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ブレンドティー


「初めて見るポーションです」

「鑑定結果が出たってことですよね?」


鑑定鏡で鑑定できるのは、魔力が宿ったものだけだ。

魔法植物や、魔道具や、魔法薬、魔物素材。

ただの植物や動物に、ただ魔力をこめただけでは反応しない。


カレンがわくわくと訊ねると、サラはきょとんとした。


「ポーションだとご存じなかったのですか? わからないものをジーク様に飲ませようとされたのですか?」

「お恥ずかしい話ですが、研究がまだできていないんです。効果がありそうだなというのは幼馴染みで人体実験済みなのですが……人体に害があるような素材は使っていないので、その点はご安心ください」

「……鑑定鏡で鑑定結果をご覧になりますか?」

「ぜひ、見せてください」


サラがカレンに鑑定鏡を渡してくれる。

カレンが鑑定鏡でハーブティーを覗き込むと、文章が浮かんでいるのが見えた。



ブレンドティー

熱を下げる



「やっぱり! 効果も思った通り!」


カレンとライオスの縁談がまとまったとき、カレンはまだライオスの体調不良の理由を知らなかった。

血筋の祝福などというわけのわからない呪いにかかっているかもしれないと知ったのはその後のことだ。


成長するまで体がもてばどうにかなるという話だったので、カレンはライオスの母のフリーダと一緒になってあれこれライオスの体のことを考えて、試行錯誤する日々が始まった。


その過程で不思議なことが起きた。

昼は平民学校で、夜はカレンを羨ましがりながら八つ当たりしてくるライオスのためにあれこれ働きながら、死ぬほど疲れていたときだった。

ライオスのために作った蜂蜜漬けのレモンを味見で一口食べたとき、何故か疲れが吹き飛んだ。


蜂蜜レモンを作ったのは、確かに疲労回復のためだった。

自分のままならない体に苛立ちながらもどうにもできず、怒りに疲れきっているライオスのために作ったものだ。

だけど、その疲れの回復の仕方は異常だった。


元々蜂蜜レモンには疲労回復効果がある。

その効果が即効で現れる魔法薬に変化しているのではないか。

つまり、自分の作ったもののうちのいくつかがポーションになっているのではないか?


ポーションを作るのに必要なのは、素材への理解と、魔力。

カレンは料理するとき魔力をこめる。

これは元々は、料理を腐らないようにするためのものだった。

魔力をこめると、料理が悪くなりにくくなるのだ。


それが前世知識と相まって、ポーションと化しているのではないか?


カレンはそう予想して、今日に至った。

予想は当たっていた。

だとしたら、カレンは他にも様々なポーションを作れるということになる。

人生が拓けてきた気がして、カレンはウキウキだった。


「こちらはもしや、新種のポーションなのでしょうか?」

「そうだと思います。わたしはFランクで、アクセスできる情報の量が少ないので、確かじゃないですけど」

「回復薬を飲んでも、風邪の熱と違い、魔力の熱は下がらないのです。ですがこれを飲めば、熱が下がるのでしょうか?」

「多少なりとも効果があるのではないか、と思っています」


熱を出したライオスにこのお茶を飲ませると、元気を取り戻すように見えた。

熱を測る道具もなければ、当時ライオスに飲ませたお茶を鑑定する道具もなかった。

すべてはカレンの予想でしかない。


「……少しでも熱を下げられれば、ジーク様のお身体も楽になるはずです。早く飲んでいただきましょう」


サラは無表情だが、動きが落ち着かずソワソワしているのがわかる。


「そうしましょう。効果があるといいですね」

「はい」


待ちきれないとばかりにサラがワゴンを押していく。

無表情だが、ジークを心から心配しているのが伝わってくる。


「ジーク様、カレン様がお茶を入れてくださいました。ほんの少しでいいのでお飲みください」

「……薬?」


ジークは億劫そうに言う。

サラはそんなジークに無表情で言った。


「ショウガの味がいたしましたよ」

「薬じゃないんだ」


ジークがそう思ったのは、普通、ポーションに余計なものを入れると効果がなくなるからだろう。

たとえばポーションは薬草が材料なだけあって青くさいのだが、その味をどうにかするために砂糖でも入れようものなら効果はなくなってしまう。


サラは起き上がれないジークのために、お茶を冷まして水差しに移し替えた。

一口こくんと飲んだジークは、考え込む顔になる。


「……嫌いじゃないけど、変な味」

「体にいいんですよ」


カレンも自分の分のお茶を入れて勝手に飲んだ。


「サラさんも飲んでくださいね。病気予防にもなりますし。ジーク様は今お身体が弱っているので、周りの人も元気でいないといけないですからね」

「カレン様がよろしいのでしたら、ありがたくいただきます」

「ぼくはもういいよ。サラも飲んで」

「はい、ジーク様」


サラは毒味で一口飲んだカップのお茶をぐびりと飲んだ。


「変な味だよね、サラ」

「はい。不思議な味です」


そう言ってもう一口飲もうとしたサラを見ながら、ジークが体を起こそうとして、パタッとベッドに倒れこんだ。


「ジーク様!?」


サラがカップを落としそうになっているのをカレンが受け取ると、サラはジークのもとへすっ飛んでいった。


「どうなさったのですか?」

「起き上がれそうな気がしたんだけど、頭がくらくらして、できなかった」

「いきなり体を起こされては危ないです。私にお手伝いさせてください」

「うん、ごめんね。でも本当に起き上がれそうな気がしたんだよ」

「それは、大変ようございました」


そう言うと、サラは立ち上がって片付けを始めた。

ジークに背を向けたと思うと無表情のまま涙をポロッと流した。

どうやら、泣いているところを見せたくないらしいので、カレンも片付けを手伝った。


控えの間までやってくると、ポロポロ泣きながらサラは言った。


「カレン様、メイドの身で差し出がましいとは十分承知しております。ですがどうか、ジーク様をお助けください。何卒よろしくお願いいたします」

「できるだけのことをするつもりです」


サラの手に手をギュッと握られる。

カレンはその手の力強さに応えられるよう、強く握り返した。


その後鑑定したところ、ブレンドティーの出がらしの二杯目からは魔法効果は消えていて、鑑定結果は出てこなかった。


「すごい……」


カレンは鑑定鏡を見て息を呑んだ。

この魔道具があれば、曖昧だった自分の力の輪郭をはっきりさせられる。

きっとジークを助けることもできる……。


カレンは震える手で鑑定鏡をそっと銀の盆の上に戻した。


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