第18話 聖女様からの好感度が高い!
朝、いつものように栄養ゼリーを10秒でチャージしてネクタイを結び袖に腕を通す。
ここ数日は色々とありすぎた。
茜の生徒会長選挙の手伝いをすることになり、茜のライバルである聖女様……古宮ひよりに接触し、看病したり、晩御飯を作ってもらって仲良く? なり、荷解きも手伝ってもらうことになった。
うーん。この状況。茜達にバレたら面倒なことになりそうだ。
でも待てよ? 古宮とは学年も別で特に接点もないし絡むのはこのマンションくらいだ。
であれば、茜達には俺たちの関係はバレないだろうし、問題はないか?
「おはようございます。遅いですよ? この時間帯だと間に合うかギリギリじゃないですか」
目の前の光景が俺の考えを覆した。
マンションのエントランスで古宮が俺を待っていたのだ。
なんで……?
予想外の出来事に思わず固まる。
困惑している俺に古宮は弁当箱を渡してきた。
「はい。これ先輩のお弁当です」
「……え、俺の弁当?」
「はい。昨日の冷蔵庫を見るにお昼は栄養ゼリーや栄養食で済ませる気でしょ?」
「残念。今日のお昼は栄養ドリンクだ」
「余計だめじゃないですか」
古宮は呆れたようにため息をつく。
「お昼もちゃんと食べないとだめです」
「それは……そうだけど……」
これ以上はあまりにも貰い過ぎだ。晩御飯といい、荷解きの手伝いといい、手作り弁当といいいたせりつくせりだ。
こっちは自己満足のためにお節介を焼いただけなのに……
「もしかしてご迷惑でしたか?」
う、それは少しずるい。そう言われるとこちらは受け取るしかない。
「いや……ありがとう」
古宮の手作り弁当を受け取る。
この前の看病への義理は晩御飯で返しただろうに。
なんだか、100円貸したら1万円返ってきたみたいだ。
「別にこの前のことは気にしなくてもいいんだぞ? 俺が自己満足でしたことだし……」
「先輩こそ、気にする必要はないですよ? これは私の自己満足でしていることですし、それでも気にされるのなら食生活を改善してください」
「はい……」
どうやら栄養食生活を卒業する時が来たみたいだ……
結局二人一緒に登校することになった。
この時間帯は生徒も少なく、二人で登校しているのを見られる可能性は低い。
が、桜坂からは話が別だ。
流石にここからは登校している生徒が出てくる。
そんな中、古宮と一緒に歩くのか……
周りからはどう見られてしまうんだろう。 古宮は学園でも人気者だ。
清楚可憐な美少女。聖女様と呼ばれるほどの美貌と優しさ。それでいて学年主席をキープし料理も恐ろしく上手い。
これで人気が出ない筈がない。ゆえに彼女は学年問わず校内の男子生徒から告白やアプローチを受けている。
実際、そう言った話は沢山聞いた。
そんな古宮が男と二人で登校しているのを見られたらどうなのかはわかりきったことだろう。
「……古宮、先に行ってくれ」
立ち止まりそう告げる。
「どうしてですか?」
本当にわからないと言わんばかりの顔をされ、少し驚く。
そういうことには無頓着なのだろうか?
「俺と一緒に登校しているのを見て勘違いする奴らが出てくるかもしれないだろ?」
「勘違いですか?」
ここまで言ってもまだ気付かないのか……
「だから……俺たちが付き合ってるとか、そういう感じの勘違いされて噂されたら古宮が迷惑だろ?」
「私は別に構いませんが」
……は?
「そんなことより、早く行きましょう。このまま立ち止まっていたら遅刻しますから」
「いや……でも」
「これ以上渋るのなら無理やり手を引いて連れて行きます」
「すいません。すぐ行きます」
結局俺が折れて二人で坂を登る。
なんだ? 昨日といい。今日といい。聖女様の(俺への)好感度がやけに高い気がする。
少なくてもこの距離感は昨日今日会った他人とは思えない。
「……ここ、春になったら桜が満開になって綺麗なんですよ」
まるで思い出すかのように古宮は語る。
その表情は少し寂しそうだった。
「ああ、知ってるよ。この坂には少し思い出もあるからな」
だからだろうか? 言うつもりがなかったのについ口が滑ってしまった。
「……思い出、ですか?」
古宮は驚くほど真剣な表情で俺の顔を見上げて聞いてきた。
その表情に少し気落とされる。
「え、おう……春にこの坂で女の子と出会ってな。名前も知らない子で……俺は『桜』って呼んでた」
きっと、桜には嫌われてしまっているだろうな。
お節介ばかりして……急に決まった転校とはいえ突然姿を消したんだ。
『今更、どのツラ下げて私に会いに来たんだよ』
再会してもそんなことを言われて拒絶されるのがオチだ。
「ああ、でもなんか……ちょっと心配だな」
「心配?」
「妹みたいな存在だったから、悪い男に引っかかってないかとか暴走族とかになってないかとかー」
どすっと横から古宮に脇腹をつっ突かれた。
「え? 何これ?」
「ひよりチョップです」
いや、そういうことじゃなくて……
まさか、こんな子供のようなじゃれあいを彼女からしてくるなんて思ってもみなかった。
「……暴走族にはなっていませんが、悪い男の人には引っかかってしまったかもしれないですね。知らないですけど」
手を握られ、引っ張られる。
古宮の手はきゅっと力がこもっており離す気配がない。
「ちょっと!? 古宮さん!? 手、手を離してくれ!!」
こんなの絶対に誤解される!!
「そうですね。名前で呼んでくれたら離します」
「ひ、ひより……手を離してくれ」
「わかりました。学校に着いたら離します」
「ちょ!?」
「今すぐ離すとは言ってませんから」
だからなんでこんな古宮からの好感度が高いんだ!?
なぜか機嫌が良さそうな古宮に手を引かれながら桜坂を登った。