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生ゴミ爆誕-3

「ねぇねぇママー!? 見てあれ、ウンコ属性のモンスターの群れかな?」

「っし! 見ちゃいけません! ああもう、道間違えたかしら。大通りはどっちに行けば……」


 それから三日後、俺は貧民街の一画の路地でふて寝していた。ウンコ属性ってなんだよ。

 あまりにも貧民街の路地が似合いすぎて、通り過ぎる人たちが他の浮浪者たちと一緒くたにするくらい俺は馴染んでいた。

 もはやベテランだった。たった三日で貧民街の人としか思えない風格を纏う俺。

 俺の隣も、俺のさらに隣の人も、死んだ魚のような目をして路地に寝転がっているが、ほとんど俺と遜色がない。漂う貧乏臭、負のオーラを周囲にまき散らし、寝転がりながら尻を掻く。

 ここに安酒があれば完璧だっただろう。


「あ……あの」

「あぁ!? 何見てんだごらぁ!? 見せんもんじゃねえぞ! 犯される前にとっとと失せな!」

「っひ! す、すみません!」


 稀に、間違って迷い込んでくる場違いなお上品なお嬢様がいる。

 貧民街はおっさんや年寄りが多く、俺みたいな若者が寝転がっているのを不思議がって見てくるのだが、俺はすかさずタン唾を地面に吐き捨ててギャンギャン吠える。

 哀れな若者を心配してあげている私は素晴らしいってか? お高くとまりやがって。

 いつかてめえら金持ちを切り刻んで、俺の足元にひれ伏せさせてやるからなぁ……クヒヒ。


「…………何をやってるんだい、ユンケル?」


 そこでまた一人、貧民街に似つかわしくない顔立ちの整った金髪のイケメンが訪れる。


「これはこれはぁ……? 王国の犬を目指すディーチさんじゃぁぁありませんかぁ!? いいもんですなぁ騎士というのはぁ? 大層おモテになるんでしょう? んん?」

「この三日間で君に何があったんだ? 悪役っていうか……貧民街が板につきすぎだろ」

「貧民街で暮らし、レベルは0。それに比べあんたはいずれ騎士になり、レベルは8。お顔もいいようですから選べる女もよりどりみどりでしょうなぁ!? 足元を掬われないよぉにぃ…………ぎおづけろよぉ……!」

「憎しみで人を殺せそうな顔を僕に向けるのはやめろ」


 そんな顔していただろうか? しかし不思議だ。指摘を受けても申し訳ないという気持ちが少しも湧いてこないんだから。


「何があったんだい? どうやったらたったの三日でそこまで荒むことができるんだ?」

「温室育ちのイケメン騎士様にはわからんわなぁ!? ぬくぬくと暮らしてきた坊ちゃんにはぁ!?」

「君と同じ村出身なんだけど?」


 レベル1以上のイケメンに語るのは不服だが、俺はこの絶望の三日間を語ることにした。

 それは恐らく本にすれば、五千ページにはなるだろう悲しい物語。


「つまり、仕事に就いてないレベル0の糞雑魚なめくじに家は貸せないと言われ、仕事を探した結果、どこも雇ってくれず、探し人のターゴンさんも見つからないってこと?」

「まとめるとそうなるな」


 そう、話は三日前に遡る。あの頃はまだ俺も若く、未来を信じる輝かしい心で満たされていた。

 とりあえず暫くの活動拠点を得るために、俺は、王都の敷地を管理し、居住を探してくれると同時に住民登録も国に申請してくれる便利な不動産屋に行ったんだ。


『はぁ? レベル0? 仕事は? ない? 金も家賃一ヵ月分だけぇ? はっは! 貧民街のレベル1のガキに貸してやった方がまだマシだぜ。失せな』


 せめて、ちょっと相談に乗るくらいはしてくれると思っていた俺は甘かった。

 あまりの慈悲のなさに、ぶっ殺してやろうと思った。でもレベル0の俺には無理だった。

 もしかしたら特別その不動産屋だけが冷たかっただけで、他の不動産屋はもっと暖かさに満ち溢れているのかもしれない。そう思って何件かあたったりもしたが……全部同じだった。


「そりゃユンケルはレベル0なんだから、稼ぎの保証がないと安心して家は貸せないだろうね」

「だから俺は、家を借りる前に、まずは仕事を見つけようとギルドに行ったんだ」


 最初に訪れたのは酒場を拠点に毎日どんちゃん騒ぎをしているギルド【バッカニア】だった。

 ここならレベル0でへなちょこの俺でも快く受け入れてくれる……そう思ってたんだ。


『はぁ? レベル0? ……馬鹿かおめぇ? まあいいぜ、俺と腕相撲して勝てたらギルドに入れてやる……ハンデで俺は小指で戦ってやるよ』


 俺は勝てなかった。最終的に両手も使ったが、もうビックリするくらい全然動かなかった。

 あいつらは必死に小指を動かそうと力を入れる俺を見て笑い、それを肴に酒を飲んでいたんだ。純粋な心で俺は挑んでいたにもかかわらず。

 俺はすかさずぶっ殺してやろうと思った。でもレベル0の俺には無理だった。


「まあそりゃそうだよ。ギルドは実力主義だからね……僕でも入れるかどうか」

「そうさ、実力主義だよ。だから今度は実力をまず知ってもらおうと思った」


 次に向かったギルドは、武器や防具の販売もしており、ギルド員には実力に応じた武器や防具をハンドメイドしてくれる王都で三番目に大きなギルド【ドワーフ】だった。

 実力に見合った防具を見繕ってくれるなんてまさに俺にうってつけのギルド。

 俺はレベルのことをとりあえず伏せて、ミノタウロスを倒せる実力があり、一回目は自力で、二回目はレベル15のパートナーと共に倒した経験があることを伝えた。


『へぇー……そりゃ凄い! その若さでミノタウロスを倒した経験があるなんて! それにレベル15のパートナーがいるなんて……その子は一緒じゃないんですか?』

『あ、そいつはセレスティルの方に勧誘を受けちゃって』

『なるほど……王都一のギルド、セレスティルならこちらにこないのにも納得ですね。ぜひ我がギルドに来てほしかったですが……あなたは勧誘を受けなかったので?』

『一応受けたんですけど、ギルド員を大事にしてくれるこちらに入りたくて』


 俺は嘘と本当を混ぜつつ、良い雰囲気を保ちながら会話を続けた。

 面接してくれた人は、ギルドが経営するショップの店番も任せられている好青年で、人当たりの良さそうな優しい面持ちで、俺がミノタウロスを倒した時の話を真剣に聞いてくれた。


『それじゃあギルド登録するために必要な書類を用意してほしい! 教団が発行してくれるレベル証明書も持ってきてくれないかい?』

『あ、それならここに』

『本当かい? それなら今すぐにでも登録可能だ。どれどれ君のレベルは……』


 でも、俺のレベルを知るや否や、それがただのペルソナだったことを俺は知った。


『はぁ……レベル0? ぷふぅぅぅ~! よくもまあミノタウロスを倒したなんて嘘が吐けたもんだなぁ? 営業に費やせた時間分を請求したいところだが見逃してやる。とっとと失せな』


 熱い手のひら返しに、俺はぶっ殺してやろうと思った。でもレベル0の俺には無理だった。


「とりあえず一回はぶっ殺そうとするのはやめないかい? それが普通だからね?」

「どいつもこいつも俺の純粋な気持ちを弄びやがって…………くそ、くそ! 皆死ね!」

「そりゃレベル0がミノタウロスを倒したなんて、普通は誰も信用しないよ。レベル10が三人集まってようやく安全に倒せるようなモンスターだよ?」

「心が穢れてるから信じられないんだ! 俺は実際にミノタウロスを倒しているのに! 皆穢れてるよ! 豚よりも卑しい心を持っているとしか言いようがないよ!」

「多分皆、今の君には絶対に言われたくないと思うけど」


 それからも、様々なギルドを訪問し続けた。でも皆、同じような反応でギルドには入れてくれなかった。仕方がないから俺は諦めて、飲食店とかで皿洗いのバイトをしようと思った。

 でもそれすらも無理だった。


『君みたいな貧弱なのが近くにいられると邪魔だよ。なんでわざわざ割れやすい大きなガラスのコップを雇わなきゃいけないの?』


 なんて皮肉すら言われてしまった。くそ、くそ! 俺はろくにトレーニングしていないレベル2の奴よりかは頑丈な身体なのに! くそ! 死ね! 皆死ね!


「それで今、こんなところにいると……一応頑張ってはいたみたいだね」

「これもそれも王都に来いって言ったターゴンのせいだ! 呼びつけたならせめて面倒くらい見ろよな! あの野郎……どこにもいやがらねえ!」

「見つからないのかい?」

「全く見つからない。どこのギルドに聞いても知らないってさ。聖魔教団の連中なら知ってるかとも思ったが、そんな奴は聞いたこともないって」

「変だね……ターゴンさんって聖魔教団の人の依頼で護衛をしていたはずだよね?」


 俺もそう思っていたが、足取りが一切掴めない。一緒に護衛をしていたセレスティルのルードさんが既に帰還しているのは確認しているため、王都のどこかにはいるのだろうけど。

 村に会った時からうさんくさい人だとは思っていたが、何か色々と訳ありなのだろうか?

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