第66話 どうしようかな?
取り敢えずはスキルのランクアップについて説明するか。
「千奈津の推測は正しいよ。スキルってのはレベル100が最高値で、それ以降はランクアップした上位スキルが付属されるんだ。もちろんその効力はより強力であるし、レベルも上がり辛くなる」
「あの、今回私が新たに取得した『光輝魔法』と『高速思考』、これもレベル100になれば、また更なる上位スキルを覚えたりするんですか?」
「鋭いな。その通りだ」
一般的には上位スキルに至る事自体が稀で、1つでもそれができればちょっとした英雄クラスだ。上位の上位ともなれば、英雄の中の英雄、大英雄と称えられてもおかしくない。
「となれば、私の投擲スキルもあと少しで様変わりするんですね。何て名前のスキルになるんですか?」
「さあ? そこまで投擲スキルを極めた奴は見た事ないからな。俺も知らん」
「え、ええー……」
遠距離攻撃するなら弓術を研磨するのが普通だからな。そうじゃなくとも魔法での攻撃が主流でもあるし。アサシン的なご職業の方々はもしかしたら持ってるかもだが、そういった方面の奴らは情報を秘匿するから流出しないのだ。
「投擲と魔法をブレンドする魔法使いはハルくらいなものなんだよ。胸を張れ、お前がオンリーワンだ」
「えへへ、そんなに褒めないでくださいよ~」
「ネル師匠、あれって褒めてるんですか?」
「微妙」
ハルを撫で撫でしたところで、話を戻す。
「で、だ。今回の遠征で2人とも職業レベルが上がった事で、未設定のスキルスロットが増えた。何のスキルを覚えるかって話になるんだが―――」
「はい、ちょっといいですか?」
千奈津が挙手する。背筋の伸びた、良い挙手だ。
「何だ?」
「先ほどから疑問に思っていたのですが、悠那のスキルスロット…… ちょっと多くないですか?」
うん、当然の疑問である。ずるいよね。誰だよ、こんな仕様にした奴は。
「俺とハルの絆の結果だ」
「え?」
「確かにそうとも言えますね。千奈津ちゃん、これは絆の力なんだよ!」
「ええっ!?」
「いや、冗談とかではなくでだな…… これについては俺の力によるものだ。そういうもんだと思ってくれ」
「は、はぁ……」
納得いかない様子だが、これ以上はどうとも言えん。『無冠の師弟』の力は1度きり、もうハル以外を対象にはできないんだ。詳しく説明したところで、お互いにメリットはないだろう。
「何となく分かったわ。聞いても得にならない話だから、千奈津はあまり深く考えない事。それよりも、これからの話だったわね? 思ったんだけど、ハルナの幸運1のままよね? 補強しないの?」
「それを言ったら千奈津の耐久だって上げてないだろ。いくら素早いからって、これは危ないぞ」
「確かに、ちょっと怖いですね。筋力も不足気味なので、その2つを補いたいところです」
「次のレベルを目指すなら、適正スキルの中で探す方が良いんじゃないか?」
「師匠、私『強肩』のスキルが欲しいですっ!」
話し合う事、数時間後。ノートを用意して色々と書きなぐり、様々な展開を議論した結果、会得するスキルが決定した。
まずはハルから。ハルの空きスキルスロットは2つもある事から、片方は職業適性スキルかつ幸運の上がるものを、もう片方は好きなものを選ばせる事となった。前者のスキル名は『魔力察知』、後者が『強肩』である。
察知系のスキルはどれも幸運がレベルアップ毎に3も上昇する。その中でもこの魔力察知は魔法使いに適正があり、レベル5を目指すのにおいて役立つと判断したのだ。能力としては周囲の魔力の流れを知覚するというもので、自分の魔法をより扱いやすく、また敵が魔法を使う際の初動も読みやすくなる。その他にも有用な点が多々あるので、納得のスキルと呼べるだろう。
一方でハル自身が選択した強肩であるが、これは説明するまでもなくものを遠くまで投げ飛ばすスキルだ。 ……うん、それだけなんだ。しかし、ハルにとっては投擲と併せてより強力な魔法(物理)ができる事、受け合いではある。何だろうな、最終的には鉄球でスナイパー紛いな攻撃ができるようになるんだろうか。筋力も結構上がるし、決して捨てスキルではない筈だが。
「ふぅん、満足……!」
さいですか。君とのキャッチボールは命を懸けないとなるまいて。さて、次は千奈津だ。
「……鼓舞、鼓舞って僧侶の適正スキルなんですか?」
そう、鼓舞である。
「紛うことなき僧侶の適正スキルだよ。鼓舞ってのは士気を高めるイメージが先行しがちだが、励ますって意味もあるんだ。シスターが弱った者を鼓舞する。ほら、イメージ通り。それに、ちゃんと◆で表示されているだろ?」
「た、確かに」
「上昇するのも筋力、耐久にそれぞれ2だから、チナツにはちょうど良いスキルね」
「そうですね。でも、何で励まして筋力が上がるんだろう……?」
そこはほら、戦場でムキムキで力強い将軍が兵達を勢い付ける感じで。ほら、イメージ通り。
「そうね。騎士団の部下達にも言っておくから、千奈津は色々な人からの相談役になりなさい。それでヒアリングしているうちにレベルも上がると思うから」
「それ、千奈津ちゃんにピッタリだと思います! クラスでは学級委員長、中学の部活動ではキャプテンとして皆を引っ張っていましたし、悩み事を聞いたりするのも多かったですもん」
「そ、そうだっけ? 私としては普通に接してただけなんだけれど……」
「なら、ここでも普通に接してあげなさい。上手く鼓舞スキルが機能すれば、部下達の士気も上がって一石二鳥だから。あら、今更ながら良い策ね、これ」
「千奈津に任せっきりにするなよ、お前……」
とまあ、多少悩みはしたが未設定スロットの穴埋めが決まり、ハルと千奈津は鍛錬に出掛けて行った。ハルが遠投した小石を、千奈津がたたっ斬る練習だ。最初は近くから軽く、それを徐々に遠ざかって行きを繰り返すというもので、お互いのスキル上昇を目指した素晴らしい鍛錬なのである。場所は鉱山跡のあったあの森付近、良い感じに地形が不安定で、木々が視界を遮って投げる方も斬る方も一苦労する。そして例の如くモンスターも出現するので、周囲警戒も怠れない。我ながら溜め息が出るほど画期的だと自画自賛。
「アーデルハイト魔法学院にはいつ行くの? チナツも出すように言わないといけないし、私も一緒に行くわ」
「少しゆっくりしてから行こうと思う。ハルにも色々と覚えてほしいからな…… 3日4日後ってところかな。一緒に行くのは良いが、伝手はあるのか? 俺は学長を脅――― に、貸しがあるけど」
「ま、何とかなるでしょ。秘密裏に国王へ進言するのも良いし、それこそ学長に貸しを作っても良いわ」
「また物騒な事起こす気じゃないだろうな? ああ、いや…… ネルが同席するなら、俺としても都合が良いか。俺の方で千奈津の出場枠も確保するよ」
「同席するだけで良いの? 私としては助かるけど」
「……ゴブ」
俺とネルがこれからの方針を話していると、茶を切らした事に気が付いたゴブ男が、新しい茶を淹れて来てくれた。
「あら、悪いわね。このゴブリン、ヴァイルで使役したにしては頭が良いわね」
「元々気が利くタイプだったんだろ。あ、ゴブ男で思い出したけど、挨拶はどうするよ?」
「次の会談は、ええと――― 運が良いわね、卒業祭の後にある。その時に殆どの奴らは集まると思うし、そこで良いんじゃない? 雇い主に個人的に会いに行くなら、それでも構わないけど」
「そっちは魔王討伐も絡むからなぁ…… 警告くらいで済ますか。きっちり送り返して、意趣返しも果たしてる事だし」
「甘いわねぇ…… ま、今回はそれで許してあげるとしましょう」
ネルは立ち上がって茶をグイッと飲み干すと、ゴブ男のお盆の上にカップを返した。
「さ、鍛えるわよ!」
「遠征後なんだから程々にしとけって」