第65話 急成長
―――修行13日目。
この1週間共に過ごした馬車での旅が終わり、懐かしき日常が帰って来た。待たせたな、マイハウス。恋しかったぞ、マイベッド!
「「ただいまぁ!」」
扉を開ければ、ほらこの通り! 我々の聖域である御居間様が出迎えてくれた。このテンションは何だって? ノリだよ、ノリ。それにちゃんと理由もある。
「フフ、今回の遠征で暫く仕事が免除されたのは僥倖だったな。ハルの鍛錬に専念できるぞ」
「良かったですね、師匠! 未だにお仕事の内容分かりませんけど!」
そう、今回の働きが思いの外評価され、カノンが持ってくる面倒な仕事がなくなったのだ。忘れた頃に夜な夜な仕事をし出したりと、これで睡眠時間を削らなくて済むというもの。というか、ハルを預けるんなら最初から免除しろよという話である。いやぁ、ネル様さまさまだ。
「ちなみにデリスの仕事は、未解明のマジックアイテムを解明したり基礎を作ったり、採取したモンスターの素材の特性を調べる事よ。魔法使いなのに城の研究者技術者よりも腕が良いから、良いように利用されてるのよね。これでも結構高給取りだったりするわ」
「へ~、そうだったんですか。師匠、エリートだったんですね!」
「そりゃまあ、極めれば職業関係なくスキルは上がるもんだし…… って、なぜにお前らもいるの?」
「お、お邪魔してます……」
さっき別れた筈のネルと千奈津が、我が物顔で(主にネルが)ソファに座っていた。
「そうそう。お盆に載せて、静かに運んで―――」
「……ゴブ」
そしてゴブ男がネルと千奈津に茶を出す。まあまあ、これでも飲んでゆっくりしていきな。と、そんな気配を漂わせているのは、ハルが持つオカン力の影響だろうか? つうか、仕事覚えさせるの早いな……
「ありがとうございます。えっと、ネル師匠に連れられまして」
「ものが減るもんでもないし、別に良いじゃない。ちゃんと茶請けの菓子は持参したわよ。あら、このお茶も美味しいわね」
「そりゃハルが淹れるものは茶も美味しいさ。いや、そうじゃなくて…… さっき報告しに城に向かったばかりだろ。もう済んだのか?」
「国王への報告は、まあダガノフあたりが適当にしてくれるでしょ。それに私が同行する遠征よ? 失敗した事なんてないから、行くと同時に成功するのは約束されたようなもの。よって報酬もその時に用意させていたの。はい、これ」
そう言って、ネルはテーブルの上にじゃらりと金の詰まった音のする大袋を置いた。ハルと千奈津はこのサイズの金袋を見た事がないのか、その瞬間にギョッと絶句していた。
「あ、あの、ネルさん。これってどれくらいのお金が入ってるんですか……?」
ハルが恐る恐る尋ねる。
「どれくらいって言われてもねぇ。普通に暮らしていく分なら、何世代か遊んで暮らせるくらいかしら?」
「「そ、そんなにっ!?」」
「そんなにって、別に驚く事じゃないでしょうに。あのレベルのモンスターの群れを殲滅する軍隊を派遣すれば、もっと費用はかさむものよ? それに比べれば、こんなの安い安い。むしろケチなくらいよ」
「で、でもぉ……」
チラリとこちらを見上げるハル。何に使うんですか、これ? と聞きたげだ。無論、目ぼしいスクロールに全ぶっぱである。宵越しの銭は持たないと言えばハルに怒られるが、金があり過ぎても厄介事は起こるもんだからな。さっさとアイテムに替えて使ってしまうに限る。今回、ハルの闇魔法も成長しているだろうし、また実力に合わせたスクロールを買わないとならんしな。
「ああ、そうだ。ハル、いつもの事だが、まだステータス確認してないよな?」
「ええ、してません!」
うん、もう自発的に確認させるのは諦めよう。
「あら、ちょうど良いわ。私もチナツのステータスも確認したいし、折角だから一緒に確認しましょ」
「おいおい、今更だがそんな大っぴらに公開して良いのか?」
「お互いどれくらい成長してるかを直接確認し合った方が、次への良い刺激になる! って昔言ってたの、デリスじゃなかったかしら?」
「……そうだっけ?」
「そうよ。現に私達も冒険者だった時にそうしてたじゃない。勝った負けたで競い合ったりして。正直、意地の張り合いで効果があったのは否定できないわ」
……まあ、確かにそんな事もあったような。年下を相手にムキになったのは、今思えば大人気なかった。だけど怒涛の成長を見せるハルを相手にするのは、千奈津にとって果たしてプラスになるのだろうか? 下手をすれば挫けてしまう恐れもある。
「本当に良いのか? ハルはかなり特異だぞ?」
「変な心配しないでよ。どうなろうと、
「あれ、何か寒気が……?」
どう足掻いても強制的にハル以上に鍛え上げるつもりらしい。仕方がない。
「ちょっと待ってろ。道具を準備する」
お役御免になった筈の
「どっちから見る?」
「それじゃあ、私から!」
ハルが
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桂城悠那 16歳 女 人間
職業 :魔法使いLV4
HP :1225/1225
MP :420/420(+100)
筋力 :350
耐久 :244
敏捷 :274
魔力 :276(+60)
知力 :65
器用 :242
幸運 :1
スキルスロット
◇格闘術LV84
◆闇魔法LV64
◆杖術LV87
◇快眠LV36
◇回避LV63
◇投擲LV89
◇未設定
◇未設定
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一言で言い表そう。うわぁ。前にハルのステータスを確認したのは1週間くらい前だったか? 職業レベルは当然とばかりに、どのスキルも軒並み上昇している。格闘術、杖術、投擲辺りはもうランクアップ直前だ。未設定枠に魔法使い系のスキルを割り当てれば、職業レベル5も直ぐにいける位置だ。ほんの2週間前まで、そこいらの村娘レベルと貶された少女とは誰も思わないだろう。俺だって前知識がなければ信じない。
「へぇ……」
「悠那、やっぱり凄い……!」
「えへへ~」
意外にも千奈津は冷静だった。それどころか喜んでいる節さえある。幼馴染だからこその反応って奴か? 逆に静かに闘志を燃やすネルの方が心配なくらいだ。
「次、チナツ。かましてやりなさい」
「は、はい」
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鹿砦千奈津 16歳 女 人間
職業 :僧侶LV5
HP :275/275
MP :620/620
筋力 :128
耐久 :20
敏捷 :340
魔力 :378(+100)
知力 :688(+100)
器用 :84
幸運 :227
スキルスロット
◆光魔法LV100
L光輝魔法LV7
◆演算LV100
L高速思考LV3
◇回避LV64
◇危険察知LV69
◇剣術LV49
◇未設定
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……お、おお? ハルには及ばないものの、千奈津もかなり凄い成長をしている。職業レベルが5に、光魔法と演算スキルはランクアップ、この前までほぼ初期値だった剣術も急上昇と素晴らしいものだ。千奈津には悪いけど、かなり予想外だった。
「わぁ! 千奈津ちゃん、凄そうなスキルが付いてるよ!」
「うん、遠征中に覚えたみたいなの。たぶん、スキルのレベルが100になったら派生するんだと思う」
ハルと違ってこまめに確認もしているようだ。これは本当に良いライバルになったりするのか?