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プロローグ-3

「それで? こんな朝早くからどうした?」

「獣魔の森からミノタウロスが向かってきているんだ。このままだと村にまでくるよ」


 既にかなり近付いているのか、ディーチは深刻そうに窓の外へと視線を向けた。

 思っていた以上にとんでもない事態で俺は戸惑ってしまう。この村周辺で最強のモンスターであるミノタウロスは、基本的に森から出てこないはずだからだ。森で遭遇すれば間違いなく襲われるが、肉食ではないのでわざわざ村にまで来る必要がない。


「あれ? もしかして俺たちのせいでは?」

「もしかしなくても、間違いなく君たちのせいだよ。君たち昨日……ミノタウロスを倒したって教会のコビル神父様の前で自慢気に語っていたよね?」

「え、ミノタウロスって復讐とかに来るもんなの?」

「詳しくは僕も知らないよ。まあ……仲間がいたんだろうさ、君たちの匂いを辿ってここに来たと考えるべきだろう」

「早くなんとかしないとまずいのでは?」

「まずいよ。だからリューネの力を借りに来たのに……こんなことになっているなんて」


 昨日倒したミノタウロスさんだが、普通に倒そうと思えば、レベル10の人手が三人必要なくらいには強い。大人四人分の背丈に筋肉質な身体、そこに身の丈にあった斧を装備しており、動きは鈍いものの、一撃でも当たれば重傷を負わされる。

 俺が当たれば間違いなく即死だ。

 そんな相手をどうやって昨日倒したかだが、ビックリするくらい深い落とし穴を三日かけて掘り、俺が身体を張って落としたあと、ありとあらゆる攻撃手段をもって仕留めた。

 しかし今回は、落とし穴なんてものはない。


「え、マジでどうするの?」


 この村でレベル10の人なんて武器屋の親父くらいだ。それ以外は、ディーチを含めてレベル8以下の者が数人いるだけ。というのも、この村は魔王のいる城から一番遠く、モンスターによる被害の少ない、平和な村だからだ。


「どうするもこうするも……こっちに向かっているんだ、迎え撃つしかないだろう?」

「そうだよな……頑張ってくれ、俺は応援してる」

「何を他人事みたいに言ってるんだ。君も戦うんだよ」

「はぁ?」


 なめた口で強制参加を促すディーチに、俺はすかさず右手で全力のビンタをかます。

 爽快な音が鳴り響き、俺はあまりの気持ちよさに醜悪な笑みを浮かべてしまう。


「どうだぁ……? 痛いか? ……んん~?」

「いや、全然痛くないけど……」

「だよな? そんな俺に何ができる?」


 そして俺の右手は、あまりにも硬い皮膚を全力でビンタしたせいで赤くなっていた。

 当たり前だが、ミノタウロスはディーチ以上に高い防御力がある。

 全力疾走で鉄の剣を突き刺して、出血させる程度が関の山だ。もちろん俺の死亡つき。

 せめて、森のように木々が周辺にある状況なら、安全な位置から弓矢を使ってかく乱ぐらいはできたが、何もない平原でレベル0の俺がミノタウロスと真っ向から勝負を挑むなんて自殺行為としか言えない。というかアホ、アホを極めた人。


「囮くらいはできるだろ?」

「え?」

「いや、だから……囮くらいはできるだろう?」


 お前がやるのは当然だろ? とでも言いたげな腹立つ顔を向けてくるディーチ先輩。


「お前は騎士を目指してるんだろ? 身を挺して国民を守れよ!」

「いや、僕はまだ騎士じゃないし、騎士になる前に死にたくないし」

「まあ気持ちはわかるよ? でもね?」


 なんでレベル0の俺にやらせようとするの? 

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