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第10話 茜の焦燥





 最近双葉の学校にくる頻度が多くなった。

 理由はまぁ……間違いなくいつきだろう。


 あの日、学校にくる気がなかった双葉を無理やりにでも登校させたのはいつきと会わせる為だった。


 双葉はある事が原因でクラス……いや、学校中から腫れ物扱いされている。


 私は双葉のことをちゃんと見てくれている人が一人でも多く必要なんじゃないかって思っていた。


 だから二人を会わせたのだ。


 あいつなら双葉の味方……とまではいかないけど、ちゃんと接してくれると思ったから。

 その後、屋上で二人きりにしたり、一緒に帰らせたりしていたんだけど……



「……ちょっと仲良くなりすぎじゃない?」



 この前だって、映画やアニメの話ですごく盛り上がってたし。

 いや、まぁ……仲良くなる分にはいいんだけどね? 私もそれを望んでいたし?

 だから別に? 羨ましいとか? そんなの? 全然? 一切? 思ってないし?


 ……二人が話していた映画のタイトルなんだったけ。


 スマホを持った瞬間、ブー!! と振動した。



「わっ……あれ? 双葉から通話だ」



 こんな時間になんの用だろ?



「もしもし?」


『あ、もしもしーごめんねー今大丈夫?』


「大丈夫だけど……どうしたの?」


『ちょっと明日の時間割で聞きたいことあって……体育ってあったけ?』



 ああ、双葉ってテキストほぼ置き勉してるけど体操服は流石にできないもんね……時間割も無くしたって前に言ってたし。



「明日はねー」



 要件を伝え、少し雑談をする。 



「あ、そういえば。明日生徒会の用事とかないし一緒にスタバーに寄らない? ほら、前に新作のフラペチーノ飲みたいって言ってたでしょ?」



 双葉にとってスタバーはリア充空気が半端なくて一人じゃ絶対入れない所らしい。確かにオシャレだとは思うけど、ただのコーヒーのチェーン店なのにね。



『ああ、新しいやつね。もう飲んだ。めっちゃうまかったよ』


「へーそうなん……え? もう飲んだ?」


『え? どしたの? そんなに驚くこと?』


「いや……あんた前に言ってたじゃない! スタバーはリア充空気が半端なくて一人じゃ絶対入れない〜って!! 誰と行ったのよ!?」


『え? さとーとだけど? 昨日下校帰りに寄った』


「んなー!?」



 げ、げげ下校帰りに一緒にスタバー!? それって……完ッ全に下校デートじゃない!!



『ほれ、これ』


 新作のメロンフラペチーノを持っていつきと自撮りしている双葉の写真が送られて来た。


 は? 何この照れ顔……私がこんなに密着しても絶対にそんな顔しないわよね? ちょっと胸が大きい子に密着されたくらいで浮かれてんじゃないわよ。 


 はー……次会ったら説教だわ。



「……随分と仲が良いのね?」


『え? そう? まぁー趣味とか合うしねー話してて楽しいし』



 ぐっ……!! 趣味友達って得てして心と物理的な距離も近くなるってテレビでやってたけど本当のことだったのね……!!



「そのー……双葉ってあいつのこと……どう思ってるの? す、好きなの?」


「えー? いやー………ないない」



 え!? 何その間!?

 いやーからのないない間ちょっと間があったんだけど!?

 ま、まずい……!! このままだとまずい気がする!!

 こうなったらあいつの悪いところを話して双葉への好感度を下げるしかない!!



 あいつの悪い所……えーと………………悪い……ところ。


 ………………


 あれー!? ない!! 何も思いつかない!? いや! あるはずなのよ!! でもいざとなると……

 


(くっく……何悩んでるんだよ? そんなものはでっちあげたらいいだけじゃないか)



 あ、悪魔の私!



(そうだ! いつきは高校生にもなってパンツはブリーフ派って嘘をついてしまえばいい!)



 そ、そんな……



(いけませんよ!! そんなこと! いつきくんが可哀想ですし、何より人としていけないことです!!)



 て、天使の私!!

 そ、そうよね……流石に嘘は駄目よね。あいつの名誉にも関わることだし。

 好感度を下げるなんて馬鹿げたー



(ほーん……それじゃお前らは双葉といつきが付き合ってもいいのかよ?)


(時には嘘も必要です)


「双葉、いつきはやめといたら? あいつ高校生にもなって未だにブリーフ履いてるし」



 3対0で即可決した。


 

『えっ……? ま、まじ?』



 双葉は明らかに引いているような声だった。



「マジよ。いやー私もこの年になって恥ずかしくないの? って言ったんだけどね? うるせーこのぴちぴち感が好きなんだよって逆ギレされたわ」


『え、えぇ……』



 よしよし。心なしか好感度が下がっている音が聞こえてくるような気がする!!



「まぁ、お願いしたら見せてくれると思うわ。あいつ、自分のブリーフを他人に見せることに悦びを感じるド変態だから!! 幼馴染みの私が言うんだから間違いない!!」



 まぁ流石に双葉はそんなことしないと思うけど。



『お、おう……』


 

 ふ……人として大事な何かを失った気がするけどまぁいいわ!!



 数日後、生徒会室でいつきに「お前中野になんて嘘教えてるんだよ!! おかげで変態プレイ紛いのことを……!!」と怒られながらチョップされてしまうのだが、この時は知るよしもなかった。



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