悪役令嬢VSヒロイン∞なんて世の中に需要はない

作者: 藤森フクロウ

 息抜きの別の悪役令嬢ネタ。突発です。特に深く考えずに書いた短編です。


 うん、なんでだろうね。

 なっちまったよ、令嬢転生。しかも悪役だぜ、今流行り(?)の。

 ローズマリー・フォン・クレスメント。クレスメント侯爵令嬢、それが私の肩書だ。

 例にもれず、幼い頃の抵抗虚しく我が侯爵家は第二王子ゼディアルドの婚約者になりました。政略結婚だぜ、オイ。

 王家と貴族の権謀術策が渦巻いた結果の結婚です。おこちゃま一人の抵抗なんて黙殺されました。

 一応集団見合い的な出来レースもあったけれど、私よりずっと綺麗な子とか家柄もいい子とかいたけど、毒にも薬にもならないという理由でウチになった。

 そのあと嫉妬の視線がビシバシ飛んできて、他で出席したお茶会で他の家の女の子からいびられた。

 物凄くクソである。

 こんな婚約者の椅子なんて欲しけりゃくれてやる。熨斗付けてくれてやる。

 婚約者は一応枠的には甘甘王子枠だけど、将来自分を捨てると思うとやる気しねーわ。

 あれやで、伯爵が浮気してどっかでこさえた元庶子の女の子を迎え入れちゃうんだぜ。

 あんまり貴族社会に馴染みのない態度が新鮮だあーだこーだって。


 ケッ!!!


 義理なのか毎月必ず一回はお茶会があったり、お誕生日とかには贈り物とかはあったりした。

 金髪金目のキラキラ過ぎる美少年の訪問に毎回戦々恐々とし、なんとしてでも隠れまくるのだが大抵兄に見つかってつまみ出されるというのがセオリーだった。

 うちの兄も攻略対象。つまり私を断罪する側だ。

 兄の名はサイラス・フォン・クレスメント侯爵子息。

 ちなみに枠組みはクール眼鏡。兄としても、妹が王子と懇意になるというのはイコールとして自分の地位盤石には必要な事だ。

 つまり私の敵だ。

 頭もいいし、剣術もできる文武両道な兄を、両親は溺愛している。次期当主だしね。

 両親は王子と仲良くなることに消極的な娘より、この意欲的な息子を大事にしている。

 どうせ、他の令嬢とかにも私はクレスメント家の出涸らし令嬢とか言われていますよっ! ぺっ!

 最初は苦笑しつつもニコニコと逃げ回る私にも鷹揚に接していたが、だんだんとエンゼルスマイルから腹黒笑顔に変わっていった。

 逃げ回る私をとっ捕まえては「相変わらずだね、我が婚約者殿は」とほっぺをつつく、腕をフニフニ。やけ食いのようにケーキを食べつつ大人しく茶席に着けば「太りますよ」とにこやかにエッジの効いた言葉をぶっ刺してくる。


 誰だ、ゴルァ! この失礼極まりないのを甘甘王子とか言ったのは!?


 二重人格腹黒モラハラセクハラ王子じゃーか!


 乙女ゲームというか、ゲームといえばチェスくらいしかないこの世界。

 はっ、これはもしや神様が俺Tueeeee!的な事をやっていいというお達しなのでは!? そう思って、手始めによくある前世の御馴染みトランプを作ってみた。

 これは商品化してガッポガッポじゃね!?

 まずはメイドとかと遊んで楽しんでいたら、なかなかに好評。

 むふふふふっ! もっと楽しんでええんやでー? そんでもってヨイショしてくれていいんだぜー?


 後日、そのトランプは丸々兄にボッシュートされて、兄がちゃっかり自分の手柄にしていた。



 だあああああっ! 世の中糞だー! こんな世界はポイズンだー!




 無駄にゆめかわいい系デザインの天蓋ベッド。その中で枕をぼこぼこにしてストレスを只管発散した。

 ざけんなああああ! サイラス兄様嫌い! とか言っても鼻で笑われましたけど!?

 ダメ元で婚約者に訴えたら苦笑された。

 信じてねー!

 それどころかできる兄に嫉妬するのは悪いことだとか言って諭された。

 お前ら全員敵だ! 嫌い! メイドのナンシーに酷くねと訴えたけれど、あんまり同意してもらえなかった!

 ふざけんなー! お前は知ってだろー!? あれって私が発案したやつだろ!?

 その後、リバーシとか花札とか双六とかカルタとか開発したけど全部兄の手柄に。

 びゃーびゃー泣きまくったけど、我儘としか認定されなかった。

 こんな家嫌いだ………努力を搾取されるなんて間違っている………


 あれやろ? また私が色々考えてもまたサイラス陰険眼鏡の手柄になる落ちだろ?

 もう誰も信じない。


 その後、ご機嫌伺いのように兄の訪問回数が増えたけど滅茶苦茶事務的に相手をしてやった。

 泣いても怒っても私が宥められるだけで、なぜか兄が持ち上げられる。

 ポイズーン! こんな世の中ぁあああ!

 権力あるはずの王族の婚約者も、全然私の味方してくれない。

 ディストピアにも程がある。そうだ、亡命しよう。

 私の中で搾取野郎と書いてオニイサマと読む。

 腹黒王子と書いてゼディアルドもある。

 これ豆な。

 メイドやゼディアルドは兄と仲直りさせようとさせてたけど、謝るのは兄であって、そもそもなんで私が折れなきゃならん。

 でも子供っぽい態度をとるとまた揚げ足とってくるんだぜ。性格悪すぎじゃね?

 どうせ妹とは云えど悪役令嬢ってことですかー!? ケーッ! やってらんねー!



 たしか原作ではローズマリーが一方的に第二王子ゼディアルド・レイ・ウィンズに恋をして、両親にゴリ押して婚約者になりあがっていた。

 でもって、好意を押し付けてくる婚約者であるものの、国の思惑もありそれを大人しく受け入れていたゼディアルド。要するにローズマリーが空回っていた。

 そしてモルガナ学園でヒロインのエリカ・シトリン伯爵令嬢に出会い惹かれていくのだ。

 慣れない貴族社会に戸惑いながらも一生懸命な姿に目を奪われ、そしてそのことに嫉妬した婚約者であるローズマリー。その余りに醜悪な嫉妬に愛想をつかすのだ。

 ちなみに兄の場合も、ぽっと出の格下女が兄に近づくなとやっかんで虐める。

 まあ、決定打はこまごましたいじめの中にエリカを直接的に害そうとするからだけど。


 私としてはあんな腹黒王子、ぜひともエリカ嬢に差し上げたい。


 だが貴族籍剥奪とか、国外追放とか嫌だし。

 もういっそ同じ学園じゃなくていいんじゃないかと思う。

 隣国に留学したいと言ったら、秒で却下された。ここぞとばかりに兄と婚約者が。

 本当に碌な事しねーな、あいつら。

 金蔓にしたいのか、コイツラ。白々とした目を感じたのか、居心地を悪そうにしていたけど罪悪感がちっとばかりでもあるならさっさと解放してほしい。

 両親は冷戦状態の兄妹をみて、私に兄に謝れという。

 ふざけんなーっ! 




 で、入学の季節になりました。

 私は今年の入学生なんだよね。一人で行こうと思ったら、なぜか冷戦状態の兄と相乗りをする羽目に。

 え………毎日これ? なにそれ拷問。

 さっそく登校拒否したくなったわ。

 流石、乙女ゲームの攻略対象だけあってイケメンである。足を組んで外を眺める姿が絵になるわー。

 青銀髪に紺碧の瞳。銀の細縁の眼鏡が、白皙に影を作る。涼し気な眼差しに、通った鼻梁。笑みの少ない寡黙な唇。まさにThe知的なイケメンですわ。確か、こいつは入学時も今も主席だったっけ。当然モテるくせに、まだ婚約者を作っていない。お茶会のたびに外野がうぜえ。

 舌打ちの一つや二つしたくなる。

 ちなみにローズマリーはストレートな銀髪に紺碧の瞳。くりっとした猫目はちょっと釣り目だけれどかなりの美人さんだ。

 ゲームでは侯爵家の財力を惜しみなく使っていて、制服が原形をとどめていないくらい派手なドレスになっていた。

 だけどそんな糞めんどくさいうえ、金も時間もかかるし動きづらいことをする意味がない。

 私は普通に指定の制服にカシミアのカーディガンを着用している。

 兄が機嫌取りかコートだの靴だのドレスだのを買ってやると言っていたが、それてめーの金じゃなくて侯爵家の金やろ。

 うぜえから近寄るな。

 学校までエスコートすると言ってきかなかったのも断りまくったのに、なぜか相乗りバスならぬ馬車。

 地獄か。


 露骨に拗ねると侯爵令嬢らしくないと嫌味が飛ぶので無言で窓の外を眺めている。

 サイラスは小姑のようにネチネチ文句を言ってくるのだ。


「お兄様、そこまでお気を使わずとも結構ですわ。不肖の妹など放っておいてくださいまし」


 私が気に入らんなら兄貴面やめろうぜえ、をオブラートに包んで伝えた。

 そんなに嫌いなら近づくなと二度と。万感の願いを込めたが、それでも兄は来る。

 ムスッと不機嫌そうな顔をしててもかならず来るのだ。



「ローズマリー」


 学園につくと兄が先に降りて手を差し出してくる。エスコートいらんわー。

 これならまだ腹黒王子のほうがまし。キラキラ甘甘王子がなんで私には腹黒なんだ。

 もっとスイートな世界で生きたかった。

 確かここでヒロインことエリカとの出会いがある。はず。

 やや記憶もうろ覚え。

 エリカ視点だと初めて見た広大な学園にお上りさん状態できょろきょろしていたところ、ゼディアルドとぶつかるのだ。

 その後、謝っている最中後ろからローズマリーがぶつかってエリカを弾き飛ばすのだ。


「あら、躾けのなっていない田舎娘だこと」


 そういって嘲りながら、ゼディアルドを連れて去っていくのだ。

 これをきっかけにエリカはローズマリーを筆頭にライバル令嬢からネチネチ虐められるのだ。

 まあ、彼女が一年という付け焼刃で貴族の舞台である学園に通おうとするっていうのも原因の一つだけど。平民の多い商業クラスとか技術クラスなら問題なかったんだろうけどねー………貴族がいい縁談や出会いを望むなら貴族クラスがいい。そこに入学しちゃったから、よく言えば活発、悪く言えば粗野な彼女は滅茶苦茶浮いちゃうんだよ。

 兄の手を取り馬車を降りる。

 クレスメント家の家紋がバーンとある金箔のレリーフの入った、見るからに高級なモノ。サイズもさることながら、立派な四頭立ての馬車。

 学園内まで馬車登校できるのって王都に家のある、辺境伯・もしくは侯爵家以上なんだよね。伯爵家以下のところは校門の外の場所で降りなきゃいけない。

 のそのそと気のりしないながらも馬車から降りようとすると、キンキラなオーラが見えた。じゃない、あのキラキラはゼディアルド様だ。

 朝からキッツイ!

 イケメンだけどオーラが濃いんだよ!

 第三王子にうちの兄と婚約者は朝から見ると胃もたれするような濃厚なオーラがあって疲れるといったことがある。

 第三王子ことエドアルドは残念なものを見るような、可哀想なモノを見るような顔をして「気持ちはわかるが、お前が言うのか?」と心配された。

 うるせいやい、受け付けんもんは無理なんじゃい。

 どこでエドとあったかって? あれだよ、婚約者同士のお茶会。クレスメント家でやることもあるけど、王子妃教育とか言って王城でもやっていたの。

 黄昏ていると第一王子のイーリアス殿下とかもくる。あの人もキラキラ野郎で目と心に優しくないけど、お菓子くれるから好き。

 そんなわけで事務的に第二王子と会う以外にエドやイーリアス殿下とも交流していた。この二人は私にはルート的に絡まないし、普通にいいやつらだった。

 だが、その交流がバレたら行きも帰りも兄や騎士が必ず監視につくようになった。

 そんなに立場が大事か、ゼディアルド殿下。

 それを友人のジュリアに愚痴ったら「お子様ねぇ」と鼻で笑われた。なんでみんな私の味方をしてくれないんだ。切ない。

 なんて虚しい思い出に意識を飛ばしていたら、いつの間にか近くにゼディアルド殿下が。

 まあ馬車のすぐ下で待っていたんだから、当然そうだけど。

 軽く一礼し、制服のスカートを優雅に摘まんだ。


「おはようございます、ゼディアルド殿下」


「ああ、おはよう。ローズ、一緒にいこう」


 えーっ! やだーっ! 目立つじゃーん!

 ヒロインとは関わりたくないし、遠慮したいが後ろにはクソアニキが。ちっ!

 相変わらずキラキラオーラがまぶしく鬱陶しいげほんごほんなゼディアルド殿下。

 ゲームのスチル通りのイケメンに育ったのは確かだが、目に優しくない。

 差し出された手を無視するわけにもいかず、手を伸ばそうとしたらなにか殿下のはるか後方から砂ぼこりが?


 ん? なにあれ??


 何か異様さを感じて目を凝らすと、髪はピンク。それもパッションピンクからベビーピンク、サーモンピンク、と色とりどりのピンクで女子制服を着た少女たちがヌーの大移動の様な勢いと数でこちらに来ている。

 彼女たちの眼はすべて緑。パステルグリーンからエバーグリーン、エメラルドグリーンまでこれまた緑限定バラエティ豊か。

 ん? ピンクの髪に緑の瞳ってヒロインカラーだよね?

 目が合った瞬間、彼女たちの眼がギラァッと、光った気がした。


「ひっ!?」


「ローズ………どうした?」


 ピンクと緑の女子生徒の群れはますますスピードを上げてこっちに来る。

 ぎゃああ! なにあれ?! ヒロイン? ヒロインって普通一人じゃないの!? なにあれー!? マジ怖い!

 背後の気配に気づかないゼディアルドは少し、首を傾げた。


「で、殿下お逃げください!」


 兄がとっさに私をどかして殿下を引っ張った。

 護衛の騎士たちを弾き散らし、殿下をねらっていた群れは空振りして、そのまま私にぶつかってきた。

 いや、ダッシュしてきた女子とはいえ、群れていたんだよ? 逃げようと馬車に途中まで登ったが、当然、一人でいた私は轢かれてポーンと吹っ飛ばされた。

 思いっきり石畳に転がりましたが???


「「ローズーー!!!?」」


 今まで聞いたことない程驚愕し、狼狽した男声の二重奏が響く。

 しかもちょっと残っていた水たまりにまで転がった。

 新品の制服はもう泥まみれだし、セットしたストレートヘアは落ち武者のようになっている。

 痛む体を何とか起こしたら、膝は擦り剝けているし、手も泥にまみれて爪が割れていた。額にぬるりとしたものを感じて手を伸ばすと、真っ赤な液体が。


 血だ。


 ばたん、と倒れた私は悪くないはずだ。






 大慌てで呼ばれた治癒術者により、私は傷跡も残らず完治した。

 あとで両親が説明しに来たが、あのぶつかってきた集団は『エリカ』という少女たちだという。家柄は庶民から伯爵家まで沢山。家名もカトリンだのシトランだのエドウィンだのシトリーだのクルトンだのどこぞのヒロインの名前とニアミスの様なもの。


 ………どーいうこと?



「お嬢様ぁ、大丈夫ですがかー?」


「ええ、大丈夫よ。ミリア、貴女はあの集団になにかされなかった?」


「大丈夫ですだよ! ………本当に、お嬢様以外は無事ですた」


 ミリアはど田舎出身で、聞いての通り訛りが酷い。

 それを誤魔化そうと下手な敬語で話すのだけれど、まあこれも酷い。

 だけど、実家に年老いた祖父母がいるからどうしても働かせて欲しいと門前で土下座していたのを見つけた。

 普通、侯爵家だけじゃなく貴族の家だと追い出されるんだけど、なんかその邪険のされ方が自分の境遇と重なって私の専属ということで拾ったのだ。

 

「あの、お嬢様………その、エリカ様達ですだが」


「ん?」


「なんでも、今年ならず近年エリカという名の女子生徒が多くて、今の学園内は大エリカ戦国時代状態ですだ。

 お嬢様は社交に積極的でなかったですだが、お嬢様の年代にエリカ様はものすごく多いだす」


 えええ? なにそれ?

 どれがヒロインよ。他にもいっぱいいるの?

 思わずぞっとした。そして、今回ローズマリーを傷つけ、王子であるゼディアルドを狙ったとしてエリカたちは軒並み処分されたという。

 それは投獄から貴族除名、修道院いきまで様々だ。主に身分により処罰が変わっている。

 ちなみにあのエリカ襲撃事件により兄も婚約者も怪我はしていない。

 怪我をしたのは弾き飛ばされた騎士たちと、私だけ。


 貴族は! 私! だけ!!!!


 というより、兄! 王子の方が偉いのは解っているが妹にも少しは配慮できなかったの!?

 ますますサイラスが嫌いになった。ついでにゼディアルドも。


「あ、あのう、お嬢様。サイラス坊ちゃんが………」


「絶対こっちに近づけないで!! 体調が悪くなるわ!!」


「あの、ゼディアルド殿下も………」


「持病のシャクがとでもいっておいて!」


 会いたくねーわ!

 か弱い乙女がこんなズタボロになっているのに、あいつらは無傷のぴかぴかだったのよ!? 全然助けもしなかった!

 きぃきぃと怒りと虚しさでぼかすか枕を殴る。

 その後、登校拒否をしようとしたが、サイラスとゼディアルドの二人にドナドナされ続けて無理だった。


 だが、そのたびに。


「きゃあ! ごめんなさい!」


 と、エリカAにぶつかられ廊下を転がった。


「私のお弁当………こんなことするなんて!」


 と、エリカBに熱々のあんかけスープをぶっかけられのたうち回った。

 なんでかたやきそばなんてマイナーなもんを………


「あっ、私のリボンが………っ」


 と、エリカCに絶妙なタイミングで足元にリボンを落とされ、それに足を滑らせて階段から転がり落ちた。



 そのあともエリカDEF………と続き、エリカたちに関わるたびに私は上級貴族の令嬢らしからぬ物理的ダメージを受けることとなった。

 お陰で、学園にくるたびに怪我を負って家に強制送還か、保健室の住民となる。

 最初は当惑していた生徒たちも、私がしょっちゅう運び込まれることに慣れつつある。


 慣れるなよ!!!!


 しかし何の強制力だ。ゲームの力か? とにかくイベントらしきものは起きる。

 もう乱発状態に起きる。そのたびに加害者エリカ∞と被害者ローズマリーが出来上がる。

 ヒロインが!! 多すぎる!!

 最近では保健室のエロ教師とはツーカーだ。

 お色気お兄さん教師はディアス・オスロー。実は王弟だったりする。

 コイツも攻略キャラだが、最近では飴ちゃんだのガラガラだのメリーメリーだのを保健室に常備して、迎えに来る兄と婚約者と会いたくないとゴネてゴネてゴネまくる私を何とか宥めようとしている。


「ほーら、ローズちゃん! イケメンのおにいちゃまが迎えに来たよー? 嬉しいでちゅねー?」


「ああああああ! いやあああ! お兄様いやあああ!」


「泣かないで! ほんと泣かないでローズちゃああん! 飴ちゃんあるわよー!? 苺味とブドウ味どっちがいいかなー?」


「びゃああああああ! ざけんなあああ! 保健室に住むううう!

 コーラ味かソーダ味がいいい! だめならレモン味がいいー! ハッカだしたらぶっ殺すからなー!」


 高貴なイケメンお色気教師が赤ちゃん言葉を使いつつ、オネエになるくらい私は抵抗したが、いつもドナドナされる。

 私も負けるかとオギャって抵抗するのだが、今まで一度も成功したことがない。

 

 挙句の果てにお姫様抱っこで連行されたときは地獄だった。


「ああああ! 嫌いぃいいい! 疫病神! ああああん! やだー! 学校やだぁ! こんな国でてってやるー!」


 今日も私は怪我をして、無傷の二人に連行される。




「いやだあああ! 学校やだあああ!」


「ローズ! 今日は絶対大丈夫だから! 王宮騎士がいるから! お前は怪我しないし、もううちの学校にエリカは8人しかいない!」


「いやああ! エリナとかセリカとかがごまんといるんでしょー!? しってるー! そぉいうオチなんでしょー!?」


「大丈夫だから! ああ、もう! 頼むから! これ以上ごねるな! お前の為なんだぞ!?」


「私じゃなくて、お兄様とクレスメント家の為でしょ!? 私が大人しくケガしてればお兄様も殿下もケガしないから!

 二人とも私なんてどうでもいいんだー! 死んだって平気なんでしょー!? お父様もお母様も私なんてお兄様の添え物で、ゼディアルド殿下に売約済みの札を付けるための道具でしょ!? そんなに聞き分けのいい子が欲しいなら、養子でも取れば!?」


「………ローズマリー!!!」


 ぱん、と乾いた音を立ててサイラスが私を叩いた。

 だが、すぐに叩いた手を呆然と見て立ち尽くすサイラス。

 かさ、と音がしたと思ったら床に小さなブーケが落ちていた。

 私の声が聞こえていたのか、扉の傍で棒立ちになっている両親と殿下。

 ブーケは、殿下の手から滑り落ちたようだった。毎日のように来る殿下は、半端に気を使ってか大きな花束ではなく片手で軽く持てる小さめのもので見舞いに来るようになった。


「ロ、ローズマ――」


「出てって!!!!」


 かぶせ気味にそういうと、お兄様は途方に暮れたような顔をした。




 そして、(ようや)く訪れた卒業式。









「お嬢様、お尻いたくないだか?」


「うん、大丈夫よ。ミリア」


「卒業式、本当にいかなくてよかったですか?」


「いいのよぅ、どーっせミイラ令嬢とか、疫病神令嬢とかいわれてるのは知ってるもの」


「そ、そんなことねーだ! お嬢様がお優しいことはしってますだだ!」


「ありがとう、ミリア。でもよかったの? ご厄介になって………」


「勿論ですだ! うちはもともと商家ですだ! お嬢様の素敵なアイディアだってお嬢様の名前で売り出せますだ! それに、隣の国に姉さんがいるから、そこを頼ればこの国からでれますだよ!」


「ミリアーっ! 大好きーっ!」












 おまけの簡単な設定



 ローズマリー・フォン・クレスメント(18歳)※卒業時

 クレスメント侯爵令嬢。ストレートの銀髪に紺碧の瞳。綺麗めな美少女。

 ストレスマッハで幼児退行することもあるが、顔はクール美少女。

 兄と婚約者が嫌い。両親たちには諦観と無関心。

 お勉強は実はそこそこできるの努力型。でも兄の前では霞みまくり。

 黙っていれば美少女だし、社交もできるが、しょっちゅう流血沙汰の事件に巻き込まれて徐々に正気度が下がっていった。

 亡命した後は、身分を隠し商家にいながらもその美貌と楚々とした優雅な所作から、レディローズ、銀薔薇姫と称賛され求婚者が殺到する。

 好きなことは読書とモノづくり、そして猫や犬を吸うこと。顔が毛まみれになってもやめない。


 ゼディアルド・レイ・ウィンズ(18歳)

 ウィンズ王国第二王子。キラキラの腹黒王子。金髪金目のThe王子正統派美形。

 可愛い婚約者のコロコロ変わる表情がお気に入り。

 手紙も睦言もプレゼントもイマイチローズの心に響いていないので、かなり苦労している。

 やたら厄介や不幸が降りかかるローズマリーを心配している。

 ローズを案じて入学日以降護衛を増やしたが、現状は8割以上の防御率。サイラスたちと協力して警備をしている。だがそれを上回るトラブルに毎回上手く行かない。

 もうこうなったら王宮にローズを監禁するしかないと思い詰めている。

 そしたら安全な場所で甘やかしてどろどろに溺愛したいと思っていた。

 たとえどんな傷が残っていても、彼女の体の傷も心の傷も受け入れて癒そうと卒業式でプロポーズするつもりだったのだが逃げられた。


 サイラス・フォン・クレスメント(20歳)

 次期宰相の有力候補と名高い。頭脳明晰なクール系美青年。眼鏡属性青銀髪に紺碧の瞳。

 ローズマリーにやや意地悪っぽいが、可愛がっているつもり。シスコンが過ぎて婚約者がいない。基本、妹への愛情は空回っているし突っぱねられている。

 お馬鹿な妹ががめつい商人に目を付けられる前に取り上げたら、めっちゃ恨まれた。

 泣き虫で可愛い妹がまさかの失踪で発狂寸前。

 ローズマリーを心配するあまり、卒業しても学園に何度も足を運んでいた。

 ヒロイン()たちに纏わりつかれても妹のために奮闘していた。


 ヒロインたち

 自称ヒロインたち。多重転生状態で、ヒロインがオーバーフロー。キャリーオーバーとなっている。

 バタフライエフェクト的に、本来のエリカがどこかにいった。


 エドアルド・レイ・ウィンズ(14歳)

 第三王子。ショタ枠。赤みがかった金髪にピンクの瞳の可愛い美少年枠。

 ローズマリーとは腹を割って話し合う仲。というか、互いに取り繕わなく、本音駄々洩れのダメ貴族とダメ王族っぷりを露呈している。

 ローズのことをこっそり横恋慕していたが、兄の圧力に幾度と阻まれていた。

 あわよくば略奪愛も辞さないはずが、まさかの脱走。


 イーリアス・レイ・ウィンズ

 第一王子。金髪に金の瞳。神秘的な美貌の持ち主。

 ローズマリーに構うと、弟たちが面白いことになるのでしょっちゅうちょっかいを掛けていた。おまけにサイラスまで面白い。

 ローズが王宮にくるのを楽しみにしていたら、まさかの亡命。

 静かに荒れ狂う弟たちに今から胃が痛い。


 ディアス・オスロー

 黒髪に金の瞳。治癒魔法が使えるので保健室にいる。お色気担当がママン扱いに。

 可愛い妹か姪っ子のように大事に扱っていたローズが消えて、サイラスとゼディアルドを殴った。

 ローズのせいでオネエ言葉が板についてしまった可哀想な人。

 特技はローズを横抱きにしてガラガラを鳴らして子守唄を歌って、怪我の痛みや混乱にぐずるローズをスヤァっとさせること。この技術は誰にも負けないという自負がある。


 エリカ・レッセル(原作シトリン)(18歳)

 実はミリアの義姉。

 伯爵家に引き取られる前に、商人の青年に一目ぼれして乙女ゲームらしいヒロイン力を駆使して全力で落とした。

 隣国で看板娘をしている。夫とはラブが溢れている。ただいま第二子妊娠中。


 ミリア・レッセル(21歳)

 眼鏡っ子メイド。両親は忙しく、幼い頃から祖父母に預けられて育てられ、ほぼ田舎育ちなので訛りが酷い。

 だが祖父母が体調を崩し、ローズに拾われてからはいろいろ勉強をして、資格を取れた。

 隣国に亡命後レッセル商会の経理をすることに。

 ゲーム補正の呪縛から逃れたお嬢様が生き生きとしているのをみるのは生きがい。

 祖父母も一緒に住んでいる。

 レッセルはほのぼの家族な。


 






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