第91話 毒を食らわば皿まで、ですわ!
片付けたゴーレムの残骸を砕き、手頃な大きさにしていく。現在、解体真っ最中である。
「師匠~、この石像の欠片は何に使うんですか?」
「普通の石より頑丈だし、何気にゴーレムの体は豊富に魔力が通ってるからな。ギルドに持ち込めば武器に加工されたり、魔具の触媒代わりに使われる。ま、今回はハルの投擲用だ。鉄球は限りがあるし、ここぞって時以外はこれを使え。そこら辺に落ちてる小石より殺傷力高いから」
「なるほど! これは良い石なんですね!」
投擲するには贅沢な石です。元のゴーレムが結構なサイズだった分、それなりの球数は供給できるだろう。
「いいかー、モンスターの亡骸は余すところなく再利用だ。倒したモンスターの素材を全部有効活用する事で、それが供養にも繋がる。要は自然界の循環と同じ、感謝しながら解体しろよー」
「「はーい」」
「流石はデリスさんですわね。一々おっしゃる事が的を射ていますわ! 私も勉強になります!」
「そうなんです、そうなんです! もっとご主人様を称えてください!」
「ゴブゴブ!」
称えるのは良いがお前も手を動かせ、リリィ。
「デリス。正直な話、これっぽっちもそんな気持ちは?」
「ないよ」
「でしょうね」
一々感謝なんてしていられるかと。使えるものを使い、必要だからそうしているだけである。後は表向きの面子とか、そんな理由だ。しかし大人とは汚いもので、自分ができない事を子供にさせようとする。いや、健全に育ってほしいという思いがあっての行為ではあるんだけどな。ハル達には世の中の良いところ、汚いところの良いとこ取りをして育ってほしいものだ。何事もバランスが大事。
「デリスさん、こちらは終わりました」
「こっちのもちょうど終わったところだ。それじゃ、探索の続きと行きますかね」
石ころをハルにポーチに収納して、さて、どちらに行こうかと考える。来た通路から見て、この未知のダンジョンはT字になるようにして道が分かれている。どちらも獅子型ゴーレムがやって来た道で、殆ど変わり映えしないな。多数決でも取ろうかね。
「左と右、どっちの道に行こうか?」
「右で!」
「右ですかね」
「右ね」
「右ですわ!」
「リリィはどっちでも良いです」
「ゴッブ」
ほう、リリィを除く全員が右側を選択した。まあ、俺も右に一票を投じるけど。
「一応、理由を聞いておこうか」
「風向きでしょうか。左側から風の流れを感じるので、たぶんそちらは外に出る道だと思います。ボスはダンジョンの奥にいるもの! という訳で、右です!」
「この通路、よく見ないと分からない程度に傾斜になっているので。ここは地下の2層目ですから、奥を目指すなら下に行くのが良いと思います。あと、こっちの方が危険な感じがするので…… それって、ハルが言うところのボスがいるんですよね?」
「勘」
「ここの壁、巧妙に隠されていますが苔で印が描かれていますわ! 印の示す先は右の道! 罠の可能性もありますが、どうせ全て探索するのです! 毒を食らわば皿まで、ですわ!」
「ご主人様と時間を共有できれば、リリィはどちらでも良いのです。そういった意味で無駄足を踏むのであれば、左をお勧めしますが―――」
「ゴブ、ゴブゴブ!」
「よーし、意見がまとまったところで右に行こうかー」
一部微塵も参考にもならない意見があったが、概ねの意見は一致した。俺の予想では、この場所はギベオン遺跡と繋がった全く別のダンジョンなんだと思う。一本道の通路をかなり歩かされたから、遺跡とは結構な距離のある場所にこのダンジョンはある筈だ。本来の入り口がまだ発見されていないだけで、何かの拍子で2つのダンジョンを繋ぐ通路のスイッチが入ってしまった、ってのが有力かな。
「それにしても随分歩いたじゃないですか。ご主人様、この辺りで少し休憩―――」
ガチャン。
「―――にっ!?」
寄り掛かろうとして伸ばしたリリィの手が、壁の一部分を奥へと押し込んだ。分かりやすいくらいに罠っぽい音を奏でる壁。プルプルと震えながらゆっくりとこちらに振り向くリリィ。おい、魔王様。
「ゴゴゴって、何かが閉じる音がしましたね……」
「そうですわね。主に、私達がやって来た通路の方から」
「ゴブッ!?」
来た道を振り返ると、そこにギベオン遺跡に繋がる通路は影も形もなくなっていた。壁しかない。
「……通って来た通路が塞がっちゃったわね。なるほど、どこかにこれと同じような仕掛けがあって、この場所をうろつくゴーレムがそれを押して通路が開いたと。真相解明ね。リリィ、お手柄よ」
「うう、ネルの笑顔が怖いです……」
テレーゼ嬢がいる前で名前を出すな、魔王様。ハルと一緒に閉じた通路前へダッシュしたから大丈夫だけどさ。
「い、いえ、それよりも! 通路がなくなっちゃいましたよ!? これってピンチじゃないですか!?」
「千奈津、これくらいで焦っちゃ冒険者はやってられないわよ? 平常心を保ちなさい」
「そ、そうですね。閉じるスイッチがあるなら、開けるスイッチもある筈ですし…… 探せば、別の出口があるかもですね」
「最悪は真上に穴を開けて出るって手もあるわ。作り手の意思を真っ向から無視した最強の脱出法よ、覚えておきなさい」
「………」
絶句するな、千奈津。ここ最近はテレーゼの手前大人しくしているけど、そいつの本性は突貫女だから。最後は力押しが基本になっちゃうんだ。
「うう、ご主人様、ごめんなさい…… 責任持って、罰は体で払いま―――」
「何を言っているんだ、リリィ。お前は謎の1つであった通路の出現の原因を解明したんだぞ? 罰なんて与えられるか」
「ご、ご主人様が優しい……! なら、ご褒美は体で―――」
「よーし、気を取り直して進むぞー」
「おー! ですわ!」
それから俺達の壮大な冒険が始まったのだ。手付かずのダンジョンは金銀財宝の宝庫である。時折出会う獅子ゴーレムをぶっ飛ばし、ダンジョンのイロハを教えながらの探索。リリィがスイッチを押せば隠し扉が開き、中からモンスターの大群が現れたり、その部屋の中から宝箱が見つかったりと一喜一憂。その宝も実はミミックで千奈津の悲鳴が轟き、俺はここぞとばかりにやっぱりご褒美はなし、とリリィに言い渡したのであった。結果、リリィは死んだ。
「死んでませんよ! 酷いです!」
「立て続けにスイッチを押しちゃうお前が悪い。俺は別にドジっ子メイドなんて求めてないぞ? あざとさよりも有能なところを見せてくれ」
「むむむ、ハルちゃんと比べられるのは、ちょっと……」
「リリィ先輩、大丈夫です! 通路の開閉の仕組み、隠し扉の発見、どれもリリィ先輩がいなかったら分からないままでした! ほら、ミミックからは珍しい素材も採れましたし、もっと誇って良いと思います!」
「ゴブ!」
「ハ、ハルちゃん、ゴブオ君……! 君達は天使か……!」
「お前、ゴブ男の言葉理解してたのか……」
とまあ、そんな茶番も挟みつつ、俺達はこのダンジョンの最奥へと辿り着いたのであった。