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第78話 結成

「聞いてるのか? 悠那って喋ったかっつってんだよ」

「……水堀さん」


 織田の声を聞きつけ、話し掛けて来たのは水堀刀子であった。いつも彼女がしている鍛錬の後なのか、肌はしっとりと濡れている。正直なところ、織田や真丹まには刀子の事が苦手であった。如何にもな見た目と、男勝りな性格、何よりも男より強い腕っぷし。何もかも自分達よりよっぽど男らしく、以前から苦手意識があったのだ。


「うん、ちょうど桂城さんの話をしていたんだ。それがどうかしたかな?」


 そんな織田達は口を開こうとしないので、代わりにふちが刀子の問いに答えた。


「……お前らも、悠那の奴に会ったのか?」

「お前らも?」


 刀子と渕は、お互いに今日起こった事を説明する。買い出しの行先で偶然出会った事、騎士団本部でそれらしき人物を見掛けた事――― 2つの経緯を統合していくと、分からなかった点が次第に明らかになっていった。


「その貴族風の男ってのは、たぶん悠那の師匠だ。今日悠那本人から聞いたからな」

「師匠…… なるほどね、それなら色々と合点がいくよ」

「合点って、どういう事だ?」

「いやさ、ちょっと不思議だったんだよね。桂城さん、召喚された初日はどのステータスも貧弱で、それこそ皆から嫌味を言われるくらいだった。だけどさ、さっき彼女から感じた強さ――― あれ、水堀さんと同じくらいのものを感じたんだ」


 その瞬間、刀子の目つきが鋭いものへと変化した。織田はその変化を見逃さず、大慌てで渕の口を両手で塞ぐ。


「ハ、ハァ!? お、おま、お前、よく堂々と水堀相手にそんな、ああ、いや、俺は何とも思ってないぞ? うん、これはあくまで渕の感覚の話だから、決して事実ではないから気にしないで頂けると嬉しいかもって、ほら、早く謝って!」


 普段からは考えられない速度のマシンガン織田トーク。一方の渕は、自身の話を中途半端に止められてしまい、少々むすっとしていた。


「……続けてくれ」

「え? い、いいのか?」

「いいんだよ。ほら、早く」


 恐る恐るといった感じで、織田は渕の口から手を離した。


「織田、早く手をどけてよね。全くもう! えっと、それで何だったかな? 桂城さんの強さの話だったよね? まあ、続きといっても僕が能力を使って感じただけの話だよ。実際どの程度のステータスで、どんな力を持ったのかは全然分からない。僕が把握できるのは、あくまで総合力としての強さだからね」

「いや、十分だよ。やっぱり、悠那は悠那だったんだ。後から始めた、スタートが違うとか、経験の差なんてあいつにとっちゃ些細な事だ。気ぃ抜いてふと振り向けば、もうあいつは直ぐ後ろにいて、少し手を伸ばせば届く距離にいやがる。ふふ、ふふっ。だけどな、今回の俺は油断も驕りも絶対しねぇ! 誰が負けっかよ……!」

「「「………」」」


 静かに闘志を燃やす刀子に、3人はただ黙って見ているしかなかった。彼らもまた、刀子が悠那をライバル視している事を、空手で散々負かされている事を知っている。体育会系のノリは理解できない所が多々ありもするが、得意分野で負けたくないという思いは多少なりに理解できたのだ。


「―――何はともあれ、クラスメイトの女子が無事だと分かって一安心だ。あの時、彼女を責めなかったのは親友の鹿砦ろくさいさん、それに僕と真丹ソン君くらいだったからね。いやー、皆の分まで心配した甲斐があったよ。ね、織田?」

「あ、いや…… あの時は俺も、ちょっとテンションが上がって周りが見えてなかったし…… いや、それも言い訳か。今度会ったら謝らないとな……」

「それなんだけどよ、悠那の奴は別に怒ってなかったぞ。今日会った時に頭下げてきた」

「ハァッ!? 嘘だろあの水堀がハァッ……!」


 織田のみぞおちに刀子の拳が綺麗に入る。呼吸困難に陥った織田は、そのまま床を転がり回った。


「お、織田君、大丈夫かい?」

「何だ、詰まらないな。織田の事を恨んでなかったかぁ……」


 一応彼らは親友同士の筈なんだが、真丹と渕とでは織田への対応に雲泥の開きがあった。


「何言ってんだ? 渕、お前も立派な標的になってるぜ?」

「え?」

「渕もってか、クラス全員が標的だな。悠那ってさ、昔から強い相手に挑戦せずにはいられない性質たちなんだよ。この世界に来てさ、俺らが力を得た一方で、あいつは最弱になっちまった。だけど、あいつは絶対に諦めない。俺はあいつが諦めたところを見た事がない。想像もつかない。俺もお前を真似て推理してやろうか? 悠那にとっては、俺ら全員が獲物なんだ。目指す目標が高ければ高いほど、悠那にとっては最上級の料理みたいなもんなんだよ。のんびり構えていたら、最後尾の奴からどんどん食われちまうぜ? 昔、俺がそうだったようにな」

「……助言、助かるよ。何も、優秀な指導者がいるだけの話じゃないって事だね」


 少し織田を驚かすつもりが、逆に自分が刀子に脅かされてしまったようだ。


「ああ、そうだ。俺が城から出て行った後にヨーゼフからお達しがあったそうなんだけどよ、今日から野外演習があるらしいぜ。パーティを組んでの対モンスター戦を学ぶんだと」

「おっと、それは僕達も初耳だ。道理で他の皆がいない訳だ」


 渕がフロアの周囲を見回しても、刀子以外に誰もいないようだった。


「パーティは4人から5人のメンバーで組んで、指定されたダンジョンに各自向かうそうだ」

「ダ、ダンジョン……?」


 真丹は大きな体を震わせて怖がる。まだ彼らはモンスターと戦った事がなく、未知の多い敵である為だ。


「心配すんなって。聞いた話じゃ、初心者が行くような場所らしいぜ? で、見事に出遅れた俺らは自動的にパーティを組まされる流れになった。行先はギベオン遺跡だ。よろしくな」

「ああ、そういう事かい。よろしくね」

「よ、よろしくね。水堀さん」

「刀子でいいって! その代わり、俺も下の名前で呼ぶからよ!」


 朗らかに笑う刀子に、少しの苦手意識を持っていた真丹も見た目に反した温かさを感じ、親しみを持つ。床に倒れる織田以外の者達は、無事に仲間として受け入れられたようだ。


「ちなみに確認なんだが、お前らの職業って何だっけ? 今のうちに把握してぇんだが、聞いてもいいか?」

「それくらいはお安い御用さ。僕の職業は忍者のレベル4。身軽で隠れるのが得意な隠密役だと思ってくれ。あと、見ただけで相手の強さが分かるから、手を出して大丈夫な相手か判別もできるよ」

「ぼ、僕は魔法使いのレベル4。土魔法が得意、かな。サポートは任せて」

「おう、頼りにしてるぜ!」

「そこで死んでる織田は戦士のレベル4だから、思う存分盾にするといいよ。女の子の盾になるなら、織田も本望だろうからさ」

「ハハッ、男らしいじゃないか。俺は言うまでもねぇが、格闘家のレベル5だ。攻撃面は安心してくれていいぜ!」

「お、おい、俺を余所に進めないでくれよ……」


 甦った織田も改めて刀子との挨拶を済ませ、ここに4人の新鋭パーティが誕生。何だかんだと文句を言いつつも、刀子だって女の子だ。織田のテンションは少し舞い上がっていた。


「で、でも、桂城さんの師匠の人、デリスさんだっけ? その人が何者なのかは結局分からなかったね」

「あー、ここだけの話なんだけどよ、悠那と付き合ってるみたいだぜ?」

「「「えっ……?」」」


 この情報には織田や真丹に続いて、渕も驚いたようだ。


「それでよ、実はこの前いなくなった千奈津の奴も、デリスの旦那と一緒に同棲しているとかって言ってたな。あの真面目ちゃんが一緒に寝てるとか何とかって。羨ま、あ、いや、驚いたぜ!」

「……ふぁっ!?」


 織田は今日2度目の死を迎えた。

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