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生ゴミ爆誕-4

「とにかく、君がここにいる理由はわかったよ。こんなところで暮らすくらいなら、リューネを頼ればいいのに……リューネもシルも、ユンケルを心配していたよ? 顔を出さないって」

「ディーチは会いに行ったのか?」

「そりゃ三日もあれば顔くらい出すよ。リューネのギルドの人たちに、特別にクエストも斡旋してもらったしね。明日ササッとこなしてくる予定だよ」

「このヒモ野郎がぁ…………! てめぇはリューネの腰巾着かぁ? プライドねえのかおぉん!?」

「今の君にプライドとか言われたくないけどね」


 しかし、このままでは泥沼から脱出できないのもまた事実だ。結局俺も、リューネを頼るしかない。あれだけ大口叩いて「しゅみましぇ~ん」とか無様すぎて行きたくないが。


「はぁ……行くか」


 仕方がないので俺は諦めて、リューネのいるギルドに行こうと重い腰を上げる。


「あんた……さっきターゴンって言ったか?」


 その時、俺の隣に寝転がっていた浮浪者が起き上がり、そう問いかけてきた。

 予想外な人物からの問いかけに、俺もディーチも顔を見合わせて困惑する。


「……ターゴンさんに呼ばれたのか?」

「こいつは違うけど……俺はそうだね」

「……あんた、レベル0とか言っていたが、証明できるもんは?」


 言われて、俺は聖魔教団が発行しているレベル証明書を浮浪者に手渡す。


「レベル0……嘘じゃないみたいだな。ついてきな、案内してやる」


 浮浪者は俺を一瞥すると、かっこよくポケットに手を突っ込んで背を向けながら歩き始める。

 だがこんな怪しい奴について行くわけがなく、俺は呆け面を浮かべながら浮浪者を見送った。


「いや、ついて来いよ!」


 途中で俺がついてきてないのに気付いて、戻って来る浮浪者。

 俺はすかさずディーチに顔を向けて表情だけで「何言ってんだこいつ……」と訴えた。

 隣で寝ていただけのウンコ属性のモンスターを、いったい誰が信じるというのか? さすがの俺も、こんな都合の良すぎる話を信じるほど馬鹿じゃない。


「行ってきたら? ……どちらにしたってターゴンさんの情報はないんだろ?」

「いやいや、俺がレベル0なのをいいことに、身ぐるみを剥がすか、奴隷として売り込もうとしているヤバい人にしか見えないんだけど」


 どう考えても俺がターゴンを探しているのをいいことに、そう言っているようにしか思えない。

 こんな貧民街で荒んだ心を持つ人間を相手に、何を信じればいいのか。


「だったら僕が一緒について行けばいいだろ? それなりに腕もたつし」

「おっと……あんたはレベル0じゃないんだろう? だったら連れていけねえな」


 ほらほらほらほら! レベル0しか連れていかないって、これはもう、俺をどうにかする気しかないでしょう!? うさんくさいにも程がある。


「んー…………まあでもいいじゃない? 僕抜きでも行ったらさ」

「つまり俺がどうなってもいいと? 俺がヌルヌルまみれになってモンスターの触手で弄ばれたあげく、穴という穴をほじりつくされてもいいってことですか?」

「ユンケルの頭の中では、これからどうなる予定なの?」


 最終的に、ミンチになってお前の食卓に出る予定。


「とにかく、行ってきなよ……レベル0だからって、簡単にやられる男じゃないだろ?」


 そう言ってディーチは笑みを浮かべながら俺の背中を押すと、そのままこの場を去っていった。

 自分がいると、進む話も進まなくなると判断したのだろう。


「安心しな……レベル0だからってあんたを騙すつもりはねえよ」

「信じられる要素が何一つないけど、とりあえずはついて行く、案内してくれ」


 そう言うと、浮浪者はふらふらと歩き始める。

 俺は内心、どんな危険な場所に連れていかれるのかとビクビクしながら、後をついて行った。


※※※


「……本当にこんなところにターゴンがいるのかよ」

「ああ……いるさ、俺をちょっとは信じろよぉ……ふへひひひ」


 浮浪者は下卑た笑みを浮かべて答える。

 今まさに、俺とディーチの懸念が現実になろうとしていた。

 案内された場所は、王都内の各地と繋がっている下水道だった。ドブネズミが徘徊し、目の前にいる浮浪者を顔面に押し当てているかのような素敵な香りが常に漂っている。

 松明を片手に持っているが薄暗く、道の先がほぼ見えない状態だ。

 どう考えても人が通る場所じゃない。ここにいるだけで病気になりそう。


「なあ、仮にここに本当にいるとして……あんたはなんで俺を案内してくれるんだ?」

「ターゴンさんに借りがある…………貧民街で暮らす奴なら全員そうさ」

「借りって……何をしてもらったんだよ?」

「色々さ、ターゴンさんは守ってくれているんだよ……俺たちを」


 それを聞いて『……何から?』という疑問が浮かんだ。

 適当なことを言っているのかとも一瞬疑ったが、ふと振り返って見せた浮浪者の哀愁の漂う表情が、不思議と俺に嘘ではないと感じさせた。


「だから俺たちはターゴンさんに協力を惜しまねえ……さあ行け、ここを真っ直ぐに進めばいい」


 貧民街から繋がる下水道に入り、三十分歩いたところで浮浪者は立ち止まった。

 通路途中にある下水道の狭い枝道を突き進むように指差し、浮浪者は元来た道を戻っていく。

 まだ罠の可能性はあったが、こんな場所に何かあるなら逆に見てみたいという好奇心が勝り、俺は枝道を言われた通りに真っ直ぐに進む。すると――


「はい、騙されたー」


 普通に行き止まりだった。

 多分これ、俺の背後に壁が出現して迫って潰される系の罠。

 と、思ったが、背後を見ても何か罠が発動した様子はなく、拍子抜けしてしまう。


「いや待てよ? 行き止まりって普通に考えておかしいよな」


 松明で照らし、行き止まりの壁をじっくりと観察する。

 壁はこれまで通ってきた通路と同じくレンガの壁で覆われており、特別おかしな部分はない。

 しかし俺の勘だが、絶対に何かあるはずだ。

 そう考えるのも、下水道が、国が作った公共の施設だからだ。

 わざわざ、行き止まりで何もない通路を作るとは思えない。そもそも、こんなわかりにくい下水道の通路途中に、下水の流れ道でもない無駄な通路があるのは不自然だ。


「ふーむ、仕方がないな」


 何かある。それを確信した俺は、恐らくめちゃくちゃ汚いであろう、ヌメヌメでヘドロのついた行き止まりの壁を嫌々ながら触れた。


「なるほど? 下水道だし、汚い壁に触りたいって奴も少ないだろうからな」


 勘は当たっていた。

 壁に触れると、触れた感触がなく、吸い込まれるように手が奥へと入り込んだからだ。

 奥に何かあるとわかるや否や、俺はそのまま身体全体を壁の奥へと進ませる。


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