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死を覚悟しないとやってられない男-4

「君か! ミノタウロスを一撃で倒す実力を備えた少女というのは!」


 それから俺は、リューネに強引に引きずられつつ、客人の待つ村の小さな教会へと足を運んだ。

 教会に着くや否や、教会の客間でお茶を嗜んでいたセミロングの金髪の青年が立ち上がり、リューネに近付いてなれなれしく手を握る。


「その若さでそれだけの強さを得るのは、楽な道のりではなかったでしょうに」


 恐らくはディーチの言っていたギルドの方だろう。

 青い瞳の爽やかなイケメンながら、身長がリューネよりも頭二つ分抜けて高く、体格も良くてごつごつとした厚手の白い鎧を纏っている。

 ギルド所属の傭兵や冒険者というよりも、王国の騎士と呼んだ方がしっくりくる見た目だ。


「まさか……こんな美しい方だとは」


 俺の勝手なイメージだが、恥ずかしげもなく相手をしっかり褒めるところとかも騎士っぽい。

 実際美少女だとは思うが、村の者はそれを口にしないので、リューネも言われ慣れておらず、少し照れくさそうに「……どうも」と金髪のイケメンから視線を逸らす。


「おー……来たか、リューネ」


 そこで、客間のテーブルに座って一緒にお茶を飲んでいた、この教会の主が声をかけてきた。

 丸眼鏡がよく似合う、聖魔教団に所属するこの村出身のコビル神父様だ。

 丸坊主で人当たりの良い初老の男性で、皆からはおじいちゃんと呼ばれて慕われている。そして俺はハゲと呼んでいる。


「おじいちゃん……こちらの方がギルドの?」

「おっと、申し遅れました。私は王都一のギルド【セレスティル】に所属するルード・ファランシスと申します。今回、教団の司教様の護衛としてここに参ったのですが、あなたの話をお伺いし、ぜひともお会いしたいと思いまして」


 すると、同じく客間のテーブルに座っていた、教団の礼装に身を包んだ特徴のない爺さんが小さくお辞儀をして見せた。

 もう一人、体格的に男性と思われる古ぼけたローブに身を包んだ者がテーブルに座っているが、こちらに興味がないのか顔を向けずにお茶を飲んでいる。

 恐らくは、ルードとやらと同じ護衛なのだろう。


「朝早くに呼びつけてすまないな。昨日の話をしたら、ルード殿がぜひお前をギルドに勧誘したいと言うのでな。ディーチも、急に使いを頼んですまなかった」

「たまたま居合わせたのが僕しかいませんでしたからね、これくらい全然構いませんよ」


 気にもしていないのか、ディーチはコビル神父様に笑顔を返す。


「えっと……私をギルドに?」

「ええ、私は今年で二十一になりますが、まだレベル18になったばかりです。それでもかなり若く早く強くなったともてはやされていましたが、あなたはそれ以上だ」


 ルードはそう言うと、リューネの手を握る力を強め、顔を近付ける。


「ぜひ、王都に足を運び、我がギルドに入ってほしい。ギルド長には私から口添えをします! とはいえ、口添えなんてしなくても入れるでしょうが……」

「でも私、妹もいますし……畑仕事とかもありますし」

「共に王都で暮らすべきです! 我がギルドに入れば今よりも快適な生活が手に入ります。あなたがギルドで活躍すれば、王国からこの村へ支援金も支払われますので、畑仕事をせずともこの村のためにもなりましょう」

「でもそれって……戦って生きるってことですよね?」

「大丈夫です。死ぬような目に遭わないよう、ギルドという組織があるのですから」


 ギルドとはつまり、各王国と聖魔教団に正式に認められたモンスター退治のエキスパート集団のことだ。

 各王国と聖魔教団が発行するクエストを斡旋されるため、フリーの冒険者や傭兵よりもクエストの選択権が多く、また、報酬の量も多い。何かあった時のために常に王都でスタンバイしなければならない代わりに、クエストをこなさなくても月給も支払われ、また、活躍に応じて故郷の村に支援金が送られるのが特徴だ。

 こんな偏狭な村で畑仕事をするより、ずっと楽で快適な生活が送れるのは間違いないだろう。

 俺がレベルを上げたいと強く願ったのも、その生活を得たかったというのが一つの理由だし。


「でも、いずれは……魔王討伐に向かうんですよね?」

「最終目標は魔王討伐ですが……これまで誰も、魔王討伐を成し遂げていない事実から、魔王がそんな簡単にやられるほど甘くないことを我がギルドは重々理解しております。魔王討伐は志願した者か、教団か王国に討伐の勅命を言い渡されない限りはありえません」


 ルードの言葉通り、魔王討伐に向かうのはあとくされのない高齢者が多い。

 王国や聖魔教団が魔王討伐の勅命を言い渡すのも、引退間際の高レベルの者のみらしい。

 それ以外で魔王討伐に挑もうとする馬鹿なんて、自信過剰な若者や、魔王討伐による莫大な報酬目当ての者くらいだろう。

 それでも挑むというからには、かなりの実力を持っているはずで、まだ討伐されていない魔王はどれだけ強いんだよって話。

 だからこそ討伐に夢を持ち、皆、我こそがと挑むわけだが。


「あなたが魔王討伐に行くとしても、それは討伐し得るかもしれない実力を兼ね備えた時か、年寄りになって、あとは平凡な老後を過ごすしかないって時だけです。その頃には妹さんも立派に成長しているでしょうし、何も心配はありません」


 断る理由はなかった。むしろレベル15になったのであれば、ギルドに所属しなければもったいないと俺も思うくらいだ。

 しかしリューネは、少し迷った様子だった。


「行くべきですリューネ。お前はこんな村に収まっているべき器じゃない」

「そうですね、僕もレベル15の逸材なんて、こんな平和な村にはもったいないと思います」


 そんなリューネの背中を、コビル神父とディーチが押す。


「……ユンケルは、どう思うの?」


 すると何故か、リューネは俺に視線を向けて不安そうな顔を見せた。


「自分の人生は自分で決めろ」


 俺は素っ気なく答える。

 正直なところ、俺も行くべきだとは思う。だが、俺たちが何を言おうが、リューネの人生はリューネのもので、リューネがどうしたいかで決めるべきなのだ。他人なんて関係ない。

 だからこそ俺も、周りが無駄だ、馬鹿だと言い続けてもレベルを上げようと努力してきた。

 ……最近受け入れて、諦めちゃったけど。


「あの……私はミノタウロスを倒しましたけど、ここにいるユンケルもミノタウロスを倒しています。私を誘うなら……彼にもその資格があるんじゃないでしょうか?」

「なんでそこで俺が出てくるんだよ」

「いいから! こんなチャンス滅多にないでしょ!?」


 確かに入れるものなら俺は入りたい。

 だが入ったところで実力が足りず、苦労するのは目に見えている。それに――


「そういえばまだ、紹介を受けていませんでしたね……リューネさんと一緒にここへ来た彼は?」

「彼はユンケル・プールと言います。二日前にミノタウロスを倒したのは事実ですが……ユンケルのレベルは0でして、リューネのように簡単に倒したわけではないのです」

「レベル……0ですか?」


 コビル神父の説明を聞くや否や、ルードは眉間に皺を寄せて軽蔑の視線を俺に向けてきた。

 そう、ギルドがレベル0の俺を欲しがるわけがないのだ。


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