさ……それ……妄想にしては痛々しすぎない?」
「いや! 本当のことなんだって!!」
最近、俺は古宮から晩御飯のお裾分けを毎晩もらっていた。
古宮曰く、「食生活が無惨すぎて心配だから」らしい。バカでかいタッパーに入っているもんだから晩だけでは食べきれず、弁当のおかずとして持ってきている。
昼休み中野と二人で食べていたら、弁当のことを突っ込まれてしまいここ最近の古宮との出来事をありのまま話した。
その結果、中野にものすごい憐れみの目で見られてしまっている。
この顔は絶対に信じていない。
「……だって、さとーが言ってることってタイトルに例えると『学園で人気者の聖女様を看病したら恩返しで料理を作ってもらうことになりました!〜なぜか聖女様がものすごく俺に懐いているんだが?〜』みたいな感じなんだよ?」
……確かに。
「しかも相手は学園内でもトップクラスの人気を誇る聖女様。そんな美少女が自分にほの字。さとーくんさぁ……妄想も大概にせーよ?」
やれやれと言わんばかりの表情で肩をポンと叩かれた。
「ほの字って……なんでそうなる」
「はぁー……いいかい? さとーくん。普通はね、好意も持たない男の部屋に上がることなんてないし、料理も振る舞ったりしないし、朝に玄関で待ってやしないんだよ!!」
た、確かにその通りだ……!!
「つまり……古宮は俺のことを好いている!?」
「いや、度が過ぎた真面目ちゃんかお人好しなんでしょ」
なんか完全に否定された。
おい、なんだったんだよ今までのやりとり。
「まぁ、妄想とは言ったんだけどお弁当がこうしてあるしね……うま」
中野はそんなことを言いながら弁当のおかずである豚の肉巻きポテトをパクッと食べる。
あ、最後の楽しみにとっておいたのに……
「はぁーそうかーさとーに彼女かぁー」
「いや、付き合ってないから、そもそも告白すらされてないからな?」
「でも、もし聖女ちゃんに好かれていて告白されたら付き合うでしょ?」
「……どうなんだろうな」
「……ほら否定しないじゃん!!」
そりゃ、俺だって男だし……古宮みたいな可愛い女の子に告白されたら思わずオッケー! しちゃうかもしれない。そこは男のサガという奴だな。
「うわぁー!! もー!! 私は彼氏出来ないのにさとーに彼女ができるのがなんか腹立つー!!」
「いや、なんでだよ……というか中野こそその気になれば恋人の一人や二人できるだろ」
中野はスタイルもいいし、容姿・成績ともに碧嶺5大美女に匹敵するステータスを持ってると思っている。
「いや……無理でしょ。立場的に考えて」
「そうか? この学園内には周りや噂なんか気にしないやつなんていくらでもいると思うけど……ちなみにどんなやつがタイプなんだ?」
「えータイプとか特に……」
うーんと腕を組み考え込む。
「……強いて言うのなら、噂や他人の言うことに流されないくらい自分を持っていて、私のことをちゃんと見てくれてーあとは趣味が合えば……」
そこまで言ってはっと何かに気がついたように俺を見た。
「いやそのっ!! そういう意味じゃないよ!?」
何あわあわしてるんだ? こいつ……?
「いや……だって……えぇ?」
なに頭抱えながらぶつぶつと言ってるんだ? こいつ……?
「あ! そうだ!! さとーにお願いがあるんだけど!!」
「な、なんだよ」
ずいと勢いよくこちらに体を傾けてくる中野に思わずたじろぐ。
人にはパーソナルスペースがあるものだが、それを整然と侵入する中野に驚きを隠せない。
そんなに心に余裕がないのだろうか?
「さとーのパンツ見せて!!」
「………………は?」
パンツって言ったか? 今?
え? 俺の?
…………なんで?
「お、おいおい。なんの冗談……え、待って……ちょっと目がマジなんだけど……」
「いいじゃん、パンツを見られて喜びを感じるんでしょ? ね? ね? ね!?」
「お、お前は一体何をいっているんだ? おいやめろ……誰か来たら」
「大丈夫! ここは誰もいない屋上。鍵もかけてるから……誰も来ないよ」
「いや……ちょっと……中野さん? 落ち着こう? ジリジリ詰められると……ちょ、やめ!!」
あああああああああ!!
「おっそいわよ!! いつき!! 何してたんあいたぁ!!」
放課後、生徒会室に入って早々俺は茜の頭に強烈チョップをお見舞いした。
「なにするのよ!!」
涙目で頭を押さえながら睨んでくる。
逆にチョップ程度で済ませた俺に感謝して欲しいくらいだ。
「うるせぇ! お前が中野に変なことを吹き込んだせいで俺はなぁ……!!」
誰もいない屋上でズボン剥がされてパンツ見られて、挙句の果てに「なんでトランクスなんだよ! ブリーフじゃないの!?」ってわけのわからん逆ギレをされて大変だったんだぞ!!
そう叫びたかったが頑張って押さえ込んだ。
ふぅ、ふぅ……!!
「まぁいいや……生徒会選挙について話そうか」
茜と対面の椅子にどしっと腰を下ろす。
「お、お姉ちゃんから聞いたけど、本当にいいの?」
「選挙の手伝いか? 新条が気にする必要はない。いやならちゃんと断ってる」
「そ、そっか……え、えへへ」
そう言いながら嬉しそうに微笑む茜に複雑な思いを抱きながら生徒会選挙の作戦会議を始めることにした。