生ゴミ爆誕-1
「はぁー…………やっと着いた。もう一歩も動けんぞ俺は」
断崖の上に建築された、レムルランド王国を象徴する王城。その周囲を囲うように広がる南側の城下町の最果てで、俺は背負っていた、パンパンに膨らんだ大きな皮袋を地面に落とした。
街の端からでも、断崖の上に建てられた城はハッキリと見えているが、朝に立ち込める霧の影響か、少し靄かかって見える。
あそこに行こうと思えば、ここからだとさらに五十分は必要だろう。
その奥に、さらに五十分かけないと辿り着けない城下町が広がっていると思うと、どれだけ王都が広大な場所なのかがわかる。
「情けないわね。あれだけトレーニングを重ねてきた日々はなんだったのよ」
そこで、気を利かせたリューネが水の入った皮袋を俺に渡しながらそう言った。
「はぁ!? お前らみたいな化け物の歩幅に俺がついて行けるわけねえだろ!」
「じゃあなんで途中、シルをおんぶしたのよ? 私がやるからいいって言ったじゃない」
「いやそりゃお前……『お兄ちゃんがいい!』とか言われたらそりゃもう……やるだろ? ふへ」
汚物を見るような引きつった顔でリューネは俺に視線を向ける。最近その顔されすぎて、だんだん慣れてきている自分が怖い。
「いやしかし、無事に着いたな」
朝にもかかわらず、城下町は多くの観光客や冒険者でざわめいており、賑わっていた。
街の端でこれだけうるさいのだ、村で過ごしてきた朝が恋しくなる日はそう遠くないだろう。
「でも、やっぱりそれなりに時間はかかったわね」
リューネと俺が王都に行くことを決意してから、既に半月の時間が経過していた。
引っ越しの準備に一週間かけ、さらに一週間かけて王都まで歩いてきたわけだ。
レムルランド王国の最果てにある偏狭の村なだけあって、王都に辿り着くのに苦労したが、なんとか無事に辿り着けてホッとしている。村を出る時、村の皆が盛大に見送ってくれたのに、道中で行き倒れになったとなれば顔向けできないからだ。
いつでも帰れるとはいえ、やはりずっと暮らしてきた村との別れは思い入れもあって悲しく、シルはもちろん泣いていたし、俺も少しだけしんみりとしてしまった。
シルも一緒にいるため、なるべく危険のない弱いモンスターしか出現しない道を通ってきたので大きな危険はなかったが、それでも誰かを守りながら移動するというのは普通に戦うよりも気を張る必要があり、中々に疲れた。
道中、服の繊維だけ溶かすモンスターに襲われ、リューネとシルの服は一切溶かされず、俺の服だけが全部溶かされた時は胸が熱くなったぜ。
顔を真っ赤にしてリューネとシルが見てくるもんだから、危うく何かに目覚めるところだった。
予備の服がなかったら、俺の旅は終了していた。
「すごい……すごいね! 見て見てディーチ! あれ何かな!?」
「うーん、なんだろうね? 魔法の道具かな? 僕も王都は初めてだからわからないや」
早速、村とは比べものにならない豪勢な街の景観に、シルは大興奮の様子。
雲のようにふわふわとした砂糖の結晶を指差し、眼を輝かせながらディーチに問いかける。
「ん? なんでお前いるの?」
「シルが僕を頼るたびにその質問するの、そろそろやめてくれないかな? 何十回目だい?」
「なんで王都に来たことのある俺じゃなくて、お前が質問されるの?」
「それは僕じゃなくて、シルに聞いてほしいんだけど?」
ぐやじぃ! こんな戦闘力と顔だけの優男に負けるなんてぐやじぃ! もし今の質問を俺にしてくれていたら「あれは綿飴っていう甘くておいちいお菓子だよぉ? お兄ちゃんが買ってあげようねぇ……デュフフフこぽぉ」って完璧な返答してあげたのに。
そう、王都には俺とリューネとシルだけではなく、ディーチも一緒に来ていた。
というのも、前々から目指していた王国の騎士になるためらしい。
そろそろ村を出ようとは思っていたらしく、今回俺とリューネが村を出ることになったので丁度良い機会だと一緒についてきたのだ。おかげで道中のモンスター退治に俺の出番がほとんどなく、シルにかっこいいところが見せられないという屈辱を受けてしまった。
「騎士を目指すんじゃなくて、お前もギルドに入ればいいのに。そっちの方が金払い良いぞ?」
「僕はお金が欲しくて騎士になるんじゃないからね。国民のため、そして仕える主……国王様や聖魔教団の教祖様のために命を賭して戦う生き様に憧れているのさ」
「ギルドでも、ほぼ一緒のことができるだろ?」
「全然違うよ、ギルドは雇われて動くのに対し、騎士は忠誠を誓って命令で動く。国王様と教祖様から得られる信用の量が全然違うのさ。出世すれば、お傍を守らせてくれるかもしれないだろ?」
将来を想像してか、ディーチは眼を輝かせながら語る。
ディーチは昔から信仰深く、教団の教えに忠実だ。また、騎士を目指しているだけあって誠実な心を持っており、ひねくれた俺とは正反対の性格をしている。俺が村の連中に騎士になったと言えば鼻で笑われるが、ディーチが騎士になったと言えば誰もが納得するだろう。
「今から王女様のお顔を拝見するのが楽しみだよ。僕と同い年らしいし……どれだけ素敵な人なんだろう…………ああ、駄目だ、緊張してきた」
だが、少し心酔している節があり、仮に王国や教団が悪いことをしていても、白といえば白だと思ってしまいそうで幼馴染みとしては少し心配である。