第90話 オーホッホ!
獅子型ゴーレムの大きさは、先に戦ったルインズボアを優に上回る。本物をリスペクトして作られたものなんだろうが、オリジナルとなった生き物のサイズまでは真似ていなかったようだ。奴が歩く度、石造りの床に軽く亀裂が走っている。重量もかなりありそうだ。
「グゥロロォ……」
「オーホッホ! 唸ってますわ敵意むき出しですわ! 貴方、やる気に満ちていますわね!」
「やる気じゃなくて
「言われずもがな、ですわ!」
高笑いを決めながら盾を構えるテレーゼに、ゴーレムの敵意は完全に彼女へと向かったようだ。ちなみにテレーゼの言葉を聞いたって、猛獣やゴーレムはその意味を理解できない。だと言うのに、それが当然であるかのように奴らはテレーゼへと一直線に向かって行く。相手が人間ならば話は分かるが、普通こうはいかないものだ。『挑発』のスキルとかで反感を集めるようなスキルがあれば、似たような事はできると思う。だが、彼女のスキルは防御一辺倒。会得したスキルの力を使っている訳ではないのだ。
思ったんだが、何か固有スキルでも持ってるんじゃないのかね、あのお嬢様? 注目されやすくなるとか、ついつい意識がそちらに持っていかれるみたいな、そんなスキルを。だとすれば、本当に盾役としても優秀な人材だ。本当に何で魔法使いになったんだ、アンタ?
―――ズゥン!
「お・も・い・ですがぁ! ハルナさんの拳ほどではありません事よぉ!」
ゴーレムの突進を受け止め、やや後退しながらも気合いで堪えるテレーゼ。防御力だけであれば、彼女は既に達人の域を越えている。本職の騎士だって、こんな偏った構成にはしないからな。そして、テレーゼの盾で攻撃を防がれたゴーレムの隙を突き、ハルと千奈津が攻撃を仕掛ける。
「せいっ!」
「はっ!」
黒杖と刀で、ゴーレムの四肢を粉砕、分断。ハルの黒杖は容易にゴーレムの足を砕き、千奈津の刀も石程度であれば斬れる程度に成長したようだ。適確に機動力を削がれてしまったゴーレムはその場に残った胴体を落とし、テレーゼの大盾の底で踏みつけられる。
「攻撃は最大の防御! 詰まり防御は最大の攻撃です事よっ! オーホッホ!」
高笑いと共にガンガンと叩かれるその様は、第三者からすればそういうプレイなのかと勘違いされてしまいそうだ。いや、テレーゼがそういうキャラでないとは分かってますよ?
とまあ、四肢を失った時点で大部分のHPを失っていたゴーレムは、テレーゼの攻撃がラストアタックとなって無残にも倒されるのであった。んー、見た感じレベル4くらいのモンスターか。冒険者基準で考えれば、ベテランのパーティと五分五分の強さ。数がいると面倒ではあるかな。
「デリス、結局こっちを見てるんじゃない」
「いやー、だってとっくにリリィの戦闘終わってるし」
後ろを指差すと、そこには全身が粉々になったゴーレムの残骸、メイド服に付いた埃を落とすリリィの姿があった。体術だけで戦えと制限を掛けたのだが、大したハンデにはならず瞬殺&瞬殺。よって、俺は途中からハル達を観戦していたのだ。
「どのゴーレムもこの程度なら楽なんだけどな」
「私からすれば、それこそ肩透かしよ。全然あの子達の鍛錬にならないじゃない。まだゴブオと戦った方がマシかもね」
「ゴブ!?」
いや、もうゴブ男を練習相手にはさせないから。この子は大切なうちのお手伝いさんのお手伝いさんだから。グリフォンの時もそうだったけど、我らが弟子達はこの短期間に本当に強くなった。具体的に数字で表すと、こうなる。
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桂城悠那 16歳 女 人間
職業 :魔法使いLV4
HP :1305/1305
MP :450/450(+100)
筋力 :485
耐久 :260
敏捷 :290
魔力 :312(+60)
知力 :71
器用 :313
幸運 :55
スキルスロット
◇格闘術LV88
◆闇魔法LV70
◆杖術LV93
◇快眠LV39
◇回避LV67
◇投擲LV100
L投岩LV4
◆魔力察知LV18
◇強肩LV29
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鹿砦千奈津 16歳 女 人間
職業 :僧侶LV5
HP :330/330
MP :660/660
筋力 :178
耐久 :48
敏捷 :365
魔力 :394(+100)
知力 :768(+100)
器用 :87
幸運 :242
スキルスロット
◆光魔法LV100
L光輝魔法LV11
◆演算LV100
L高速思考LV12
◇回避LV67
◇危険察知LV74
◇剣術LV60
◆鼓舞LV14
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見よ、この成長速度。2日前とはまた別物だ。キャッチボールで集中的に鍛えたからかな。特にハルの投擲スキルは遂にカンストし、更なる高みへと上っている。新スキル『投岩』、投岩ねぇ…… 例の如くハルはまだ自分のステータスを確認していないんだろうが、やろうと思えば岩さえも投げられちゃうって事だろうか? それも、変化球付きで。
何気に職業レベル5になる為の、関連スキル合計値200も目前だ。良い具合の強敵がこのダンジョンで現れれば、良い具合にレベルアップするかもだな。
千奈津は千奈津でハルには及ばずとも、かなりハイペースでレベルアップを続けている。相談所と俺の善意の押しつけの成果で、鼓舞スキルはもうレベル14だ。このまま順調に成長すれば、短所であった耐久の低さも徐々にカバーされていく事だろう。
参考までに、職業レベル6に至る為の合計値は400だ。自身の戦闘法、それとステータスのバランスを保つ為には仕方のない事なのだが、この点に関してはまだまだ道のりは遠い。勇者であれば別だけどさ。
しかし、レベル6はレベル5の2倍は強いと説を唱えたのは、どこの畏怖だったか。ふふっ、テレーゼのような輩もいるんだから、そうとも限らないだろうに。関連スキルが全てではないのだ。
「だがなぁ、このままだと相手に飢えてしまうな。特にハルが」
「ご主人様、リリィがいるじゃないですか~」
ご機嫌な様子でリリィが俺の腕に絡み付く。止めろ、ネルが殺意を放ち出した。
「練習の相手じゃなくて、実戦の相手の話な。ああ、そうだ。リリィ、この前ディンベラーを返してやっただろ? 奴さんの雇用主、どんな様子だった?」
「えー、リリィはあんまり興味のない相手の事は見てないので…… まあ、怒り心頭ってところじゃないですか? あいつ、新参者の癖に大八魔になれたからって浮かれてますからねー」
「喧嘩っ早い方がありがたいよ。卒業祭が終わったら、嫌でも相手をしてもらう予定だからな」
「あ、そういえば会談も近かったですね。ご主人様も来ます?」
「場合によってはな」
「わーい! ご主人様と旅行だー!」
「……その場合は、ネルも一緒な」
「えー!?」
お前、マジでこのダンジョンを灰燼に帰するつもりか? ネルの隣にいたゴブ男が、殺気に当てられてぶっ倒れたぞ!?
「あ、あら? 私、ちょっと眩暈が……」
「これ、罠かしら……? 部屋中が危険な状態になってる……!」
「部屋を満たす魔力も凄い量になってる! 師匠、ボスが出るかもしれませんっ!」
うん、ラスボスが出るかもしれない。