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生ゴミ爆誕-5

「……こんなところに木の扉?」


 壁を抜けた先には、下水道には似つかわしくない、綺麗で艶のある木の扉が構えてあった。

 俺は、何の躊躇もなく、扉を開けて中へと入る。


「きゃぁああああああああああああああああああああ!」


 そして扉を開けると同時に、甲高い叫び声が響き渡った。

 だがそうなってしまうのも仕方がないだろう。

 扉を開けた先は、何故か良き香りのする可愛らしい部屋で、中央に置かれた円卓テーブルのすぐ傍に、下着姿の女の子がいたからだ。

 恐らくは着替え中だったのだろう。


「いや……なに? なんなの!? きゃぁぁぁぁああ! 出てってぇぇぇぇえ!」


 俺と同い年くらいだろうか? セミショートの甘栗色の髪によく似合う、まだ幼さの残るあどけない顔をしている。きつい性格なのが窺えるツリ目の美少女で、幼い顔なのにリューネ以上に豊満な胸。身長は 俺より頭二つ分は小さいだろうか?

 そんな素敵な少女が、赤い瞳を俺に向けて睨みつけてくる。


「きゃぁぁぁぁぁあああ! ってさっきから叫んでるでしょ!? さっさと出て行きなさいよ!」

「なるほど、だが断る」

「なんでぇ!? さっきからガン見しすぎでしょあんた!」


 別に見たくて見ているわけではない。

 そもそも案内された扉を開けたら下着姿の女の子がいただけで、俺は何も悪くない。


「ていうか……あんた、かなり臭いんだけど…………ちゃんとお風呂入ってる?」

「酷い……初対面の人に臭いだなんて酷すぎる。心折れそう……もう死にたい」

「いきなり入って来て、何の悪びれもなく乙女の裸体をガン見しているあんたに言われたくない」


 そもそも臭いのは仕方がない。俺がいったいどんな過酷な道を進んできたか、抱き着いて臭いで教えてやりたいところだ。まあ実際、三日間風呂入ってないけど。


「と、とにかく……早く出てってよぉ~!」


 謎の美少女は涙目で叫ぶ。

 しかし俺は、真剣な顔つきで真っ直ぐに謎の美少女へと熱い視線を向け続けた。


「なんでそんな堂々としてられるのよ! もぅ……知らない!」


 すると謎の美少女は、近くの椅子に置いてあったクッションを俺に投げつけ、逃げ出すように隣の部屋へと走り去ってしまった。


「さて……ここはどこなのかな?」


 俺は落ち着いて部屋の中を見回す、部屋は真後ろの扉とは別に、美少女が逃げた右側と、真正面に扉がある。そして、下水道の中にある一室とは思えないほど、綺麗な部屋だった。

 木で作られた扉にもかかわらず、下水道の中にあっても腐敗していなかったことから、恐らく魔法の類でこの空間の清潔さが維持されているのだろう。

 そして、俺が通ってきた扉。

 女の子が無防備に着替えていたことを考えると、注意が働かないほど開くことのない扉なのか、もしくは中にいる者が使うことはなく、うっかり人が通る可能性を忘れていたかの二択しかない。


「……やっぱりな」


 そう考えて通ってきた扉を開くと、俺が通ってきた下水道には既に繋がっておらず、扉の先はどこに繋がっているのかもわからない、光り輝く歪んだ空間になっていた。

 多分この中に入っても、さっきの下水道には繋がっていないだろう。


「さすがだな……答え合わせをする前に既に気付いていたか。良い観察力だ……やはりお前は見込みがある」


 その時、聞き覚えのある渋い男性の声が聞こえる。扉を閉めて振り返ると、いつの間に入ってきたのか、赤髪短髪のおっさんが正面の壁に寄りかかってこちらを見ていた。

 あの右目の傷と、生気を失った瞳には覚えがある。


「さっき逃げていった裸の美少女が、実はあんただったっていう展開も期待したんだけどな」

「裸の美少女? ああ……バーニャのことか? あいつは風呂好きだからな」


 バーニャと何があったのか察したからか、ターゴンは鼻で笑うとテーブルの席へと着く。


「随分と遅かったじゃないか、待ちくたびれたぞ。王都にはいつ到着したんだ?」

「三日前……っていうか、あんたが呼んだんだからさ、もう少しわかりやすくしとけよ。まさか誰に聞いてもあんたの情報が出てこないとは思わなかったよ」

「この臭い……下水道から来たか、それで三日なら充分早い。早すぎるくらいだ」

「どういうことだよ?」

「扉を開いて気付いているとは思うが、この部屋に辿り着くには複数の方法がある。その中でも最も簡単で、最も時間のかかるルートが下水道だ」

「あれで……簡単なルートだったの? 地獄のような臭さだったんだけど」


 試しに俺の服を顔面に当ててやろうかとも思ったが、俺はグッと堪える。


「才能がなくとも、レベル0なら誰でも辿り着けるという意味で簡単なんだ。わかっているとは思うが王都は実力社会、強くて使える人材はいくらでもいる。レベル0を好んで使うやつなんてそうそういない。最初は頑張れても……いずれ賃金を得る手段を失い、貧民街へと流れつく」


 つまりは、貧民街に辿り着いたレベル0なら、誰でもここに辿り着く可能性があるというオチ。


「しかし、三日で貧民街にまで落ちぶれる奴は始めてだ。一種の才能か?」

「そんな才能、いらないんですけど」

「まあとにかく、ようこそ王都へ。……座るといい」


 ターゴンはそう言うと、俺もテーブルに着くように促す。

 聞きたいことは山ほどあった。話を進めるため、俺は素直に言われた通りに席へと向かう。


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