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生ゴミ爆誕-2

「でもまずは、色々と準備が必要だね。正式に騎士になるまでの間、住む場所とか生活費を稼ぐ仕事とかを見つけないと。リューネとユンケルに案内を頼んでもいいのかな?」

「無理だ」

「無理ね」


 俺とリューネは声を揃えてハッキリとそう答える。


「どうして? 二人は王都に来たことがあるんだろう?」

「昔のことすぎてわからねえって、王都がどれだけ広いと思ってるんだ? 名産品のこととかどんな店があるとかならまだしも、どこに何があるかなんて覚えてるわけがないだろ」

「そっか……十二年前だっけ? 確かにそれくらい昔なら、街の景観も変わっているかもね」


 王都には昔、家が隣で仲の良かったミストパック家と一緒に、観光旅行という名目で親に連れてこられたことがある。二週間という期間を王都で過ごしたが、まだ幼かった俺とリューネは勝手に出歩くこともできず、この広大な王都を全て知るのは無理に等しかった。

 わかったのは王都がめちゃくちゃ広いってことと、全員が全員、裕福な暮らしができているわけではないということだ。


「昔に比べてもっと広くなった気はするけど、景観はそんなに変わらないかな」

「そう……なんだ? てことは、王都で大きな変化が十二年間でなかったんだろうね」

「まあいいことだよな。レムルランド王国は王政だけど、王が権力を行使して改革を行ったことがここ数十年で一度もないらしいし。それだけ貴族も国民も満足する環境が現状で整えられているってことだろ?」


 レムルランド王国に限ったことではないが、聖魔教団が所属する国のほとんどは税金が軽い。かかる税金がほんの少しの地代と、儲けに対する間税、王都で暮らしているならここからさらに、街の清掃や警備の料金も含める公共施設の使用税がかかるくらいなのだ。

 聖魔教団がある程度負担してくれているらしく、それだけで国は維持できている。

 さすがは各国に支部のある大組織だ。一つの国以上の力があるということなのだろう。

 その聖魔教団のおかげで、人が集まる王都で店を開いて稼ごうという者が次々に現れた結果、今のこの広大な王都になったわけだ。どこで儲けを出そうが大きな差がないなら、そりゃ商売人なら、人の多い王都に行こうと思うのは当然の考えだろう。

 とはいえ、いくら王都でも全員が全員、儲けが出るわけでもなく、地代すら払えずに失敗する者もいる。そしてそういった者たちのために貧民街が存在するのだ。

 公共の施設の利用ができず、警備や清掃が行われない代わりに地代も請求されない無一文でも暮らせる場所である。しかし環境は劣悪で、まともな精神を持っている者がここに一週間でも押し込められれば心が荒むほどらしい。


「まあでもやっぱ、王都は便利だろうな。貧民街で暮らすことにならなきゃ、色んな店があるおかげで毎日退屈しなさそうだし………………エッチなお店もあるらしいし」

「なんか言った? ユンケル?」


 俺の発言をすぐさま聞き取って顔を近付けて凄むリューネさん。聞こえていたくせに、そういうわざとらしい脅迫行為は本当にやめていただきたい。

 女のお前には汚らしく感じるかもしれんが、そういう店が男には必要なのだ。


「それじゃあここまでは一緒に来たけど、一旦解散だな」

「どうしてよ? 一緒に行動すればいいじゃない」


 お前がいたらエッチなお店に行けないからに決まってんだろ? というのは冗談で。


「それぞれで目的が違うだろ? お前がギルドに入れるのは決まってるけど、俺とディーチはそうじゃない。色々と探し回らなきゃいけないんだよ」

「確かにそうだけど……一度はぐれたら合流は難しくないかい?」

「リューネが入るギルドは決まってるだろ? 王都一のギルド……セレスティルだっけ? そこに落ち着いたら会いに行けばいい」


 その説明に納得したのか、ディーチも「まあ……そうだね」と相槌を打つ。


「別にそんなことしなくても、暫くは私が二人の面倒を見てあげるけど……すぐに仕事だって見つけられないかもしれないし」

「僕は遠慮しておくよ、一応持ち合わせはあるし、何かあっても暫くは大丈夫だろうから」

「俺も、シルとは一緒にいたいけど、色々とプライドが許さんので」

「えー……お兄ちゃん一緒に来ないの?」


 シルがしょんぼりとした顔で俺を見てくる。あまりの可愛さに俺の意志が曲がってしまいそうだ。ぶっちゃけ、王都にまで来たのに、村にいた時と同じように朝から口うるさくリューネに言われたくないだけなのだが。


「じゃ、そういうわけで! そのうち顔は出すわ!」

「あ、お兄ちゃん!」


 そして俺は、リューネがごちゃごちゃ言うよりも早く、逃げるようにその場から去った。

 少し城下町の大通りの奥へと入っただけで、人混みによってリューネたちの姿はすぐに見えなくなってしまう。これで恐らく追いかけられる心配はないだろう。


「……それにしても」


 十二年前に来た時よりも、明らかに人は多くなっていた。

 大通りだからかもしれないが、それに伴って色々な店が増えているようだ。

 パッと見はそんなに変わらないが、昔にはなかったお店とかもありそうだし、十二年前は入れなかった店とかも色々あるし、これから楽しめそうである。


「ていうか、こんな糞広い王都であのうさんくさい男を探さなきゃならんのか? 教団の依頼を受けられるような凄い人っぽかったし、人伝てに聞きまわれば居場所は掴めそうだけど……」


 なんにせよ、探すにしても拠点は必要だ。

 それと、日銭を稼ぐための仕事も探さないといけない。

 王都での新しい生活を始めるのに、やることは山積みだ。だが、これから王都で色々なことができると考えると、なんだか少しワクワクしてきた。

 俺は今、かつてないヤル気と希望に満ち溢れている。


「よし……やるか!」


 意気込んで気合いを入れ、俺は王都の街を駆けだした。

 これから村では絶対に得ることのできない、俺の新しい第二の人生が始まるのだ。


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