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第19話 映画デート




 祝日、俺は最寄りのショッピングモールにある映画館に来ていた。


 予約していた映画のチケット発行する為、発行機を操作する。

 

 この前、中野のオススメされたアニメ映画を見たんだが、それが結構面白かった。

 そして、ちょうど今、同じ監督の最新作が上映されているとのことで早速見ることにしたのだ。


 そういえば、中野はこの映画見たんだろうか? 

 中野のことだから初日で見に行ってるかもしれないけど、どうせなら誘えばよかったかな。と少し後悔しながらチケットを取る。


 上映時間まで少し時間があるな……どう時間を潰そうか。



「あー!!」



 聞いたことがある声がした。

 振り返ると、驚いた表情をしながら俺のことを指差している私服を着た中野双葉の姿があった。



「チケット!」


「同じ映画だな」



 互いにチケットを見せ合うと同じ映画で同じ上映時間でしかも隣同士だった。



「えー!! マジ!? さとー! さとー!」


「あはは。なんだなんだ? やけにテンションが高いじゃんー」



 まぁ、これだけ偶然が重なれば俺のテンションも上がる。俺の方はさっきまで中野と見たかったなと思っていたから余計にな。



「だってさー! 私さっきまでさとーと……」



 何かに気が付いたようにはっとしたて言葉が途切れた。

 その頬は少し赤くなっているように見える。



「あーいや……なんでもない。えと……そう! 映画が楽しみ過ぎてちょっとテンション上がってる。それに、ちゃんと私のオススメ見て、好きになってくれたんだなって」



 ああ、その気持ちは少しわかる。親しい人に自分の好きなものを好きになってもらえると嬉しいからな。



「てっきり、中野は初日に見に行ってるもんだと思ってたんだけどな」


「初日は人がいっぱいでしょ? だからいつも落ち着いてから見ることにしてるんだよ」



 なるほど。確かに中野は人混みとか苦手そうだしな。



「それにしても席も隣とはね〜」


「まぁ、このあたりの真ん中が映像と音響のバランスが一番いいからな」


「なんだよぉ〜私と思考パターン一緒かよ〜」



 中野は嬉しそうに肘で突いてくる。

 これからは見たい映画があれば中野を誘ってみるのもいいかもしれない。



「ね、上映まで時間あるでしょ? 一緒に暇潰ししない?」


「ああ、いいぜ」



 ということで上映時間までショッピングモールを二人でぶらつくことになった。



「おっほん。時にさとーくん。私に何か言いたいことはないのかね?」

 


 隣で歩いている中野が不意にそんなことを言い出した。



「え? 言いたいこと? あ、本屋寄っていい?」


「違う!! 私服!! わたし、今私服なんだけど!?」



 中野は私服をこれ見よがしに訴える。



「ああ、そうだな」


「いや褒めろよ! 似合ってるなとか、かわいいなとか!! 褒めて欲しんだよ!! こちとら学園での扱いのせいで承認欲求モンスターになってるの!」


「あ、ハイ……すいません」


「……で?」



 まるで圧迫面接かのような空気に自然と背筋が伸びる。 



「あーえっと、その私服すごく似合ってる。かわいいよ」


「……どういったところが?」



 うわ、めんどくさっ

 しょうがない。ちょっと真面目に考えるか。

 碧嶺学園の転入試験より脳を回転させながら中野の私服を見る。

 正直、決まった答えがない分、転入試験より難題だ。



「……全体的な色合いとか服の合わせ方がお洒落だと思う。それにそのキャップも今日の服装によく合ってる」



 ……どうだ?

 緊張しつつ、中野の反応を待つ。



「へへ〜そうかな〜? 実はこのキャップお気に入りなんだよね〜」



 よし!! 機嫌治ってる!! 

 思わず小さくガッツポーズをした。



「あ! ちょいこのお店寄っていい?」



 中野が指さしたのはお洒落で有名なブランドの服の店だ。特に不満はなかったので店に入る。

 中野がかぶっているキャップ同じようなものがずらりと並んでいる。

 あ、同じブランドか。値段を見ると当然のように桁が多い。さすが碧嶺学園に通っているだけあって金持ってるなー



「えい」



 中野が急に俺の頭に帽子をかぶさてきた。

 いきなりのことだったので少し狼狽えてしまう。



「へ〜結構似合ってるじゃん」


「……これ、中野がかぶってるやつと同じじゃないか?」


「そうそう、メンズタイプもあったの」


「ふーん」



 まぁ、買うことはないんだけどな。キャップとか興味ないし。こういうのは試しで被るだけで十分だ。



「お似合いですよ。お客様」


 

 キャップを脱ごうとしていたら女性の店員さんに声をかけられてしまった。


 あーね。そうやって似合ってますよとか思ってもないことを言って買わせようとしてくるやつね。


 うんうん、服屋とかでよくあるやつだ。

 けど、残念だったな。俺はそんなのには騙されねぇ。



「だってさ、ねぇねぇ。この際買っちゃたら?」



 中野は俺の後ろから肩に手を置きそんなことを言い出した。



「え? いやいいよ」


「ええーかっこいいのに……ね? 店員さん?」


「ええ、よくお似合いだと思いますよ」


「やっぱり、さとーは顔が良いからなんでも似合っちゃうんだなぁ〜」



 ……顔が良い? なんでも似合う?



「はい、私もお客様のお顔は芸能人顔負けに整っているかと」



 ……はぁー



「そこまで言うのなら買っちゃおうかな〜?」


「うわ、チョロッ」



 中野に何かとても失礼なことを言われた気がするが会計を済ませ、即座にキャップを被る。


 キャップにしては良い値段がしたけど似合っているらしいし。

 

 ま、いいや!!


 ポップコーンとジュースを買うために映画館に戻るとフードコーナはそこそこな列が出来ていた。



「……なんか、カップルが多いね?」


「だな……あ、どうせなら二人で大きなサイズ買わないか?」


「お、良いね。ちなみにさとーはキャラメル味か塩味どっちがいい?」


「キャラメル一択だろ」


「……うおーもしかして私達、魂のソウルメイトかもしんない」



 魂って2回言ってるんだが。

 そんな話をしていたら順番が回ってきた。

 

 どれどれと二人でメニューを見る。


 

「今ですとカップルセットがありますよ」


「「えっ」」



 思わず、互いに見つめ合った。

 あ、そうかお揃いのキャップのかぶってるからカップルと間違われたのか。


 

「いや、俺たちはー」


「じゃーそれでお願いします〜付き合ってますから!」



 !?



「飲みのものはホワイトソーダで! ぴっぴは何にする?」


「……えと、コーラで」


「かしこまりました」



 カップルセットを受け取りフードコーナーを離れる。

 

 ま、ポップコーンとドリンクがLサイズ無料なのはお得だからな。

 中野もそう考えていったんだろう。



「あ、ポップコーンとドリンク持たせちゃってごめん」


「……いや、構わねぇよ。一応彼氏ですし」



 そう言うと中野はきょとんとした顔になり、すぐにやっと笑った。



「さすが、ぴっぴ。頼りになること言うね〜」


「ぴっぴってもう古いらしいぞ」


「……まじ?」



 中野は若干ショックを受けながらキャラメルポップコーンをつまんだ。



「おお! ここのキャラメルポップコーンめっちゃうまい!! 食べてみ!?」


「食べてみって……今両手塞がってるんですけど」


「可愛い彼女が食べさせてあげるじゃん〜ほれ、あ〜ん?」



 ……まぁ、いいか。

 ここは中野に甘えてキャラメルポップコーンを食べさせてもらった。



「確かにこれうまいな」


「でしょ? ほいほいほいほい」


「おい、ちょ、やめろ! そんな一気には……!!」



 こうして俺たちはシアターに入って行った。




 



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